映画『世界の涯ての鼓動』の概要:フランス北部ノルマンディー。休暇で訪れていた生物数学者ダニーは、MI-6の諜報員ジェームズと運命の出会いを果たした。2人は短いながらも濃密な時を過ごしたが、それぞれに調査や任務で離れ離れとなる。果たして彼らは無事に再会を果たすことができるのか。
映画『世界の涯ての鼓動』の作品情報
上映時間:112分
ジャンル:ラブストーリー、サスペンス
監督:ヴィム・ヴェンダース
キャスト:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィカンダー、アレクサンダー・シディグ、ハキームシェイディ・モハメド etc
映画『世界の涯ての鼓動』の登場人物(キャスト)
- ジェームズ・モア(ジェームズ・マカヴォイ)
- MI-6の諜報員。南ソマリアへの危険な任務を前にノルマンディーへと休暇にやって来る。落ち着いた人物で非常に知的。精神的にも強く優れた諜報員だが、ダニーと恋に落ち監禁中の心の支えとする。
- ダニー・フリンダーズ(アリシア・ヴィキャンデル)
- 生物数学者で、超深海層の調査を行い生命の神秘と起源を研究している。超深海層ハデスへの調査を前にノルマンディーへと休暇にやって来る。ジェームズと出会い恋に落ちる。非常に知的で研究熱心。
- ドクター・シャディッド(アレクサンダー・シディグ)
- キヨスクの医師で、国の現状を深く憂いているが、イスラムに傾倒しておりイスラム国を目指している。非常に知的で、ジェームズを助けようとしてくれる。
- ザイーフ(レダ・カテブ)
- アルカイダに所属する兵士。自爆するはずが、爆弾が不発だったことでトラウマになる。極めて暴力的で冷酷。死に損ねたことにより、死を望んでいる。
- アミール・ユスフ・アル=アフガニ(アキームシェイディ・モハメド)
- 南ソマリア、キヨスクを拠点にしている自爆テロ組織アルカイダの司令官。イスラムを信仰し、イスラム国を目指して武装テロ組織を牛耳っている。ジェームズを給水係と呼ぶ。
映画『世界の涯ての鼓動』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『世界の涯ての鼓動』のあらすじ【起】
フランス北部ノルマンディー。海辺のホテルに滞在する生物数学者ダニー・フリンダーズとMI-6の諜報員ジェームズ・モアは、朝の浜辺でたまたま出会った。2人は同じホテルに滞在していることを知ると、ランチの約束をする。ダニーは深海の更に奥にある前人未到の未知の世界、超深海層の調査を行い生命の起源を研究するのだと話す。2週間後にはその未知の世界へ挑み、調査を行う予定だ。対してジェームズは英国政府に所属していると話し、明かすことはできないが、この休暇が終わったら南ソマリアへの任務が待っている。
2人はそれぞれの境遇を語り合いながら浜辺の遺跡へ向かい、尽きない会話を続けつつ夜まで共に過ごし、そうして体を重ねた。若気の至りというほどの勢いではなく、知的な会話の中で互いに相通じるものがあった。
翌日、再び共に過ごすことを決めた2人。親密度をより深めていく。ジェームズは南ソマリアにて爆弾テロを阻止する任務へ向かう決心をし、3日目の朝ダニーに見送られながらホテルを後にした。ダニーもまたこの後、危険が伴う超深海層への調査へと向かう。2人は今後も連絡を取り合おうと考えていたが、この別れが最後になるかもしれないとも思っていた。
映画『世界の涯ての鼓動』のあらすじ【承】
しかし、南ソマリアへ向かったジェームズは、ジハード戦士に捕まり監禁されてしまう。
それから1カ月が経過。ダニーはジェームズと連絡できなくなってしまったことを気に病みつつも、調査へと向かう船に乗っていた。ほんの数日を過ごした相手だったが、互いに感じたものが間違っていたとは思えない。恐らくダニーとジェームズは運命の相手だったのだ。故に遠く離れてしまった相手がこんなにも気になる。
深海の探査艇が順調に調査を進めている頃、ジェームズはそれまで監禁されていた建物から外へと連れ出される。彼は別の場所の地下壕へと投げ込まれ、外との連絡は一切できない状況へと追い込まれてしまった。薄暗闇の中、飢餓や孤独と戦う日々は心を病んでもおかしくない。
そんなある日、再び外へ連れ出されたジェームズ。浜辺へ向かうと突き放され、殺すと告げられる。彼は海へと足を進め背後から銃弾を撃ち込まれた。死んだかと思ったが、銃弾は彼を貫くことはなく寸前で生かされることに決まったらしい。ジェームズは組織内部へと拘束されることになり、無事潜入を果たした。
爆弾テロ組織アルカイダの司令官はアミール・ユスフ・アル=アフガニ。全てを掌握する黒幕である男と対面したジェームズは水道技師として訪れたと話し、ユスフはその話を信じてジェームズを給水係と呼んだ。更にユスフはジェームズの怪我の手当てをさせる。彼の手当てを行ったのは、医師のシャディッド。度重なる暴行によりジェームズは肋骨の骨折と頭部に深い切傷を負っていた。ドクター・シャディッドは骨折よりも頭部の傷の方が深刻だと言う。比較的穏やかな性質である医師に外部との連絡ができるか聞いたが、それはできないと即座に断られた。
