映画『私の男(2013)』の概要:幼い花は地震による津波の被害により、両親と兄弟を一度に亡くしてしまう。避難所でどうすればいいか分からず戸惑っていると、遠縁の親戚である腐野淳悟と出会う。花は淳悟の娘として引き取られることになった。
映画『私の男』の作品情報
上映時間:129分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:熊切和嘉
キャスト:浅野忠信、二階堂ふみ、モロ師岡、河井青葉 etc
映画『私の男』の登場人物(キャスト)
- 腐野淳悟(浅野忠信)
- 北海道では海上保安官として働き、東京に出てからはタクシー運転手として働いていた。母の首を絞める事件を起こしたため、親戚である花の家に一時預けられていた。
- 腐野花(中学~大人:二階堂ふみ / 10歳:山田望叶)
- 地震による津波の被害により、両親と兄弟を亡くす。遠縁の親戚である淳悟に引き取られることになるが、淳悟は実の父である。花自身もそのことを知っていながら、淳悟と肉体関係を持つ。
- 大塩小町(河井青葉)
- 淳悟と付き合っていた。花と淳悟の異様な関係に恐怖を抱き、逃げるように東京に行ってしまう。
- 大塩(藤竜也)
- 小町の祖父。地震による津波の被害を乗り越えて生きている花を、何かと気に掛けている。淳悟のことを昔から知っている。町の人達から慕われている。
映画『私の男』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『私の男』のあらすじ【起】
北海道で地震が起こり、多くの人が津波に流され亡くなった。10歳の花はたった1人生き残り、避難所で生活を送っていた。そんなとき、安置所に母の遺体を見つける。花は母の亡骸を一度だけ蹴るが、起きることはなかった。
花は1人の男性に興味を引かれ、近づいて行った。その男性は腐野淳悟といい、花の遠い親戚だった。淳悟は花の両親も兄弟も亡くなったことを知り、花を自分の子供として育てることを決める。花だけが生き残ったのは、花の父が花を負ぶって逃げてくれたからだった。淳悟はかつて問題行動を起こしたときに花の家に預けられていたことがあり、花の家族と面識があった。
救助活動に当たっていた大塩は淳悟が花を引き取ることに難色を示すが、淳悟の決意は固かった。仕方なく淳悟に花を預けることにした。淳悟が花を助手席に乗せて車を走らせていると、花は父と共に逃げているときのことを夢に見て泣き出してしまう。淳悟は花の手を握り、“今日から俺はお前のモノだ”と言葉を掛けて慰めた。
それから数年後。淳悟は大塩の孫の小町と付き合っていた。小町は淳悟と連絡がつかなかったことを不審に思い、何処に行っていたのか尋ねた。淳悟は1人で買い物に行っていった。小町は何を買ったのか探るため、淳悟がシャワーを浴びている隙にコートを漁った。コートの中からは、プレゼント包装された可愛らしいピアスが出てきた。小町は1人でホテルを出ると、そのピアスを車の窓から放り投げた。
映画『私の男』のあらすじ【承】
小町は知り合いから淳悟との結婚を急かされていたが、何も決まっておらず答えることができなかった。そんな孫の様子を、祖父は心配そうに見ていた。小町が会食の場を抜け出し1人で部屋にいると、淳悟が中学生になった花を連れてやって来た。淳悟は花が一緒だとよく笑っていた。そのことを祖父に指摘された小町は、複雑な思いを抱く。
淳悟と花は別室で休んでいた。小町が様子を見に行くと、花が淳悟の指をしゃぶり、淳悟は花の行為を微笑ましそうに眺めていた。小町はそんな2人の異様な雰囲気に気味が悪くなるが、淳悟と話し合いたいことがあったので、来て欲しいと声を掛けた。だが、断られてしまう。花の笑い声だけが部屋の中に響いた。
