第27回アカデミー賞名誉賞、第13回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した1953年に日本初公開された映画史上不朽の名作。フランス映画史にも残る、ヒューマニズムと戦争への激しい怒りをぶつけた傑作映画。2018年9月、およそ65年の歳月を経てデジタルリマスター版でリバイバル上映。
映画『禁じられた遊び』の作品情報
- タイトル
- 禁じられた遊び
- 原題
- Jeux interdits
- 製作年
- 1952年
- 日本公開日
- 2018年9月1日(土)
- 上映時間
- 86分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- ルネ・クレマン
- 脚本
- ジャン・オーランシュ
ピエール・ポスト
ルネ・クレマン - 製作
- ロベール・ドルフマン
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- ブリジット・フォッセー
ジョルジュ・プージュリー
ジュザンヌ・クールタル
ジャック・マラン - 製作国
- フランス
- 配給
- パンドラ
映画『禁じられた遊び』の作品概要
第2次世界大戦最中のフランス、ドイツ軍からのパリ侵攻により両親を亡くした少女ポートレットが、農家の少年ミシェルと出会い、2人が心通わす物語。サスペンスやコメディの他、反戦などの映画も多く手掛けた巨匠、ルネ・クレマンが監督を務め、『禁じられた遊び』は彼の代表作となる。予算の関係でオーケストラではなくギター演奏で奏でられた主題歌「愛のロマンス」は、映画上映と共に世界的に知られるところとなり、日本では映画と同名「禁じられた遊び」として、数々の楽器で演奏され、アーティストがカバーをするほどの名曲となる。
映画『禁じられた遊び』の予告動画
映画『禁じられた遊び』の登場人物(キャスト)
- ポートレット(ブリジット・フォッセー)
- 5歳の少女、ドイツ軍の侵攻により両親と愛犬を亡くし、ドイツ行軍から逃れるため街道を人々と逃げる。
- ミシェル・ドレ(ジョルジュ・プージュリー)
- 農家の少年で、牛追いをしているところでポートレットと出会う。ポートレットに「死」とは何かを教えてあげる。
映画『禁じられた遊び』のあらすじ(ネタバレなし)
第2次世界大戦最中のフランス、パリ。ドイツからの侵攻により、5歳の幼い少女ポートレットは両親を亡くし、大切にしていた愛犬の命も奪われ、その死体を胸に抱きパリの街道を彷徨っている。
11歳になる少年ミシェルは、そんな幼い少女を見かけると、両親に進言しポートレットを貧しいながらも慎ましやかで温かい家庭に迎え入れる。少しだけ年の離れたお兄さんに、ポートレットは親近感を持ち、やがて心開くようになる。
ミシェルは、ポートレットに「死」とは何かを説く。5歳の少女は、「死」を正しく理解してはおらず、ミシェルはポートレットと一緒に愛犬の死体を水車小屋に埋葬した。神への信仰や祈り方を知らないポートレットに、ミシェルは祈り方を教え愛犬の死を悼む。しかし、愛犬が独りぼっちではかわいそうだと話すポートレット。2人は、次々と動物の死体を水車小屋に持ち込み、愛犬の墓の傍に新しい墓を作るという遊びを始めた。
映画『禁じられた遊び』の感想・評価
薄れていく子供が持つ残虐性
映画が上映された当時から昭和後期にかけて、『禁じられた遊び』を少年少女に見せることは、些かの懸念を含んでいた。少女ポートレットと少年ミシェルは、動物の死体をその手に取り、墓を作り、墓場から十字架を盗み出す。その一連の流れが、教育的に良くないと言われていた。
しかし、子供とは本来どこまでも純粋で、故に鎖で縛られていない純粋な残虐性が垣間見えることがある。最初はただ単純に、愛犬が寂しくないように仲間を作ってあげたかった、という優しさだっただろう。だが、次第に子供のやることはエスカレートしていき、しまいには墓から十字架を盗み出すことが目的となってしまう。
