映画『ラッカは静かに虐殺されている』の概要:スマホを駆使し、シリア内戦の中心地であるラッカの現状を世界へと発信し続ける市民ジャーナリスト集団“ラッカは静かに虐殺されている”。果敢にもイスラム国とメディア戦争を戦い抜く彼らの現状を追う。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』の作品情報
上映時間:92分
ジャンル:ドキュメンタリー、戦争
監督:マシュー・ハイネマン
映画『ラッカは静かに虐殺されている』の登場人物(キャスト)
- アジズ
- ラッカは静かに虐殺されている(以下、RBSS)の共同創設者の一人。スポークスマン。大学時代、革命へと参加したことにより反政権への意欲を高め、ISにラッカ占領後、仲間を集ってRBSSを創立する。ドイツへ亡命後、広報担当となる。
- ハムード
- RBSSの共同創設者の一人。内向的な性格ではあるが、撮影が好きでカメラマンになる。弟と共に記者となるが、ISによって父と兄を処刑されている。ドイツへ逃れ活動を続け、第一子に父の名前をつける。
- モハマド
- RBSSの記者でリポーター。高校で数学教師をしていたが、学生が逮捕されたことにより革命へ参加。妻と共にトルコへ亡命するが、恩師の暗殺から危機感を募らせドイツへ移る。数学は得意だが、文章作成がちょっと苦手。
- ハッサン
- RBSSの共同創設者の一人。大学のロースクールに通っていたが、革命に参加した学生が捕まっていることを知り、故郷のラッカへと戻りRBSSを立ち上げる。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ラッカは静かに虐殺されている』のあらすじ【起】
“ラッカは静かに虐殺されている”略してRBSSは、シリアのラッカを首都と定めたイスラム国(以下、IS)の横暴な略奪や虐殺行為を、危険と隣り合わせで世界へと発信する記者集団である。彼らの活動は世界中で注目を集め、とうとう2015年度「国際報道自由賞」を受賞した。
シリアのラッカはISに首都と定められたことで世界でも有名になり、幽霊の街になった。だが、RBSSのメンバーにとって、ラッカは今も昔も故郷に変わりない。ラッカは他の街と離れ素朴な街である。街の人々は寛容で献身的なことでも知られているが、アサド政権の圧政により、2010年から2012年にかけて発生した大規模反政府デモ、後にアラブの春と呼ばれる騒乱が発生。シリアでは特に激化した。
2012年3月。反対運動を制圧するため、ラッカへと軍が突入。市民は無差別に攻撃され、酷い騒乱となった。当時、大学生だったアジズは政治活動もしておらず、活動へ参加する意思もなかった。だが、革命を経験し現在はRBSSのスポークスマンを務める。モハマドは高校教師だったが、授業中に生徒の一人が逮捕されたことで立ち上がり、RBSSにてリポーターを務めている。ハムードは内向的な性格だったが、撮影が大好きでとにかく何でも撮影しており、カメラマンを務める。爆撃により美しかった街が瓦礫の街へと変貌を遂げていく。黒煙と爆音、銃声が鳴り響き止むことはない。暴動は激しさを増し、アサドの石像が大勢の市民によって倒された。
2014年7月5日。ISの指導者がラッカを首都にすると宣言。革命で権力に空白ができたところを狙って侵略して来た新集団だった。彼らは黒い旗を掲げ自らをイスラム国と呼ぶ。ISは武装してアサド政権に対抗し、ラッカをすぐに世界と断絶させた。このことでラッカから発信されるニュースは全てISのプロパガンダだけになった。彼らは一見、他の民兵組織と変わらなかったが、市民はほどなく例を見ない集団だと気付く。ISは街を黒で染め、闇で覆った。
そこでアジズ達は市民の自覚を促すことを目的に活動を開始したが、状況は悪化。処刑や拘束が無作為に行われているのに、中東や海外メディアは現状を知らず何も報じない。アジズ達は街の現状とISの真実をどうにかして海外へ知らせようと考えた。そうして、RBSSが起ち上げられたのである。彼らはまずFacebookやTwitterで市民の声を発信。RBSSの活動は中東でもニュースに取り上げられるようになり、徐々に現状が世界へと広まり始めた。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』のあらすじ【承】
