映画『スワロウテイル』の概要:昔々、円が世界で一番強かった頃、その町は円を稼いで祖国で金持ちになることを夢見た移民(イェンタゥン)たちで溢れていた。そんな移民たちの切ない物語。
映画『スワロウテイル』 作品情報
- 製作年:1996年
- 上映時間:149分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:岩井俊二
- キャスト:三上博史、江口洋介、Chara、伊藤歩 etc
映画『スワロウテイル』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『スワロウテイル』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『スワロウテイル』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『スワロウテイル』 あらすじ【起・承】
娼婦の母が死んでアゲハ(伊藤歩)は独りぼっちになってしまった。引き取りてもなくたらい回しにされていたところをグリコ(CHARA)が助けてくれる。
アゲハという名前もグリコが付けてくれた。グリコは胸に蝶のタトゥを持った娼婦で歌が上手。兄二人と円を稼ぐためにやってきたが二人の兄のうちの一人が盗みを働いた最中に交通事故で死んだ。
グリコに連れられアゲハはフェイフォン(三上博史)とラン(渡部篤郎)達が働く「あおぞら」で働き始める。昼は鉄くず拾いや車の修理、夜は飲み屋の手伝いをするアゲハ。
グリコの家の隣にはフェイフォンたちの仲間アーロウが住んでいる。アーロウは元ボクサー。ある夜に須藤という暴力団のお客がグリコを買った。
須藤は室内にアゲハを見つけると無理やりアゲハを襲う。助けたグリコに手を加えるので慌ててアゲハはアーロウを呼びに行った。アーロウの一撃で窓の外から須藤が転落し、更にトラックにはねられて須藤は死ぬ。それをレイコ(大塚寧々)が見ていた。
みんなで墓地に須藤を埋める直前、ランが須藤の腹からカセットテープを発見する。それは「マイウェイ」のテープだった。
須藤の持っていたテープを暴力団と阿片街のトップリュウリャンキ(江口洋介)が探している。ランは実はスナイパー。相棒のシェンメイ(山口智子)と殺し屋をしている。
ランが千円札に一万円の磁気データをプリントして金儲けをする方法をみんなに教える。一挙に金儲けしたみんなはランと子供たちを残し「あおぞら」から去っていき、フェイフォンとグリコとアゲハはダウンタウンで暮らし始めた。
映画『スワロウテイル』 結末・ラスト(ネタバレ)
フェイフォンの提案でライブハウスを始める。グリコがイェンタンバンドを初めてライブハウスは大盛況。イェンタンバンドは人気を集めレコード会社マッシュミュージックと契約することになる。
ところがマッシュミュージックの仕業でフェイフォンが逮捕されてしまう。イェンタンバンドはデビューが決まるがフェイフォンは塀の中。アゲハは毎日弁当を持ってくる。
グリコのCDが売り切れになるほど人気であることを聞いて喜ぶフェイフォンだったが、上海に強制送還されることになる。
アゲハは一撃で不良のリーダーホァンを倒したことがきっかけで不良たちに慕われるようになる。ある時ホァン達が見つけた薬物を打つ。するとアゲハは倒れてしまう。慌てたホァン達は近くを走る車に助けを求めた。
それがリュウリャンキで彼はアゲハを阿片街の病院へと運ぶ。その病院の医者はグリコの胸にタトゥを彫った医者でリャンキはグリコの兄だった。
フェイフォンは送還を逃れ街に戻ってくる。ところがイェンタンバンドと対立しバンドのメンバーはバンドを辞め、ライブハウスは潰れる。阿片街でアゲハは胸にアゲハ蝶のタトゥを彫る。
バンドが人気絶頂の中、週刊誌の記者鈴木野(桃井かおり)にレイコがグリコの情報を売る。鈴木野に独占取材のため連れまわされるグリコだったが、テープを探すマオフウ達に襲われる。
グリコはフェイフォンに助けを求め「あおぞら」へ向かう。フェイフォンもグリコを助けようとするがマオフウの手下に捕まる。フェイフォンは手下を撃ち逃げるが、偽札で両替をしていたところ警察に遭遇し逮捕される。
グリコはテープを取り戻すために「あおぞら」に来た。ランとシェンメイが応戦し一挙にマオフウ達を壊滅させた。
アゲハはみんなが仲良かったころに戻りたくて不良たちに集めさせたお金をもって倉庫を借り行く。しかし借りることができない。フェイフォンは警察で拷問を受け、死んでしまう。
