映画『スリー・ビルボード』の概要:ミズーリの片田舎にある野立て看板に、娘を殺された母親がとんでもない広告を出す。小さな町で起こった事件をきっかけに始まる怒りの連鎖は、見事な脚本と演技によって十分なリアリティを生み出している。
映画『スリー・ビルボード』の作品情報
上映時間:116分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:マーティン・マクドナー
キャスト:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ etc
映画『スリー・ビルボード』の登場人物(キャスト)
- ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)
- 娘をレイプされ、殺された母親。未だに犯人が捕まらないことに腹を立て、ウィロビー署長を名指しして看板に広告を出す。娘のほかに息子がひとりいる。夫とは離婚しており、夫には19歳の恋人がいる。
- ウィロビー(ウディ・ハレルソン)
- ミズーリ州エビングの警察署長。町の人たちからは好かれ、頼りにされている。癌を患っており、余命いくばくもない。美しい妻と幼い娘がふたりいる。広告を出されたことで、レイプ殺人事件をもう一度、捜査し始める。
- ディクソン(サム・ロックウェル)
- エビング警察署の警官。レイシストの母親に育てられたため、本人も差別的な性格。少し頭が悪く、そのせいか暴力的な側面が強い。自制心も弱く、すぐにキレてしまうところがある。将来は刑事になりたいと思っている。
- レッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)
- 広告代理店のオーナー。ミルドレッドに野立て看板を貸し出す。若者っぽい飄々とした物言いをするが、のちにディクソンからひどい目にあわされる。
映画『スリー・ビルボード』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『スリー・ビルボード』のあらすじ【起】
ある朝、ミルドレッド・ヘイズは広告代理店のドアを叩いた。人もほとんど通らない田舎道の、ボロボロになった野立て看板に広告を出したいという。ミルドレッドは、代理店のオーナーであるレッドに前金の5000ドルを渡すと、すぐに作業に取りかかるように言った。
深夜、警官のディクソンがパトカーで巡回中に、野立て看板で作業をする男たちを見つける。不審に思い、看板を見上げてみると、そこには赤い下地に黒い文字で広告が出されていた。三つの野立て看板には、それぞれ“なぜ、ウィロビー署長”“犯人の逮捕はまだ?”“レイプされて死亡”と書かれていた。
驚き、憤慨した警察官たちは法律違反だとレッドを責めたが、法には触れないという。署長のウィロビーは、この広告主がミルドレッドだとすぐに気がついた。
ミルドレッドにはアンジェラという娘がいた。彼女はレイプされ、その後、殺されてしまった。何か月も経つというのに、何の進展もないことに業を煮やしたミルドレッドは、強硬手段に出たのだ。この看板にはマスコミもすぐに飛びつき、看板騒動は一瞬で田舎町に広まっていった。
ウィロビーはミルドレッドに会いに行き、アンジェラの捜査は可能な限り行ったと弁解する。俺だけ責めるのはフェアじゃないと言うが、ミルドレッドは聞く耳なしだった。ウィロビーは、実は自分は癌なのだと告白。だが、ミルドレッドは顔色も変えず、“そんなことは町中が知っている”と答えた。知っていてあんな広告を出したのか、と問い詰めるウィロビーに、死んでから広告を出しても意味がないと、ミルドレッドは言い放った。
映画『スリー・ビルボード』のあらすじ【承】
ミルドレッドは歯医者に行った。ウィロビーの味方である歯医者のあからさまな態度に、ミルドレッドは歯科器具で、彼の爪に穴を開ける。ウィロビーに警察署へ連れていかれ、事情聴取が始まった。頑ななミルドレッドの態度に、ウィロビーは挑発的な取り調べをするが、その最中に突然、吐血してしまう。思いがけないことに戸惑う二人だったが、ミルドレッドはすぐさま警官を呼びに行った。
広告のせいで、町の人からは白い目で見られ、息子ともギクシャクしはじめる。ミルドレッドはアンジェラとの最後の会話を思い出していた。夜、出かけたいというアンジェラに、車を貸さず、歩いていけばいいと言ったミルドレッド。怒ったアンジェラは“途中でレイプされても知らないから”と言って出ていく。その背中に、“あんたなんかレイプされればいい”とミルドレッドは叫んだ。なぜ、あの時、あんなことを言ってしまったのか。
