映画『ナチュラルウーマン』の概要:男性の身体でありながら、心は女性というトランスジェンダーのヒロイン。付き合っていた歳の離れた恋人が急死したことによって、彼の親族や警察から偏見の目に晒されることになる。苦境や苦難に立ち向かう1人のトランスジェンダーの姿を描いている。
映画『ナチュラルウーマン』の作品情報
上映時間:104分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:セバスティアン・レリオ
キャスト:ダニエラ・ベガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ etc
映画『ナチュラルウーマン』の登場人物(キャスト)
- マリーナ(ダニエラ・ベガ)
- 男性の身体で心は女性。性同一性障害のトランスジェンダー。歳の離れたオルランドと同棲し、レストランで歌を唄っている。慈愛に満ちた性格であるが、偏見の目に晒され何度も傷つけられるも、毅然とした態度で立ち向かう。
- オルランド(フランシスコ・レジェス)
- マリーナの恋人で57歳の初老。かつてソニアと家庭を築いていたが、離婚後はマリーナと恋仲になる。優しく気遣いのできる素晴らしい人物でマリーナを深く愛していたが、動脈瘤にて急死してしまう。
- ガブリエル(ルイス・ニェッコ)
- 通称ガボ。オルランドの弟で、マリーナを慮ってくれる優しい人物だが、気が弱くソニアには強く言い返せない。
- ソニア(アリン・クーペンヘイム)
- オルランドの元妻。初めの内はマリーナに気を遣ってくれるが、トランスジェンダーは理解できないとはっきり断言。以降は直截に詰ったりはしないものの、マリーナの存在を拒絶する。
- アドリアーナ(アンパロ・ノゲラ)
- 刑事。トランスジェンダーの案件を多数、取り扱ってきたので扱いは心得ていると言うものの、やっていることは偏見を持つ人々と同じことをしている。理解した気になっているだけの人物。
映画『ナチュラルウーマン』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ナチュラルウーマン』のあらすじ【起】
チリ、サンティエゴ。レストランの歌姫であるマリーナは、身体は男性だが、心は女性というトランスジェンダー。恋人でパートナーでもあるオルランドは初老で、軽い物忘れはあるものの、関係は良好で概ね穏やかに過ごしていた。
その日はマリーナの誕生日。オルランドは彼女のために世界七不思議の滝の1つ、イグアスの滝への旅行というプレゼントを用意。だが、日中に航空チケット失くしてしまったため、10日以内に旅行へ連れて行くという手紙をくれた。
自宅にて熱い夜を過ごした2人だったが、しばらくしてオルランドから酷い頭痛の訴えがある。マリーナはすぐに病院へ向かう準備をするも、先へ向かおうとしたオルランドが階段から転落。意識は辛うじてあるものの、歩くこともままならない。急いで病院へ連れて行ったが、恋人は到着直後、意識不明に陥りそのまま亡くなってしまう。動脈瘤とのことだった。
オルランドの弟ガブリエルへ連絡を入れたマリーナは、親族が来ることでトラブルを防ごうと病院から帰ろうとして、警察に止められてしまう。警察はオルランドの頭部の傷を目にし、マリーナが突き落したのではないかと疑っているようだ。しかし、そこへガブリエル、通称ガボが駆け付け彼女を擁護してくれたため、マリーナは何事もなく解放されるのであった。女性の恰好をしているが、身分証は未だに男性のままだったマリーナ。そのせいで偏見の目に晒され、どうしたって周囲はそのようにしか見てくれない。
映画『ナチュラルウーマン』のあらすじ【承】
翌日、レストランへ出勤。オルランドの元妻ソニアから法的な手続きを一緒にして欲しいという連絡が入る。その後、店に刑事アドリアーナが来店。彼女は性犯罪捜査班に所属しており、昨夜の件で調査に来たと言う。だが、アドリアーナはまるでオルランドがマリーナに関係を強要していたのではないかと疑っている。力になりたいと言うが、マリーナからすればまるで見当違い。店主の計らいにより、刑事はすぐに店を出て行った。
オルランドと暮らしていた自宅へ帰宅したマリーナは、彼がいない家で1人、寂しさと深い悲しみ、そしてジェンダーに対する偏見の憤りに懊悩。
だが翌朝、その自宅へオルランドの息子が勝手に入って来る。どうやら父親の荷物を片付けに来た様子。彼は彼女に対し酷い言葉を幾つも投げつけ、終いには早く出て行かなければ家から追い出すと言って帰るのだった。
その日の午前にソニアの会社へオルランドの車を届けたマリーナ。話には聞いていたけれど、初めて元妻ソニアと対面。彼女はマリーナのようなトランスジェンダーや彼女を愛したオルランドが理解できないと言う。その上、オルランドの葬儀には参列しないで欲しいと拒絶するのだった。
その後はアドリアーナを訪ねる。だが、彼女はマリーナを助けたいと言うくせに、マリーナに外傷がないかどうか抜き打ちで身体検査をすると言う。なぜ、その必要があるのか分からない。本人がないと言っているのにも関わらず、強制的に身体検査をさせられる。身分証では男性だから、女性扱いをしてはいても服を全部脱いで全身の写真を撮られた。これが本来の女性であったなら、このような理不尽なことはされなかったに違いない。非常に屈辱的である。
映画『ナチュラルウーマン』のあらすじ【転】
午後、ガボから連絡が入る。ガボはマリーナの理解者であったが、ソニアにアドリアーナと立て続けに傷つけられたマリーナ。元よりオルランドは火葬を望んでおり、遺灰を少し形見分けしたいとガボから話があったが、簡単には受け入れられずに拒否してしまうのだった。
