映画『君と歩く世界』の概要:不幸な事故で両足を切断し、生きる希望を失った女性と、格闘技で成功を目指す粗野なシングルファーザーが出会い、再起と愛を育てるヒューマンラブストーリー。女性の逞しさと男性の成功を描いている。
映画『君と歩く世界』の作品情報
上映時間:122分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:ジャック・オーディアール
キャスト:マリオン・コティヤール、マティアス・スーナールツ、アルマン・ヴェルデュール、セリーヌ・サレット etc
映画『君と歩く世界』の登場人物(キャスト)
- ステファニー(マリオン・コティヤール)
- シャチの調教師だったが、不幸な事故で両足を切断。生きる希望を見失ってしまう。アリと過ごす内に彼を愛するようになる。
- アリ(マティアス・スーナールツ)
- 貧乏でまっすぐな性格だが、粗野な男性。ボクシングとムエタイを経験。格闘技に目覚め、成功を目指している。息子を引き取って育てようとするも、愛情の掛け方が分からず戸惑っている。ステファニーと出会い、彼女と過ごすようになる。愛情表現が不器用。
- サム(アルマン・ヴェルデュール)
- アリの息子で5歳。父親とは離れて育っているため、アリとの距離が測れずにいる。人見知りしない無邪気な子供。動物が好き。
- アナ(コリアンヌ・マシエロ)
- アリの姉。スーパーでレジをしている。愛情深い女性だが、弟の息子への態度に不満と恐怖を抱いている。弟親子を助けている。
- マシャル(ブーリ・ランネール)
- 企業の支配人から依頼され、倉庫の至る所に隠しカメラを仕掛ける仕事をしている。ストリートファイトの賭けで大金を稼ぐ。アリを信頼して彼をストリートファイトに誘う。一見、怪しそうだが、信頼の置ける壮年の男性。
映画『君と歩く世界』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『君と歩く世界』のあらすじ【起】
離れて暮らしていた息子サムを引き取ったアリは、息子を連れて姉夫婦の元へ向かった。姉のアナとは5年振りの再会だったが、金もなく貧乏な弟親子を憐れに思ったアナは、自分達の生活も楽ではなかったが、面倒を見ることにした。
アリはかつて、ボクシングとムエタイをやっていたため、その経験を活かしクラブの用心棒と夜警の仕事に就くことができた。彼は格闘技で成功を目指している。
そんなある日、クラブでトラブルを起こした女性を送っていくことになったアリ。女性は豊満な胸の谷間を見せ、美しい足を見せつけるような短いスカートを着ていた。聞けば彼女には一緒に住んでいる男性もいると言う。それなのに1人でクラブへ遊びに来ていたのだった。
そんな彼女を娼婦のようだと、直截に言い放つアリ。彼女はムッとしながらも、ステファニーと名乗る。何かあったら自分へ連絡しろと言い、アリは自宅へ戻った。
ステファニーはマリンランドでシャチの調教師をしていた。シャチのショーで見られることに快感を覚えていた彼女は、その日も誇らしげに仲間達とショーへ出ていたが、誤って乗って来たシャチが舞台を崩壊。ステファニーはそれへ巻き込まれてしまう。
病院で意識が戻ったステファニーだったが、自分の自慢の両足が無くなっていることに混乱し絶望する。家族や同僚が何人も見舞いに訪れるも、生きる希望を見い出せない彼女は自殺することもできず、同情や憐れまれることに倦んでいた。
映画『君と歩く世界』のあらすじ【承】
一方、アリは仕事も順調で、再びジムへ通い格闘技の世界へ。エアロビクスのインストラクターの女性と情交を重ね、サムの迎えにと忙しく過ごしていた。
そんなある日、夜警の仕事中にステファニーから電話がある。彼女の事故はテレビで知っていた。仕事上がりにステファニーを訪ねる。
彼女の部屋はカーテンが引かれ、薄暗かった。車椅子生活をしているステファニー。アリは彼女へ優しく接して、外へ出るよう促した。最初は嫌がっていたステファニーだったが、アリと一緒に外へ。
カフェで一服していると、アリが急に海で泳ぎたいと言い出し、ステファニーを置いてさっさと海へ向かう。
