この記事では、映画『お引越し』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『お引越し』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『お引越し』の作品情報

上映時間:124分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
監督:相米慎二
キャスト:中井貴一、桜田淳子、田畑智子、須藤真理子 etc
映画『お引越し』の登場人物(キャスト)
- レンコ(田畑智子)
- 京都に住む小学6年生。両親の別居は受け入れたものの、離婚には納得できずにいる。まっすぐに疑問をぶつけるが、変わらない両親の関係に翻弄されながら成長していく。
- ケンイチ(中井貴一)
- レンコの父親。亭主関白で家事に無関心なことから、妻・ナズナの不満を溜め込ませてしまった。別居して初めて家族の大切さに気付き、寂しさと闘いながら復縁に希望を抱いている。
- ナズナ(桜田淳子)
- レンコの母親。気が強く、ケンイチよりも稼ぐキャリアウーマン。離婚への決意が強く、レンコに何を言われても揺らぐことはない。ケンイチへの不満が突如爆発してしまう。
映画『お引越し』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『お引越し』のあらすじ【起】
父・ケンイチがしばらく一人で暮らすと知り、身体を気遣う11歳のレンコ。離婚への意志が固い母・ナズナの気持ちを理解できないレンコは昼休みに学校を抜け出し、ナズナに内緒でケンイチの引っ越しについて行った。レンコはこの時間を「家族の団らん」と呼ぶのだった。
ナズナは二人きりで過ごす初日を「門出」と言い、珍しく外食に連れ出してくれた。食事中にこれからは旧姓を名乗るように伝えたナズナ。レンコは両親の離婚を受け入れられず、「家が二つ」ではいけないのかと少しだけ反抗した。酔っぱらったナズナは、レンコの前で離婚届を見せつけ、ケンイチが判を押すのを待っていると全てを話してしまう。その夜、レンコは離婚届をこっそり隠すのだった。
新生活に浮かれるナズナは、合気道を習い始めたという。さらに「2のための契約書」と称した家事の分担表や約束を用意し、レンコに声を出して読み上げさせた。一方的な決めごとに納得できないレンコは、「言われなくてもわかってる」と反抗して見せるのだった。

映画『お引越し』のあらすじ【承】
寂しくなったケンイチは、レンコが幼い頃にプレゼントとしたキリンの人形を貸して欲しいと電話してきた。ナズナの決めた約束で、許可なくケンイチに会いに行ってはいけないと決められたが、やはり納得できずにいた。しかし、同級生のミノルにだけは本音を打ち明けたレンコは少しだけすっきりするのだった。
帰り道に夕食の買い出しをしていたレンコは偶然、同級生のサリーとスーパーで遭遇する。サリーは両親の離婚を機に、関東から京都に引っ越してきている。母親に内緒で、再婚した父親に会いに行ったことがあるというサリー。まだ離婚はしていないと強がるレンコだったが、サリーの話を聞いたことで両親の身勝手さを分かち合うようになった。その夜、契約違反を繰り返すナズナに奮起したレンコは、契約書をビリビリ破り捨ててしまう。
実はクラスで浮いた存在だったサリー。気付かぬうちにサリーと距離を縮めているレンコに、同級生たちが文句をつけてきた。大人数でかかってこようとする同級生に対抗するため、レンコはアルコールランプを手に取りボヤ騒ぎを起こしてしまう。学校に呼び出されたナズナを振り切って、レンコは一人バスに乗り込みケンイチの会社に向かうのだった。
「どうして離れ離れなのか?」とケンイチを問い詰めるレンコ。その夜帰宅すると、ミノルがレンコの帰りを待っていた。否定することなく、レンコを諭すミノル。夏休みに入ったらケンイチの家に立て籠もってみはどうかと計画を持ち掛けるのだった。
早速ミノルの計画を実行に移すレンコ。しかし一つ屋根の下での準備は難しく、すぐにナズナに見つかってしまう。急遽予定を返上し、お風呂場に立て籠もったレンコ。ケンイチも駆けつけ、説得しようとするのだった。
映画『お引越し』のあらすじ【転】
必死になるケンイチに対して、ナズナは昔の不満をぶつけ始めた。予想よりも夫婦の確執は深く、大喧嘩が始まってしまった。さらに「なんで産んだん?」とレンコが問い掛けたことにより、ナズナは傷つき暴れるのだった。
3人が久しぶりに揃った家に嫌な沈黙が続いていた。両親を責めてしまったレンコは一人ベッドに座り込んで夜を明かそうとする。ケンイチが帰り際に声をかけると、レンコはそっとキリンの人形を手渡すのだった。
週に一回の食事会。その度に喧嘩する両親の姿を見たくないレンコは、月に一回でもいいと妥協案を出した。ナズナは自分だけ月に一回にして欲しいと提案に乗ってしまう。その日ケンイチのバイクに乗せてもらい帰宅したレンコ。来年は3人で大文字を見ようと言うレンコの言葉に、ケンイチは何も返せないままであった。
夏休みの作戦は失敗したが、レンコは毎年恒例であった琵琶湖旅行を計画する。自分名義の口座から資金を調達し、電車や旅館の予約をするのだった。ケンイチがいることを知らないナズナは、ついて早々に復縁を迫られ気分を害してしまう。ケンイチがどんなに言葉をかけようと、ナズナは全て否定し過去の苦しさしか言葉にすることはなかった。
弱気なケンイチに腹を立てるレンコは、一人ただひたすらに遠くを目指して歩き出す。偶然出会った老夫婦の家で少し休ませてもらったレンコ。その家のおじいさんから「昔の思い出は片手で数えられるくらいで十分だ」と教わるのだった。
映画『お引越し』の結末・ラスト(ネタバレ)
