映画『サマリア』の概要:援助交際をしてヨーロッパへの旅行費を貯めている2人の女子高生、ヨジンとチェヨン。ある日、チェヨンが売春中に起こした事故が原因で全ては彼女達の世界は壊れ始める。鬼才キム・ギドクによる美しくも残酷な、少女と大人達の悲しき寓話。
映画『サマリア』の作品情報
上映時間:95分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:キム・ギドク
キャスト:クァク・チミン、ソ・ミンジョン、イ・オル、クォン・ヒョンミン etc
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映画『サマリア』の登場人物(キャスト)
- ヨジン(クァク・チミン)
- 援助交際をして旅費を貯めている女子高生。主に彼女は売春相手の男と金額の交渉をしたり、行為中の監視をしたりと彼女自身は客を取らない。友人のチェヨンには客に商売以上の情を持ち込まないで欲しいと思っているのと同時に、売春行為に嫌悪感を持たない彼女に複雑な思いも持つ。売春相手の男にも、露骨なくらいまでに嫌悪感を露わにすることも。母親は既に亡くしており、父子家庭。
- チェヨン(ハン・ヨルム)
- ヨジンの友人で、売春に何の罪悪感も持っておらず、自らをインドの伝説の娼婦『バスミルダ』の名で呼んでほしいなどと言うほど。非常に無邪気で無垢。常に聖女のような優しい微笑みを浮かべており、客からもそれが人気だった様子。
- ヨンギ(イ・オル)
- ヨジンの父親で、男手一つで献身的に娘の世話をしている。職業は刑事。愛する娘が売春をしている事実に深いショックを受け、娘と関係を持った男達に私的制裁を加えていくうちに次第にエスカレート。遂には殺人にまで手を染める。
映画『サマリア』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『サマリア』のあらすじ【起】
第1部 『バスミルダ』
バスミルダとは、インドの伝説の娼婦の名前。その娼婦と寝た男は皆彼女のお陰で仏教徒になったらしい――、顔見せチャットで援助交際をしている2人の女子高生、ヨジンとチェヨン。まるで売春を楽しんでいるかのようで、自らを『バスミルダ』と呼んでほしいと言うチェヨンと、そんな彼女にやや抵抗を示しているもののそれに加担するヨジン。対照的な2人だったが、いつか共にヨーロッパ旅行へ行くのを夢見て金を稼いでいるのである。
ある朝、ヨジンの父親が彼女を起こしに来る。試験が嫌だから学校をさぼると言うが、結局学校へと向かう。ヨジンの家では母が既に他界しており、父と二人暮らしであった。今日は母の命日だという父に、浮かない顔のヨジン。父はそんな娘に、少し過保護気味だ。車で娘を学校へと送っていく父は、道中で「フランスのノートルダム聖堂の前に、木製のイエスの像がある。でも木が腐ってて顔が見えないし、腕も1本ない。ところがある日突然その像から芽が出た。根もないのに腐ってるのに。不思議だろ?」。父の話を助手席で興味のなさそうな態度で何となく聞いているだけのヨジン。
その日も援助交際の約束を取り付ける2人。主にヨジンは相手と連絡を取りかわし、金額等の管理を行う。そして相手との本番行為に挑むのがチェヨン、という立場であった。初めヨジンはチェヨンに化粧をするだけ、という役割だったようだが結局アフターケア等の処理を任されるようになったらしい。不満そうな彼女にチェヨンは謝罪の言葉を漏らし、ヨジンがいないと何もできないのだと述べる。チェヨンはいつものように売春を済ませ、その相手と共に待機していたヨジンの元へと車で現れる。売春相手の男がご飯を奢ってくれるから一緒に行こうと誘うが母親の命日を口実に断るヨジン。それからヨジンはチェヨンに用が済んだのなら車から降りるように言いつけ、相手の男にも帰るように言い放った。男はそんなヨジンに「俺を汚いと思っているのか?」と問いかけ、ヨジンは不機嫌さを露わにし、「私のことも欲しいの?用が済んだならさっさと帰って」と感情的に突っぱねる。男は不承不承帰っていくが、ヨジンの様子にチェヨンは一体どうしたのか問いかける。ヨジンは心の底では売春行為そのものを軽蔑しているようで、またチェヨンが売春相手に対し何の躊躇いもなく職業を聞いたり親しくなろうとしたり、仕事以外でも深く相手に取り入ろうとする姿が何より嫌だった。そんなチェヨンを最低だと罵るヨジンに精一杯の謝罪をし、二度と相手の職業を聞かない、飽くまでも性交渉だけにすると言うチェヨン。