ステファニーを憐れむわけでもなく、自由に過ごすアリを見た彼女は、自分も浜辺へ向かう。海風を浴びながら泳ぐアリを見ていたら、自分も泳ぎたくなった。彼に抱えてもらい海へ入る。
しばらく泳ぎ、指笛を合図としアリに背負われて浜辺へ戻るステファニー。彼女は泳ぐ喜びを思い出した。
ある日、夜警をしていたアリは、倉庫に隠しカメラを仕掛ける男マシャルと出会う。彼にストリートファイトで稼がないかと声をかけられた。戦って稼ぐことができるなら、これに越したことはない。二の句も告げずに話へ乗った。
ステファニーにその話をすると、彼女も見に行きたいと言う。
アリは前に進もうとしている。ステファニーは彼に感化され、自分も新たな道を見出そうとしていた。病院で義足の型を取る。長時間も同じ姿勢を取っていなければならなかったが、彼女はそれに耐えた。
自宅で格闘技の動画を見ていたアリ。アナが預かっている犬をブリーダーに返すため、サムを外に出すなと言われる。サムと一緒に格闘技を見ていると着信があった。電話をしている隙にサムが外へ出て行ってしまう。連れて行かれる犬を見たサムは、駄々を捏ねて泣き喚いた。電話の内容があまり良くなかったアリは苛立ってしまい、泣き喚くサムに怒鳴り散らして、思わず投げ飛ばしてしまう。それを見たアナは弟に危機を感じ、彼を息子から引き離した。
映画『君と歩く世界』のあらすじ【転】
試合当日、アリはステファニーと共に、ストリートファイトの会場へ向かう。賭けを仕切るマシャルはアリの値を釣り上げ、大金を稼ごうとしていた。
アリが戦う姿を車内から見つめるステファニー。彼は強く1試合目は簡単に勝った。
試合を通して、戦う男達の情熱と命の息吹を感じたステファニーだった。
帰りがけ、アリは車のおもちゃを購入。そこで、アリに息子がいることを知る。
後日、アリは家族で海へ。サムはプレゼントをとても気に入り、息子と父親は仲直りする。一緒に海で遊んだ。少しずつ距離を縮めるサムとアリ。
夜はマシャルと倉庫に隠しカメラを仕掛ける仕事を手伝った。依頼は企業からではなく、支配人個人からのもので、これにより従業員の粗探しをしてリストラするらしい。完全に違法行為であるため、捕まれば監獄行きの危ない仕事だった。
ステファニーの義足が出来た。彼女はそれを身につけアリと会う。杖をつきながらだが、二足歩行が可能となった。自宅へ食事に誘う。ステファニーはそこで、以前の自分を語った。見られることを快感に思い、男性を誘惑していた自分。今も自分は女として機能するのか。次の段階へと踏み出すステファニー。
ステファニーは決心してアリと身体を重ねた。身体は十分に女として機能した。アリはやりたくなったらオペしろと言う。オペとは対応可能という意味だった。オペならすぐに来ると言い、彼は笑顔で帰って行った。
女としても自信を取り戻したステファニー。彼女はマリンランドを訪れた。事故のトラウマが残る元職場だったが、シャチに悪気があったわけでない。元同僚達とも笑顔で挨拶することができた。新しい自分の出発点だった。
その後もステファニーはアリと体を重ねた。合図はオペ。彼に紹介されアナと挨拶し、息子のサムとも顔を合わせる。
ストリートファイトにも続けて付き添う。今回のアリの対戦相手は強敵だった。血塗れになって戦うアリだったが、完全に分が悪い。彼は車からステファニーが降りて来る姿を目にし、奮起した。彼女に負ける姿を見せるわけにはいかなかった。そうして、彼は試合に勝った。
映画『君と歩く世界』の結末・ラスト(ネタバレ)
仲間達と勝利の祝いにクラブへ向かったステファニー。アリは彼女がいるにもかかわらず、別の女性と姿を消してしまう。
翌朝、アリと待ち合わせたステファニーは、彼に自分達の関係を問う。しかしアリは、自分はいつでも対応可能な存在なのだと言った。
ある倉庫で隠しカメラの存在が明らかになった。マシャルは仕事が続けられなくなり、数カ月は姿を消すと言う。そこで彼は、ステファニーに賭けを仕切って欲しいと要請。アリの希望だと言われ、彼女はその任を負うことにした。
