言葉を話すフクロウと、孤独な少女が心を通わすとき、不思議な物語の幕が上がる。女優としても活躍し、2015年公開の『カミーユ、恋はふたたび』で監督・脚本を担当したノエミ・ルボフスキーが、再び監督・脚本・出演を務めるハートフルファンタジードラマ。
映画『マチルド、翼を広げ』の作品情報
- タイトル
- マチルド、翼を広げ
- 原題
- Demain et les autres jours
- 製作年
- 2017年
- 日本公開日
- 2019年1月12日(土)
- 上映時間
- 95分
- ジャンル
- ファンタジー
- 監督
- ノエミ・ルボフスキー
- 脚本
- ノエミ・ルボフスキー
フロランス・セイボス - 製作
- ジャン=ルイ・リビ
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- リュス・ロドリゲス
ノエミ・ルボフスキー
マチュー・アマルリック
アナイス・ドゥムースティエ - 製作国
- フランス
- 配給
- TOMORROW Films.
サンリス
映画『マチルド、翼を広げ』の作品概要
セザール賞に7度もノミネートした経歴を持ち、前作『カミーユ、恋はふたたび』ではフランスで90万人動員を果たした、人気女優・監督ノエミ・ルボフスキー。今作のテーマは、ルボフスキーが自らの母親に捧げる、ハートフルでファンタジックな自伝物語。情緒不安定な母親役を自らが演じ、自身の子供時代にフォーカスを当て、物語を詩的に紡ぎ出す。マチルド役には、オーディションで大抜擢され映画初出演にして初主演を務めるリュス・ロドリゲス。
映画『マチルド、翼を広げ』の予告動画
映画『マチルド、翼を広げ』の登場人物(キャスト)
- ザッシンガー夫人(ノエミ・ルボフスキー)
- マチルドの母親。フランスのアパルトマンで、マチルドと2人で生活している。たまに情緒不安定になることがある。
- マチルド(リュス・ロドリゲス)
- ザッシンガー夫人の9歳になる1人娘。情緒不安定の母親に振り回され、孤独な日々を過ごす。
- フクロウ(ミシャ・レスコー)
- ザッシンガー夫人がマチルドにプレゼントしたオスのフクロウ。人間の言葉を話すことができ、マチルドの友達となる。
映画『マチルド、翼を広げ』のあらすじ(ネタバレなし)
フランスは花の都、パリ。この町のアパルトマンに、9歳の少女マチルドは母親のザッシンガー夫人と2人で生活していた。父親は離れて生活しており、マチルドには母親しかいなかった。
しかし、母親は情緒不安定で先生との面談でも会話はちぐはぐになってしまう。マチルドは、母親のことを案じるばかりに学校では友人ができず、孤独な日々を送る。先生はそんなマチルドを心配するも、状況は好転せず。
そんなある日、マチルドの元に1羽の雄のフクロウがやってくる。なんとザッシンガー夫人がマチルドに贈り物として持ってきたのだ。その日から、マチルドとフクロウの不思議な関係が始まる。マチルドが夜ベッドに入ると、フクロウは「おやすみ」とマチルドに話しかける。驚き、ザッシンガー夫人にフクロウのことを話すマチルドだが、フクロウと会話できるのはマチルドだけであった。
フクロウはマチルドにとってかけがえのない親友であり、家族であり、心の拠り所となっていく。9歳にして日々を懸命に強く生きていくマチルドを、フクロウも一生懸命に支え、マチルドにとってフクロウは守護天使のようであった。
しかし、マチルドの幸せは長く続かず、情緒不安定の母親が元で毎日ピンチの連続なのだった。
映画『マチルド、翼を広げ』の感想・評価
ノエミ・ルボフスキー監督の幼少期
この映画は、一見すると内容がファンタジーなのでフィクションかと思いきや、実は監督であるノエミ・ルボフスキー氏の幼少期がモデルとなっている。
きっと、どの家庭でも母親はどこか風変わりで、たまに突飛な言動や行動で周りを驚かせる存在であろう。人生において母親の存在はとても大きく、あるときは面白おかしくユーモラスで、あるときは鬼のように激しく怒りと叫び声をまき散らし、あるときはまるで天使のように温かく包み込んでくれる。
母親とは、きっとそんな存在なのだ。しかし、成長するにつれて子供の価値観も多様化し、意見がぶつかり合うときが必ずやってくる。そんなとき、子供は母親との距離を感じ、孤独を感じる。
その孤独の中を生きるマチルドの元にやって来たのが、小さなオスのフクロウ。孤独を紛らわし、助けてくれて、絶対的な味方でいてくれる母親とはまた違った頼もしい存在。幼少期、そんな存在を人形やぬいぐるみを利用して自分の中で作り出していた人もいるだろうし、マチルドのように動物と心を通わせていた人もいるだろう。誰しもが経験する幼い頃の孤独を、フクロウは優しく語りかけてくれて、見守ってくれるのだ。
