映画『紙の月』の概要:年下の男に溺れた平凡な主婦が、勤務先の銀行の顧客から多額の金を横領し、偽物の愛と自由を買う。角田光代の同名小説を「桐島、部活やめるってよ」(12)で高い評価を得た吉田大八監督が映画化。映画のオリジナルキャラクターを演じた小林聡美のシリアスな演技が光る。
映画『紙の月』の作品情報
上映時間:126分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:吉田大八
キャスト:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一 etc
映画『紙の月』の登場人物(キャスト)
- 梅澤梨花(宮沢りえ)
- 最近、わかば銀行の契約社員となった主婦。夫の正文との間に子供はおらず、夫婦2人で暮らしている。少女時代はカトリック系の女子校に通っていた。美人だが地味で真面目。正義感がずれている。
- 平林光太(池松壮亮)
- 梨花が営業を担当する顧客の孫。大学生。梨花と不倫関係に陥り、借金を肩代わりしてもらう。
- 隅より子(小林聡美)
- 梨花が勤務するわかば銀行某支店の窓口業務の責任者。勤続25年のベテラン社員。結婚はしておらず、仕事一筋で生きてきた。
- 相川恵子(大島優子)
- 梨花の同僚の若い女性社員。仕事でのミスが多く、より子によく叱られている。欲望の赴くままに生きており、上司の井上と不倫中。
- 梅澤正文(田辺誠一)
- 梨花の夫。大手企業に勤務しており、上海へ転勤になる。真面目で温厚な夫だが、あまり妻のことを理解していない。
- 井上佑司(近藤芳正)
- 梨花が勤務するわかば銀行某支店の次長。女性社員に対して差別的で、特に口うるさいより子のようなベテラン社員を嫌っている。恵子と不倫中。
映画『紙の月』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『紙の月』のあらすじ【起】
1994年。主婦の梅澤梨花は、自宅近くにあるわかば銀行の支店で4年間パートとして働き、最近契約社員に昇格した。夫の正文との間に子供はなく、梨花は契約社員になれたことを喜んでいた。
梨花は外回りの営業を担当しており、顧客の平林の自宅を訪問する。平林は嫌味ったらしい嫌なオヤジだったが、国債を買ってくれる。お茶を入れるよう命令された梨花は、台所で背後から平林に肩を触られ、思わず悲鳴をあげる。その時、ちょうど入ってきた平林の孫の光太が、“大丈夫ですか”と声をかけてくれ、梨花は安心する。
いきなり成果を上げた梨花を、次長の井上は褒めてくれる。しかし井上は、女性社員を差別しており、特にベテラン社員の今井や隅より子を嫌っていた。
梨花は、契約社員になった記念に、ペアウォッチを買う。正文は一応喜んでくれるが、安物の時計をどこかでバカにしていた。梨花は、家のローンを繰り上げ返済するために節約している真面目な主婦で、贅沢することができない。
勤続19年の今井が退職することになり、送別会が開かれる。その帰り、梨花は駅の改札で光太と再会する。光太は梨花を追って同じ電車に乗るが、梨花はわざと無視する。電車を降りて振り返ると、もう光太はいなかった。
梨花は何となく光太のことが忘れられず、顧客の預金を預かった帰り道で高価な化粧品を衝動買いする。正文の方針で、クレジットカードを持っていない梨花は、足りない分を顧客の預金から出してしまう。すぐに現金は戻したが、それは銀行員として、絶対にしてはいけない行為だった。
映画『紙の月』のあらすじ【承】
再び駅で光太と再会した梨花は、自ら向かいのホームへ行き、光太と電車に乗る。2人はそのままホテルへ入り、体の関係を持つ。その日は正文が出張で、梨花は生まれて初めて、朝帰りを経験する。
出張先の上海から帰国した正文は、お土産に高価なカルティエの時計を買ってくる。梨花は内心傷つくが、その時計をして出勤する。それを目ざとく見つけた同僚の相川恵子は、銀行では普段の金遣いを見られているから気をつけるよう梨花に忠告する。恵子は自分の欲望に忠実な女性で、恋も買い物も自由に楽しんでいた。
