映画『ある少年の告白』の概要:自分が同性愛者であると気づいたある少年が、両親の勧めによりそれを「治療」するプログラムに参加する。そこで彼が目撃した衝撃の治療実態と、彼の心の変遷を描く。
映画『ある少年の告白』の作品情報
上映時間:115分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ジョエル・エドガートン
キャスト:ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ジョエル・エドガートン、ジョー・アルウィン etc
映画『ある少年の告白』の登場人物(キャスト)
- ジャレッド・イーモンズ(ルーカス・ヘッジズ)
- 牧師の父と母の元に生まれた一人息子。ある出来事をきっかけに自身のセクシュアリティに疑問を持ち、苦悩する。
- マーシャル・イーモンズ(ラッセル・クロウ)
- ジャレッドの父。牧師を生業とし、アメリカの保守的なキリスト教の教えを敬虔に守っている。息子の告白に衝撃を受け、ある決断をする。
- ナンシー・イーモンズ(ニコール・キッドマン)
- ジャレッドの母。一人息子を愛し、彼の告白にマーシャルと共に煩悶するが、父親とは異なる思いが芽生え始める。
- ヴィクター・サイクス(ジョエル・エドガートン)
- 同性愛者治療プログラムのリーダーであり、施設長。集まった少年少女たちに容赦なく「転向療法」を迫る。
- ヘンリー(ジョー・アルウィン)
- ジャレッドの大学の友人。同性愛者。
- ゼイヴィア(セオドア・ペレリン)
- 自らの個展の場でジャレッドと知り合う。同性愛者。
- ゲイリー(トロイ・シヴァン)
- プログラムの参加者。
映画『ある少年の告白』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ある少年の告白』のあらすじ【起】
アメリカのある田舎町に両親と共に暮らすジャレッド。牧師の父と母の一人息子として愛され育ってきたが、大学入学前の時期からガールフレンドとの付き合いもよそよそしくなり、自らのセクシュアリティに疑問を持ち始める。
親元を離れて大学の寮に入ったジャレッドは、そこでヘンリーと知り合う。毎日彼と一緒にランニングをしたりゲームをしたり、仲良く過ごしていた。しかしある夜、ジャレッドの部屋でいつものようにゲームをしていたヘンリーはそのまま泊まって行くことになる。
そこでジャレッドは彼に暴行を受ける。明らかな表現はないまでも、自らも彼に対して友情以上の感情を抱えていたジャレッドだったが、あまりの状況に打ちひしがれる。
その後逃げるように実家へ戻ったジャレッド。彼に嫌われたと感じたヘンリーは歪んだ感情を抱え、ジャレッドの家へ電話をかけ、母ナンシーに「息子さんは同性愛者ですよ」と告げる。母はうろたえ父に相談する。問いただす父に対して最初は否定していたジャレッドだったが、ついに二人に告白する。「僕は男性に惹かれてしまう。ごめんなさい。」と告げたジャレッドに対し、両親は呆然とする。
映画『ある少年の告白』のあらすじ【承】
悩んだ父は仲間の牧師たちを呼び、彼の今後について相談をする。その内の一人が同性愛者を「治療」するプログラムを知っており、父に勧めるのだった。
ジャレッドをその場に呼び、プログラムについて話す父。「お前はそれを治したいか?」と問う。治したい、まともになりたいと答える息子を見つめ、両親は彼をそのプログラムへ参加させることにする。
そのプログラムは毎日朝から夕方まで行われ、親は夕方になるまで子供達に会えない。ナンシーはジャレッドと共に施設近くのホテルで生活し、彼の送り迎えをする。
プログラムには男女10人ほどが参加し、それぞれに同性愛の指向を抱えている。施設長であるヴィクターは、彼ら彼女らの性癖は異常なものであり治療されなければならない、そんな性癖を持ってしまったのは親戚や祖先に異常者がいたからだと諭す。
まともになりたい一心でプログラムを熱心に受講するジャレッドは、ヴィクターの言う通り自分の家系図を書き、どの人が異常者だったのかを考える。そして、宿題として与えられたその家系図について、母にも質問する。確か女装癖があった人がいたわ、と答えながらも複雑な表情を見せる母。
映画『ある少年の告白』のあらすじ【転】
日が経つに連れ、次第にプログラムは過激さを増し始める。ほぼ体罰のような仕打ちや彼らの人格まで否定するかのような施設のやり方に、ジャレッドは徐々に疑念を覚え始める。
プログラム内で出会ったゲイリーは参加するのは2度目らしく、「適当に治ったフリをした方がいい」とジャレッドにアドバイスをする。