小町は花に会いに行った。花は誕生日にプレゼントされたピアスを口に入れて舐めていた。小町は“また淳悟は買いに行ったのか”と忌々しそうに呟いた。それを聞いた花は話題を変え、淳悟に殺されてもいいか尋ねた。小町が答えられずにいると、花は、自分は淳悟に殺されてもいいと思っていると答えた。淳悟は家族を求めていて、他人である小町ではダメなのだときっぱりと告げた。小町は何も言うことができなかった。
惇悟が仕事で家を空けていたため、大塩は花の様子を見に行った。仕事を終えると惇悟がきちんと家に帰ってくるため、花は特に心配も淋しさも感じていないようだった。大塩はそんな花と惇悟の親子関係を微笑ましく感じていた。だからこそ、小町が東京に行ってしまったことを悲しく感じていた。大塩は小町と惇悟の結婚を、本当は誰よりも望んでいた。
惇悟は仕事の呼び出しを受け、10日間ほどまた家を空けることになった。花が不貞腐れていたため、惇悟は花の体を求めて気を紛らわした。2人は親子にも関わらず、肉体関係があった。花は惇悟と体を求め合っているところを、窓から大塩に見られてしまったことに気付く。
映画『私の男』のあらすじ【転】
花は緊張した面持ちで、大塩に声を掛けた。だが、大塩が花のために旭川に行ってきたことを知ると、思わず逃げ出してしまう。花は大塩の制止を無視して、流氷の上を歩いた。大塩はそれでも花を追いかけるのを諦めなかった。大塩は惇悟を昔から知っており、カッとなったときに母の首を絞める事件を起こしたこともあったのだと花に話して聞かせた。大塩が旭川に行ったのは、花の父方のいとこがいるからだった。大塩は花に高校を出るまで旭川に行くことを勧めた。だが、花はそれを泣いて拒否し、揺れる流氷の上を逃げ惑った。大塩は花に、惇悟が実の父であることを告げようとした。だが、花は大塩に言われるまでもなく、そのことを知っていた。大塩は花と揉み合っている内に流氷の上に倒れ、そのまま流されてしまう。大塩は花に惇悟との関係を止めるよう声を張り上げて説得するが、花は“あれは私の全部だ”と言って関係を解消することを拒否した。大塩は助けを求めるが、花は助けることを拒否した。
大塩は流氷の上で凍った状態で発見された。花は大塩を殺したのは自分だと惇悟に話し、泣きながら惇悟の体を求めた。後日、惇悟と花は大塩の葬儀に参列した。大塩の体に痣があったことから、事故ではないと噂されていた。
惇悟はタクシー運転手として働き、花と共に東京で暮らしていた。惇悟は35歳になり、花は17歳になっていた。惇悟が家にいると、北海道にいたときの知り合いである、警察官の田岡が訪ねてきた。田岡は惇悟に、花が大塩の殺害現場で失くした眼鏡を取り出して見せた。惇悟は発作的に田岡を殺害してしまう。帰ってきた花は、家の惨劇を見て言葉を失くす。そして、しばらくそのまま蹲っていた花は、泣き笑いのような声を上げた。
映画『私の男』の結末・ラスト(ネタバレ)
尾崎美郎の先輩は受付嬢に惚れており、尾崎美郎と受付嬢の同僚の女の子(花)を誘って飲み会をセッティングすることにした。美郎は乗り気ではなかったが、先輩に逆らえず渋々飲み会に参加した。そこで、先輩が美郎の父親が、親会社の専務であることを暴露してしまう。美郎は嫌な気持ちになるが、花が特別興味を持ってこないことに気づき、好感を持つ。美郎は不思議な雰囲気を持つ花に惹かれていった。
惇悟は田岡を殺したことを文字通り“死ぬほど後悔”しており、家に引き籠って生活していた。花も後悔の念にさいなまれていたが、自分は悪くないと言い聞かせることで正気を保っていた。
美郎は花と飲んだ帰り、花をタクシーで自宅まで送って行った。惇悟に始発まで家にいればいいと言われ、美郎は戸惑いながらも自宅にお邪魔した。だがそこで、惇悟が花を寝かせるときの、2人の親密な雰囲気に違和感を覚える。その後、美郎は惇悟に唐突に服を脱げと命令され、恐怖心から大人しく従った。だが、体を触られたことで怒りが勝り、惇悟を突き飛ばした。惇悟は出て行く美郎に“お前には無理だよ”と伝えた。そして、惇悟は1人になると、涙を溜めながら“俺は親父になりたいのだ” と呟いた。それは、花も感じていたことだった。花も美郎と家族になりたかったのだ。