そんなある日、アナがスーパーの見切り品を持ち帰っていることを咎められ、リストラされてしまう。同僚から隠しカメラの件を知らされ、そこにアリが関わっていることを知る。
彼女は弟を厳しく咎め、家を追い出してしまう。その日の夜、アリは自分がしたことを悔い、息子を残して姿を消した。
しばらくして、アリの居場所が分かった。トラックの長距離運転手であるアナの夫が、サムを連れてアリを訪ねる。彼は雪深い北仏のジムで格闘技の選手を目指していた。来月には試合を控えている。
久しぶりの息子との逢瀬を楽しむアリ。2人とも満面の笑顔だった。しかし、アリが用を足している隙に、サムが割れた氷の隙間から極寒の湖へ落ちてしまう。振り返ってサムの姿が見当たらないことに焦ったアリ。息子を助けるために拳を犠牲にした。
急いで病院へ。アリは意識不明の息子を見守る。幸い救助が早かったため、意識を取り戻した。拳は骨折していたが、息子の命には代えられなかった。義兄にステファニーから電話がある。アリは彼女と久々に話をして、息子を失う恐怖を泣きながら吐露し、自分を見捨てないでくれと懇願。アリはステファニーを愛していたのだった。
骨折から回復したアリは無事、試合に勝利。記者会見を受ける彼の傍には、サムとステファニーが常に寄り添っていた。
映画『君と歩く世界』の感想・評価・レビュー
クレイグ・デイヴィッドソンによる同名短編集を原作とした作品で、元シャチの女性トレーナーと格闘家を目指す失業者の男性が恋に落ちる物語。男性の年齢が25歳という設定であったことに少し驚いた。
栄光からの転落人生を味わい絶望するシャチのトレーナーにはマリオン・コティヤールが演じ、格闘家を目指す男にマティアス・スーナールツが演じている。2人がそれぞれに少しずつ感化し合って前へ進む姿が描かれており、自然な流れが演出されている。余計なセリフもなく、ただそれぞれに前へ進もうとする姿を見るだけで励まされる。それが愛や絆に発展しないはずがない。それと同時に幼い息子と父親が距離を縮める様子も描かれており、溺れた息子を助ける際、父親が拳を犠牲にする姿に胸を打たれた。(女性 40代)
本作は、事故で両脚を失い絶望した女性がある男性と出会い、再び人生に希望を見出していく姿を描いたヒューマンドラマ。彼女の成長と再生の記録でもある。
クレイグ・デイヴィッドソンの小説を映画化したもので、原題は『RUST AND BORN』(錆と骨)。
マリンランドでガラス越しのシャチに再び合図を送るステファニーの姿が印象深かった。
また、終盤アリが溺れた息子を救うために自身の拳を犠牲にするシーンにも親子の深い絆を感じた。
飾らない2人の姿や、無駄のない淡々と進むストーリーに引き込まれた。(女性 20代)
不慮の事故に遭い両足を失ったステファニーがシングルファザーのアリと出会い、生きる希望を見出していく物語。アリは不器用で、考えるのではなく本能で生き、裏表のないタイプ。事故後のステファニーに対し他者が彼女に向ける哀れみの態度と、彼の態度は違いましたね。彼女が泳ぎたいという内に秘めた思いを本能で感じ取れたから、海に連れて行ったのだと思います。ただ父としてはいまいちだと感じました。前半にあったサムに向けた罵倒と突き飛ばしは可哀そうで、最後まで忘れられませんでした。(男性 20代)
シャチの調教師をするステファニーは明るく天真爛漫。一方、格闘家を目指すアリは真面目で努力家だが物凄く不器用。2人は正反対のように見えますが、挫折と言う大きな苦しみを共有することでお互いの心を繋ぎ、愛を育んでいきました。
ステファニーを演じるマリオン・コティヤールの表情が素晴らしかったです。両足を切断した時の絶望の表情も、同僚やシャチに再会した時の表情も、とてもリアルでステファニーの心を映し出しているようでした。
アリの不器用すぎる行動には少しイライラしましたが、不器用な彼なりに息子と接していく様子を見ているとこれがこの「親子」の姿なのだと感じ、納得出来ました。(女性 30代)
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