そして、この物語の最大の魅力は、ファンタジー要素だけでなく、実際にあった人生の一部を切り取ったものだからこそ、大人でも感動を覚えるところである。
孤独を懸命に生きる少女、マチルド
孤独というのはとても厄介で、ふとした瞬間に思いがけずやって来る。それは時も場所も選ばず、相手が9歳の幼い少女であってもお構いなし。母親と心を通わせられないマチルドのところにも、当然やって来る。
大人だから孤独なのではなく、誰しもが孤独を抱えながら生きている。マチルドを見ていると、そう思わずにはいられない。母親のザッシンガー夫人も、きっと孤独であっただろう。そして、そんな母親を見ているマチルドも、寂しくてたまらないのだ。
しかし、9歳の少女が大人と違う点は、その孤独を表現する的確な方法を持ち合わせていないと言うことだ。子供はいつでも言葉少なく、伝えたいことを懸命に伝えようとする。しかし、大人はそれを見逃してしまう。
今回、映画初出演にして主演に抜擢されたリュス・ロドリゲスは、そんな幼い少女の孤独を圧倒的な演技力で観客に見せつけてくれる。母親に振り回されながらも、母親を慕い、愛し、寄り添う姿はとても切なく、胸の奥がチクリと刺される。
そして同時に、マチルドに対して観客は大きな愛を感じずにはいられなくなるのだろう。
日本人も大好きなフクロウ
映画が公開される2019年1月12日から、東京の街中にあるお店では「フクロウコラボレーション」がいたるところで開催される。フクロウカフェが登場し、巷を賑わせてから数年、日本人のフクロウ愛は留まるところを知らない。
つぶらな瞳におちょぼ口のような嘴、ふわふわの毛並みとほぼ360度回る奇怪な首。フクロウのなにもかもが愛しく、若者を中心にフクロウファンはとても多い。
コラボレーションでは、パン屋さんに「フクロウパン」が登場したり、フクロウカフェで党別料金が設定されたり、映画にちなんだ地方の飲み物や食べ物でお客様をもてなしてくれるお店もある。
東京・渋谷、新宿辺りに住んでいる人はぜひ、『マチルド、翼を広げ』とコラボレーションしているお店で、いろいろなフクロウを堪能してみてはいかがだろうか。
映画『マチルド、翼を広げ』の公開前に見ておきたい映画
カミーユ、恋はふたたび
フランスの人気女優・ノエミ・ルボフスキー氏が出演・監督・脚本を手掛けたファンタジック・ラブストーリー。フランスでの公開週第1位の興行収入と、90万人を超える動員数を成し遂げた話題作。フランスのアカデミー賞であるセザール賞では、最多13部門ノミネートという快挙も果たす。
女優としても目覚ましい活躍をしているルボフスキー氏が主人公カミーユを演じ、中年姿そのままで若かりし頃の学生時代にタイムスリップしてしまうという、ユーモラス溢れるドラマ。80年代のパリを、懐かしの名曲とポップで色彩溢れる色鮮やかな世界観で描き出す、大人の夢物語。
人生の折り返し地点といわれる50歳を迎えたカミーユが経験する、ハチャメチャなタイムスリップ。25年連れ添った旦那には、20歳の若い彼女ができたことで離婚され、猫とお酒に慰められる日々。心機一転開いたパーティーでは酔っぱらって転倒して意識を失ってしまう。そして目覚めた過去で、カミーユは2度目の青春を謳歌する。人生を見つめ直す愛と後悔の物語。
ちなみに、マチルドの父親役を演じているマチュー・アマルリックも、この映画に出演している。
詳細 カミーユ、恋はふたたび
ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール
近年、監督・女優業とも高い評価を得ているノエミ・ルボフスキー氏が、映画初出演した作品であり、この作品でフランスのアカデミー賞セザール賞にノミネートされる。
シャルロット・ゲンズブールの実の夫であり、俳優であるイヴァン・アタル氏が脚本を起こし、映画化にこぎつけたスター女優の日常と、平々凡々でパッとしない夫のどたばたロマンティック・ラブコメディー。
主人公のシャルロット・ゲンズブールには実名で本人が登場し、夫であるイヴァン・アタルも監督本人が出演している。フランス国民にとって、最高級のサラブレッド扱いであるシャルロットの、泣いて笑ってイキイキとしている姿が印象的な、おしゃれかわいいフランス映画。
ちなみに、この映画でスクリーンデビューしたノエミ・ルボフスキーは、イヴァンの姉役のナタリーを演じている。有名女優と結婚した冴えない弟とは、どこか理解しがたい部分を持つ微妙な距離感の姉ナタリー。
