夫を失った女性を取り巻く男たちとの関係を描きながら、どうやって夢を失った後を生きていくのか?人生を見つめ直し、意味を考えるための福間健二監督・長編映画第6作目。
映画『パラダイス・ロスト』の作品情報
- タイトル
- パラダイス・ロスト
- 原題
- なし
- 製作年
- 2019年
- 日本公開日
- 2020年3月20日(金)
- 上映時間
- 106分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 福間健二
- 脚本
- 福間健二
- 製作
- 福間恵子
- 製作総指揮
- 福間恵子
- キャスト
- 和田光沙
我妻天湖
江藤修平
小原早織
木村文洋
森羅万象
宇野祥平
佐々木ユメカ - 製作国
- 日本
- 配給
- tough mama
映画『パラダイス・ロスト』の作品概要
詩人としても活躍の場を広げている福間健二監督による長編作品6作目。独特な世界観を持ちながらも、しっかりと映画に向き合ってきた監督である。明確なテーマをいかなる方法を用いて表現するか、というところに重点が置かれている。
詩と映画を行き来する手法を用いて描かれている本作は、失うことと、それを乗り越えることをメインのテーマに据えている。避けられない別れと悲しみが立ちふさがった時の人の心の動きをじっくりと見せる。
映画『パラダイス・ロスト』の予告動画
映画『パラダイス・ロスト』の登場人物(キャスト)
- 山口亜矢子(和田光沙)
- 夫を失った主人公の女性。夫の死をすぐに受け入れられなかったが、やがてどう生きるかを考えながら歩き出していく。
- 山口慎也(江藤修平)
- 亜矢子の夫。心臓発作で命を落とす。小説と詩が好きだった。
映画『パラダイス・ロスト』のあらすじ(ネタバレなし)
東京の郊外で、山口慎也は死んだ。彼の死因は心臓発作で、ひっそりと死ぬこととなった。小説や詩を嗜みネット上で古本屋を営んでいた彼は、妻・亜矢子との関係も良好だった。パラダイスといえるまでの生活ではなかったが、細々と幸せに生きていたのだった。
夫が死んだ後、残された亜矢子は傷心のなかで夫の夢を見たり、また彼が遺したノートを見たりして過ごしていた。周りの友人たちを含め皆が感じる、ぽっかりとなくなってしまった慎也という空白の存在。お互い関わり合いながら、少しずつ前に進んでその空白を埋めようとする。失ってはじめてわかるパラダイスというものを取り戻すためには、私たちは何をしたらいいのだろうか?
映画『パラダイス・ロスト』の感想・評価
監督の変化球な出身畑
俳優を兼ねて活動するなどの多彩な才能を持った人物が監督を務めることは珍しくないが、監督の福間健二は映画監督でありながら、詩人や評論家、翻訳家などの才能も持つ人物である。本人に出演の経験もあること、また物語や世界観を構築できることからも、色々な角度から映画という媒体に向き合ってきた人物であると言えるだろう。
とくに、詩人としての活動のなかでは2011年に萩原朔太郎賞、および藤村記念歴程賞を受賞するなど、才能を遺憾なく発揮。既に開花している彼独自の視点が広く認められている。詩人としての物の見方、独特な感性が、この映画を製作するにあたっての彼由来の持ち味として、存分に練りこまれていることだろう。
企画が生まれた経緯
『パラダイス・ロスト』の企画が立ち上がる前、福間健二監督は別の映画の企画を進めていた。スタッフやキャストも決まり、シナリオも出来上がり、実に3年以上を費やしていたが、この企画がなんと撮影直前で中止になってしまう。
福間健二監督はこの後、ツイッターで詩を書き始める。それが『パラダイス・ロスト』だった。なくなった企画で決定していたことから、どれだけを『パラダイス・ロスト』に持ち込んでくるかを悩みながら、企画は再び、少しずつ膨らんでいった。
『パラダイス・ロスト』で新たに出演するキャストの交渉が終わり、10日かけて撮影が行われた。撮影は和気藹々と順調に行われ、2018年9月1日にクランクアップとなった。
主演を務める女優・和田光沙
『パラダイス・ロスト』の主演女優・和田光沙は、2008年にデビューして以来、体当たりで様々な役に挑戦してきた。舞台にも出演経験があり、あまり大きな映画への出演はしていないものの、その演技力に定評がある。知る人ぞ知る、通好みの女優だ。
