映画『敦煌』の概要:19世紀の終わり、昊高窟での大発見の裏で、書物を保存するために命をかけた当時の人間の物語を描く歴史スペクタクル。官僚試験に落ちた趙行徳は、新興国・西夏に興味を持ち都を目指した。彼は数々の困難に見舞われながら、戦禍に巻き込まれんとする文化遺産を守るため奔走する。
映画『敦煌』の作品情報
上映時間:143分
ジャンル:歴史
監督:佐藤純彌
キャスト:西田敏行、佐藤浩市、中川安奈、新藤栄作 etc
映画『敦煌』の登場人物(キャスト)
- 趙行得(佐藤浩市)
- 科挙の試験を受けるため宗にやって来た青年。想定外の出題に答えることができず落第し、西夏の都で“宝石の城”という意味の首都イルガイには、新しく華やかな文化があると聞き興味を持つ。シルクロードを西へ進んでいた際西夏軍に捕らえられ強制的に入隊、部隊長の王礼と親しくなる。ウイグル民族の王女ツルピアと恋に落ちるが、彼女は李元昊と政略結婚させられる。後、仏教典翻訳のため敦煌を訪れ、迫り来る李元昊から書物を守るため石窟を目指す。
- 朱王礼(西田敏行)
- 西夏軍、漢人傭兵部隊の部隊長。行徳の懸命な働きぶりに感心し、西夏語を学びたいと言う彼の願いを叶えようとする。行徳に代わりツルピアを匿っていたが、次第に彼女と惹かれ合う。自分からツルピアを奪った李元昊に復讐するため反乱を起こす。
- ツルピア(中川安奈)
- 西夏軍に制圧されたウイグル民族の王女。自分を助けてくれた行徳と恋に落ち、王家に伝わる二組の首飾りの内、一組を渡す。西夏語を学ぶため自分の元を去る行徳に代わり王礼に匿われ、彼にも首飾りを渡していた。ところが李元昊に見つかってしまい、強制的に政略結婚をさせられる。
- 李元昊(渡瀬恒彦)
- 新興国、西夏の皇太子。様々な国から傭兵を集め大軍を作り、宗を討つため周辺の国を支配下に置いていく。
- 曹延恵(田村高廣)
- シルクロードのオアシス、敦煌の大使。数十年かけて各国の財宝や経典、歴史書などの文化財を集める。李元昊が侵攻してくると知り、自分の財産が奪われるという不安から発狂してしまう。
映画『敦煌』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『敦煌』のあらすじ【起】
科挙の試験を受けた趙行得は、新興国・西夏の迫り来る脅威へどう対策すればよいかと問われた。西夏を単なる小国としか認識していなかった行徳は答えに詰まり、試験に落第した。
失意の中宗の街を歩く行徳は、心の中で「戦争などどうでもいい」と毒づいた。そこへ女の嬌声が聞こえ見ると、ウイグルの商人に騙されて売られた西夏の女が「体を売るつもりはない」と喚き散らしていた。彼女が顔や体を刃物で傷付けそうになったため、行徳は形だけ彼女を買い取り解放してやった。行徳に感謝した女は、西夏への通行証を手渡した。通行証にはできたばかりの西夏文字が書かれており、行徳は文化を生み出す力のある西夏へ憧れを抱いた。
宗を出てシルクロードを西へ進む行徳は、西夏の傭兵部隊に捕らえられそのまま入隊させられた。傭兵部隊は漢人で構成されており、部隊長の朱王礼は百戦錬磨の武人であった。王礼は、西夏の持つ軍隊には他にも多国籍の民族が在籍していると言った。
ある夜、王礼の部隊はウイグル民族の軍隊から奇襲を受けた。王礼は素人ながら奮闘する行徳の戦いぶりを認め、自分の従卒として側に置くようになった。
夜が明け、西夏の皇太子・李元昊が王礼の部隊を視察に来た。李元昊は行徳の持つ通行証に目を留めた。行徳が西夏語は分からないが漢字を書けると知った王礼は、李元昊への提出書類を作成するよう頼み、いずれ自分の碑を建てる時は傭兵全員の名前を記すよう託した。行徳は王礼へ、西夏語を学びたくて宗を出たと打ち明け、自分を都へ連れて行ってほしいと言った。
映画『敦煌』のあらすじ【承】
李元昊の指揮の元、砂漠の真ん中で西夏軍とウイグル族による戦争が開始された。ウイグルは弓矢やカタパルトを駆使し西夏軍を苦戦させたが、結果は敗北に終わった。勝利した西夏軍はカンシュウにあるウイグルの城を占拠し、残党を探していた行徳は兵士として戦っていたウイグル族の王女・ツルピアと出会った。行徳は彼女を匿い、やがて心を通わせた。
秘かにツルピアの世話をしていた行徳は、再び戦争へ向かうことを彼女へ伝えた。ツルピアは足を負傷して戻った行徳を出迎え、傷の手当をした。
快復し王礼に呼び出された行徳は、西夏の都・イルガイへ行けと言われた。李元昊から各部隊に一人ずつ西夏文字が読める者を置けと命じられた王礼は、行徳が西夏文字を覚えたがっていることを思い出し彼を抜擢した。またしてもツルピアに別れを告げようとした行徳だったが、彼女への想いは断ち切れず、二人は敦煌へ逃げることを決めた。
ツルピアと共に城を抜け出した行徳だったが、砂嵐に見舞われ方角が分からなくなってしまい、気付いた時にはカンシュウへ戻って来ていた。脱走兵として王礼の前に連れて来られた行徳は、最期の頼みとしてツルピアを匿うことを願った。二人の深い愛を知った王礼は、行徳がイルガイへ行くことを条件に二人を助けた。行徳は1年以内に必ず戻ると約束し、ツルピアから王家の首飾りの片割れを受け取りイルガイを目指した。
