映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の概要:生誕100周年を迎えた小説家J・D・サリンジャーの半生を紡いだ作品に、長編監督デビュー作としてダニー・ストロングがメガホンを取っている。原作はケネス・スラウェンスキーの評伝「サリンジャー 生涯91年の真実」。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の作品情報
上映時間:106分
ジャンル:ヒューマンドラマ、伝記
監督:ダニー・ストロング
キャスト:ニコラス・ホルト、ケヴィン・スペイシー、ゾーイ・ドゥイッチ、ヴィクター・ガーバー etc
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の登場人物(キャスト)
- J.D.サリンジャー(ニコラス・ホルト)
- 実業家として成功した父親に反対されながらも小説家になる夢を追い続けた男。幾度か自書の出版の話を受けるが、不運な運命に巻き込まれ精神的にも衰弱していく。
- ウィット・バーネット(ケヴィン・スペイシー)
- サリンジャーに最初のアドバイスをした男性。大学の教授としてサリンジャーたちに文学を教えながら、文芸誌「ストーリー」の編集者としてもサリンジャーを支えていた。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』のあらすじ【起】
精神科の一室で手を震わせながらホールデンの訃報を手紙に綴るサリンジャー。ホールデンを亡くしたことでサリンジャーの味方はいなくなった。
遡ること6年前、1930年代のニューヨーク。退屈な日々を送っていたサリンジャーは小説家を目指していた。現実で想いを寄せる女性とは上手くいかないが、小説の中でなら恋を成功させることができた。
サリンジャーが書いた恋愛小説を母親は称賛した。もう一度大学に入学し、文学を学びたいと父親に提案する。しかし事業家として成功を掴んでいる父親は反対。それでも母親の強い後押しのおかげで名門・コロンビア大学へ進むこととなった。
ヨーロッパでは戦争が続く中、サリンジャーは教授・バーネットと出会う。文芸誌「ストーリー」の編集者であるバーネットは、サリンジャーの「声」が物語の邪魔をしているとアドバイスを施した。
意中の相手には未だ声もかけられずにいたサリンジャー。日常の鬱憤をはらすようにサリンジャーは執筆に励む。バーネットのお墨付きをもらい「若者たち」という短編をニューヨーカー誌に持ち込んだ。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』のあらすじ【承】
何度小説を持ち込んでも不採用の通知だけが返ってきた。別の道も視野に入れ始めたサリンジャーだったが、家族と過ごす休暇中も思わず執筆してしまう。姉も揃い家族水入らずの5日間で、サリンジャーが一度も家族との時間を設けなかったことに父親は怒りを示した。
バーネットから最初の短編が文芸誌「ストーリー」に掲載されるという知らせを受けたサリンジャー。掲載金をもらい、すぐに友人と祝い酒をする。この日サリンジャーは意中の相手・ウーナとようやく話すことができた。
有名な作家の父を持つウーナは女優を目指していた。夢を語り合った二人だが、その後サリンジャーの作品は表に出ることがなく、知らぬうちにウーナはサリンジャーの元を去った。
失意の中、サリンジャーは執筆に没頭する。仕上げた短編がニューヨーカー誌に掲載される話が上がった。しかし、ニューヨーカー誌から物語の軸になる部分で修正依頼が入る。自分の「声」を譲れないサリンジャーは依頼を拒絶した。
1941年12月。日本による真珠湾攻撃がニュースで知れ渡る。サリンジャーも陸軍の入隊がきまった。当然、ニューヨーカー誌の発刊も中止。タイミングの悪さを恨むサリンジャーに、バーネットは短編のキャラクター「ホールデン」を活かした長編を書くように勧めるのだった。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』のあらすじ【転】
陸軍で厳しい訓練を受けていたサリンジャーの元に、大スターとウーナの結婚報道が届く。気を落とす余地もなく、戦争は本格化。フランスに上陸し、ドイツ軍との激しい戦いの中で、サリンジャーは死を意識しながら、ストーリーの構想に明け暮れた。
1946年。無事生還したサリンジャーは、帰国しシルヴィアという女性と結婚したことを家族に報告した。幸せそうに見えたサリンジャーだが、戦争の後遺症に悩まされている。
バーネットに無事を知らせたサリンジャー。しかし、バーネットからは出版社にサリンジャーの小説の掲載を拒否された悲報だけが告げられる。バーネットを頼り切っていたサリンジャーは、もう二度とバーネットと会わないと決める。
帰り道、寄ったサリンジャーは見知らぬ2人組に襲われケガを負う。失意の中のサリンジャーはインド系の僧侶と出会う。思想に興味を持ったサリンジャーは、戦場での経験のフラッシュバックや執筆への苦悩を明かした。瞑想を始めたことで、サリンジャーは悩みと向き合い克服し始める。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の結末・ラスト(ネタバレ)
ニューヨーカー誌からサリンジャーが過去に執筆した短編を出版することになった。喜ぶサリンジャーは、出版の祝賀パーティーでクレアという女性と出会う。クレアは初めてサリンジャーの小説に文句をつけた存在であったのだ。
山に小さな家を買い、執筆に集中するサリンジャー。短編から長編へと書き換えた「ライ麦畑でつかまえて」をニューヨーカー誌へ持ち込むがあまりいいリアクションは得られなかった。
書き直しの依頼にも納得がいかないサリンジャー。他の出版社はそのままの現行で出版をしてくれると言うが、ポスターのデザインや宣伝方法がそぐわず順調に話が進まなかった。
担当者の人脈により、サリンジャー初めての長編作品は出版に至った。ベストセラーとなったおかげで、サリンジャーは町で読者に声をかけられることもあった。他人への不信感が否めないサリンジャーは、クレアと結婚をしたものの山荘に籠ることが多かった。
唯一、地元の教会への礼拝は欠かさなかったサリンジャー。子供たちとの会話は欠かさない日々。一人の子供から「校内新聞掲載のため」とインタビュアーを受けたサリンジャーだが、その記事は地元の新聞に掲載されていた。
子供にまで騙されたことを嘆くサリンジャーは、すべてを遮断してしまう。クレアと自分の子供にも壁を作ったサリンジャー。小説がハリウッド映での実写化を熱望されたが、当然サリンジャーは断る。その後、サリンジャーは小説を書くことはなかった。
クレアとの結婚生活は破綻したサリンジャーだが、「ライ麦畑でつかまえて」は20世紀で最も重要な小説と称賛され未だ多くの人に読まれている。2010年、サリンジャーは永眠した。
映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の感想・評価・レビュー
著名人の人生を切り抜いた作品で、多いのは酒や薬物中毒で落ちていく展開である。今作は全く異なった。孤独や猜疑心に追われ続けた主人公に追いかかる戦争の後遺症。夢を抱いた青年の威勢のいいスタートからは想定していなかった虚無感漂うエンディングなのである。ただ、俯瞰してみれば支えてくれる存在が近くに居るのも確かであった。挫折に弱く、時代に殺された才能の物語のように思えるが、初長編「ライ麦畑でつかまえて」は未だ読み続けられている。彼の「声」は今どこにあるのだろうか。(MIHOシネマ編集部)
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