映画『ロマンスドール』の概要:作品を追うごとに人気を高める女性監督タナダユキが、自身の著書を映画化した一作。ラブドールの造形師として働く主人公に高橋一生を迎え、一目ぼれした妻との日々を紡いでいく。
映画『ロマンスドール』の作品情報
上映時間:123分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:タナダユキ
キャスト:高橋一生、蒼井優、浜野謙太、三浦透子 etc
映画『ロマンスドール』の登場人物(キャスト)
- 北村哲雄(高橋一生)
- フリーターとてして金に困っているとき、ラブドール製作所の仕事を紹介され何も知らないまま面接に向かった。美術大学卒業の経歴を生かし、どんどん夢中になっていく。
- 北村(小沢)園子(蒼井優)
- 哲雄と相川の依頼を受け、人工乳房の型取りだと勘違いしたまま工場を訪れた女性。優しい性格で男女ともに好かれる性格の持ち主。哲雄の妻となる。
映画『ロマンスドール』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ロマンスドール』のあらすじ【起】
美大を卒業後も定職にはつかず金に困った哲雄は、先輩の紹介で場末のラブドール工場「久保田商会」を尋ねた。ラブドールなど触れたこともなかった哲雄は、何も聞かされず工場に出向いたため少し戸惑いを隠せずにいる。しかし、面接をしてくれた造形師の相川は「究極の人形を作りたい」と熱く語る。パートの田代と二人で営む工場に興味を持ったわけではないが、ひとまず金を作るために一緒に働くことに決めるのだった。
何度相川と試行錯誤を繰り返しても、社長の久保田の納得のいくものは出来上がらない。そこで相川は本物の人間で型取りをしたいと哲雄に相談を持ち掛ける。「医療用の人工乳房を作る」という名目で美術モデルを募集したところ、園子が工場を訪ねてくるのだった。
久しく女性に触れていない哲雄は緊張しながらもなんとか型取りをこなした。逃げ出した相川は「乳房の再現のために、直接触らせてほしい」と園子に願い出た。断られる前提で止めに入った哲雄だが、園子は「誰かのお役に立てるなら」と快諾する。直接園子の胸に触り、「天国」かと思うほど幸せな気分になった哲雄。イヤリングを忘れた園子を追いかけ、思わず「好きです」と人生で始めてはっきりと告白をしてしまう。付き合い始めた哲雄と園子。本当の職業を言えずにいる哲雄だが、園子は人のためになれたことが嬉しいことそして胸を触られたときに運命を感じたことを語るのだった。
映画『ロマンスドール』のあらすじ【承】
園子をモデルとしたラブドールは大ヒットとなる。仕事も軌道に乗り、二人は結婚し新居を構えた。商品のヒットから忙しい日々は4年程続いた。新たな商品の開発を社長から任されたある日、相川の死に直面する。悲しみを紛らわすように仕事に没頭する哲雄に、両角という新しい相棒ができた。
まだ本当の仕事の内容を言えていなかった哲雄。ようやく開発の兆しが見えた矢先、両角にデータを盗まれてしまう。誰にも相談できない状況の哲雄は、園子が何かを打ち明けようとしていることにも気づかずすれ違いの生活を送る。気まずさから帰宅が遅くなる哲雄は、偶然ゲームセンターでひろ子という女性と知り合うのだった。
ある日、園子が父の体調が悪いと実家に帰省すると置き手紙を残し、家を出た。しかし園子の母親から「携帯が繋がらない」と連絡を受け、嘘だと知ってしまう。寂しさを埋めようとひろ子を呼び出し、身体の関係を持ってしまった哲雄。帰宅し虚無感に追われる中で、吉村という男に抱きかかえられ園子が帰宅した。空白の3日間の真実を聞き出そうとした哲雄だが、園子は何も教えてはくれず「1週間だけ待って」と言い残し寝室へ向かうのだった。
1週間が経ち、二人は向かい合って話し合う機会を設けた。「隠していることはない?」と聞く園子に対して、哲雄は初めて本当の仕事を明かした。そして1度だけ浮気したことを告白した哲雄に対して、園子も実は1度浮気をしたことを正直に明かす。しかし外泊した3日間に浮気したわけではないと真相を濁すのであった。
映画『ロマンスドール』のあらすじ【転】
「1人になりたい」という園子は荷物をまとめ、家を出ようとした。離婚届まで用意している園子に対して話し合う機会をもらうとする哲雄。しびれを切らした園子は外泊した日は検査入院をしていたことを明かし、これからがんの手術のため病院に向かうと伝え家を出るのだった。
園子を追って病院に駆けつけた哲雄。まずは病状を知り、一緒に闘おうとするが園子は拒絶をする。仕事にも行き詰まる哲雄に対して、園子は「もう子供ができない」と伝え離婚したい意思表示をした。しかし哲雄には離婚の意思はなく、寄り添う決意を固めるのだった。
園子の手術が終わり退院をした。新素材での画期的なラブドール開発ではなく、相川が目指していたシリコン製のつなぎ目がないラブドールを開発したいと社長に伝える哲雄。何事も順調に見えた矢先、園子の癌が再発した。進行性の癌は園子の身体を蝕み、残された余命を充実させることを優先すべきだと医師に告げられてしまった。
理想のラブドール開発に苦戦する哲雄の姿を見た園子は、自分の身体を使ってほしいと願い出る。何度も身体を重ね、園子の身体を細部までデッサンする哲雄。ドールの完成が近づくほど、園子身体はやせ細っていく。それでも園子は哲雄を求め、ドールに自分を投影されることを望むのだった。
映画『ロマンスドール』の結末・ラスト(ネタバレ)
「来年は桜を見に行こう」と先の約束をした哲雄。思い出さなくてもいいことがあるという園子は、哲雄と体を重ねたまま命を終えるのだった。虚無感を埋めるようにドールの完成に向けて没頭する哲雄。髪の毛の一本一本まで丁寧に手作業で仕上げた哲雄は、試してみようとドールを見下ろし園子の影を感じてしまう。しかし現実に目の前にあるのは一体の人形である。園子との最期の会話で思い出せなかったことが頭に浮かび、哲雄は泣き崩れるのだった。
食事もとらず黙々と作業に勤しむ哲雄を心配していた仲間たちは、完成品を目の当たりにしクオリティの高さに唖然とする。相川の夢を叶えた哲雄、そして哲雄の意思に身を捧げた園子の存在を皆称賛するのだった。「そのこ」と名付けられたドールは限定100体のみ販売された。数分で完売した「そのこ」だったが、完成度の高さから摘発され社長は刑事に連行されてしまうのだった。
後日、園子との夫婦生活を振り返る哲雄。誰が見ても「良い妻」だった園子だが、哲雄にしか知りえない一面もあった。「スケベで、自分にはもったいないほどの良い妻だった」と呟く哲雄は、目の前に落ちていた旧式のラブドールを見て「ブサイクだな」と笑うのだった。
映画『ロマンスドール』の感想・評価・レビュー
女性監督が描く、女体美の追求。男が求める女らしさと美しさを軸にしていたならば、もっとこってりとしていただろう。しかし今作は、とても美しくそして仕事的に描かれている。作り物としてきっぱりと分け隔てた思考を前提に、ラブドールと向き合う人々のナチュラルな会話が印象的。過去のタナダユキ監督作品でも同様の心地よさを感じたが、日常に溢れる言葉を用いたセリフをとても丁寧に紡いでいくのである。この平坦な展開だと好みは別れるだろうが、配役の秀逸さと人の魅せ方は独特で興味を持つ人は決して少なくない一作であるだろう。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー