映画『ヴィタール』の概要:交通事故にて記憶を失い、自分が何者かすら分からなくなった主人公。彼が唯一、惹かれたものは解剖学だった。医大へ入り解剖実習にて、割り当てられた検体は若い女性の遺体。彼は徐々に解剖へとのめり込み、精神を病んでいく。
映画『ヴィタール』の作品情報
上映時間:86分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:塚本晋也
キャスト:浅野忠信、柄本奈美、KIKI、岸部一徳 etc
映画『ヴィタール』の登場人物(キャスト)
- 高木博史(浅野忠信)
- 交通事故で記憶を失うも、解剖学に興味を惹かれ、成績トップで医学部へ入学する。淡々としており、ほぼ無表情でいることがほとんど。
- 大山涼子(柄本奈美)
- 博史の恋人だった女性。左腕にタトゥーを入れている。博史とドライブ中、事故に遭い亡くなるも、遺体は医大の検体へと遺言を残す。
- 吉本郁美(KIKI)
- 博史のクラスメイト。生理学教授と密かに付き合っていたが、博史に興味を持ち惹かれていく。黒髪の美人で成績優秀。
映画『ヴィタール』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ヴィタール』のあらすじ【起】
高木博史は交通事故に遭い、生活動作や言葉以外の記憶を全て失ってしまった。両親の顔も住んでいた家も景色も思い出せず、途方に暮れている。
博史は幼い頃から両親の後を継いで医者になると言っていたようだが、大人になるにつれてその意志も無くなっていったらしい。
事故の傷も癒え自宅へ戻るも、その場所ですら記憶にない。博史は自室でクローゼットにある煙模様のような染みをじっと見つめ、はっとした。クローゼットを開けるとそこには、ガムテープで雁字搦めに封がしてある段ボール箱があった。箱にはバツ印がついている。中に入っていたのは医学書だった。
遅まきながら医大へ入学した博史。大学に近いアパートへ引っ越し、学校へ通い始めた。博史はとても優秀な生徒だった。大学試験も成績トップで入学したらしい。
だが、本人は意にも介さず、淡々としたものである。
座学が終わり、いよいよ実習に入る時がやって来た。密かにこの時を待っていた博史。
博史のグループに割り当てられたご遺体は、若い女性だった。先生が言うには、若い女性の検体は珍しいらしい。
解剖実習は淡々と進む。骨を開く時など、まるで大工のようである。医学生は詳細に渡り、内臓や人体構造を緻密にスケッチしてノートに残した。博史のグループの検体は、内臓に疾患が見当たらず、死因が分からなかった。
映画『ヴィタール』のあらすじ【承】
同じグループで解剖をしていた郁美は、早々にリタイア。彼女は検体の死因を知っていた。首元を見ることができたのは、博史と郁美だけ。検体の死因に苦しむ郁美を宥めたことがきっかけとなり、彼女と身体を重ねるようになる博史。
彼は夢に出て来た女性と、検体の女性が同じ人物であることを知った。
以降、博史の妄想と現実の狭間に現れる女性。彼女といる時だけ、何かを思い出せそうになる。
このことを父親に相談した博史。父親は事情を話した。事故以前、博史が運転する車に同乗していた女性大山涼子は、彼と恋人同士だった。だが、彼女は博史が目覚める寸前に亡くなっていた。更に、涼子は検体希望を出していたと言うのだ。そして何の因果か、博史の検体として割り当てられた。これが、偶然と言えるのだろうか。
博史は大山涼子の実家を訪ねた。涼子の両親は博史に対して、恨みを抱いている様子。だが、博史には事故以前の記憶がほとんどない。彼は検体として与えられた涼子の話をした。
当然、涼子の両親は激怒。涼子は死ぬ寸前に検体の希望をしていたらしく、両親はこのことを知らなかった。故に、彼らからしてみれば、大切な娘を殺した男が娘の遺体を切り刻んでいるということになる。倫理に反する問題であり、冒涜だと怒鳴られてしまう博史。
博史は先生に検体を独占させて欲しいと願い出るも、許してもらえるはずもなく。
実習は顔面の筋肉を見る項目に差し掛かっていた。
事故寸前の記憶が脳裏を過る。博史はあちらの世界で涼子と踊った。
博史の様子がおかしいことに気付いた郁美。彼に詰め寄るも、何も答えない。彼女は博史を尾行して涼子の家を突き止め、検体が涼子であることを知ってしまう。