酷い仕打ちに耐えられなくなったマリーナは、老いた歌の師の元を訪れる。マリーナの家族は、彼女の存在を受け入れ思いやってくれる。師もまた彼女を慮り、元気づけてくれるのだった。
歌の師のお陰で少しだけ勇気を得たマリーナだったが、帰宅すると自分の荷物が部屋の外に置かれている。中に入るとテーブルには食べ差しのピザや酒の瓶が乱立していた。恐らくオルランドの息子が勝手に入って好き勝手した上に、マリーナの荷物を外に出したのだ。それは暗に早く家を出て行けと示唆しているに違いないが、飼い犬までも奪われ悄然としたマリーナ。ひとまずは姉夫婦に助けを求め、家を出ることにした。それでも、飼い犬だけは諦められない。犬は元々オルランドが飼っていたが、今はもうマリーナの犬でもある。
姉夫婦の車から飛び出し、オルランドの遺体が安置される教会へ向かったマリーナ。だが、ソニアの一声により教会から追い出されてしまう。ガボが追って来て彼女へ謝罪してくれるが、その帰りオルランドの息子と若い親族によって拉致され、酷く詰られた挙句、頭をセロハンテープでぐるぐる巻きにされてしまう。幸い被害はそれだけだったため、怪我はなかったが、心に刻み付けられた恐怖や憤り深い悲しみは彼女を更に打ちのめすのだった。
映画『ナチュラルウーマン』の結末・ラスト(ネタバレ)
その夜はむしゃくしゃとした感情を解消するためにクラブへ行ったマリーナ。そこで、オルランドの影を目にする。疲れ果てて姉夫婦の家へ帰り着いたのは朝方だった。
翌朝、新聞に葬儀の予定が掲載される。姉の夫は義妹をとても心配するが、対して姉は妹の意思を尊重しようとする。マリーナはそこで、オルランドが持っていた鍵を目にし、困難は人を強くすると呟くのだった。
美容院へ行って身支度を整え、心の持ちようも整えたマリーナはレストランの仕事へ。そこで、老いた客が持っていた鍵に視線を留める。それはオルランドが持っていた鍵と同じ札がついたもので、聞けばサウナのロッカーの鍵だと言う。彼女は仕事終わりにサウナへと向かった。しかし、中へ入るには男女別々であるため、オルランドが持っていた鍵のロッカーを開けるには、男性側へ向かわなければならない。ひとまず、中へ入ったマリーナはスタッフ用通路を使って男性側へ。恥を忍んで中へと侵入した。見た目だけなら自分も男性である。
そうして、札と同じ番号のロッカーを開けた。しかし、中には何も入ってなかった。何を期待していたのだろうか。マリーナはサウナから出るとタクシーを飛ばして葬儀場へ向かったが、その途中でソニア達と遭遇。マリーナはまたも酷い難癖をつけられるが、彼女は彼らの車に乗り上げ犬を返してもらうよう怒鳴った。そうして、オルランドの鍵を返し去って行く。葬儀場ではどうやら葬儀は終わったようだ。憔悴していたマリーナだったが、オルランドによく似た男性を目にした彼女は、彼の後を追いかける。建物の地下へと向かった男性はやはりオルランドで、彼は恋人へ熱烈な口付けを残し、更に通路の先へ。マリーナもまた後を追って行く。そうして、火葬寸前のオルランドの遺体と対面することが叶うのであった。
そこで初めて涙を流したマリーナ。愛した人の手を握り、静かに涙を流して別れを告げる。たったこれだけ。彼女が望んでいたのは、これだけだった。
後日、戻って来た犬と新たに住まいを得たマリーナ。その日の夜は劇場で歌声を披露。伸びやかな高音は会場へ響き、彼女の表情も晴れやかなものだった。
映画『ナチュラルウーマン』の感想・評価・レビュー
トランスジェンダーであるヒロインが、愛する恋人の死によって立たされる苦境と苦難を如実に描いている。最後のシーンで歌われた歌曲は『オンブラ・マイ・フ』。かつて去勢歌手であるカストラートが唄った歌でもあり、今回ヒロインが唄うことによって同じ境遇であったカストラートと重ね合わせていると思われる。
亡くなった恋人の親族からの偏見や酷い言葉、理解していると口にはするものの、結局は理解していない刑事のやり方には、とても憤りを感じる。理解していると口にすることは簡単だが、真に相手を思いやるならば、ヒロインが望む姿をありのまま受け止めればいいだけである。そんな中でもヒロインを労ってくれる存在は確かにいて、とても大切なのだと感じた。(MIHOシネマ編集部)
本作は、トランスジェンダーの主人公マリーナが苦悩や葛藤、困難に立ち向かう姿を描いたヒューマンドラマ作品。
主人公を演じた俳優ダニエラ・ベガ自身もトランスジェンダーであり、目の演技や表情から伝わる演技力や存在感に圧倒された。
そして、彼女が堂々とした態度で嵐の中を歩いていく演出が、苦難に立ち向かう姿と重なり印象的だった。
自分らしく生きるということが口に出せるほど容易ではないということが分かった気がする。率直に、偏見が少しでも減ってこういった人々が穏やかに暮らせる日が来てほしいと感じた。(女性 20代)
きっとマリーナのように苦しんでいる人は多くいるのだろうなと思った。最期の時、愛する人に別れを伝えたいというのは、誰しもが抱く自然な気持ちだと思う。けれども、トランスジェンダーを理由に、その人として当たり前のことができないというのは辛いものがある。
自分も偏見を持っていないか自問自答することはあるが、やはり自分がされて嫌なことは人にしない。それに尽きると思う。
物語のラスト、悲しみや苦しみを乗り越えて劇場に立ったマリーナの姿は誰よりも美しかった。(女性 30代)
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