出産を機に、宗教で揉めるシーンがあるところは日本人との違いを思わず実感してしまう。ただ、何となくどこの家庭でもありそうな「育ちの違い」が垣間見え、ただのラブコメディーで終わらず見応えがある点もお勧めしたい映画の1つ。
詳細 ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール
潜水服は蝶の夢を見る
2008年公開の『007 慰めの報酬』の悪役・ドミニク・グリーンと言えば、好演したマチュー・アマルリックの顔が思い浮かぶだろう。『マチルド、翼を広げ』で、マチルドの父親役を演じているその人である。『潜水服は蝶の夢を見る』は、フランスの俳優で映画監督でもあるアマルリックが、その名を世間に知らしめた作品である。
セザール賞で主演男優賞を受賞、アメリカ・アカデミー賞では4部門にノミネートされ、これがきっかけでハリウッド映画出演を果たす。
『潜水服は蝶の夢を見る』は、ジャーナリストであったジャン=ドミニック・ボービーの同名小説を映画化した作品で、脳出血で倒れ、「ロックトイン・シンドローム」に陥り体を動かせなくなった男が、かろうじて動く左目瞼の瞬きだけで本を執筆する物語。
アマルリックは、主人公のジャン=ドミニック・ボービーを演じている。題名の潜水服とは、主人公の体の不自由さの象徴で、蝶はそんな中でも自由に飛び回れるジャンの心の有り様を表している。ちなみに、この本が出版された2日後、ジャンは、還らぬ人となった。
詳細 潜水服は蝶の夢を見る
映画『マチルド、翼を広げ』の評判・口コミ・レビュー
「マチルド、翼を広げ」みた。人と人の距離て何だろ?と問い続ける映画のラスト、雨の中の(近年稀に見る雨量、最高)格闘技のよな舞踏の末の抱擁の力強さ!!ノエミ・ルヴォウスキー監督、「カミーユ、恋はふたたび」に続いての傑作おめでとうございます!喋らなくてもいいのでふくろう飼いたい。。 pic.twitter.com/ZfMcrPHx3a
— つむじ風(操行ゼロ) (@stmt) 2019年1月14日
『マチルド、翼を広げ』
母子家庭でろくに友達も作らず常に精神を病んだ母親のケアに追われ閉塞的な厳しい状況に追い込まれているマチルドのような子どもに対し、理知的な第三者的な声を内に宿し、離れること、適正な距離を置くということを積極的に肯定していく映画でとても良かった。 pic.twitter.com/ckpsAUpoya— 児玉 美月🥀 (@tal0408mi) 2019年1月14日
『マチルド、翼を広げ』ノエミ・ルヴォウスキー。少女時代の母との思い出を描く。監督が母親役を演じてて、その時点で愛に溢れてる。一挙手一投足の重みな…涙。私小説風のリアリズムも目指せると思う中、ファンタジックな映画なのがまた良い。孤独や逃避を察した。幸福のイメージも持っていたのかな。
— jin (@takeyakun) 2019年1月13日
午後は #映画「#マチルド、翼を広げ」を観た。
すごく良かった!
主人公の少女マチルドはこっちの胸が締め付けられる程のすごく重たいもの背負ってしまっている😭
でも常に伝わってくるのはマチルドの大好きな母親への愛情、どんな事があってもお母さんを守ろうとする健気な優しさ!
たまらなかった😭 pic.twitter.com/YfEoDE3xm4— 赤いハレー彗星。 (@p_o_zeon) 2019年1月13日
『マチルド、翼を広げ』物語設定から重い現実が寂しげに描かれるシリアスな映画も覚悟してたけど、困難な現実にもめげない主人公・マチルドのパワフルで凛々しいひたむきさと抜群の行動力が全編に渡って軽妙に描かれているし、とにかくフクロウが悶絶級に可愛すぎるしで、十分に楽しくも観られる映画。
— SunCityGarden (@SunCityGarden) 2019年1月13日
映画『マチルド、翼を広げ』のまとめ
子供が主人公の映画ではあるが、リアルな切なさや孤独感が胸を締め付けるほど繊細に描かれており、そして、映画ならではの魔法がかけられた作品である。ルボフスキー監督の作品を見た人なら想像に難くないと思われるが、彼女が手掛ける作品は、「愛」に溢れている。家族の親密さや脆さを描き出し、印象に残る美しい映像が、詩的な映画となって目の前に現れる。慈愛に満ちた映像から観客が感じ取れる愛おしさは、計り知れない。明日を不安に思う誰しもが、「いい日になるさ」と勇気をもらいたいときに、ぜひ見て欲しい。
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