子供らしいいたずら心の詰まった「禁じられた遊び」は、今の大人たちからしたら「昔自分も似たことをやったことがある」「いたずらをして、友達のせいにした」「虫を捕まえて戦いごっこをやっていた」など、思い出すこともあるだろう。それこそ墓場に持っていくほど、親には話せない「禁じられた遊び」をしたことがある人もいるかもしれない。当時少年少女だった今の大人にこそ、あの当時のことを思い出しながら、ぜひ鑑賞してほしい。
反戦への呼びかけ
アメリカ合衆国・ブッシュ大統領と、北朝鮮・金正恩委員長が歴史に残る会談を実現させてから久しいが、第2次世界大戦を経験し、およそ三四半世紀が経った世界では、再びちょっとした誘発があれば戦争が勃発してしまいそうな危うさを醸し出している。
戦争は歴史上の事実ではあるが、戦争を経験した人たちはもう一握りほどしか確認できない。人々の中から戦争はどこか、夢物語のような歴史の教科書でしか見ない非現実的なものとして扱われ始めている。
1945年、終戦を迎えてからルネ・クレマンがこの映画を制作するまで約7年。恐るべき短さで彼は反戦について訴えている。しかもルネ・クレマンの生まれたフランスは、戦勝国でもある。戦争から戻った人々は英雄として称えられていた時分にも関わらず、反戦を訴えた映画の制作は、困難を極めたに違いない。
近代兵器の投入によって、多くの人々が戦地で命を落とし、子供が身寄りを亡くし、明日死ぬともわからぬ不安を抱えて生きる世界。こうした社会問題を題材にした映画は、今後も色あせることなく社会に問い続けて欲しい。
少女ポートレットの行く末
5歳の少女ポートレットは、戦争によって両親を亡くし身寄りもいない戦災孤児。たった1人で生きていくには幼すぎる年齢。劇中では、道中で出会った心優しい少年ミシェルが家族として迎え入れてくれるものの、戦災孤児は施設に入れなければならないと軍人が連れて行ってしまう。
当時の孤児院と言えば修道院が一般的で、孤児の面倒を見ているのは神父や修道女というイメージがつきもの。ポートレットも、ミシェルと離れ離れになり修道女に促されて修道院までの道のりを進む。しかし、修道女が目を離すとポートレットはミシェルを探して雑路の中を走り去ってしまう。
子供はときに、目を離したすきにどこかへ行ってしまう生き物である。見ている側からしたら、「ポートレット、泣きながらどこへ行ってしまうの!?」と思わずにはいられないだろう。彼女が生きていくには、助けが必要で、1人で生きていくには厳しい情勢の世の中。ミシェルの行動一つ一つがはらはらでこちらは目が離せなくなりそうだ。
映画『禁じられた遊び』の公開前に見ておきたい映画
ココ・シャネル
『禁じられた遊び』で子役デビューを果たし、世界的に有名になった女優ブリジット・フォッセーは、6年ほど女優業を経た後に学業に専念し、20歳に再び女優として復帰する。
1981年に上映された『ココ・シャネル』は、イギリスとフランスの合同伝記映画。かの有名なファッションブランド、「シャネル」の創始者である女性デザイナー、ココ・シャネルのデザイナーとしてパリで活躍する様を描いたもの。
ブリジットは、この映画でガブリエル(ココ)の姉であるアドリエンヌ・シャネルを演じている。ナイトクラブで働き、生活するココとアドリエンヌだが、アドリエンヌはそこで出会った男爵と駆け落ちし、家を飛び出してしまう行動派女性。どこか破天荒な面がありながらも、純粋で一途な妹ココとは対極的。
5歳の頃からはるかに成長し、美しくなったブリジットが、見事にココの姉アドリエンヌを煌びやかに知的に見せた作品。
詳細 ココ・シャネル
太陽がいっぱい
ルネ・クレマンの『禁じられた遊び』と並ぶ代表監督作品。主演はフランス映画の名優アラン・ドロン。
2人の青年がトムとフィリップは、旧知の仲だったが小さな諍いからトムがフィリップを殺害してしまう。そしてトムは、上流階級のフィリップに成りすまそうとあらゆる画策を練り、更に人一人を殺して死体を海に捨て、フィリップの恋人や財産を手に入れるよう仕向ける。