車にフェイフォンの遺体をのせ、焼くのをみんなで見届ける。アゲハは集めたお金をすべてフェイフォンの遺体が乗った車に向かって投げた。
ランはリャンキの暗殺の準備をしていた。リャンキが乗った車の横をアゲハがすれ違いリャンキはアゲハに声をかける。アゲハは助けてくれたお礼にと「マイウェイ」のテープを渡す。
アゲハという名前をグリコからもらったことを話すとリャンキは驚いてそこを去っていく。
映画『スワロウテイル』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『スワロウテイル』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
世界観がきちんと作り出されている
SFやファンタジーを作るとき、世界観を簡潔に視聴者に理解させなければ観客は置いてきぼりになってしまう。この映画の場合「イェンタンとは何か?」
という疑問点を冒頭とラストで完結に説明している。観客たちにとって入りやすい作りになっているだろう。
ではどんな点で世界観が構築されているのか。それは登場人物の会話が日本語・英語・中国語と入り混じっていること、日本人役者以外にも欧米系や中国系の
俳優も登場することだ。
更にストーリー中に登場する「あおぞら」や阿片街といった舞台がこの映画らしい世界観を作り出している。場所へのこだわりが抜かりないのは
美術監督種田陽平の類まれなセンスだろう。
これらによって冒頭で受け止めた「イェンタンの世界」が精細に表現されている。
カメラワークで登場人物の心境を表現
この映画はカメラワークも素晴らしい。特に印象に残っているのがアゲハの目線のカメラの動きだ。
薬物を打って意識がもうろうとする場面でカメラが固定されておらず、酔いそうなカメラアングルとなっている。
阿片街の医者を訪ねるシーンも同様にカメラを手持ちしたブレ感で撮影されている。
ブレのあるシーンを観客は落ち着いて見ていられない。
その点でアゲハの心境を理解できるいいシーンだと感じた。
うまくいかない切なさ
“切なさ”で溢れているこの映画。感動的な余韻を非常にうまく作り出している。
グリコを愛するフェイフォンという男の不器用さ。
アゲハの届かないフェイフォンへの恋心。
楽しかった生活を取り戻したい一心で金を集めるアゲハの思い。
グリコとリャンキの兄妹が再会を果たせないこと。
そういった登場人物たちに取り巻く“切なさ”が非常にうまく描かれている。
英語、中国語、日本語がまじる独特の世界。円高になった日本のパラレルワールドに出稼ぎに来ている人たちの切なくて優しくてもどかしい人間模様が描かれる今作。
独特の雰囲気なので好き嫌いが分かれるかと思いますが、私はすごく好きな作品です。グリコを演じたCharaがとても印象的で、こういう演技ができるんだ、こんな魅力があるんだとCharaの素敵さに気付かされました。
江口洋介や三上博史は相変わらずの雰囲気でめちゃくちゃ仕上がっていて好きです。美しい映像も、独特な世界観もキャラクターの癖のある感じも全て心地よく感じました。(女性 30代)
架空の街を舞台にしたお話。世界観のつくりこみがしっかりしているので没入感があり、街の雰囲気に酔いしれてしまう。劇中で流れる架空のバンドの曲が醸し出す雰囲気も最高、時々見返してはあたかもその架空の街に行った気分に浸るのが心地良い。ただあまりにも気分に浸りすぎてしまうせいか、何度観ても何が起きているのか良く分からないまま終わってしまう。様々な出演者達がそれぞれかっこよく登場することもあり決して飽きないのだが、筋が頭に残らない。でもなんとなく好きで見返す一本。(男性 40代)
映画『スワロウテイル』 まとめ
この映画でアゲハがはっきりとした声で日本語を発するシーンが好きだ。天涯孤独のこの少女が、強く自分の意志を持ってることが理解できるから好きなのである。
フェイフォンは感情的で世渡りが下手で、いつも痛い目に遭ってしまうけれど、心の中でグリコの幸せを願っている素直な男という不器用さがなんとも言えない哀愁を漂わせる。
イェンタンバンドの歌も物語の世界観も登場人物においてもどれも丁寧に描かれた素晴らしい映画だと思っている。
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