映画『立ち去った女』の概要:かつての恋人に嵌められ、無実の罪で30年間も服役した元小学校教師のホラシア。出所した彼女は静かに復讐を決意していた。フィリピンの鬼才ラブ・ディアス監督による、ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。
映画『立ち去った女』の作品情報
上映時間:228分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ラヴ・ディアス
キャスト:チャロ・サントス、ジョン・ロイド・クルーズ、マイケル・デ・メッサ、シャマイン・センテネラ=ブエンカミーノ etc
映画『立ち去った女』の登場人物(キャスト)
- ホラシア / レナータ / レティシア(チャロ・サントス・コンシオ)
- 冤罪で30年投獄されていた元小学校教師。出所後、真犯人であるかつての恋人、ロドリゴへの復讐を企てながら行方不明の息子を探す。他に、娘と数人の使用人がいる。
- ペトラ(シャマイン・センテネラ・ブエンカミノ)
- 刑務所内で知り合い、ホラシアの親友となった受刑者。ロドリゴからの依頼を断れず殺人を犯し、ホラシアに罪をなすりつけたと自供。
- ロドリゴ・トリニダッド(マイケル・デ・メサ)
- ホラシアが結婚する前の恋人。彼女が別の男と結婚することに耐えられず、ペトラに殺人を依頼してホラシアに罪を着せた。
- ホランダ / ロランド・バルデモラン(ジョン・ロイド・クルズ)
- ウニオンへ流れ着いたゲイ。家族にゲイであることを受け入れられず、故郷を捨て放浪していた。信心深さから自殺はできず、自暴自棄に体を売っている。
- バロット売り(ノニー・ブエンカミノ)
- 夜ごとロドリゴの住む豪邸を監視していたホラシアと出会い、身の上話をするようになった男。大家族を抱える大黒柱。ホラシアの無償の優しさに触れ、彼女に協力する。
映画『立ち去った女』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『立ち去った女』のあらすじ【起】
1997年フィリピン。この国の誘拐事件の件数は、1996年に比べて3倍にも増加していた。国中が不穏な空気に晒されている中で元小学校教師のホラシアは、ネニータという少女を殺したという身に覚えのない罪で30年間服役しており、刑務所内で告解にも似た自作の物語をしたためていた。
ある日ホラシアは所長に呼び出され、釈放を言い渡された。事件の真犯人がついに自白したのだと言う。本当の殺人犯は、刑務所内で良き友となったペトラだった。ホラシアはペトラに会いに行ったが、むせび泣く声が聞こえ近寄ることができなかった。その後ペトラは、罪の重さに耐えられず自殺した。
ペトラの供述書を持って出所したホラシアは、刑務所からゆっくりと自宅へ帰ったが、そこには使用人がいるだけで家族の姿はなかった。娘は家庭を持ち家を出ており、息子は行方不明、夫、レデントルは亡くなっていたのだ。泣き崩れるホラシアだったが、誰もいない家を管理していた使用人、パトリアへ敷地の全てを明け渡すと、娘、ミネルバの元へ向かった。
ウニオンでミネルバと再会したホラシアは、自分が逮捕された事件の全貌を明かす。彼女がレデントルと結婚する前の恋人、地元の有力者であるロドリゴ・トリニダットが、嫉妬に狂い自分を殺人犯に仕立て上げたというのだ。
再会を喜び合ったのも束の間、ミネルバは兄が行方不明になったことをホラシアへ告げた。ホラシアは、ロドリゴの姿を探しながら息子の所在も探しに出た。
映画『立ち去った女』のあらすじ【承】
ロドリゴの邸宅周辺で彼を待ち受けるホラシアは、バロット売りの男と出会った。彼にロドリゴの動向を聞き出したホラシアは、自身の拠点へ帰る途中、泥酔して夜道を彷徨っていた女装の男を助けた。
ホラシアが教会で寝ていると、マメンという若い女性が彼女を起こした。マメンは浮浪者であった。ホラシアはみすぼらしい彼女を気にかけ気持ちばかりの金を渡す。その見返りに教会へ出入りしている金持ち連中の情報を聞き出すと、ロドリゴは家族と共に護衛付きで早朝5時のミサに参加しているという。ホラシアは、ロドリゴや護衛、彼の家族らが座る位置を正確に記憶し教えてくれるマメンへ同情の眼差しを向けた。
夜を迎え、トリニダッド邸を見張るホラシアとバロット売りは、煙草を吸いながらフラフラとダンスを見せる女装した男、ホランダを見かける。バロット売りは「変人だ」と嘲笑った。
翌日、ホラシアは説教を聞くロドリゴの姿を確認する。さらにその翌日、ミネルバから兄らしき男が遺体で見つかったとの連絡があった。所持品に兄の名があったという。母娘は遺体を確認しに向かったが、それは別人であった。
