映画『終の信託』の概要:2012年公開の日本映画。重度の喘息患者と恋に落ちた有能な呼吸器科の女医が、死を目前にした男に頼まれ安楽死させる。果たして罪なのか過失なのか意識的なのか。3年経った後、容疑者として検察庁に呼ばれた女医の運命と過去を描く医療系ヒューマンサスペンス。
映画『終の信託』の作品情報
上映時間:114分
ジャンル:サスペンス、ヒューマンドラマ、ラブストーリー
監督:周防正行
キャスト:草刈民代、役所広司、浅野忠信、細田よしひこ etc
映画『終の信託』の登場人物(キャスト)
- 折井綾乃(草刈民代)
- 呼吸器科の実力ある女医。勤務する病院で他の意志と不倫をしているが捨てられてしまう。
真面目だが執念深く、それでいて繊細な人柄。 - 江木 泰三(役所広司)
- 重度の喘息患者で折井の担当。折井を信用し安楽死を求める。
映画『終の信託』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『終の信託』のあらすじ【起】
折井綾乃は実力ある呼吸器内科の女医である。
彼女はその日、手に白い花束を抱えながら一人土手沿いの道を歩いていた。
彼女はその花束を堤防に置くと、その足で検察庁に向かう予定である。
検察庁に着くと受付で訪問名簿に名前を記入し、呼び出しの手続きを取った。
しかし、到着時間が約束より早く担当検事は外で待つように指示させる。
一人薄暗い待合室で座り、番をまつ折井は昔のことを思い出していた。
何故こんなところに座っているのだろう。
そんなことを思っていたら、自然にきっかけとなったあの出来事を思い出さずにはいられなかったのだ。
折井はベテランの呼吸器内科の医師として、患者からの信頼も厚い。
結婚はしておらず仕事だけの生活だったが、院内の医師と不倫をしている。
ある日、彼の出張をこっそり見送りにいった折井は、彼が妻とは違う女性と連れだって旅立つ姿を目撃してしまう。
帰国後彼に詰め寄ると、彼は折井と結婚する気など無いと残酷な物言いで伝え、折井はショックを受ける。
折井は失意の中、勤務中に体調不良を訴えた。
上司から休憩をもらうとその休憩室で薬を飲み自殺を図ってしまう。
見わりに来た看護師に発見され、救急で医師に処置をしてもらって助かるがその噂はあっという間に院内に広がった。
映画『終の信託』のあらすじ【承】
この自殺未遂は、職員はおろか患者にも知られてしまう。
だが院内で肩身が狭くなった折井に態度を変えずにいてくれたのが江木であった。
江木はそんな折井に自分が好きなオペラのCDを貸し、折井はそれを聞くと涙が流れてしまう。
その曲の素晴らしさを江木に伝えると、あれは喜劇なのだと言われた。
自分の失恋を思い、自分に重ねた折井は涙していた自分を恥ずかしく思ったと同時に、気持ちが軽くなる。
二人は次第に語り合うようになり、思い合うようになっていった。
江木の治療法を相談していると、江木は自分の重症度に気がついていながらも薬の使用を拒んでいるようである。
その理由を折井は江木が退院後に知ることになった。
たまたま江木の自宅近くに往診で来ていた折井は、江木が予てより体調が良い時に歩いているという土手に向かう。
そこでは予想通り江木が散歩をしていて、二人は会うことが出来た。
だが寒さと疲れで体調悪化を起こした江木を心配し、車の助手席に乗せると江木は静かに話し出す。
江木の妻は自分の両親の介護、今度は夫である自分の看病に終われた人生だった。
江木はもはや働ける体では無いため退職をしているし、妻も一人で働けるような女性ではない。
治療費もかさむため、少しでも金を残したいのだと言った。
江木は信頼している折井に、チューブに繋がれてまで生きたくないと言い、最後の時は折井に決めて欲しいと頼んだのである。
折井は頷いた。
映画『終の信託』のあらすじ【転】
その後、江木が心肺停止状態で搬送されてくる。
折井は必死に対処し、その結果何とか息を吹き返した。
だがすでに無呼吸の状態が長かった為、心肺機能は戻ったが低酸素で脳の機能は戻らなかった。
つまり人に生かされている状態になってしまったのである。