梨花は光太と逢瀬を重ね、見た目も少しずつ垢抜けていく。正文はそんな妻の変化に全く気付かず、残業だという梨花の言葉を信じきっていた。
ある晩、正文は上海への栄転が決まったことを梨花に告げる。正文は当然梨花も付いてくるものと考えていたが、梨花は迷う。
平林は200万円の貯蓄型の保険に加入してくれ、梨花は現金を預かる。その時、平林から光太に借金があると聞き、梨花は光太を問い詰める。父親がリストラされ、光太は大学の学費をサラ金から借りていた。しかし、借金返済のためバイトに追われ、大学は辞めるつもりだと打ち明ける。梨花は“60万円くらいなら用意できる”と言ってみるが、光太は梨花の申し出を断る。
銀行へ戻った梨花は、平林から“孫に近寄るな”と電話で忠告される。梨花は、金持ちのくせに孫の窮地を救わない平林に怒りを感じ、平林から預かった200万円の横領を企てる。梨花は、すでに発行済みだった200万円の定額預金証書を密かに盗み、“平林の契約がキャンセルになったので、すぐに現金を返さなくてはいけない”と窓口業務の恵子を騙し、200万円を受け取る。その夜、梨花は正文に“上海には一緒に行けない”と告げる。
翌日、梨花は平林に定額預金証書を渡し、預かり証を返してもらう。これにより、梨花の現金横領が成立する。
映画『紙の月』のあらすじ【転】
梨花は、“車を買うつもりのお金が必要なくなったから”と光太に嘘をつき、200万円を渡す。光太は、梨花から金を受け取るのを嫌がっていたが、“何も変わらないから”と梨花に説得され、月々きちんと返済する約束で、その金を受け取る。
光太は梨花を金持ちなのだと思い込み、梨花もセレブを演じる。正文も上海へ単身赴任し、梨花はますます光太に溺れていく。恵子だけは、梨花の変化に気づいていた。
梨花が担当する顧客には、認知症気味で買い物依存症の老婦人がいた。老婦人は、“預金から300万円を持ってきて欲しい”と梨花に頼むが、翌日にはそのことを忘れていた。300万円を再び預金口座に戻しておくよう言われた梨花は、その金を横領し、自分名義の銀行口座とカードを作る。
梨花は光太とホテルのスウィートルームに宿泊し、贅沢三昧の時を過ごす。週末は毎週ここで過ごす約束をするが、1回の支払い金額は150万円近かった。
梨花はコピー機などを購入して、自宅で銀行の偽造証書を作成し、言葉たくみに顧客から金を預かって、偽の証書を渡し始める。預かった現金は全て横領し、銀行から郵送される取引明細書も、郵送前に処分する。
梨花は光太にBMWを買い与え、2人の愛の巣として高級マンションを購入する。光太もすっかり贅沢に慣れ、梨花に物を与えられることに、何の罪悪感も感じなくなる。光太は堕落し、梨花に内緒で大学も辞めていた。
その頃、銀行ではより子に異動の話が出る。より子はそれを井上の陰謀だと考え、過去の書類を調べ始める。井上は、支店の成績をあげるため、不倫相手の恵子に架空伝票を打たせていた。しかし、より子はもっと深刻な問題に気付く。それは、梨花が処理したはずの証書が、どこにも見当たらないことだった。より子は、そのことを井上に密告する。
井上に呼び出された梨花は、平林の200万円を横領したことを認める。しかし、恵子との不倫や伝票操作の件で井上を脅し、処分を免れる。梨花は、恵子から全てを聞いていた。
映画『紙の月』の結末・ラスト(ネタバレ)
梨花が処分されないことにより子は納得できず、独自で調査を始める。梨花は銀行へ返す200万円を用意しようと焦るが、金の工面がつかない。恵子は公務員との結婚を決め、さっさと寿退社してしまう。
梨花は無性に光太に会いたくなり、マンションへ行く。マンションには明かりが点いており、梨花は喜んで玄関を開ける。そこには女性の靴と、脱ぎ捨てられた衣服が散らばっていた。梨花はそのまま、荒れ放題の自宅へ帰る。
浮気を知られた光太は、梨花の自宅へ行き、玄関のドア越しに話をする。光太は素直に謝罪するが、こんな生活が長くは続かないことは、梨花もわかっていた。それきり、2人の関係はおしまいとなる。