元夫のチャーリーが訪ねてきた。内緒で広告を出したことに激怒していた。二人は口論となったが、チャーリーは去り際に、アンジェラはミルドレッドの元を離れ、自分と暮らしたがっていたのだと言った。それを聞いたミルドレッドはショックを受ける。
レッドから広告費について話をされたミルドレッド。以前に渡された5000ドルは前金なので、今月分の支払いがまだだという。困っているところへ、秘書が封筒を持ってやってきた。その封筒には5000ドルと“広告費として使ってください”というメモは入っていた。封筒には名前の記載がなく、メキシコ人の配達人が持ってきたという。誰かは分からなかったが、ミルドレッドはもうひと月、広告を出しておくことが可能になった。
ウィロビーは妻と娘たちと共に、幸せな一日を過ごしていた。だが、その日の夜、彼は馬小屋でピストル自殺する。妻に残された手紙には、残りの数ヵ月を一緒に過ごせたとしても、つらい思い出だけが残るだろう。今日、過ごした最高の一日を憶えていてほしい、と書かれていた。
ディクソンはウィロビーの死を知って号泣。差別的で、すぐにキレてしまう性格のディクソンは自暴自棄になり、ウィロビーを中傷する広告を取り下げないレッドに腹を立て、彼を代理店の二階の窓から放り投げ、暴行を働いてしまう。
映画『スリー・ビルボード』のあらすじ【転】
ウィロビーの後任の署長がやってきた。黒人だったことから、ディクソンは差別的な発言をしてしまう。日頃から、差別や暴力を平然と行っていたディクソンは、新署長に即刻クビを言い渡されてしまった。
ミルドレッドの店にウィロビーの妻がやってきた。ウィロビーから、ミルドレッド宛の手紙があるという。手紙には、犯人を逮捕できなくてすまないと書かれていた。そして“俺の死は広告とは無関係だが、広告を出すのは名案だった”と続いたあと、ちょっとした悪ふざけだが、来月の広告料を支払ったと書いてあった。届けられた金は、ウィロビーからのものだったのだ。
ある夜、ミルドレッドが息子と帰宅途中、看板が燃えているのを発見する。ミルドレッドは火を消そうと奮闘するが、空しくも看板は三つとも全焼してしまった。だが、このことでミルドレッドの心に怒りの火がついてしまう。
自宅でダラダラとするディクソンに、署から電話がかかってきた。ウィロビーからの手紙があるので、署に取りに来いという。夜、誰もいなくなった署にやってきたディクソンは、そこで手紙を開いた。“お前はまっとうな人間だがキレやすいのが欠点だ。刑事になりたいのなら大切なのは憎しみではなく愛。愛があれば冷静さと考える力を得る”ウィロビーの手紙には、そう書かれていた。
同じ頃、怒りにかられたミルドレッドは警察署に向かって、火炎瓶を投げつけていた。署内にいたディクソンは放火に気がつき、燃え広がる炎の中から、アンジェラの資料を掴むと、火だるまになって署から脱出した。無人だと思っていたミルドレッドは驚愕してしまう。偶然に通りかかった小男のジェームズがディクソンを助け、ミルドレッドのことも放火犯ではないとかばってくれた。ミルドレッドはお返しに、ジェームズと食事の約束をする。
大やけどを負ったディクソンは入院することになった。運ばれた病院で、レッドと同じ病室になってしまう。顔中、包帯でグルグル巻きだったため、ディクソンと気がつかないレッドは、優しい言葉と共にジュースを進めてきた。ディクソンは思わず、泣きながら“すまない”と口にする。レッドは、相手がディクソンだと分かり、憤慨するが、それでもジュースを彼のもとへと持ってきてくれた。
ミルドレッドの所へ、ジェロームという男がやってくる。彼はあの野立て看板に広告を貼りつけた作業員だった。彼は、失敗したときのために、予備をもらっているという。三枚の看板には、再びミルドレッドの広告が貼り出された。
ジェームズとの約束を果たしに、ディナーへとやってきたミルドレッド。そこへ、元夫のチャーリーも若い恋人を連れて現れた。ジェームズが席を外した時、ミルドレッドの元へやってきたチャーリーは、酔った勢いで看板を燃やしてしまってすまないと、悪びれもなく謝ってきた。そして、恋人が“怒りはさらなる怒りを来す”と言っていたと語ると、自分の席へと戻っていった。気分を害したミルドレッドは、ジェームズに冷たいことを言って怒らせてしまう。だが、その時に気がついた。彼女はチャーリーと恋人の席へと行くと、“その子を大切にしなさい”とだけ言い、店を後にした。怒りについて、彼女は考え始めたのだ。
映画『スリー・ビルボード』の結末・ラスト(ネタバレ)
退院したディクソンはバーに飲みにきていた。そこへ、二人のよそ者の男たちがやってくる。彼らはディクソンの後ろで話しだした。一人の男が、俺は女をレイプしたことがあると言いだし、内容もアンジェラの事件とよく似ていた。ディクソンは一度、外へ出てから車のナンバーを確認すると店内に戻った。そして、男たちにちょっかいを出し、顔をひっかくことに成功。男たちはディクソンを暴行して逃走するが、ディクソンの爪の間には、男の皮膚がちゃんと残っていた。これでDNA鑑定をすることができる。