ホラシアは幾度もマメンの元を訪れ生活の基盤を作らせようとしたが、彼女は上手く社会に適応できないようだった。彼女は、ホラシアの家の柵を木の棒で叩き来訪を知らせる。ホラシアはマメンの体を洗ってやった。その日以来、彼女の姿は見えなくなってしまった。
映画『立ち去った女』のあらすじ【転】
ロドリゴの動向を伺うため教会を訪れたホラシアは、彼が孫達を抱き上げる姿を見て身を翻した。ホラシアらしき姿に気が付いたロドリゴは、慌てて彼女の影を追ったが、すでにいなくなっていた。
夜になり、バロット売りと身の上話をするホラシアは、彼の末の子供が体調不良で医者に掛からなければならないと聞かされる。バロット売りに金を渡すと、彼は大いに感謝した。見返りに銃が買える場所を聞き出した彼女は、バロット売りに伴われ拳銃を一丁調達した。
家で1人、ホラシアは銃を構えて泣いていた。外からマメンの声が聞こえたので、ホラシアは急いで招き入れようとしたが、彼女は「この世には悪魔しかいない」と絶叫し去ってしまった。
マメンがいなくなり決意が固まったホラシアは、ロドリゴの元へ向かおうと再びドアを開けた。すると、玄関先には血まみれのホランダが立っていた。ホラシアの姿を見て気を失ったホランダは家の中へ倒れ込み、ホラシアは彼女の看病にあたったのだった。
ホランダの容態を診ながらもロドリゴを撃ち殺す機会を狙うホラシアは、教会を訪れた。ロドリゴは神父に「多くの者を傷つけ人生を壊した」と告白していた。
映画『立ち去った女』の結末・ラスト(ネタバレ)
ホランダは、快復するにつれ様々な話をホラシアに打ち明けた。ゲイであることを家族に理解されず死ぬためにこの土地へ来たことや、信仰心から自殺はできず野垂れ死ぬのを待っていること、複数の男にレイプされホラシアの元へ助けを求めにきたことなどを語った。ホラシアは彼の話を優しく聞き入れ、自身もまた、彼に半生を語ったのだった。
ところが、ホランダはホラシアが刑務所にいたことを知っていた。ペトラの供述書を勝手に読んでいたのだ。これに激怒したホラシアは彼に銃を向けたが、冷静になった彼女はロドリゴを殺そうとしていたと告白。ホランダが来なければ殺人犯になっていたと自戒の念を吐露し、彼に感謝を伝えると眠りについた。ホランダはソファで眠るホラシアを見つめると、銃を持ち彼女の家を後にした。
翌日、ホラシアは、バロット売りからロドリゴが教会でゲイに殺害されたことを聞く。逮捕されたホランダは動機を「お礼がしたかったから」と語り、ホラシアは放心状態のまま故郷へと戻った。
故郷に戻ったホラシアは、息子の情報を載せた尋ね人のビラを街中に捲いていた。ウニオンより栄えているその街の道路は、彼女のビラで埋まっている。憔悴しきったようなホラシアは、道を埋め尽くすビラの上を、いつまでもグルグルと回っていた。
映画『立ち去った女』の感想・評価・レビュー
3時間に及ぶ上映時間だが、一度目を離すとあっという間に起承転結を展開している不思議なスピード感を持った映画だった。
長回しの映像や無音の風景映像が繰り返される作りなので、多少の倦怠感は否めなかったが、感情の移り変わりや内面、人の本質を映し出そうという気概を感じた。
ホラシアの呼び名が沢山あったりホランダのマイノリティについてラストまで説明が無かったりと、フィリピーナの顔を見慣れていない私にとっては、モノクロの映像も相まって難解な展開が多かった。(MIHOシネマ編集部)
本作は、かつての恋人に嵌められ、無実の罪で30年服役していた女の出所後の復讐劇を描いたフィリピンのヒューマンドラマ作品。
自然な演出と演技がドキュメンタリーを見ているような感覚になった。
また、映像はモノクロだがとても美しくて引き込まれた。
復讐を企てる主人公を軸にフィリピンの空気感や社会問題を描いているところも面白かった。
主人公を思うと胸が苦しくなるような結末。
3時間48分という長尺の長回し映像なので、観る方も気合を要する作品。(女性 20代)
フィリピンという土地の特徴についてよく知らない私は、これがこの国の普通なの!?と驚くシーンが沢山ありました。自分の国の普通は、他の国では通用しないのだと恥ずかしくなります。
自分をはめた元恋人に復讐するストーリーなのですが、とにかく長いです。登場人物の名前が似ていたり、呼び方がコロコロ変わるので集中して見ていないと置いていかれてしまいます。
私自身も、しっかり集中してみていたつもりでしたがラストシーンの心情を上手く読み取ることが出来ず、もう一度見直したいなと思います。(女性 30代)
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