イルガイに到着した行徳は、必死に西夏文字を勉強した。1年が過ぎようとした頃、イルガイを訪れた李元昊は報告書を作成していた行徳を褒め、彼に辞書の編纂を命じた。
2年が経ち、辞書を作り終えた行徳は、ようやく李元昊のいるカンシュウへ戻ることになった。
映画『敦煌』のあらすじ【転】
カンシュウへ戻った行徳は、ツルピアがウイグル統治の道具として李元昊と結婚することを知った。王礼は、2年も彼女を放っておいた彼を責めた。
李元昊とツルピアの結婚式当日、彼女は李元昊を刺し殺そうとしたが失敗し、城壁から身を投げた。王礼は取り乱す行徳を抱き締めた。
再び戦の中に身を置く行徳は自暴自棄になり、真正面から敵へ突進し重症を負った。戦に勝った西夏軍だが、床に臥せる行徳は王礼へ「殺してくれ」と願った。王礼は「今はお前と俺とでやらねばならんことがある」と言い、彼を敦煌で療養させた。
敦煌に到着した行徳は、都の華やかさに驚いた。寺院を取り仕切る曹延恵は、行徳をはじめ西夏文字を理解する者を呼び集めると、仏教の経典を翻訳するよう頼んだ。さらに、自身が集めた各国の財宝や各宗教の経典、仏画、歴史書などを紹介し、敦煌の外れにある石窟寺院を案内した。行革は石窟に祀られた無数の石仏に魂を揺さぶられた。
一方の李元昊は、大国宗との闘いに備えるため、シルクロードの安全地帯である敦煌までも陥落させようと自身の軍を進めていた。
経典の翻訳に取り組む行徳だったが、そこへ戦を制した王礼の部隊がやって来た。再会を喜ぶのも束の間、彼は李元昊率いる別部隊が敦煌へ攻めて来ると明かした。
王礼が持ってきた李元昊の命令書には、敦煌の貿易権、財産、文化の全てを西夏へ吸収し、全ての大使は階級を剥奪するとあった。それを聞いた曹延恵は放心状態となったが、王礼はおもむろに「李元昊と戦いませんか」と提案した。李元昊への不満を募らせていた王礼は、今が好機とばかりに敦煌の兵を味方につけた。
行徳は、反乱には意味がないと悟っていた。王礼はそんな彼にツルピアの形見である首飾りの片割れを見せ、自分もツルピアに惚れ、首飾りを受け取ったのだと告白した。王礼はツルピアを奪い殺した李元昊への復讐を誓っており、それを知った行徳は彼に協力することを決めた。
映画『敦煌』の結末・ラスト(ネタバレ)
反乱決行の日。大軍を連れてやって来た李元昊を城へ招き入れる曹延恵は、不安のあまり失神してしまった。異変を感じた李元昊が周囲を見渡すと、城壁や物陰に隠れる無数の兵士がチラついた。王礼は一気に戦闘を仕掛けたが、混乱の最中李元昊は城外へ逃げ出した。
王礼の作戦は失敗に終わり、敦煌の街は大混乱に陥った。夜間再び攻め入って来た李元昊は街に火を放ち、曹延恵の寺院にいた者達は一冊でも多くの書物を残すよう奮闘した。行徳も彼らに協力したが、自身の財宝が失われる恐怖で錯乱した曹延恵は、周囲の制止も聞かず燃え盛る寺院へ飛び込んだ。
真正面から李元昊と対峙しようと目論んだ王礼は、行徳へツルピアの首飾りを渡すと、書物と一緒に石窟へ埋めてくれと頼んだ。最期の別れを惜しむ間もなく、王礼は李元昊を追い、行徳は石窟へ向かった。
行徳は無事石窟に到着すると誰にも見つからない横穴へ財宝を運び込んだが、王礼の率いる反乱軍は劣勢だった。李元昊を目前にした王礼は次々と襲い来る西夏軍に阻まれ、あと一歩のところで敗れた。
書物を隠し終えた行徳は、遠くに見える敦煌の様子を伺った。そこには王礼の軍旗が燃やされる光景が映り、彼の敗北を悟った行徳は項垂れた。石窟へ戻ると、共に書物を運び込んだ仲間達が皆殺しにされていた。王礼の元で共に闘い、敦煌でラクダ商をしていた戦友による裏切りだった。行徳は「財宝と首飾りを寄越せ」と迫る男を倒すと、体を引きずりながら近くの水場へ向かった。
行徳はそこに泳ぐ小さな魚達を見つめて涙した。
それから900年後、シルクロードの砂漠の真ん中で4万点を超す文献や法典、美術絵画が発見された。この発見は歴史に残る大発見となり、敦煌学という分野を確立させる程だった。
映画『敦煌』の感想・評価・レビュー
井上靖の小説『敦煌』を映画化。昊高窟で発見された多くの歴史的書物や絵画は、誰が隠したのか?本作では主人公の行徳が命をとして文化遺産を守っているが、実際には、誰がどのように関与していたのかという歴史上の記録は一切残っていない。
“隠された財宝”と聞くと、探検隊や墓荒らしなどがそれを発見するまでの困難な道のりをイメージする。『敦煌』では財宝を隠した張本人の軌跡と、その動機や背景を描いている。単なる“宝探し”の映画ではなく、何故隠さなければならなかったかをきめ細やかに描いている点が興味深い。(MIHOシネマ編集部)
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