おじいさんと一緒に花火を見に行ったレンコ。必死に探していたナズナは人波に逆走しながらレンコに声をかける。ようやくレンコの気持ちを汲み取ったナズナは、謝り懸命に気持ちを伝えたのだった。「早く大きくなるから」と精一杯の返事をしたレンコはおじいさんと来年も会う約束をして別れ、再び一人で歩き出した。
人波に身を委ね祭りの名物を見続けたレンコ。何気なく過ごしていた3人の時間を思い返し、再び暗い森の中を一人で歩き始めた。知らぬ間に休んでしまったレンコが目を覚ますと、湖にカラフルな山車が浮かんでいた。その周りには昔のように笑い合う両親と自分の姿があった。しかし、山車は燃え盛り、両親は自分を置いて湖に沈んでいってしまう。孤独に怯える自分の姿を見て「おめでとうございます」と繰り返すレンコ。ナズナの言う「門出」に立った自分を抱きしめ、過去に大きく手を振る。夜明けを迎え、ナズナがレンコを見つけ出した。帰り道、ずっと隠していた離婚届をナズナに返したレンコ。ナズナは来年もまた祭りに来る約束をするのだった。
夏休みに起こった家族の大きな事件を作文にしたレンコ。ナズナと一晩中考え新たに契約書も交わしていた。
映画『お引越し』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
食卓を囲む度、気にかかることがある度に出るレンコの大人びた言葉を浴びる「大人たち」。淀んだ大人の関係を無垢な子供がリフレッシュする物語は多いが、今作は一味違う。ざわついた心のままに出る言葉は見る者をハッとさせるだろう。無理に他者を巻き込まず、家族という最小単位の中で葛藤がぶつかり合う2時間。対象を介して反復するメタファー的表現も見どころであり、無駄のない展開にうっとりするほどだった。音や映像の精度に頼った作品に疲れたときには、この作品に戻りたいと思える一作であった。(MIHOシネマ編集部)
こんなにも大人でこんなにも行動力のあるレンコはどうして両親の離婚に納得できなかったのか。それはまだまだ小学六年生の子供だったからでしょう。いくら大人びていても、発する言葉が生意気でも、自分勝手な行動をしていても心の中は子供なのです。だからこそ父親と離れ、母親と二人で暮らしていくことに対する不安や不満が拭いきれなかったのだと思います。
大人になると、両親の不仲も自然と理解出来てしまい、離婚すると言われても彼らの人生だからと良い意味で「どうでもよく」なってしまうでしょう。両親はずっと仲良く一緒にいるべきだと思っているレンコの純粋さと子供らしさに、家族を思いやる心を教えて貰った気がします。(女性 30代)
離婚という大人の事情に翻弄されながらも、少女レンが懸命に家族の形を取り戻そうとする姿に胸が締めつけられた。両親の仲が冷え切る中、無邪気に「家族三人で暮らしたい」と願う彼女の純粋さが痛いほどリアル。最後に、父と母が再び向き合うシーンでは、完全なハッピーエンドではないけれど、確かな希望が感じられた。14歳の少女の視点で描かれる離婚の現実が、静かに心に刺さる。(30代 女性)
森田芳光監督らしい、繊細でユーモラスな家庭ドラマ。両親の別居に揺れる少女レンの心理描写が見事で、特に彼女が母の元を離れて父の部屋へ“引っ越す”決意をする場面には涙が出た。大人たちの不器用さと、子どものまっすぐな想いの対比が美しく、淡々とした日常描写の中に深い愛情を感じる。決して派手ではないが、心に長く残る静かな名作。(40代 男性)
幼い頃に両親の離婚を経験した自分には、この映画があまりにもリアルだった。レンが大人たちに理解されないまま、家族を繋ごうと奮闘する姿は、自分の記憶と重なって胸が痛い。特に、最後の父とのシーンで見せる笑顔が切なくも救いだった。子どもの視点で“別れ”を描いた映画として、今見ても新鮮で、深く心に響く。(20代 女性)
「家族とは何か」「一緒に暮らすとは何か」を、少女の目線から問いかけてくる。離婚を扱いながらも説教臭さがなく、あくまでレンの心の動きに寄り添って描かれているのが素晴らしい。ラストで彼女が涙をこらえながら笑う場面が忘れられない。あの年齢の少女にしか見えない世界が、丁寧に映し出された傑作。(50代 男性)
淡々としたトーンながら、セリフのひとつひとつが深く沁みる。両親が別々に暮らす中、レンの心に芽生える寂しさと希望がリアルで、静かな涙を誘う。母親の弱さも父親の不器用さも決して悪人として描かれないところに、この映画の優しさを感じた。家族の“形”は変わっても、愛は確かにそこにあると教えてくれる。(40代 女性)
市川実日子のデビュー作として知られているが、その演技が信じられないほど自然で心を揺さぶる。少女の繊細な感情をまるでドキュメンタリーのように映し出すカメラワークも秀逸。特に、夜の京都を歩く場面の静けさと哀しさが印象的だった。90年代邦画の中でも、家族の再生をこんなに静かに描いた作品は稀有だと思う。(30代 男性)
少女レンが「家族を取り戻したい」と必死に願う姿は切実で、美しい。大人たちはそれぞれの事情を抱えていて、誰も悪者ではない。だからこそ、レンの涙が重く響く。森田芳光監督の映像は、現実の厳しさと希望の光を絶妙に両立させており、観終わった後の余韻が長く続く。静かな名作とはまさにこの映画のこと。(50代 女性)
親子の関係に焦点を当てた邦画の中でも、『お引越し』は特に“距離”の描き方が上手い。レンと母、レンと父、そのどちらにも埋められない溝がありながらも、どこかで繋がっている。別居を通して描かれる家族の再構築がリアルで、泣けるというより“考えさせられる”映画。中学生の娘を持つ親として胸に迫った。(40代 男性)
映画『お引越し』を見た人におすすめの映画5選
誰も知らない
この映画を一言で表すと?