完全犯罪に酔う青年には、浜辺から見える海は太陽がいっぱいに煌めく姿に見えていた。だが、警察が海から死体を発見すると、トムの完全犯罪は綻びを見せてしまう。
この映画は1960年に公開され、技術は当時の様相を実に忠実に再現している。アラン・ドロン演じるトムが、フィリップになるため筆跡を真似したり、パスポートを偽造したり、声色を真似たり、実にアナログで新鮮味を感じてしまう。
様々なジャンルの映画を制作するルネ・クレマンの、欲望にまみれたサスペンス映画は、『禁じられた遊び』とは似ても似つかない作品に仕上がっている。それは、彼の映画製作に対しての見識の広さと、手腕ぶりがいかんなく発揮された結果とも言える。
詳細 太陽がいっぱい
悪童日記
2013年公開の、ドイツ・ハンガリー合同の戦争ドラマ映画。『禁じられた遊び』は、小さな子供たちの鑑賞について懸念してしまう部分があったと述べたが、この『悪童日記』こそ、戦争被害の子供を実に生々しく描き、子供への干渉はできるなら避けたいと思ってしまう程の出来栄えである。
原作が1986年に発表されたにもかかわらず、長年映像化は難しいとさえされてきた。名前の出てこない戦災孤児の双子は、ありとあらゆる知恵を出し合い、大人たちを出し抜き力強く戦後の世界を生き延びていく。
原作小説では、きちんとした国名や場所の記載はなかったが、敗戦国らしい表記や、ユダヤ人の差別、横柄な将校など戦争話に欠かせない要素がふんだんにちりばめられている。ポートレットと違うのは、双子はとても賢くとても狡く、とても強かである点。彼らのやっていることは、確かに戦後の動乱の中を生きるためには必要なことであったと思わずにはいられない。
人の死を踏み越えて自分たちの足で、自分たちの明日を生きる少年2人を、なぜだが責める気にもなれず、応援してしまいたくなる。
詳細 悪童日記
映画『禁じられた遊び』の評判・口コミ・レビュー
今日観た映画『禁じられた遊び』(1952) 監督ルネ・クレマン
あまりにも有名な、悲しくも可愛らしい反戦映画。哀愁漂うギターのテーマ曲も有名。1977年収録版吹き替え追加のBlu-rayが出たので買ったが、画質は既発のスタジオカナル版と同じ様子。編集の違うクライテリオン版の方がよかったかな。 pic.twitter.com/FzLgs77sUz— 越智博之 (@Corporate_X) 2018年6月13日
今日のシネマ。
ルネクレマン監督
【禁じられた遊び】
初めて観たのが公民館での子ども会の親子鑑賞会。小学生の時で、ただ少女がかわいそうだと思った。再度観た中学生の時は、戦争の悲惨さを感じた。それから映画ファンへ。R.クレマン、P.ジェルミ、F.フェリーニ、L.ヴィスコンティなどの虜になった pic.twitter.com/ZKdPPZV3rm— Tsuto夢 (@Tsuttie0918) 2018年3月28日
禁じられた遊び を観た。
これもまた、反戦映画の類だと思って観てみたら思ったより「死の埋め合わせ方」みたいな文脈で興味深い内容だった。
残酷で醜い世の中に翻弄されるポレットも、幼さ故に自分の残酷さに気がつかないのだ。— あぷ (@AprctCndy) 2017年12月10日
映画『禁じられた遊び』のまとめ
誰しも人を殺したくはないし、その人にも待っている人や大切な人がいるのだろうと思うと躊躇ってしまう。戦争は、そうした人間の持つ優しさは一切捨て去り、本来人の心の奥底に眠っている暴力性や独裁欲や残虐性を引きずり出し、相手に全面的にぶつかっていく、いわば人間の最終的な意思表現なのだろう。しかし、それには多くの犠牲が伴い、その犠牲に子供も大人もない。決して明るい気持ちで見られる映画ではないが、それでも劇中で大切なメッセージを語り掛けてくれる大切な媒体として、この映画に臨みたい。
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