2018年製作・2019年公開の『岬の兄妹』で自閉症の妹役を演じたのが、「業界激震」と評されて知名度を上げた。見る者に言葉にできないような感覚を与える、まさに問題作というに相応しい映画だ。
目に触れる機会の少ない女優ではあるが、彼女を知った人々は口を揃えて「もったいない」「もっと注目されるべき」だと言う。彼女がこの映画でもその演技力を発揮し、世間的に周知されてゆくキャリアの一つになってほしいと思う。
映画『パラダイス・ロスト』の公開前に見ておきたい映画
岬の兄妹
主演の和田光沙が出演した、2019年公開の話題作。その描写・演技力によるリアリティから、問題作でもあるとの声が多い。監督を務めたのは片山慎三で、光沙演じる主役の兄を演じたのが松浦祐也である。
体を売って日銭を稼いでいる妹のことを知った兄が、妹へ売春の斡旋をしながらも彼女のことを詳しく知り、心の内が変わっていく。やがて犯罪に手を染めてゆく兄妹。未来に何が待ち受けているのかに期待のできない難しい役であればこそ、和田光沙の演技力がうまくはまったのだろう。
見ている者も苦しくなるような彼らの生き方から、偶然にも人生について考えることができるようになるという、本作との意外な共通点も感じられる一作だ。
詳細 岬の兄妹
あるいは佐々木ユキ
福間健二監督が2013年に製作し、公開となった作品。この映画で主人公の佐々木ユキを演じるのは小原早織だが、彼女は本作にも同じ役で出演している。
『あるいは佐々木ユキ』と『パラダイス・ロスト』の間には実に7年の月日が流れている。その間、佐々木ユキがどうなっていったのかという後日譚としても見ることができるようになっている。
もちろん、本作では主人公は佐々木ユキではない。必ず見ておく必要があるという作品ではないものの、事前に『あるいは佐々木ユキ』を見ておくことで、福間健二ワールドの繋がりをより深く感じることができるだろう。少しばかりのエッセンスとして、予習をしておく価値は十分にある。
詳細 あるいは佐々木ユキ
パラダイス・ロスト(2006)
2006年にアメリカで製作された、アレック・ボールドウィン主演の映画。『パラダイス・ロスト』というタイトルは邦題として付けられたもので、原題とは無関係。
アレック・ボールドウィンが再婚相手の娘の虜になって正気を失ってしまうという役を演じており、なぜこんな邦題がつけられたのかは少し困惑してしまうような内容になっているが、「失楽園」が意味するものがなんなのか、人によってどう受け取るのかというところを比べてみると面白いかもしれない。
この映画の他にも、「パラダイス・ロスト」というタイトルを冠した複数の創作物がある。殺人事件を追ったドキュメンタリービデオや、仮面ライダーの劇場版など。
詳細 パラダイス・ロスト(2006)
映画『パラダイス・ロスト』の評判・口コミ・レビュー
福間健二監督「パラダイス・ロスト」見てきた。死んだ青年が、生きてる人びとをいろんな場面で黙って見ているという不思議な映画だ。彼が、藤棚に片手でぶらさがるシーンと、エレキギターに合わせて踊るシーンが最高によかった。生者が知らずに死者と対峙する場面。 pic.twitter.com/iTs2SXiHNH
— 木村哲也 (@KimutetsuHD) 2020年3月20日
#パラダイスロスト #uplink吉祥寺
所謂 #パラフィクション の映画でした。
とある登場人物の視点で物語を眺めることでとても優しい気持ちに誘われてゆきます。物語における読者(観客)の関係も面白く楽しかったです。
昨夜は町屋良平さんがトークゲストだったので、映画表現の楽しみ方を再認識でした。 pic.twitter.com/yOnTcQ0DIB— Hard-boiled (@Peaceful_King) 2020年3月22日
映画『パラダイス・ロスト』のまとめ
福間健二監督ワールドをしっかり楽しむために、彼の前作や、主演女優の和田光沙などを深掘りしておくと、楽しめる部分がどんどん増えそうな作品である。今後の彼らの飛躍ももちろん楽しみではあるが、そのためにも今、まさに製作されたこの映画から感じられる熱量に親しんでおくべきだと感じた。詩人としての感性から生まれた世界を堪能し、自らも人生をしっかり考え、前を向いて歩いていければいいのではないだろうか。
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