映画『世界の涯ての鼓動』のあらすじ【転】
一方、ジェームズと連絡が取れず苛立ちを募らせていたダニー。探査艇での深海調査は危険と隣り合わせであることから、強い不安に苛まれていた。そこで、彼女は同僚の協力を得て船長へと一時下船を申し出る。どうしても、ジェームズと連絡を取って話したかった。
ドクター・シャディッド曰く、ユスフはジェームズを生かそうと決めたらしい。故に医師はジェームズへとアルカイダの実情を明かし、貧しい土地であるキヨスクの現状について真剣に憂いている。だが、その思想はジハードに偏っており、ソマリアを純粋なイスラム国にするべきだと主張するのだった。
アルカイダは裏切り者や思想が異なる者を情け容赦なく断罪する。幼い子供やか弱い女性であってもだ。現実を目の当たりにしたジェームズは、シャディッドに逃がして欲しいと頼み込んだが、医師は近い内に自分もジェームズも殺されるだろうと告げる。
その頃、一時下船したダニーは、地層調査をしながらジェームズへと思いを募らせていた。
再び拘束されたジェームズはイスラムへの改心か、さもなくば死ねと言われるが、どちらも断る。すると、手下のザイーフに連れられマングローブという場所へ連れて行かれる。ザイーフは何の抵抗もせず平穏に暮らしていた民の家へ爆弾を投下し、無為な命を奪う酷い男だった。脳裏に浮かぶのはダニーとの濃密ながら、短い数日の思い出ばかり。ザイーフはジェームズがMI-6の諜報員ではないかと疑念を深めているようだ。
一方、調査船へ戻ったダニーは、いよいよ超深海層への潜航を前日に控え、入念に潜水艇のチェックを行っていた。超深海層へも向かえる黄色い潜水艇は世界に1つだけで予備はない。もし深海で故障でもしたら、溺死の前に窒息で命を落とすだろう。確認は何度行っても足りないくらいだった。
映画『世界の涯ての鼓動』の結末・ラスト(ネタバレ)
いよいよ、マングローブへ到着したジェームズ。そこでは多くの兵士がいくつもの爆弾を準備している。飽くまでも水道技師を装うジェームズだったが、奇しくもテロを阻止するという目的には確実に近づいている。
翌朝、ダニーは仲間達に見送られ、潜水艇へ乗り込んで深海へ。
その頃、ジェームズは密かに死を覚悟し、ダニーへと別れを呟いていた。ところが、その時兵士の話からマングローブの沼の向こう、ケニアの国境に米軍基地があることを知る。だが、米軍はマングローブに遮られた近場に、アルカイダが潜伏していることなど露とも知らない。そこで、ジェームズは思い直し、奥歯に仕込んでいたGPSを作動させることにした。生き延びてダニーと再会するためだった。
超深海層は別名ハデスと呼ばれる未知の世界。潜水艇の定員は3名。無事に底へ到達した一行はサンプル採取に成功した。ところが、突如艇内ライトが全て消えてしまう。非常電源も入らず、当然通信や酸素供給も途絶える。何度か試して、ようやく非常電源が入り浮上を開始した。一時は死を覚悟したが、一先ずの目的は達成されたので、よしとする。
起動したGPSにより、マングローブの潜伏地が発見された。ジェームズはザイーフへとアラビア語ができることを明かし、自らは海へと飛び込んで爆撃から逃れる。ザイーフは茫然としながらも、ようやく死ねると神へ感謝した。任務を完遂した安堵と共に、ジャームズの白く霞みがかった視界にはダニーの笑顔が浮かんでは消えていくのだった。
映画『世界の涯ての鼓動』の感想・評価・レビュー
J・M・レッドガードの小説『Submergence』を、長編監督デビュー50年を迎える名匠ヴィム・ヴェンダーズが映画化。運命的な出会いを果たした恋人たちが、それぞれの死地へと向かい互いを思い合う様子を美しい映像と共に描いている。
非常に知的な会話の中、親密になっていくアリシア・ヴィキャンデルとジェームズ・マカヴォイの演技が素晴らしかった。会話上、色気のある言葉はほとんどないが、どこか通じ合う感じが丁寧に描かれている。加えてダニーが調査に訪れる美しい景色と相対し、ソマリアでの凄惨な状況が映し出される。ジェームズは正に死と隣り合わせの任務に赴いているが、ダニーは深海調査への不安を募らせるだけ。終盤でトラブルが発生するが、大したことなく無事に浮上する。その辺の危機感が少し薄かったように思う。それでも心洗われるような作品であることに変わりない。(MIHOシネマ編集部)
偶然出会った2人の5日間の恋の物語。それだけ聞くとロマンチックなラブストーリーに思えますが、離れ離れになった2人の歩む道のりはとても険しいものでした。
生物学者とMI6の諜報員である2人の会話が物凄く知的で悪く言えば理屈っぽいのですが、私のような凡人には分からない魅力が2人には感じられたのだろうなと思いました。
お互いを運命の人だと確信した2人はもう一度結ばれるのか…とハッピーな結末を想像していたのですがここで終わってしまうのかと不完全燃焼ぎみのラストだったのでそれがとてももどかしくて、これも含めて監督の狙いだったのかなと感じてしまいました。(女性 30代)
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