映画『家へ帰ろう』の概要:アルゼンチンに住むアブラハムは、老人ホームに入れようとする家族から逃れ、故郷ポーランドへの片道切符を買う。それは70年前、ホロコーストで傷付いた彼を助けてくれた、親友との約束を果たす旅であった。
映画『家へ帰ろう』の作品情報
上映時間:93分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:パブロ・ソラルス
キャスト:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラズ、ナタリア・ベルベケ etc
映画『家へ帰ろう』の登場人物(キャスト)
- ブルスティン・アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)
- ポーランド出身のユダヤ人で、戦後アルゼンチンに移住する。娘たちに屋敷を売却され、老人ホームに入れられる直前に逃げ出した。70年前の親友との約束を果たすため、ポーランドへ旅立つ決意をする。ホロコーストで痛めた右足を、愛着を込めて「ツーレス」(イディッシュ語で『問題』)と呼ぶ。「ドイツ」「ポーランド」の二語は絶対に口に出さないと決めている。
- レオナルド(マルティン・ピロヤンスキー)
- マドリード行きの飛行機で、アブラハムの隣の席に座る無作法な青年。スペイン入国の際にアブラハムに助けてもらったお礼に、マドリード市内で彼の手助けをする。
- マリア(アンヘラ・モリーナ)
- マドリードのホテルの女主人で、ジャズバーの歌手でもある。泥棒に金を奪われたアブラハムに、絶縁した娘に会いに行くよう説得する。
- イングリッド(ユリア・ベアホルト)
- パリの駅で困っていたアブラハムを助けようと、イディッシュ語で話しかけるドイツ人文化人類学者。心を閉ざす彼の力になりたいと優しく接する。
- ゴーシャ(オルガ・ボウォンジ)
- ポーランドの病院の看護師。緊急搬送されたアブラハムを担当する。退院後、彼を故郷のウッチへ連れて行く。
- ピオトレック(ヤン・メイゼル)
- アブラハムと兄弟のように育った幼馴染み。父親同士は師弟関係にあった。ホロコーストから戻って来たアブラハムを、父の反対を押し切って看病する。いつも眼鏡を掛けていて性格は大人しく、あだ名は「だんまり」。
映画『家へ帰ろう』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『家へ帰ろう』のあらすじ【起】
冒頭のシーンは約70年前。ユダヤ人の一族が集まり、アコーディオンやバイオリンの生演奏に合わせて楽しく踊る光景が流れる。
場面は現代に移り、年老いたユダヤ人のブルスティン・アブラハムは、アルゼンチンの自宅で孫たちに囲まれていた。しかし、彼の表情はどこか暗かった。なぜなら、娘たちに屋敷を売却され、老人ホームに入れられる直前であり、不自由な右足の切断手術を迫られていたからだ。
アブラハムは夜中に屋敷を抜け出し、ポーランドの親友に会いに行くため、格安チケットを買いに行った。彼は嫌な思い出しかない「ポーランド」という言葉は口にも出したくないため、受付に「ポーランド」と書いた紙を提示し、片道切符を購入した。
マドリード行きの飛行機に乗った彼は、無作法な青年レオナルドの隣に座り、しつこく話しかけて彼をどかせ、2人分の席を占領して横になった。やがて飛行機はマドリードに到着。彼は片道切符であったことを不審がられ、別室で入国審査を受ける。彼は係員に向かってユダヤ人が1945年以来初めてポーランドの友人に会うのだと説明し、審査を通過する。審査室を出ると、一文無しのレオナルドから助けを求められたため、チケット代を渡してあげた。その後、彼はレオナルドの案内で安ホテルに行き、夜の列車の時間まで体を休めることにした。
映画『家へ帰ろう』のあらすじ【承】
ホテルの部屋に入ったアブラハムは、「ツーレス」と呼ぶ不自由な右足を庇いながら横になった。彼は昔の夢を見た。それは物語を創作するのが好きな妹が、一族の前でお話を聞かせ、大人たちを笑顔にしている夢だった。
アブラハムはうっかり寝過ごし、列車に乗れなくなる。ホテルの女主人のマリアは、自身が歌手を務めるジャズバーに彼を誘った。彼女の歌を聞き、楽しいひと時を過ごした彼だったが、ホテルに戻ると泥棒に押し入られ、所持金が全て盗まれると分かりショックを受ける。
彼にはマドリード市内に勘当した末娘がいた。以前、親戚が集まる場で父に感謝をする言葉を言わなかったため疎遠になっていたのだが、マリアの説得で会いに行くことにした。
親子は数年ぶりに再会する。彼女は父を愛していない訳ではなく、言葉よりも行動で示すべきだという考えを伝えた。彼女の腕には、ホロコーストの入れ墨が彫られていた。それはホロコーストの子孫が歴史を忘れまいと刻む入れ墨だった。アブラハムは娘からポーランドに行く金をもらい、マリアとレオナルドに見送られて列車に乗った。