ある日、一人の少年が規則を破ったという罰で大勢の前に晒されることになる。ヴィクターは彼を本で叩き、さらに彼の家族にも同じことをするよう促す。涙を流しながら彼を叩く彼の妹らしき女の子を目にし、ジャレッドは強い憤りを覚える。一体これはなんのためのプログラムなんだ?治療ってなんだ?と苦悩する。そして、彼の苦しみは母にも伝わっていた。
彼らは順番に自らの過去の告白、そしてこれからの展望について語らされていた。ついにジャレッドの番が来た日、彼は初めて母の同行を断り一人で施設へ向かう。いざ発表となり、大学の友人により受けた暴行と、それを契機に向き合うことになった自分のセクシュアリティについて語り始める。
しかし、ヴィクターは彼の告白を執拗に攻撃する。「お前はそのことで父を憎んでいる、そうだろう」と責め立ててくるヴィクターに対し、「僕は父を憎んではいない!」と怒鳴り返すジャレッド。問題をすり替えて攻撃してくるヴィクターとこの施設に対して呆れ果て絶望したジャレッドは、もうここには戻らない、家に帰ると主張する。
映画『ある少年の告白』の結末・ラスト(ネタバレ)
没収されていた携帯電話を取り返し、母に窮状を訴え迎えに来て欲しいと懇願する。そんな彼をヴィクターや施設のスタッフが追い詰めるが、そこでスタッフを突き飛ばして彼を助けてくれたのはあの罰を受けた少年だった。
迎えに来たナンシーは事態を把握し、息子を連れ帰ると決然と言い放つ。追いすがるヴィクターに対し、「あなたは何の資格があって息子をこんな目に遭わせるの?資格なんてないんでしょう?偉そうに言わないで」と怒鳴り、ジャレッドを車に乗せる。
いつも父に従いおとなしかった母が、こんな強い姿勢を見せるのは初めてだった。ナンシーは夫に電話をかけ、施設へ戻せと言う彼に反論する。絶対に戻さない、私たちは間違っていたと話す母に、ジャレッドは驚くと同時に感謝する。
その後、実家に戻ったジャレッドの元に、警察が現れる。みんなの前で体罰を受け、土壇場でジャレッドを助けてくれた少年が自殺したと言う。その報せを聞き呆然とする父と、そんな父に悲しみのこもった目を向ける息子。ジャレッドは父の前で自室の扉を閉ざすのだった。
数年後、ジャレッドは再び親元を離れ気の置けない友人達、そして恋人と共に過ごしていた。彼は自らの施設での体験を本にしたいと考える。そのための執筆にかかる際、父の元を訪れる。両親の以前の仲睦まじさはあの出来事の後に消え、関係は冷えていた。
ジャレッドは父に対し、「僕や母さんとこれからも一緒にいたいと思うなら、父さんの方が変わらなければいけない。そうでないなら関係はこれで終わりだ」と告げる。苦しい表情を見せる父だったが、愛用の万年筆を息子に託し、これで執筆しろと話す。和解の始まりの瞬間だった。
映画『ある少年の告白』の感想・評価・レビュー
この実話が起こったのは今から10数年前のことだが、現在でも同性愛者を巡る状況は何も変わっていないように思える。事実、映画のエンドロールでは今でもアメリカ各州に同様の施設が現存し、大量の同性愛者が「治療」を受けていると綴られている。
そして、施設のリーダーであったヴィクターは彼自身が同性愛者であり、2008年に施設を抜け、現在はパートナーと暮らしているとの記述を読み驚愕した。彼はどんな思いで「治療」を行っていたのか?また、彼が自分に正直に生きられるようになったのは良いことだと思うが、無理やり矯正させられた人達はどう思うのか?と怒りも感じる。(MIHOシネマ編集部)
「普通」ってなんですか?最近日本の国会議員の発言でも話題になっていました。LGBTの方に対して「普通」では無いというような差別的な発言。こういうことを言うのって、だいたい年配の方なんですよね。若者が言わないというのではなくて、言ってはいけない所、タイミングをわきまえているから。
この作品でもこのような「普通」に治すセラピーが描かれていて、人としてやってはいけないこと、言ってはいけないことが当たり前のように起きていました。
そして、これが実話だということが最後の文章で更に衝撃的に感じました。(女性 30代)
同性愛矯正施設での体験を告白したガラルド・コンリーの本が原作となっており、実話ベースです。施設内での職員の暴言や暴力に気が遠くなりました。同性愛は犯罪ではなく、病気というわけでもありませんから、矯正すること自体不自然なことなのかもしれません。世間や世界が早急に同性愛について理解し、認める風潮が定着すれば現状を打破できる気がします。しかし、かなりの難題にも思えます。『ある少年の告白』は観た人に強く訴えかける作品です。(女性 30代)
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