映画『ジェイコブス・ラダー』の概要:ベトナム戦争からの帰還兵が、奇妙な出来事の数々に遭遇していくサスペンス。帰還兵のジェイコブは、怪物のような幻覚を見始めていた。それはやがて、軍の暗部をあぶりだしつつ、驚愕の事実へと繋がっていく。
映画『ジェイコブス・ラダー』の作品情報
上映時間:113分
ジャンル:サスペンス、ホラー
監督:エイドリアン・ライン
キャスト:ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、マット・クレイヴン etc
映画『ジェイコブス・ラダー』の登場人物(キャスト)
- ジェイコブ・シンガー(ティム・ロビンス)
- ベトナム戦争からの帰還兵。博士号を持っており、そのため仲間からは“教授”と呼ばれていた。背中に古傷があり、整体に通っている。以前は、妻のサラと息子たちを愛する良き父親だったが、離婚し、今は同じ職場のジェジーと同棲している。聖書を愛読しており、子供たちの名前も聖人たちから付けた。
映画『ジェイコブス・ラダー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ジェイコブス・ラダー』のあらすじ【起】
1971年、ジェイコブ・シンガーはベトナム戦争に駆り出されていた。ある日、自分たちの小隊に敵が攻撃を仕掛けてくる。応戦する仲間たちだったが、何人かが様子をおかしくし、狂ったように暴れまわりだした。林の中に逃げ込んだジェイコブは、不意を突かれ、敵の銃剣で腹部を刺されてしまう。その後、別の隊に発見され、ヘリで医療テントへと運ばれていった。
名誉除隊し、ベトナムから帰還したジェイコブは、ニューヨークで郵便局に勤めていた。同じ郵便局勤めのジェジーという恋人と同棲している。ジェイコブにはサラという前妻がおり、彼女との間に3人の息子がいた。だが、末っ子のゲイブはベトナム戦争に行く前に死亡している。
最近、ジェイコブは奇妙な体験に悩まされていた。地下鉄の駅が閉鎖されて出られなくなったり、電車の中で怪物の尻尾を生やした男を見かけたり。他にも、死人のような人で鮨詰めになる電車や、怪物が乗る車に轢かれそうになるなど、おかしなことばかりが起こっていた。
映画『ジェイコブス・ラダー』のあらすじ【承】
病院に行ったジェイコブは担当医を呼び出すが、看護師はそんな医者はいないと言う。ジェイコブは何年もこの病院に通っていたが、カルテもないそうだ。不満を募らせるジェイコブは、看護師の頭に角のようなものを見つけ、驚いてその場を逃げ出した。別の医師から、担当医は自動車の爆発事故でひと月前に死んだと説明され、さらに驚く。
ジェジーは、ベトナムに2年もいた影響ではないかと心配するが、ジェイコブは怪物の正体は悪魔なのではないかと思い始めていた。
ホームパーティで女性に手相を見てもらったジェイコブ。生命線を見た女性は不思議がりながら言った。“手相では、あなたはすでに死んでいる”と。
パーティの乱痴気騒ぎが影響したのか、ジェイコブはジェジーが怪物に犯される幻覚を見て叫びだし、倒れこんでしまう。具合が悪そうなので熱を測ってみると、41度を越えていた。医者に電話したジェジーは熱を下げるための氷風呂を準備し、ジェイコブを氷水の中に押し込んだ。ジェイコブは叫んだ。“俺を殺す気か!”
ジェイコブはベッドで目を覚ました。隣には妻のサラが眠っていた。
酷い悪夢を見たと言うジェイコブ。怪物を見たり、氷風呂に入れられたり、郵便局のジェジーと同棲していたことなどを説明する。息子のゲイブが目を覚ましてしまい、寝室にやってきた。ジェイコブはゲイブを子供部屋に連れて戻ると、優しく寝かしつけた。
気がつくと、ジェイコブは水風呂の中にいた。隣でジェジーが心配そうな顔をしている。到着した医者が、君は運が良い。神様にコネでもあるのかい、と冗談交じりに言った。ジェジーが言うには、ジェイコブは8時間も氷水の中でうなされ、サラやゲイブの名を呟いていたという。
ジェイコブは悪魔について調べはじめ、部屋から出なくなっていった。ジェジーが愛想をつかし始めた頃、ベトナムで同じ小隊だったポールが電話をかけてくる。ポールに会いに行ったジェイコブは、妙な奴らに追われており、自分を殺そうとしていると告げられた。自分も同じ体験をしたと言うジェイコブに、原因はベトナム戦争の時にあるのではないかと語るポール。別れ際、車に乗り込んだポールがエンジンを掛けると、車はポールもろとも爆発して粉々になった。
映画『ジェイコブス・ラダー』のあらすじ【転】
ポールの葬式で久々に顔を合わせた小隊の仲間たちは、ジェイコブからポールの話を聞かされる。そして、ポールを殺したのは悪魔かもしれないとジェイコブが言うと、皆、顔色を変えた。