惇悟は3年ぶりに花と会い、花の婚約者の大輔と共に食事を共にした。惇悟は大輔に“お前には無理だよ”と言葉を掛けた。机の下では、花の足が惇悟の足を撫でるように触っていた。
映画『私の男』の感想・評価・レビュー
お互いに”家族”という垣根を超えて愛し合っている二人の話。
二人だけの世界という感じがして他人を寄せ付けない。決して共感できるような恋愛ではないし、悲しくて残酷で目を背けたくなるような、最初から最後まで真っ暗な作品。
むしろ二人が周りの理解など気にもしていない様子に、二人の強い絆さえ感じた。
最初は父が娘に執着しているけれど、最後には娘の掌で転がされていて完全に「私の男」となっているところにゾッとした。(女性 20代)
セリフが少なくナレーションもないため分かりにくいのですが、冒頭の震災は北海道南西沖地震です。二人の閉鎖的で異常な関係性について、終始不快に感じました。見た後は、多くの疑問と憂鬱さが残ります。しかし、この難しい役柄を浅野忠信と二階堂ふみの両者が体当たりで演じており、只々凄いと思いました。特に、花が醸し出す執着や独占欲、依存心にはゾクゾクします。流氷の上で花が「あたしは許す。なにしたってあれは私の全部だ」と叫ぶシーンは胸にズシリと響きました。(女性 30代)
最後まで暗く、じめじめとしている。中学生から大人になるまでの花を演じた二階堂ふみには凄みを感じた。
世の中のどこかにはこんな人たちもいるのだろうか。惇悟と花には全く共感できないが、お互いに依存し合うことで生きていられる関係というのは理解できなくもない。
二人がそれでいいなら勝手にさせておけばいいのに、気にかけて踏み込んでいく大塩は少しお節介に感じた。でも、虐待の可能性もあると考えると難しい問題である。
花は成長していくから、変わっていくのは仕方ない。それを予測できなかったのか、ひとり取り残される惇悟は哀れだった。(女性 40代)
みんなの感想・レビュー
浅野忠信と二階堂ふみの演技が素晴らしいことについて触れるのは野暮なので、演技については触れません。二人はお互いのすべてが理解できていた北海道での生活をある事情で捨て、上京します。そこから二人の心境に変化があったのか、二人が大人になったのか、互いの気持ちを理解できなくなってしまいます。花が同僚に「昔は淳吾の何もかもを理解できたけど、今はできない。子どもだったんですね」と話したり、帰宅した花が淳吾に向かって「何してるの?」と質問するといったセリフからこれがわかります。
で、最も難解なのは終盤ですよね。花が同僚を家に連れてきた時の淳吾の対応、結婚した花、その旦那と淳吾がレストランで食事をするシーン。これらは「互いの心境が理解できない」ということが深く関係しています。淳吾は花の気持ちを理解できないあまり心のバランスを崩しており、無職で花の収入に頼る生活をしていましたね。そして花の同僚を上半身裸にし、花の唾液の臭いを嗅いだり指を咥えたりします。花の気持ちが理解できていればお前を認めてやるけど、体から唾液の臭いがしないし指を加えられて嫌がっているようでは花の気持ちは理解できない。だからこそ「お前には無理だよ」というセリフが飛び出たのでしょう。
そしてレストランのシーンは、淳吾がついに花の気持ちを完全に理解できなくなってしまったことを表現しているのではと思いました。花よりも淳吾に気を使う旦那に対し「お前には無理だよ」と言い放つも、旦那が料理を注文している時に花から誘惑され、いよいよ混乱してしまった淳吾の表情。花のことはもう誰にも理解できなくなってしまったのでしょうね。