子どもたちだけで生き抜く日々を淡々と描いた、衝撃と静けさが共存するリアルな人間ドラマ。
どんな話?
母親に置き去りにされた4人の兄妹が、東京の片隅でひっそりと暮らす。彼らは大人の助けを得られないまま、互いを支え合いながら生き延びようとする。淡々とした日常の描写が、逆に現実の過酷さを際立たせる。観る者の心に深く刺さる作品。
ここがおすすめ!
是枝裕和監督によるリアリズムの極致。主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最年少主演男優賞を受賞した演技は圧巻。『お引越し』と同様に、子どもの目線から大人社会の矛盾を描く。静かながらも強烈な余韻を残す一本。
そして父になる
この映画を一言で表すと?
血のつながりか、共に過ごした時間か――家族とは何かを問いかける感動の人間ドラマ。
どんな話?
6年間育ててきた息子が、実は病院で取り違えられた他人の子どもだった。そんな衝撃の事実を知った父・良多は、実の息子との再会をきっかけに“父親とは何か”を見つめ直していく。静かな演出ながら、感情の波が深く押し寄せる名作。
ここがおすすめ!
是枝裕和監督による家族映画の傑作。福山雅治が演じる父親の葛藤が痛いほどリアルで、観る者にも「自分ならどうするか」を問いかけてくる。『お引越し』同様、家族の形に正解がないことを優しく、そして鋭く描いている。
奇跡
この映画を一言で表すと?
離れ離れになった兄弟が、再び家族の絆を取り戻すまでの希望と成長の物語。
どんな話?
両親の離婚で別々に暮らす兄弟が、新幹線の開通を「奇跡が起きる瞬間」と信じ、再会を目指す冒険に出る。無垢な子どもの視点から、家族愛と小さな奇跡の意味を描く。笑いと涙が入り混じる、心温まるヒューマンストーリー。
ここがおすすめ!
是枝裕和監督の代表作の一つ。子どもの純粋な視点で描かれる現実の中の希望が、『お引越し』と通じるテーマを持つ。ナチュラルな演技と美しい九州の風景が印象的で、観る人すべてに“家族と生きる意味”を静かに問いかける。
かもめ食堂
この映画を一言で表すと?
異国の地で小さな幸せを見つける、“静かな癒し”を描いたヒューマンドラマ。
どんな話?
フィンランドのヘルシンキにある日本食堂「かもめ食堂」を営むサチエのもとに、さまざまな人々が集まり、少しずつ心を通わせていく。派手な事件は起こらないが、ゆったりとした時間の中に“生きる優しさ”が溢れている。
ここがおすすめ!
荻上直子監督による極上のスローシネマ。小林聡美、片桐はいり、もたいまさこが織りなす静かな人間模様は、『お引越し』に通じる“日常の中の再生”を感じさせる。心を穏やかにしたい時にぴったりの一本。
八日目の蝉
この映画を一言で表すと?
誘拐犯に育てられた少女と、その母をめぐる“もう一つの母娘の物語”。
どんな話?
不倫相手の子どもを誘拐し、逃亡生活を送る女性と、彼女に育てられた少女。二人の関係はやがて終わりを迎えるが、少女は大人になっても“母”の記憶に囚われ続ける。罪と愛の狭間で揺れる人間の心を見事に描いた感動作。
ここがおすすめ!
井上真央と永作博美の演技が圧巻。血のつながりよりも、共に過ごした時間の重さを描いた物語は、『お引越し』のテーマとも深く響き合う。母と娘、愛と赦しをめぐる壮絶で繊細なヒューマンドラマ。観た後、静かな余韻が長く残る。






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