ジェイコブは軍が戦時中に自分たちに何かしたのではないかと考えていた。それを突き止めるため弁護士に相談に行く。弁護士は話に乗ってくれたが、後日、手を引くと連絡があった。しかも、乗り気だった仲間たちも、興味がないと掌を返して音信不通となる。
弁護士に言い寄ったジェイコブは、彼の口からとんでもないことを聞かされる。彼が軍で調べた結果、ジェイコブたちはタイでの演習の際、情緒不安定と診断され除隊されていた。つまり、ベトナムには行っていなかったと言うのだ。
納得のいかないジェイコブを、突然、スーツの男たちが取り押さえた。彼らはジェイコブを車に押し込むと、軍隊にいたことは忘れろと言ってきた。身の危険を感じたジェイコブは、必死に抵抗し、車から飛び降りた。だが、そのせいで背中の古傷を痛め、動けなくなってしまう。
病院の担ぎ込まれたジェイコブは、担架に乗せられて薄汚い廊下を運ばれていった。精神病患者たちの間を通り抜けると、次に待っていたのは、バラバラになった死体が山積みになっている廊下だった。その先の手術室に運ばれたジェイコブは、医者から不気味なことを言われる。“君は死んだ。殺されたのだ。憶えていないのか?”と。
手術を終えたジェイコブのところに、サラと息子たちが見舞いにくる。ジェイコブはサラに、まだ死んではいないと呟いた。しばらくして、ジェイコブの背中の治療をしている整体師のルイがやってきた。ルイはジェイコブに施された治療に呆れ果て、彼を自分の治療室へと連れ去って行った。
整体治療を受けながら、ルイはジェイコブにエックハルトの話をした。エックハルトによれば、地獄では人間の生と繋がっているもの、つまり愛着や思い出などが魂の解放のために焼かれるのだそうだ。そして、死を恐れて生きながらえていると、悪魔が命を奪いにやってくるのだという。だが、冷静に死を受け入れれば、悪魔は天使になり、地上から解き放ってくれるのだとルイは語った。
映画『ジェイコブス・ラダー』の結末・ラスト(ネタバレ)
ジェイコブは自宅に戻ると、ベトナム戦争時の記録を確認した。名誉除隊の証明書も、仲間との写真もあった。ゲイブがベトナムに送ってくれた手紙も出てきた。思わず、ゲイブが事故死した時のことを思い出す。
ある日、自宅に電話が掛かってきた。相手の男はベトナム戦争時、化学戦部隊で秘密実験をしていたと言う。その男に会いに行ったジェイコブは、軍が闘争本能を強化する薬を作っていたことを知る。薬の名はラダー。ラダーの効果は絶大で、ベトナム兵を使っての実験では、実にむごたらしい結果となったそうだ。
敗戦ムードが漂い、世論の意見が反戦に傾きかけたことで焦った軍隊は、米兵で実験することにした。その被験者に選ばれたのがジェイコブたちの小隊だったのだ。ラダーの投与は微量だったが、その結果、仲間同士で殺しあうという最悪の事態になってしまう。ジェイコブの腹部を刺したのも仲間の米兵だった。
ジェイコブはブルックリンに向かい、サラたちの住む家へとやってきた。だが、部屋の中には誰もいなかった。ソファに座りながら、ルイの言葉を思い出す。窓から差し込む光で我に返ったジェイコブは、階段にゲイブが座っているのに気がついた。ゲイブは、大丈夫、一緒に上に行こうと手を伸ばしてくる。ジェイコブはその手を取ると、まばゆい光を放つ階上へと二人で昇っていった。
米軍の医療テントに運ばれたジェイコブは、穏やかな表情で息を引き取った。彼はベトナムから帰還しておらず、腹部を刺されたことが原因で死亡したのだった。全ては、彼が死に際に見た走馬燈だったのかもしれない。
映画『ジェイコブス・ラダー』の感想・評価・レビュー
本作は、死を目前にした人間が見る走馬灯のようなものを描いた旧誓約書の『ヤコブの弟子』を映画化したホラー作品。
そして、画家フランシス・ベーコンに影響を受けたことで知られている。
夢か現実か、過去か未来か、その境界が曖昧で奇妙なところが好みだった。
また、薬を服用後の描写が刺激的で、フランシス・ベーコンの作品世界に通ずるようなダークな感じがとても良く、精神的に追い込まれる怖さは圧巻。
何度も観直すことでより一層深みが出る作品だと思う。(女性 20代)
聖書についての知識があるとより楽しめる作品だと思います。ベトナム戦争の帰還兵が不思議な夢を見たり、不可解な現象に遭遇するストーリーですが、愛読書を聖書としていたり、子供たちの名前もそこに関連づいているなど旧約聖書の『ヤコブの梯子』を元にしていることもあり、神聖な要素を多く感じられました。
私たちが普段見る夢とはあまりにもかけ離れているので、違和感を感じましたが、その違和感の意味がラストで明らかになります。まさかの結末に驚いてしまいました。(女性 30代)
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