映画『サマリア』のあらすじ【承】
2人は銭湯で互いの身体を流し合いながら、語り合う。ヨジンはチェヨンの身体を洗いながらこんなに綺麗な身体が他の男に触られると思うと嫌だ、と話す。それから、さっきの男のことが好きだったのか。たった1時間で、好きになれるものなのか。そう尋ねる。チェヨンは時間は関係ないと微笑み、それから「もう好きにならない」とヨジンに唇を重ね、静かに抱擁する。
またある日、援助交際をしていたチェヨンとヨジン。いつものようにモーテルへ消えていくチェヨンを待つヨジンだったが、モーテルに警官が駆け込んでいく。慌てて立ち上がるヨジンと、同時にモーテルの窓が開き下着姿のチェヨンが姿を覗かせる。捕まりたくないあまり、窓から身を乗り出すチェヨンに必死にやめるように呼びかけるヨジン。ヨジンの叫びも虚しく、窓から飛び降りてしまうチェヨン。必死に駆け寄るとチェヨンはまだ息があり、血を流しながらも「おんぶして」と手を伸ばす。彼女を背負い病院に駆け込むヨジン。連絡先を知らず家族にも報告できないまま、ヨジンは泣き崩れる。意識が戻り次第に家族の連絡先を聞くよう言われるヨジンだが、チェヨンはもうほとんど意識がなく、医師も「今夜は越せないだろう」と告げる。ヨジンは以前、チェヨンが売春した男の元へと向かう。例の、ご飯へ誘おうとした男だ。男の職業は音楽家で、チェヨンは最後に彼に会いたいのだと言う。その願いを叶えるための行動だった。しかし男は作業中だからと全く相手にしない。それでも引き下がれないとヨジンは彼の手を引くが、男は代わりにヨジンの身体を要求してきた。
一方その頃、容体が急変し呼吸困難に陥るチェヨン。ヨジンは処女を男に奪われる形で、彼を連れ出す。涙を流しながらも早く車を出すように言い、一刻も早く病院へと向かうが、チェヨンは既に息を引き取った後であった。うっすらと微笑みさえ浮かべているその死に顔に「何がおかしいの?もう笑わないで……」と、そっと頬に手を添えるのであった。
映画『サマリア』のあらすじ【転】
第2部 『サマリア』
チェヨンを失ったヨジンは、援助交際で稼いだ金を皆に返すと言う。それは彼女なりの、罪滅ぼしのつもりだった。ヨジンはかつてのチェヨンの客と会い、彼女の代替にでもなるかのように行為を行う。客が言うには「あの子もよく笑っていた」とのことで、ヨジンはチェヨンが既に亡くなっていることを話す。そして過去にチェヨンが売春で稼いだ金を客に返すヨジン。払うのはこちらじゃないのかと戸惑う客に、もういらないからと言い礼を言って去ってゆく。それから、ヨジンは顧客名簿代わりの手帳から次々チェヨンの相手した客と出会ってはお金を返していく。ヨジンはかつてのチェヨンの姿を追うように、関係を持つ相手にはまるで聖母のような微笑みを浮かべている……。
そんなある日、ヨジンの父・ヨンギはとある殺人事件の現場に立ち会っている最中、偶然見た向かいのモーテルでヨジンと男が抱き合う姿を目撃してしまう。ヨンギは相手の男を追いかけ車から無理やり降ろし、今まで何をしていたか正直に答えなければ殴る、と尋問する。モーテルにいたことを話す男だったが、相手の年齢がいくつだったかを尋ねられ言葉に詰まる。ヨンギは1秒、2秒、と数えながら答えない男の頬を打つ。あんたは誰だと聞き返そうとする男を遮るように更に頬を殴りつけ、殺される前にとっとと失せろと言い放ちその場を後にする。その晩ヨンギは、寝床についた娘の姿を前に静かに涙するのだった。
いつものように学校へヨジンを送り届けるヨギンは、聖母マリアに関するエピソードを語りかける。マリアを目撃した3人の少女の話だった。その光を見た少女らは急いで教会へと駆け込んだ、という。その話を聞き、ヨジンは「パパは奇跡って信じる?」と問いかける。父からの返事は、「起きればいいとは思う」という、曖昧なものだった――娘の行為を目撃してから、ヨンギは彼女の学校帰りからの行動を監視する。学校から出てきたヨジンは公衆トイレへ入り制服から私服姿に着替えどこかへと向かう。それを尾行し、彼女の向かった先にいる男を捕まえ、これから少女と会う予定はないか?と尋ねる。忙しいので、とはぐらかした男に酒を一杯飲まないか、と無理やり引き止めるヨンギ。怪しみながらも出された酒を口にし、「あんたは誰だ?」と尋ねる男。その最中、男の元に電話が入り、男は「すぐに行く」と返答する。ヨンギは男がヨジンの売春相手ではないかと思い、その場を去ろうとする男に割った酒瓶を向けて威嚇する。このまま来た道を引き返せ、と。ヨンギは男から携帯電話を奪い、男は恐れをなしたように場を離れていく。再び電話が鳴り、ヨンギが出ると確かにそれは娘の声であった――「どうかしたの?私、5時までには帰らなきゃ。……泣いているの?私が慰めてあげるから早く来て」。