ディクソンはミルドレッドのもとを訪れ、犯人を逮捕できるかもしれないと告げた。ミルドレッドはディクソンに“ありがとう”と告げる。だが、あの男はアンジェラ殺しの犯人ではなかった。事件当日は、国外にいたのだそうだ。しかし、男がレイプ犯であるのは確かだった。
ミルドレッドはディクソンからの電話で、犯人ではなかったと言われる。落ち込むミルドレッドに、ディクソンは言った。“あの男がレイプ犯なのは確かだ。住所も分かっている”その言葉で、彼が何を言いたいのか理解したミルドレッド。
朝、二人は男が住んでいるアイダホに向かって車を走らせていた。ミルドレッドは自分が警察署の放火犯だと告白したが、ディクソンは“あんたしかいない”と言い、怒ってもいない様子だった。ミルドレッドは“あの男を殺すって決めたの?”と問いかけた。“あんまり”と答えるディクソン。ミルドレッドも“あんまり”な気分だった。だが、“道すがら決めればいい”とだけ言うと、二人はそのまま、車を走らせ続けたのだった。
映画『スリー・ビルボード』の感想・評価・レビュー
娘を強姦・殺害された母親の、葛藤と行き場のない怒りが描かれています。どうしたらよかったのか、何が正しいのか、ただひたすらに考えさせられた映画です。行動を起こせば起こすほど、深刻になる事態は見ていられなかったです。怒りに対し怒りで返すことは、負の連鎖しか生まないことを学びました。結末を見せずに終わったこと、ラストで唯一見せた彼女に笑顔の意味は何なのか、その後の展開を考察せずにはいられません。救いはもう無いような気がします…(男性 20代)
娘を殺された母親が、進まない捜査に怒りを覚え、警察を批判する広告を道端に立てたことを発端にして起こる出来事を描いた映画です。
犯人は誰なのか、ということもストーリー上キーポイントではありますが、それ以上に人にはそれぞれストーリーや隠された秘密があること、人間関係の複雑さもまた、重要なポイントです。
こうして書くと、とても暗いストーリーの映画のように見えますが、映画自体は軽い雰囲気で、時々笑いすら差し込まれます。
見た後にはきっと誰かと感想をしゃべりたくなる、そんな映画でした。(女性 30代)
あらすじを読んでかなり重々しい内容を想像し見るまで敬遠していたが、犯人探しのサスペンスと思いきや、ヒューマンドラマであった。話の展開の面白さや内容の深さに最後まで目が離せなかった。
犯人探しが目的であるはずなのに、その目的から逸れて負の連鎖を起こしてゆく。憎しみや怒りによる過激な行動の数々はあまりにもやりすぎで思わず笑ってしまう場面もあった。
先の気になるエンディングではあったが、憎しみの先に希望の持てるストーリーに胸が熱くなった。(女性 30代)
ショッキングな事件が物語の軸になっているが、それだけではなく登場人物達それぞれのやり取りが深く考えさせられ、見応えがある作品だった。ミルドレッドと娘の最後のやり取りが描かれており、苦しい気持ちになった。犯人に対しての怒りはもちろんのこと、娘を守れなかった自分自身への怒りもあったのではないかと思う。
亡くなってからもウィロビー署長の優しさが感じられた。ミルドレッドの気持ちが分かるからこそ、広告を出す手助けをしたのではないかと思う。(女性 30代)
全体的に鬱々として重苦しく、これでもかという程人間の負の感情をさらけ出してくるので、観ていて非常に疲れるが、観終わった後の圧倒的な満足感と心地よい疲労感は観て良かったと思わざるをえない。
ミルドレッドやディクソンといった強烈なキャラクターたちがうごめく中で、レッドのごくごく普通の優しさが光る演出が非常に良かった。一度は自分を殺そうとしたディクソンにオレンジジュースを渡してあげるシーンは、この作品の象徴的なシーンだと思う。(女性 30代)
人間の全てが詰まった素晴らしい作品でした。サスペンスを期待して鑑賞すると、個性が強すぎるキャラクターに圧倒され、いつの間にかその人間ドラマに引き込まれてしまうでしょう。
1番印象的だったのは怒りは怒りしか生まないと言う明らかなメッセージと、それを炎を用いて表していたことです。娘を焼き殺され、建てた真っ赤な看板は炎に包まれ焼き尽くされる。特にこのシーンは強く印象に残っていて、復讐の無意味さや哀れさを感じました。
モヤモヤする終わり方なのでスッキリはしませんが、1度は見るべき作品です。(女性 30代)
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