映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の概要:父親の死を悲しむ余裕もなく葬儀の準備に追われる息子二人とその家族。そしてその子供たち。見えていなかったそれぞれの問題点が露わになり、ぶつかり合う様子を描く。森ガキ侑大監督の長編デビュー作。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の作品情報
上映時間:104分
ジャンル:ファンタジー、コメディ、ヒューマンドラマ
監督:森ガキ侑大
キャスト:岸井ゆきの、岩松了、美保純、岡山天音 etc
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の登場人物(キャスト)
- 春野吉子(岸井ゆきの)
- 旅行代理店に勤めるOL。飲食店で勤める恋人・圭介との仲は両親も公認である。偶然にも圭介と過ごしているときに、祖父の訃報を受けてしまい罪悪感を抱いたまま葬儀に出る。
- 春野昭夫(岩松了)
- 春野家の長男。意地っ張りで、強情な性格から妻・ふみに愛想をつかされ離婚している。工場に勤めながら、二人の子供をきっちり育てようと奮闘している。
- 野村ふみ(江美保純)
- 昭夫に呆れてしまい、娘の千春と二人で暮らしている。スナックでパートをしながら養っているが、昭夫の家族は自分には関係ないと言い切る。
- 春野洋平(岡山天音)
- 昭夫の息子。大学受験に失敗し、何年も浪人しながらほぼ引きこもり状態になっている。昭夫から祖父の葬儀に出るように連絡を受け、渋々外に出る。
- 春野薫(水野美紀)
- 春野家の長女。ボケた母親を誰より大事にしており、父親の遺体を見て唯一涙を流した存在。離れて暮らしているが、キャリアを積みあえて結婚をしない道を選んでいる。
- 春野清二(光石研)
- 春野家の次男で吉子の父親。見栄っ張りで体裁を気にする男。兄・昭夫を少しバカにしている部分が多く偉そうに言うが、面倒なことは何でも押し付けてしまう。
- 野村千春(小野花梨)
- 昭夫の娘。離婚したふみと一緒に暮らしている。大人びた女子高校生で、たばこやビールも嗜んでいる。自分に関心のない昭夫を避けがちになっている。
- 春野清太(池本啓太)
- 吉子の弟。大学進学を機に、一人離れて暮らしている。清二が早期退職したと知り、仕送りや学費はどうなるのか心配をする。祖母が大好きで、思い出を大切にしている。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』のあらすじ【起】
暑い夏の日、恋人の圭介と過ごす吉子。最中に鳴り響く電話に、仕方なく出た吉子は目線を落とした。そして外で庭作業する父親に「おじいちゃん、死んじゃったって」と告げるのだった。
病院で息を引き取った祖父。生前「家で死にたい」と言っていた希望を優先するか、友引にぶつけないようにするのか、そんなことで揉める吉子の父・清二とその兄・昭夫。孫娘の千春は「誰も悲しんでいない」と不思議がり、吉子と一服するのだった。
遺体を自宅に連れ帰った清二は喪主の昭夫に全てを任せて先に出た。実の親が亡くなっても作業的に事を進める清二に違和感を抱く吉子。帰り道、犬とボケた祖母の引き取り手を探すという清二の言葉に腹を立てるのだった。その頃、残された昭夫は父親の遺体と最期の時間を過ごし、非協力的な妻と面倒くさいという息子・洋平に嫌気がさしていた。
翌日、葬儀のため早退するという吉子に同僚は「飄々としているね」と言う。いつも通りに仕事をこなした吉子は、圭介が働く居酒屋で夕食を済ませる。祖父が亡くなった時、自分は圭介とセックスしていたと思うと罪悪感があると言う吉子。大事な猫が死んだときも同じであった。せめても「喪に服す」意思を見せようと、その日ばかりは圭介の誘いを断り帰宅するのだった。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』のあらすじ【承】
帰宅すると弟・清太が帰ってきていた。祖父の死について聞くよりも先に、清二の早期退職について問いただす清太。父親のプライドを気遣ってか、直接は聞けない清太は母・京子にもしつこく問いただした。あくまでも自分の学費と仕送りについて気にしていた清太。あくまで穏やかな一家団欒の時間が過ぎた。
遺体の管理に出向いた清二。強がって飲んだくれる昭夫と母親について話す中で大喧嘩してしまった。せめて葬式が終わるまでは「幸せな家族」のフリをしようと、昭夫は嘆くのだった。
久しぶりに朝食を一緒に食べた吉子たち。話題は引きこもりの浪人生である洋平についてだった。その頃、洋平は慣れないネクタイに試行錯誤していた。さらに革靴が見つからずうだうだする洋平は、苛立つふみにスニーカーを履かせられ連れられる。「あなたたちのおじいちゃん」だと言い切るふみは、二人を開場前で降ろし去って行ってしまう。
昭夫と清二は喧嘩の後、飲み明かして寝てしまっていた。久々に千春と顔を合わせた昭夫は、年齢も目標も勘違いしていた。お節介な父親を拒絶しながら、薄毛を気にする昭夫の手伝いをしてあげる。供え物のビールを取ってきた千春は、吉子の前だけは素直に話した。すると突然赤いスポーツカーに乗った清二の妹・薫が現れ、二人を唖然とさせるのだった。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』のあらすじ【転】