梨花は完全に破綻し、カードも止められる。崖っぷちに立たされた梨花は、平林を訪ね、自ら平林を誘惑する。しかし平林にその気はなく、梨花の計画は失敗に終わる。
梨花は偽の広告を作り、顧客から金を集めようと必死で動く。より子は梨花の顧客を訪ね、梨花が持ってきた銀行の証書を見せてもらう。それは全て偽物で、梨花が顧客から横領した金は、驚くような金額に膨れ上がっていたことが発覚する。
梨花が自分の横領を詳細にメモしてきたノートも銀行に押収され、梨花は今度こそ逃げ道を失う。より子と梨花は対峙し、互いの本音をぶつけ合う。梨花は“本当にしたいことをした、自由を満喫した”と強がりを言うが、より子は“お金では自由になれない”と反発する。すると梨花は突然、椅子で窓ガラスを破壊し、そこから逃亡する。
それからしばらくして。梨花はアジアのとある国の市場にいた。そこで梨花は、顔に傷のある男を見かける。その男は、梨花が少女だった頃、父親の財布から金を盗んでまで募金した国の少年で、梨花に感謝の手紙と自分の写真を送っていた。梨花は男に何か言おうとするが、警察の姿を見て人混みの中へ消えていく。
映画『紙の月』の感想・評価・レビュー
前半、主人公の嘘金を生み出す熱意は見ていて愉快、そして感心である。
しかし物語が後半に進むに従い、どんどん後には戻れない状況に追い込まれていく。
なのに、犯罪の手は止められない。その焦燥感を描くのが上手い。
誰もが鑑賞中、自分だったらどうする?と考えるだろう。
人を殺したり血が出たりするわけではないのに、狂気に満ちたサスペンス。
エンターテインメントとして大いに楽しめる映画だ。
個人的には今どき女子銀行員演じる大島優子がハマり役だと思った。(女性 20代)
若い男にハマってしまい、ずるずると不倫関係にのめりこんでいってしまうのも、会社のお金を横領するのも、あまりにも罪悪感を感じずに淡々と躊躇い無く行ってしまう主人公の姿は、全く共感の出来ないものでした。けれど、素直な自分を出せる相手が不倫相手だけだったんだな、と感じさせられる宮沢りえの表情の使い分けには、とても魅せられました。
銀行での横領って、意外と簡単に出来てしまうのでは?と感じさせられるような、リアルな描写は面白かったです。(女性 20代)
うまくまとまっている映画でしたが、この後どうなる、どうなるというワクワク感がなく、観終わった後の感動もありませんでした。
ひとつには、不倫相手役の池松壮亮のような童顔なタイプが好みじゃないので、不倫シーンにドキドキしなかったということが大きい。
あとは、どうしょうもなく追い詰められてお金を得ないといけないのではなく、どうしても身勝手に感じてしまい、気持ちを重ねることができなかった。
「桐島、部活やめるってよ」があまりにも傑作だったので吉田大八監督への期待が大きすぎたのかもしれません。(女性 40代)
この作品は登場人物に共感して感情移入するような内容ではなく、落ちぶれていく主人公を客観的に観て楽しむような作品だと思う。
宮沢りえの作品に溶け込む演技力には驚かされる。とてもリアルで、家の近くの銀行にもいそうな銀行員なのだ。ここまで美人にも関わらず、「普通」を演じきることは、難しいことだと思う。宮沢りえあってのこの作品であると痛感した。
評価は分かれるかもしれないが、主人公の焦りやどうしようもない様子はうまく描かれていて、個人的にはとても楽しめた。(男性 20代)
宮沢りえが好きで当時観に行きました。平凡だった主婦が恋をしてお金を使い、綺麗に変わっていく瞬間はさすが宮沢りえだなと思いました。恋をして女性は変わっていくのは、凄く映画を観て共感出来る部分ではあります。
恋をするとこんなにも大胆になれるんだなと実感しました。映画を観ていつバレるんだろうと、ハラハラしながら観ていました。(女性 30代)
横領や殺人をテーマにした作品の面白いところは、実際には絶対に「経験」できないストーリーですよね。
今作で描かれているのは、若い男に溺れた主婦。若いイケメンに「良い所」を見せたくて横領を繰り返し、ブランド品や高級車を買い与える様子は自分では絶対に出来ない事で、見ていて爽快でその豪遊っぷりは羨ましくなりました。
