映画『ロング、ロングバケーション』の概要:認知症の夫と末期ガンの妻という老夫婦が、キャンピングカーに乗り込んでヘミングウェイの家があるフロリダを目指していった。道中、様々な冒険を経て、二人はキーウエストに辿り着くのだが……。
映画『ロング、ロングバケーション』の作品情報
上映時間:112分
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
監督:パオロ・ヴィルズィ
キャスト:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド、クリスチャン・マッケイ、ジャネル・モロニー etc
映画『ロング、ロングバケーション』の登場人物(キャスト)
- エラ(ヘレン・ミレン)
- ジョンの妻。末期ガン。明るく気丈な性格。長年連れ添ったジョンを愛しており、二児の母でもある。若い頃はジョンと二人で、キャンピングカーの“レジャー・シーカー”に乗って方々を旅した。認知症のジョンに昔を思い出してもらおうと奮闘する。抗がん剤のため、髪が短いが、普段は赤毛のかつらを被っている。
- ジョン(ドナルド・サザーランド)
- エラの夫。認知症。元教師だったため、膨大な知識を持っているが、今ではそれすら思い出せない。だが、何度も読んだヘミングウェイのことははっきりと記憶しており、誰かを見つけては、彼の作品の話を延々と語ったりする。
映画『ロング、ロングバケーション』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ロング、ロングバケーション』のあらすじ【起】
マサチューセッツ州に住む老夫婦のジョンとエラは、ある朝、古いキャンピングカーに乗って小旅行に出かけていった。キャンピングカーは運転席に開いた穴から排気ガスが漏れるほどボロボロだったが、エラは穴を塞いで応急処置をした。
ジョンは元教師で博識な男だったが認知症を患ってしまい、記憶も曖昧になり、ぼんやりとした状態になることが多かった。時たま、記憶が戻って以前のような知的で魅力的な会話をする時もあったが、すぐに元に戻ってしまう。
そんなジョンを妻のエラは気丈な態度で支えていた。いつも明るくチャーミングな笑顔を絶やさなかったが、実はエラは末期ガンを患っていた。すでに全身に転移しており、動けるのが不思議なほどだった。
年老いて、しかも病気を持つ両親が突然に出かけたことを知り、子供たちは心配するが、エラは大丈夫だと電話で伝えると、ジョンと二人、キーウエストへと旅立っていった。ジョンはヘミングウェイの大ファンだったので、彼の家を一度でいいから見せたいと思っていたのだ。
映画『ロング、ロングバケーション』のあらすじ【承】
二人はバーガーを食べ、懐かしい曲を聞きながら、若い頃のように車での旅を楽しむ。ジョンは認知症でも車の運転はちゃんとできた。エラは彼の記憶を取り戻そうと、さまざまなことを試していた。子供たちが幼少の時に来たバージニア州の歴史村を再訪したり、夜のキャンプ場では思い出の写真のスライドを見せたりした。だが、ジョンはぼんやりと頷くだけ。
時に、子供たちのことさえも忘れてしまうジョン。そうかと思えば、教師時代の教え子のことは憶えているなど、なんとも捉えどころがない。混濁した記憶は、大昔のエラの恋人のことを思い出させ、今更になって嫉妬心を燃やさせる始末。エラは呆れかえるばかりだった。
道中、給油中にジョンはエラを置いて走り去ってしまったり、勝手にアイスを食べに行ったり、パンクしたり、強盗にあいそうになったりと色々あったが、どれも大事には至らなかった。エラは冒険の旅のようでワクワクした気持ちになっていた。だが、ある夜、ジョンがエラのことを忘れてしまった。エラを他人だと思い、妻はどこに行ったのかと尋ねられる。彼女はショックを受けて泣いたが、ジョンは戸惑うばかり。ところが、翌朝になれば昨夜のことはすっかりと忘れ、またいつもの状態に戻っている。エラの心労は計り知れなかったが、それでも彼女は笑顔を絶やさない。
映画『ロング、ロングバケーション』のあらすじ【転】
日増しに認知症が悪化していく。そのことにジョンも気がついているのか、もし、施設に入れなくてはならない状態になったら、銃を渡して自殺させてほしいとエラに言いだした。当然、エラにはそんな気はない。
エラが体調を悪くさせて寝込んでしまった。ジョンは心配そうに彼女を見守るが、その時、記憶の混濁が原因でエラを隣人のリリアンだと勘違いし始める。リリアンのふりをして話をしていたエラは、二人が若い時に不倫していたことを知ってしまい大ショック。ジョンは自分が何を喋ったのか憶えていなかったが、激怒したエラは、もう旅はおしまいと叫び、ジョンを近くの老人ホームに強引に置き去りにしていった。
一人で泣きながら酒を煽り、二人への悪態をさんざん言った後、エラは落ち着きを取り戻した。ジョンを許すことに決めた彼女は、老人ホームまで迎えに行き、再びフロリダへの道中が始まる。
キーウエストに到着した二人は、念願のヘミングウェイの家へとやってきた。だが、そこはすっかり観光名所となって人でいっぱいだった。結婚式まで挙げられている。静かで厳粛なイメージを持っていたエラはがっかりするが、ジョンは陽気に結婚式のダンスに乱入していった。その時、エラは突然に意識が遠のいて倒れ、ジョンの知らぬところで救急車に乗せられて運ばれていってしまう。
映画『ロング、ロングバケーション』の結末・ラスト(ネタバレ)
一人残されたジョンは、エラのことを思い出せずにオロオロするばかり。だが、彼女が忘れていったバッグを見つけ、口紅の香りでエラを思い出し、病院に駆けつけた。
医師から、エラのガンの進行具合を説明されたジョンは、彼女を病院からこっそりと連れだし、キャンピングカーへと戻ってきた。そして、もう二度と離れないでほしいと彼女に告げた。
それを聞いたエラは意を決し、ジョンに内緒で大量の睡眠薬を飲ませて眠らせると、自分も飲み、車のエンジンを掛けた。その後、エラはジョンの隣に寄り添って眠ったが、その前に運転席に開いた穴の塞ぎを外していた。穴からは排気ガスが漏れだし、車の中はあっという間にガスで充満していった。翌朝、不審に思ったキャンパーたちは車中で亡くなっているジョンとエラを発見する。
エラが死の直前に書いた遺書には、今後のことや子供たちへの想いが書かれ、最後にはこう書き残されていた。私たち夫婦は一心同体、夫を置いていくことはできない。私たちが最後に体験したバカンスは素晴らしいものだった。これが私たちのハッピーエンドだ、と。
映画『ロング、ロングバケーション』の感想・評価・レビュー
実際はかなり重たく、はた迷惑な話であると思う。事実、認知症の介護はとてつもない精神力と忍耐が必要だ。しかし、主役のふたりがとてもチャーミングに演じたことにより、爽やかなラストが生み出されている。四コマ漫画を繋ぎ合わせたような軽快なテンポで進み、その淡々とした感じが旅っぽさを強調して良い。年老いた二人にハラハラしながらも、老いて尚、相思相愛な姿に憧れを感じさせるラブストーリーだ。人生にはバカンスが必要なのだと、つくづく思った。(MIHOシネマ編集部)
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