ヨジンの真実に深く傷ついたヨンギは、やがて苦悩の末に半ば狂気じみた行いを見せ始める。娘の客の車のガラスを割り、またある時は客の男を尾行し家へと上がり込み、家族の前で殴り飛ばし、「自分の娘以下の年齢の子に手を出して、犬以下だ」と罵声を浴びせる。妻にどういうことなのか問いつめられた男は、自宅のアパートから飛び降りる――次第に、精神的に追い詰められていくヨンギの行動は歯止めがきかなくなる。常に娘の行動を病的なまでに監視するようになり、ある日は客の男と娘の行為が済んだ後を見計らい、男が公衆トイレに入った隙を狙い手錠で血達磨になるまで殴り飛ばす。男は抵抗するが、ヨンギは拾ってきたレンガで男を撲殺し、とうとう殺人に手を染める。悲鳴を聞き、ヨジンも何事かと覗きに来れば相手にした客の男が血まみれで死んでいるのだった。……ヨジンはその男が最後の相手だったのか、顧客情報の書かれた手帳をおもむろに草むらへ投げ捨てる。そして、それを拾うヨンギ。
映画『サマリア』の結末・ラスト(ネタバレ)
第3部 『ソナタ』
学校から帰宅してきたヨジンに、母の墓参りもかねて旅行へ行かないかと聞くヨンギ。「今から?」と不審に思いながらもそれを了承し、母の墓がある山奥へと向かう2人。墓前でヨンギの手作り弁当を食べながら、ヨンギはおかずの太巻きを次々頬張り喉に詰まらせてその場に吐いてしまう。吐きながらヨンギは、何かの感情に揺さぶられるよう涙していた。ヨジンも何かを察しているのか、そんな父の背中に静かに寄り添うのだった。
途中、泊まれる場所を探し彷徨う親子だったが、親切な老人に空き家があるからそこを使えばいいと身を置くことにする。親子2人、水入らずの時を過ごしやがて夜が訪れる。寝床ではヨンギがマザー・テレサの話を語り始める。聖女と謳われたマザー・テレサは、生前按手祈祷で多くの人を治療した。その奇跡をバチカンが正式に認めたのだという――夜、ヨンギはヨジンの姿が寝床にないのを知り外を覗けば、彼女は1人涙に暮れていた。
翌朝、空き家の主に礼を言い、宿を後にする2人。河原で休憩を取りながら、ヨジンは仮眠していたものの目覚めると横にヨンギがいない。父の姿を求めて車の外へと出ると、背後からヨンギに首を絞められるヨジン。そしてその身体を、黙々と土の中へ埋めるヨンギ――と、これはヨジンの夢であり、車の中で目覚めるヨジン。それから、車の外にいる父に車の運転の仕方を教わり、初めは怖がっていたが次第に楽しくなったのか笑顔を浮かべる。「これからは1人でやってみるんだ。パパはついていかないぞ」と、ヨジンに運転をさせるヨンギ。ヨジンが運転に夢中になっている間、ヨギンは自分の罪を償うために同僚の刑事へと連絡し、そのまま警察署へと連れて行かれる。それに気付いたヨジンは父の車を使い、その後を必死で追うが泥にタイヤを取られ進行不可となってしまう。先に話していた、「これからは1人でやってみるんだ」という言葉の意味は――、途方に暮れたよう、車の外で1人佇むヨジン。いつも隣で彼女を守り続けた父の姿はもう、そこにはいない。恐らく、これからもずっと……。
映画『サマリア』の感想・評価・レビュー
ギドクらしい、静かに残酷で言葉を失う物語。チェヨン役のハン・ヨルムの顔が、一見普通の女子っぽいのに年相応の女の子にも見えれば色っぽい美人に見えたりで素敵。死に際にまで笑顔を浮かべていた彼女は「汚れて」はいたけれど「穢れて」はいない本物の聖女なのだろう。そして父親のブチ切れぶり。何もそこまで、と思いつつあの最後。ヨジンは途中、車で動けなくなり立ち往生してしまったけれど、そこから1人でこの先を強く生きていけ、という暗喩なんだと信じたい。(MIHOシネマ編集部)
援助交際をする理由が旅行に行くためなんて、そもそもそんなことは絶対に有り得ないだろうと思ったし、いくらチェヨンが身体を売ることに抵抗がなくても、管理するだけのヨジンとお金を分け合うのは平等では無いなと感じてしまいました。友人に援交させるくせに行為自体には嫌悪感を感じているヨジンでしたが、チェヨンが亡くなってからの行動は変な吹っ切れ方をしていて恐怖を感じました。
ヨジンの行動を知った父の「復讐」もかなり狂っていましたが、全体的にダークな印象で面白い作品ではありました。(女性 30代)
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