しかし、偽りや嘘は簡単にバレてしまうもの。横領した金はどんどんと膨れ上がり、バレないと思っているのが不思議なくらいでした。こういう「悪い事」をしている時、当の本人は事の重大さに気づかず案外のうのうと生きているのかも知れません。(女性 30代)
横領がエスカレートしていくにつれて梨花が自信に満ちていく姿が印象的。音楽の使い方もクールで、宮沢りえの透明感のある美しさが、梨花のミステリアスな雰囲気にぴったりだった。
梨花はもともと間違った正義感を持っていたのでここまで大それたことができたのだろうが、こうした犯罪は案外ささいな出来心から始まるのかもしれないと思った。
小林聡美演じる厳格なベテラン社員より子が、梨花の不正を暴きながらも彼女に対して情のようなものを見せるのが興味深い。冷静さと人間味を感じる演技が素晴らしかった。(女性 40代)
最初は真面目なごく普通の銀行員の事務員で、ご主人と幸せな生活を送っているように見える女性。ある若い男性との出会いをきっかけに変化していきます。主人公の女性を宮沢りえが演じています。
恋に溺れ、最初はほんのでき心で借りたお金。どんどん金額がかさみ、生活も雰囲気も変わってしまいます。何不自由なく生活しているように見える人が、犯罪になるまでに何かに心を奪われる。平凡に生きている人からしたら、悲しくもあり、羨ましくもあります。
最後は、彼女のいるべき場所に行きつくまでの通過点だったのかもしれないと感じました。(女性 40代)
みんなの感想・レビュー
宮沢りえ演じる主人公が、どんどん悪い方向へ引きずり込まれていくスピード感のある展開にハラハラした。
如何にも真面目そうで平凡な主婦が、いとも簡単にさらっと銀行の金を横領して不倫相手に貢いでいく姿はイメージを覆し見事だった。
欲望は人を豹変させる。お金は人を狂わせる。
横領発覚後にガラスを割って逃亡するシーンには度肝を抜かれた。
何事も結局自分次第だけれど、善悪の判断がつかずブレーキが利かなくなって道を踏み外してしまうのは本当に恐ろしい。正義とは何か問われる作品。
私は映画を鑑賞する前に月刊シナリオで先にシナリオを読んでいたのですが、シナリオからは名作の匂いがプンプンしていました。名作小説の脚色は大変な作業なのですが、新人の早船歌江子が見事にこなしていて、彼女の活躍が本作の面白さを数段アップさせているのではないかと思います。もちろん、吉田大八の演出も見事ですし、宮沢りえの存在感も素晴らしいと思います。それぞれが見事に反応し合い、素晴らしいサスペンスが生まれたことは間違いない。しかし、梨花と光太の痺れるような出会いのシーンを書いた早船歌江子をこそ私は賞賛したいです。職場での信頼を獲得した女性が夫への不満を漏らしている中、大学生の好青年と一瞬で恋に落ちてしまうあの瞬間!素晴らしい。本当に素晴らしいです。原作は未読なので、ひょっとしたら原作からあるシーンなのかもしれませんが、それにしてもあの衝撃は……。しばらく忘れられないでしょう。
ストーリーは地味なアラフォー女性(昔は相当な美人であったことが伺えるルックス)が年下の男性に恋をして、道を踏み外してしまうというもの。斬新だなぁと思ったのは、貢いだ相手も道を踏み外してしまうというところですね。お前も同じ穴のムジナかよ!ということが判明した一方で事件を嗅ぎつけた小林聡美。良い!素晴らしい!手放しで褒めたくなる展開です。
『桐島』の記録的な大ヒットで巨匠の仲間入りをした吉田大八。本作は『桐島』ほどではないにしろ、傑作であるということに変わりはありません。宮沢りえをキャスティングしたこと、早船歌江子がいい仕事をしていたこと。どちらかが上手く行っていなかったら、本作はここまでの作品にはなっていなかったかもしれません。宮沢りえのリアリティは凄かったですねー。居そう!っていうか居るよ!ああいう人多分居る!という雰囲気作りが凄い。ヨルタモリに出演したり、宮沢りえの再ブレイクの予感がします。本作は日本アカデミー賞で何らかの賞を受賞することは間違いないでしょうから、もし最優秀主演女優賞を宮沢が受賞すれば、間違いなく再ブレイクするでしょうね。宮沢りえ直撃世代の人たち大喜び!