このことに折井は心を決め、家族に正直に江木の意向を伝えた。
そして今後、元気になる見込みは少ないとし家族で良く相談するようにアドバイスする。
家族はチューブを抜くことを決め、江木を楽にしてあげようとした。
折井がチューブを抜く日。
江木のベッドの周りには、家族と折井、看護師がいる。
そして一人ずつお別れの言葉をいうと、折井も挨拶をしてチューブや延命器具を外した。
暫くすると呼吸が苦しくなり、激しく体をのけぞりながら苦しみだす江木。
だが折井は薬を打ち続け、江木の呼吸は止まった。
折井は泣き崩れ「ごめんなさい」と江木に謝罪をする。
江木は心配する家族を楽にしてあげられ、折井はそれを手伝う形となった。
つまり「安楽死」を事実上手伝ったことになったのである。
映画『終の信託』の結末・ラスト(ネタバレ)
いよいよ折井は検事に入室を求められ、静かに中に入った。
検事は塚原という男だった。
彼女は江木の件で被疑者になってしまっていたのだ。
3年経った今になり罪を問われたのである。
塚原はいくつか質問をした後、江木が搬送された日について聞く。
あの日、搬送された日に折井が処置をした後は血圧も呼吸も安定したはずだという。
その発言に折井は、そんな簡単なことではないと怒りを露にした。
呼吸をしていると言っても弱く、全てが正常な訳ではないと。
だが塚原は自発呼吸をしたことと、彼があの時、脳死状態だったかどうかの事実を追及した。
折井は脳死と植物状態の違いは微妙であるとした上で、彼は脳死前の植物状態であったと言う。
そして、家族にこのまま生きることかチューブを抜くか相談しろと言ったことを追及された。
長男の証言により、折井はあの時「気管内チューブを抜くと最後になるから」と家族に話したと言うことが検事に伝えられていた。
しかし江木のチューブを抜いた時彼は酷く苦しみだした。
それは江木が脳死でも植物状態でも無かったことを物語っていると言う。
つまり江木には意識があり、チューブを抜かれた事で苦しんだのだと塚原に責められた。
さらに暴れる江木を静かにするため鎮静剤を乱用したのだと。
他の専門家に言わせると、江木は安定する要素があり自宅療養が可能だったと判断する。
家族はこれら一連の話により、折井に江木を死に至らせる選択しか与えられなかったと言う事での殺人罪での容疑だった。
折井は、すべては江木の希望だったと反論するが認められず、被害者は生きようとしていたのではないかと意見される。
結局証拠も無く、折井は逮捕されてしまった。
20日に渡る拘留の後、起訴された折井は法廷で江木の妻による喘息日記を提出する。
それは江木が長く自筆で書いたものであり、最後には延命治療を望まないと言う言葉も書かれていた。
だが、回復の見込みが無かったとは言えないとし、折井は執行猶予つきの2か月の判決が下されたのであった。
映画『終の信託』の感想・評価・レビュー
重いが、考えさせられる作品だった。雰囲気は暗く時間が長いため、苦痛に感じる人はいるかもしれない。それなりに覚悟を決めて鑑賞することをお勧めする。
周防正行監督作品らしい哲学的な作品だったが、「それでもボクはやっていない」と少し似た雰囲気を感じる。しかし今作はより重く苦しい、やるせない映画のように感じた。
検事役の大沢たかおが特に輝いていた。無慈悲に主人公を追い詰めていく姿は身震いしたほど恐ろしかった。法廷での大沢たかおと草刈民代の演技の応酬が、この作品の最も伝えたいメッセージのように感じた。(男性 20代)
安楽死をテーマにした作品は沢山ありますが、その中でも今作は一際重く暗い作品でした。
患者が望んでいたとしても、殺人になってしまうのか…いくら考えても正解はわかりませんが、患者の希望に応えたい医師の気持ちや、医師と患者の間にある個人的な感情などいつ、誰に起きてもおかしくない様なストーリーが描かれているのでとてもリアルでした。
終始怒りに満ちたような雰囲気だった大沢たかおの演技は圧巻で、彼の存在が作品の世界観に深みやまとまりを出していたように感じます。(女性 30代)
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