映画『ヴィタール』のあらすじ【転】
博史がグループの生徒へと圧力をかけ始めた。郁美以外の生徒が全て、他のグループへと移って行った。彼は手袋を外して涼子の身体を解剖。愛を込めて撫で触った。
解剖実習は4カ月。梅雨が終わる頃には、涼子の遺体とも別れる。
博史は涼子の身体を隅々まで解剖し、スケッチに残した。父親は、あちらの世界とこちらの世界を、行ったり来たりする息子を心配している。
涼子と楽園で会っている時、郁美が博史の首を絞める。彼女は自分から離れていく彼に不安を抱き、そして嫉妬していた。
青い海の砂浜で、涼子が激しく踊っている。全身をわななかせ、砂に塗れながら。髪を振り乱し、高く飛んでは地面を這いずりまわる。博史は彼女から目が離せなかった。そうして、博史が帰ろうとすると、彼女は行かないで欲しいと駄々をこねるのだ。
そんなある日の夜、博史に警察から電話がかかって来る。郁美を保護しているから迎えに来て欲しいと言う。彼は雨が降る中を警察へ向かい、郁美を引き取った。彼女は死んだ涼子とは張り合えないと叫んでいた。
博史は父親に今の心境を赤裸々に話す。彼は涼子の死を受け止め切れず、正気を失いつつあるように見えた。父親は解剖実習をやめようと言うが、息子はそれを頑なに拒否するのだった。
その後も涼子と会った話を、彼女の父親へと話しに行く博史。涼子の父親はやがて、彼の存在を受け入れて、冷静に話せるようになっていた。
映画『ヴィタール』の結末・ラスト(ネタバレ)
涼子の母親が病で亡くなった。父親は博史に涼子が亡くなる間際までの話をした。そして、もう涼子の話をしに来なくてもいいと言う。だが、博史はまだまだこれからだと、異様な笑みを見せるのだった。
たった1人、検体の解剖を延々と続ける博史。教師でさえも、常軌を逸していると口々に言う。
やがて博史は、涼子といる世界を現実だと思うようになる。愛する彼女と共にいる、この世界が本物の世界なのだと。だが、涼子はそんな彼の前から忽然と姿を消してしまうのであった。
解剖実習の最終日。博史は涼子の遺体の旅支度を行う。彼の顔は亡霊のように病んでいたが、黙々と棺へと道具を入れ込んでいく。棺に涼子の名前を貼り付けて黙祷。
遺体は丁重に火葬場へと移送された。
何となく吹っ切れた様子の博史。彼は郁美に一言だけ謝って、空を見上げた。
涼子の火葬にて、彼女を見送った博史。彼はこれからも、医学を学びたいと望んでいるようだった。
映画『ヴィタール』の感想・評価・レビュー
塚本晋也監督の8作品目であり、数々の賞を受賞している。今作では肉体の内部を映し出す衝撃作だと言われている。
主人公を浅野忠信が演じているが、徐々にのめり込んで病んでいく演技が素晴らしい。演技派の彼だからこそ、異様さが演じられたのではないかとも思う。解剖による内臓を映しながら、主人公が失われた記憶を思い出し、自分の中に閉じこもっていく。なんとも皮肉な内容である。さすが、塚本晋也監督だと唸る作品。(女性 40代)
塚本晋也監督の8作目の作品で、海外の映画賞でも多くの賞を受賞している。肉体の内部を映し出す衝撃作と言われ、高い評価を得ている。初見では塚本晋也監督の作品とは知らずに鑑賞して唸った。時を経て改めて観直した時、奥の深さを知り高い評価を得ている理由が何となく分かった。現実と夢の狭間を彷徨う主人公を浅野忠信が演じているが、彼の演技力の高さは素晴らしく、病んでいく様子も酷くリアルである。作中で内臓をデッサンしているのだが、その絵も緻密で不気味さを演出している。さすがの塚本晋也監督作品である。(女性 40代)
浅野忠信の雰囲気と演技力で成り立った作品。浅野忠信というと『マイティ・ソー』などのハリウッド作品にも出演していますが、どの作品に出ても独特の雰囲気がありますよね。彼にしか出せないその雰囲気がこの作品を素晴らしいものにしていました。
事故で記憶をなくした男とその事故で亡くなった女。記憶をなくし、自分が誰かもわからなくなった男が「解剖学」と出会い、人の生と死を受け止めていくストーリー。
淡々としていて、とにかく無表情な浅野忠信を存分に味わって欲しい作品です。(女性 30代)
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