体裁を気にする昭夫と清二と違い、薫だけは棺に入った祖父を見て涙を流していた。突然大きな物音がして、外に出てみると薫の車の窓が割られ香典の20万が盗まれてしまっていた。犯人捜しをする清太。車の周りにやたらついているスニーカーらしき足跡を見つけた清太が周りを見渡すと、そこには丈の足りない喪服を着てスニーカーを履いた洋平が立っている。居ても立っても居られない洋平は、走って逃げだしてしまう。香典泥棒はすぐに見つかった。迎えに来た千春に連れられ、洋平は葬儀に戻るのだった。
薫と一服した吉子は、実家の周りと家族が変わっていく寂しさについて聞いた。「私の家族はお母さんだけになった」と話す薫を、ただただ見守るのだった。帰宅した吉子と清太は、元気だった頃の祖母の話をした。清太は大好きだった祖母が自分をわからないことが何よりショックだったのだ。
告別式でも変わらずの振る舞いを見せる祖母。しかし火葬する直前、棺を納めた扉が開く直前に「おじいちゃーーーん」と大声で叫んだ。この時だけは愛情を思い返していたのだ。その様子を見た吉子は、帰り際のお坊さんと少しだけ話をし、祖父が亡くなった時にセックスしていたことを告白する。「大切な人が亡くなっても、人はお腹が空くし、笑う」という言葉に少しだけ救われるのだった。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の結末・ラスト(ネタバレ)
ふみの車で納骨に向かうことになる昭夫たち。些細な言い合いが止まらない昭夫とふみだが、車が止まってしまい助けを求めようにも圏外である。通りかかった清二一家の車を見かけた昭夫は走り出した。その不格好な姿に笑ってしまう洋平と千春だったが、不格好な家族であることを認めたかのように二人も走り出すのだった。
その頃、清二はボケた母親は「何のために生きているのか」とぼやいてしまう。それを聞いた京子は「バカ息子二人を育て上げた人に何を言うのか」と叱るのだった。それでも、清二は祖母の老人ホーム入居の段取りを進めていた。翌日、みんなで見送ろうという清二に突っかかる昭夫。二人を止めた薫にも酷い言いようをする清二。止まらない言い合いに呆れる子供たちをよそに、思い返したかのように祖母が声を上げるのだった。
実は子供が欲しかったという薫の話を聞いた吉子。不意に圭介のことを思い返した吉子は、すぐに連絡をしてしまった。翌朝、会いに来てくれた圭介と愛のある時間を過ごした吉子は、祖母を老人ホームに見送る前に家族写真を撮ろうと提案した。最初で最後の春野家の家族写真だった。
家に残った吉子と圭介は獅子舞が通るのを見かけた。祖父はよく獅子舞を被っていたと吉子が話すと圭介は「見送りに来たのかもね」と呟いた。その言葉を聞いた吉子は、祖父が亡くなって初めて涙を流すことができたのだった。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の感想・評価・レビュー
近くに居ても見えない家族の問題が、こうも露わになるものか。きっかけは「葬儀」という別れの儀式だというのに、醜い部分をさらす男兄弟。喪主はもちろん、家族には悲しむ余韻などなく立て続く「やること」はなんとも現実に寄り添った展開であった。その反面、吉子の心情に寄り添ったファンタジーな演出は、CMなどの映像作品で活躍する森ガキ侑大監督ならではなのだろう。ボケという免れない現実を捉えつつ、家族の脆さも大事さも身に染みる一作であった。(MIHOシネマ編集部)
子供の頃から親戚が集まる場が苦手だった私。年に一度しか会わない「他人」に仕事のことや恋人のことを根掘り葉掘り聞かれる時間は無駄であり、苦痛なことだと感じていました。親戚のことが嫌いなわけではありませんが、どうも好きになれないのです。
この作品を見ると私が感じていたこのモヤモヤは珍しい気持ちでは無かったのだなと感じます。大人になってもモヤモヤは続くのに、嫌でも付き合わなければいけない親戚。
大切な人が亡くなった時に素直な気持ちになれるのは、親戚のいるモヤモヤした場所ではなく、自分を理解してくれる安らげる場所なのだと感じました。(女性 30代)
つい最近、お葬式に参列したので何度も首肯しながら見入りました。久々に顔を合わせる親族と話が弾んだり、葬式の費用、段取り等で忙しなく動いたり。悲しんでばかりもいられず、色んな感情が沸き起こり、違和感や矛盾を感じたりするものです。身内同士の諍い等、家族の距離感の描き方が生々しく見事でした。だからこそ、お葬式に参列したことがない方におすすめしたいです。画角や光彩の加減がとても綺麗で、夏らしい雰囲気を味わえました。(女性 30代)
祖父の訃報を機に、久しぶりに集まった親族が互いの感情をぶつけ合うヒューマンドラマ。田舎町の何もなくて時間がゆったり流れる雰囲気と、邦画らしい穏やかな空気感がとても良い。
悲しみに浸る暇もなく、お葬式の決め事や準備に追われ、家族同士で揉め事の起こる様がリアルに描かれている。笑ってしまうシーンが多いが、最後は死のもたらした人との繋がりに思わずうるっとしてしまう。家族で集まると煩わしく面倒なこともあるが、それでもかけがえのない存在で、その大切さに改めて気付かされるのだ。(女性 30代)
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