すると、ISはRBSSに反応を示すようになり、人々が興味を持ち始める。それから数週間後、RBSSの仲間が検問所で捕まってしまう。彼が持っていたPC端末からRBSSの情報が発見され、更なる拷問を受けた後、反逆者として処刑されてしまった。アジズ達は身の危険を感じ、この地に残るか亡命するかを選択しなければならなかった。そして、彼らは亡命の道を選ぶ。何人かはドイツへ逃れ他の者は国境を越えてトルコへ。RBSSとISの真の戦争が始まった時だった。
RBSSはトルコとシリアの国境、ガズィアンテプに隠れ家を構えた。そこにはモハマドと数名がおり、ラッカに潜伏している記者と密かに連絡を取り合っている。彼らは常にISから逃げる生活を強いられ、SNSを通じて精神的な追い込みをかけられる。名前や家を暴露され脅迫される日々。
一方、ドイツにはアジズとハッサンが隠れ暮らしている。彼らの仲間や家族はまだシリアやラッカにいた。アジズの弟も情報を送ってくれていたが、逃亡するために密航船へ乗り込み海で亡くなっている。アジズ達は海外でのインタビューに堂々と顔を晒し、現状を訴えた。
ラッカにいる国内組は17人前後の記者で構成されている。彼らの任務は写真や動画を撮り、緊急のニュースを送ることだ。国外組は国内組と連絡を取りリアル情報を得つつ、その情報を世界へと発信する。彼らの発信により、ラッカでは慢性的な食糧不足と超インフレに陥っていることが判明。ISの拠点は酷い有様で、彼らが掲げる理想とは大きく違っていることを知らしめた。
カメラマンのハムードは、カメラを持つ者が強いと考えている。当初ISはスマホで撮影したような荒い画像での広報活動を行っていたが、武力よりメディア戦力を強化したことで、ラッカ占領後は新兵勧誘のため、プロが動画を作成している。巨費を投じた映画のような大作だ。ハムードに言わせれば、ISはイスラム教徒ではない。彼らは宗教を欲得で悪用しているだけだ。ハムードと弟が活動を始めて2か月後、ISに父親が逮捕された。奴らは処刑動画を公開し、追い込みをかける。兄弟の長兄も処刑されたようだが、ハムード兄弟は家族のためにも活動を続ける。
RBSSが活動を開始後、ISは過激な手段で国内組の阻止を行った。検問所を設けて身体検査を行い、携帯電話を調べては記録装置を探す。このことでラッカの情報が国外へ流すことが難しくなる。ISはRBSSを撲滅することに執念を燃やし、衛星回線の信号を追跡する車で市内を巡回していた。よって、潜伏記者たちは暗号化したデータを短時間で送る必要があった。更に彼らは情報を送信後、すぐにデバイスから削除。動画にはぼかしを入れる専門の編集者がいて、動画の公開やアップロードにも時機を見る。国内組で活動する記者たちはあらゆる手を使って、ISの目を掻い潜り情報を流してくれていた。彼らこそ英雄と呼ばれるべきである。ラッカの市民はISによって苦難を強いられ、貧困や飢餓、疫病に喘いでいる。ISは人々を人間の盾として扱っているのだ。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』のあらすじ【転】
モハマドの元へISがアインイーサへと攻撃を仕掛けた情報が入る。20~40人程度のISに対し、抵抗軍は100名くらいだと言う。モハマドはすぐさま、このことを記事にしてネットへとアップした。国内組の記者たちは密かにチラシを配ることで啓蒙活動もしている。だが、ISはこれに気付き激怒。
そのせいで、トルコのガジィアンテプにいたRBSSを記者集団へと育てた恩師が暗殺される。RBSSには衝撃が走り、誰もが涙を流して恩師の死を嘆いた。彼がいなければRBSSは生まれなかっただろう。それだけ重要な人物だった。モハマドは危険を感じ、ガジィアンテプからドイツへと移ることに。
シリア、ラッカの隠れ家からISがパラボナアンテナの使用を禁止したという情報が入る。理由を記載したチラシの画像も添付されていた。ISは更なる孤立をラッカに迫ったのだ。今やRBSSの活躍により世界中で批難の目に晒されているISは、メディア戦争に負けたと言っても過言ではない。ネットカフェも閉鎖され、TVもアンテナも禁止。特に記者の生活を制限し情報流出に歯止めをかけようとしている。そこで、RBSSは街の随所に抵抗する呼びかけのチラシを貼り出した。これに対し、ISは明らかにRBSSを意識した攻撃的な動画を配信。
恩師暗殺の報を受け、ドイツ政府がシリア人に緊急ビザを急遽発布した。アジズ達はこれを利用し、仲間を国外へ亡命させようと考えている。ドイツへとムハマドと妻が到着。ハムード兄弟はドイツに潜んでいる。ハムードはじき父親になるが、RBSSとして活動している間は安全など望めない。責任は負うつもりだし、父親として子供を育てたいが、いつ殺されるか分からない現状では安心できなかった。