アブラハムは夢を見た。終戦間際、彼は右足を引きずりながら自宅に戻ると、そこは父の弟子一家の家となっていた。息子のピオトレックはアブラハムを追い出そうとする父親を突き飛ばし、彼を地下室のベッドで休ませるのだった。
映画『家へ帰ろう』のあらすじ【転】
列車はパリに到着。アブラハムは次に乗る列車がドイツを通過すると気付いて焦る。彼はどうしても、ドイツだけは通りたくなかったのだ。駅の案内人にそのことを説明しようとするがスペイン語が通じず、紙に「ノードイツ」「ポーランド」と書いても伝わらなかった。飛行機を使えばと言い返され、周囲の客に笑われて気分を害した彼は、その場を去った。
その様子を見ていた女性が、イディッシュ語で彼に話しかけた。彼は一瞬気を許したが、彼女がドイツ人であると知ると口を閉ざした。
彼は仕方なくドイツを通過する列車に乗った。そこで再びあの女性、イングリッドと会う。ドイツ人への憎しみを露わにする彼に、彼女は優しく話しかけ続けた。アブラハムは彼女に質問した。乗り換えのホームでドイツの地に足をつけずに、列車を降りる方法はないかと。彼女は自分の服をホームの床に並べて、その上を彼に踏ませた。彼はドイツの地に足をつけることなくホームを歩き、ベンチに座ることができた。
彼は家族の話をした。60人以上の親戚が集まる場にナチスが襲撃し、アコーディオンを弾いていた父と、バイオリンを弾いていた伯父が、頭を撃ち抜かれて死んだこと。10歳になっていなかった妹が、車の荷台にぎゅうぎゅうに押し込まれて運ばれてしまったこと。それは聞いた話ではない、この目で見た話なのだと彼は言った。
映画『家へ帰ろう』の結末・ラスト(ネタバレ)
イングリッドと別れ、ワルシャワ行きの列車に乗ったアブラハムは、周りがドイツ人ばかりで気分が悪くなる。さらに夢の中でナチス兵を見た彼は意識を失った。
彼はワルシャワの病院のベッドで目が覚める。看護師のゴーシャは、彼の足は切断される寸前だったが、一人の医師の反対で切断を免れたのだと明かした。その話に満足した彼は、退院したら故郷のウッチに連れて行ってほしいとゴーシャに頼んだ。
退院後、ゴーシャは約束通り彼をウッチに連れて行く。彼は兄弟同然に育った親友に会うのだと彼女に話した。親友ピオトレックはホロコーストから戻ったアブラハムを、回復するまで世話をしてくれた。しかし、いつか会いに行くと約束したのに、70年間果たしていない。そのことを彼は今も悔やんでいた。
ウッチの街はすっかり変わっていたが、路地に入るとその建物はまだ残っていた。しかし、かつて住んでいた部屋に人が住んでいる気配はなかった。諦めて帰ろうとした時、アブラハムは別の部屋のガラス窓の向こうで、ミシンの前に座る眼鏡の老人と目が合う。それは年老いたピオトレックだった。アブラハムは70年前に約束していた青いスーツを、ようやく彼に渡した。ピオトレックは「家へ帰ろう」と言って彼を抱き締めた。2人はゴーシャに見守られながら、家の中へ入るのだった。
映画『家へ帰ろう』の感想・評価・レビュー
ユダヤ人の仕立て屋の老人が70年前の親友との約束を果たすため、アルゼンチンからポーランドまで旅をするロードムービー。アブラハムは「ドイツ」「ポーランド」という言葉を絶対に言わなかったり、ドイツの地は踏まないと粘る頑固者だったが、旅の途中で出会う優しい人たちと接する中で、やがて心を溶かしていく。
アブラハムの末娘が父を褒める言葉を言わないというエピソードは、「リア王」に基づいているそうだ。実は娘に愛されていると分かり、きっと彼の心も癒えただろう。多くの犠牲を出した戦争を忘れてはならないということを、主人公の姿を通して静かに伝えていた。(MIHOシネマ編集部)
頑固で頭の固い嫌なおじいさんだったアブラハムが、昔の約束を果たすために命をかけた旅に出る物語。序盤のアブラハムは「ドイツ」「ポーランド」という言葉は絶対に口にしないと決めているひねくれたおじいさんでしたが、それには自分の経験や悲しい過去などはっきりとした理由がありました。それでも彼と出会った人々は彼に優しく接してくれて、最終的には70年前の約束を果たすことができました。一人では果たせなかったであろう約束。人に触れ、優しさを取り戻していくアブラハム。見所の多い素敵な作品でした。(女性 30代)
「家へ帰ろう」とはどういうことなのかと思っていたら、70年の時を超えた深い意味のある言葉でした。アブラハムにとってピオトレックとの約束は、生きていく支えになるほど大切なものだったのでしょう。再会を果たしたときの二人の何ともいえない表情が素敵でした。
家族とはあまり良い関係を築けていなかったアブラハムですが、旅の途中では優しい人たちとの出会いがあり、硬くなった心も少しずつほどけていくようでした。特にドイツ人の文化人類学者の女性、イングリッドとのシーンは印象的です。彼女との出会いによってアブラハムの辛い過去が少し癒されたのではないでしょうか。(女性 40代)
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