映画『トム・アット・ザ・ファーム』の概要:僕たちは、愛し方を学ぶ前に、嘘のつき方を覚えてしまったのかもしれない・・・。保守的な田舎町で恋人の葬儀に参列した青年は、そこで家族の惨状を目の当たりにする。
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 作品情報
- 製作年:2013年
- 上映時間:102分
- ジャンル:サスペンス、ミステリー
- 監督:グザヴィエ・ドラン
- キャスト:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、エヴリーヌ・ブロシュ、リズ・ロワ etc
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 評価
- 点数:80点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★☆☆
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『トム・アット・ザ・ファーム』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 あらすじ【起・承】
ケベックの広告代理店に勤めるトム(グサヴィエ・ドラン)は、交通事故で死んだパートナーのギヨームの葬儀に参列する為、彼の実家を訪問する。
そこは保守的な田舎町で、ギヨームの母アガット(リズ・ロウ)は、トムをギヨームの『友人』だと思いこんでいた。
アガットは、ギヨームの恋人のサラ(エヴリーヌ・ブロシュ)が来ないのは何故と逆にトムに尋ねる始末。
何の事か判らないという顔をしているトムの前に現れたのが、ギヨームの兄フランシス(ピエール・イヴ・カルディナル)だった。
フランシスは、トムの存在は弟から聞いていて知っていた。
不機嫌な彼は、家族の面目を保つ為にも友人という嘘を突き通せとトムを脅す。
トムは逃げようとするのだが、フランシスに脅され、留まる事に。
トムは葬儀に参列し、ギヨームの家が異様に周囲の面々から距離を置かれている事に疑問を感じる。
それは都会で育った彼には想像もつかないマイノリティへの差別があったからだった・・・。
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 結末・ラスト(ネタバレ)
何度もこの家から逃れようとするものの、戻ってきてしまうトムに、サラは不安感を感じ、一緒にこの町を出ようと言うが、
トムはストックホルム症候群になったかの様に、フランシスに依存してしまう。
やがてトムは何故この家族が、保守的な田舎町の人間の人間に異様なまでに避けられているのか、バーのマスターから理由を聞いてしまう。
保守的なクリスチャンばかりが住むこの町ではギヨームがゲイである事は受け入れられなかった。
それはやがて町の公然の秘密となり、町の者は露骨に家の者との関わりを避ける様になった。
ある日、バーでギヨームがゲイである事をフランシスの前でからかった人間が口を裂かれるという大怪我を負った。
フランシスがギヨームを庇ったという事よりもフランシスにまで性的マイノリティの疑いがかかり、家族は住んでいながら居場所を失っていた。
家に変えると、納屋で大音響の音楽を流しながら、フランシスはトムを相手にタンゴを踊る。
町に対するどうしようもない怒りがありながら、自分病んだ母を見捨てられず町から抜け出す事が許されない、その怒りをトムにぶつけていた。
ラストは、トムがサラの説得により、ギヨームの故郷に背を向け、去っていく。
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『トム・アット・ザ・ファーム』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
保守的な町に波紋を広げた一人の『影なき男』
映画の舞台となるのは、おそらく米国の白豪主義な田舎町だろう。
トウモロコシ畑が延々と広がり、人々は白人が多く、何事に対してもマイノリティがいない。
だが人々は、居心地の良さに甘えてしまい誰もが出て行こうとしない。
そんな中、ギヨームが居心地の悪さを感じ、家族に対する責任を取らず出て行き、亡くなった事から悲劇は起きる。
映画の中で、ギヨームは『存在』として描かれるが、俳優はキャスティングされていない。
そこが不気味さを感じる所でもある。
町を抜けたくても抜け出せない家族
そこに現れたのがギヨームのパートナーだったトムである。
トムは、ギヨームの家族が村八分になっている事も、家族が町そのものに対してうんざりしている事も知らず、
葬儀に参列する為、町を訪れる。
そこで感じた異様な空気から、ギヨームの家族が、この町から抜け出したくても抜け出せない生き地獄を味わっている事。
それが他でもない自分のパートナーのせいだった事を思い知らされる。
劇中で母親のアガットが、家族の自慢だというパスタサラダをいきなりゴミ箱に捨てるシーンがある。
ギヨームの思い出になるものは、彼女にとって総てうんざりしている、病んでいる証拠なのだ。
アメリカにはうんざりの意味
映画のラストで、フランシスはUSAの文字が入った革ジャンを来てトムを仏頂面で見送る。
エンドロールに流れる曲は、『Going To A Town』。
曲のサビで繰返されるのは『アメリカにはうんざりだ』というフレーズだ。
米国がそうである様に、相手をいい様に飼いならそうとするフランシスのエゴに、うんざりしたトムは、
保守的な町から去っていく。
所詮自分が選んだパートナーも、保守的な米国を捨てきれなかったと裏切られた気分になりながらトムは去っていく。
閉塞的で、登場人物達に引っ張られて鬱々とした気持ちになる作品だった。この作品の監督を務めたのが、主演も務めた25歳のグザヴィエ・ドランだというのが驚きだった。グザヴィエ・ドランの表情の演技が秀逸で、美しさを感じるとともに存在感のある人だなと思った。
なかなか住んでいる村から出られなかったり、家族と離れられない気持ちは分からなくはないなと思った。ただ、小さなコミュニティで過ごしていると、人間はダメな方に染まっていきやすいのかもしれない。(女性 30代)
映画『トム・アット・ザ・ファーム』 まとめ
この映画が教えてくれるのは、田舎や保守的な郊外、同じ考えの者が集ったサークルに参加すると、
最初は様子を伺ってみても、そのうち無言の暴力を感じる様になるというものだ。
監督のグサヴィエ・ドランは、若干25歳でカンヌ映画祭の審査員を勤める程の鬼才であり、この作品は、
審査員に任命されるまでに撮影したもの。
彼自身の生き様の苦悩が詰まっている作品とも言える。
映画業界が米国及び興行収入だけで評価される事を危惧した秀作と言えるのではないだろうか。
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