幼い子供達がISに参加し、兵士として戦いに臨む動画が公開された。子供達はISにとっても燃料だ。他の過激組織と同様に子供達を戦争の駒として育てている。ISの戦闘規則には、全ての戦闘に自爆者が要る。自爆者の大半は幼い子供達で、純粋に信じ込み死を恐れない。少年兵訓練キャンプはIS支配地域全てにあり、子供達を洗脳している。ISは子供達が任務を遂行すると金や菓子、携帯電話を与えた。貧困に喘ぐ親から与えられないものであるため、喜んでISの言うことを聞く。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』の結末・ラスト(ネタバレ)
アジズがラッカから亡命して1年半。彼はRBSSの広報担当となったが、故郷に帰る日がいつになるか、見えない明日に不安を覚えるようになっていた。ドイツでは難民に対する反対運動が始まり、居場所を失った彼らを追い詰める。
政権派の戦闘機がラッカの街を数度、攻撃。街は壊滅状態で死傷者が多数出た。数百人のISのために数千人の市民が犠牲になるなど、あってはならないことだった。そんな中、フランスで警官刺殺事件が発生。ISが犯行声明を出していたため、大統領はこの事件をテロ行為だと非難した。
ISはシリアだけにいるのではない。18カ月の間、フランスはISのテロ行為によって3度も攻撃されている。ISに感化された過激主義者たちも相まって、凄惨な被害を発生させた。更にベルリンではISが犯行声明を出し、12名を殺害するテロが発生。
5年もの間、誰もが目を背けてきたシリアの現実に、今や世界中が注目している。
ベルリンのムハマドの自宅へ、久しぶりにRBSSの創始者メンバーの何人かが集まった。それぞれに現状を報告し合い、そろそろ仕事をレベルアップしようと話す。ISとのメディア戦争でRBSSも鍛えられた。彼らはこれから表舞台へ出て国際社会に訴えようと話し合った。
ISとの戦いは日々拡大している。故に検索エンジンでラッカを検索すると、ISが見せたい動画の他にRBSSのホームページも出る。アジズだけではなく、モハマドや他のメンバーも多数のテレビ出演にてISとラッカの現状を声高に叫んだ。そうして、「国際報道自由賞」を受賞するに至ったのである。
授賞式のあったニューヨークからドイツへ戻ったアジズへ新たな脅迫状が届く。大々的に顔を晒したことで、ISはアジズがドイツに住んでいることを突き止め有志を募り、堂々と暗殺を依頼したのだ。すると、ベルリン警察がこれに気付きアジズを保護したいと言ってきた。だが、アジズはその申し出を断る。仲間は今も危険な場所で必死に頑張っているからだ。
アジズは命を落とした仲間達の写真を持ち、いつも見ている。RBSSは彼にとって第二の家族だった。情報を発信することによって、世界を動かすという重要な仕事を彼らはやってのけた。それは、ISが持つ実質的な武器よりも強いはずだ。RBSSが勝つか、或いは全滅するか。それでも堪え切れない恐怖が彼を襲い、震えが止まらなくなる時がある。
その後、ハムードには子供が生まれ、亡き父の名であるモハメドと名付けた。RBSSは今もシリアの内外で活動を続けている。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』の感想・評価・レビュー
ドキュメンタリー作家として世界に名を轟かせるマシュー・ハイネマン監督が、シリア内戦にて危険を顧みずISと首都ラッカの現状を世界へ発信し続ける“ラッカは静かに虐殺されている”を取材。緊迫し凄惨な現状を映し出した長編ドキュメンタリーを制作した。
そもそも、シリア内戦には大昔からの拗れた因縁があり歴史上の出来事が酷くねじれてしまった結果が、今のシリア内戦なのだ。それでも、今作を観ていかにISが傲慢で勝手な思想を掲げ、虐げているかが分かる。身を守るための武装ならいざ知らず、彼らは無作為に人々を殺す。イスラム教徒とは似て非なるものと思わざるを得ない。アサド政権を非難しているが、やっていることは同じなのではないかとも思う。RBSSの活動には本当に頭が下がる。彼らが勝利する日がくることを祈りたい。(MIHOシネマ編集部)
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