映画『彼女の人生は間違いじゃない』の概要:東北大震災から5年。福島県いわき市の仮設住宅で父親と暮らすヒロインは、平日は市役所で働き、週末は東京でデリヘルの仕事をしていた。被災した人々のリアルな生活や体験を描き、生きる気力を取り戻す様を描いている。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』の作品情報
上映時間:119分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:廣木隆一
キャスト:瀧内公美、高良健吾、柄本時生、光石研 etc
映画『彼女の人生は間違いじゃない』の登場人物(キャスト)
- 金沢みゆき(瀧内公美)
- 東北大震災後、仮設住宅で父親と暮らしている。無表情でいることが多く、週末は東京へ向かい父親に内緒でデリヘルの仕事をしている。母親は津波に攫われ未だに遺体が見つからない。耐え忍ぶ性格。
- 金沢修(三石研)
- みゆきの父親で農家をしていた。震災のせいで妻を津波で亡くし土壌汚染で農家の仕事もできず、気力を失っている。保証金で毎日、パチンコを打ちに行き夜は酒を飲むという自堕落な生活を送っていたが、みゆきに怒られ初めて前向きになり周囲を見る余裕ができる。
- 三浦秀明(高良健吾)
- 東京の渋谷にあるデリヘルに勤めている。みゆきをスカウトし、送迎と用心棒を兼ね彼女を見守ってきた人物。実は演劇人で恋人とは長い付き合い。後に双子を儲ける。
- 新田勇人(柄本時生)
- 福島県いわき市役所の広聴課所属。震災では家族全員が助かるもその後、ばらばらになってしまう。幼い弟がいるが、外で遊ばずゲームばかりして過ごしているのを心配している。
- 山本健太(篠原篤)
- みゆきの元恋人。震災により自分だけが生き残った罪悪感に苛まれ、みゆきに心無い言葉を放ってしまう。恋人関係をやり直そうとしているが、みゆきには拒絶されてしまう。
- 山崎沙緒里(蓮佛美沙子)
- 福島県いわき市の風景を好み、震災前から度々撮影に来ていた女性カメラマン。震災にて失われた景色を残念に思っている。地元住民に寄り添いながら撮影を行っている。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『彼女の人生は間違いじゃない』のあらすじ【起】
東北大震災から5年。福島県いわき市の仮設住宅に住む金沢みゆきは父の修と2人暮らし。母親は震災の津波で命を落としており、農家であった父親は土壌汚染で仕事を失い津波で妻を失い、生きる希望を失くしている。彼は毎日、パチンコを打って時間を潰し夜には酒を飲んで母親との思い出を語ってばかりいた。
平日は市役所で働くみゆきだったが、週末になると高速バスで東京へ。駅のトイレで化粧をすると電車で渋谷へ向かう。とあるビルの一室には事務所があり、彼女はそこへ出勤。従業員の三浦秀明から高校の制服を受け取り、彼の運転でとあるホテルへと向かった。みゆきは週末のみデリヘルで働いていたのだ。
デリヘルでの名前はゆき。客は様々で本番を要求されることも多々あるが、その日の客は乱暴で殴られてしまうみゆき。彼女はトイレに行くと逃れ、三浦へ連絡。事なきを得た。みゆきがこの仕事を始めてすでに2年が経過している。その頃から彼女を見守ってきた三浦は、仕事を始めたばかりの頃を思い出して笑うのであった。
そんなある日、住民説明会へ参加した修。彼は会場で親し気に話しかけてくる男と意気投合し、昼間から食堂で酒を飲もうとしていた。だが、男は高価な壺を売りつける悪徳セールスマン。幸い修は引っかからず逃げることができたが、震災で絶望する人々を狙い悪徳なセールスや詐欺に騙される人は多かった。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』のあらすじ【承】
同じ頃、市役所で働くみゆきのスマホに、かつての恋人山本健太からメールがくる。仕事が終わった後、彼と会うことにしたみゆき。山本とは震災後、彼のある一言によって傷つけられ距離を置いていた。
復興へ向かい歩み始めた当時、誰もが絶望し亡くなった人々に対して罪悪感を抱きながら、それでも生きなければならなかった。みゆきにとって恋人の山本とデートをすることで、多少なりとも救いになっていたが、彼は前向きになることができず、心無い言葉を放ってしまったのである。そのことを謝り、やり直そうと言う山本。だが、みゆきにはやり直す気など到底なかった。
その日の夜、みゆきは未だに絶望から抜け出せない父親に対し、保証金をパチンコで全て使い切ってしまう気なのかと憤りをぶつけてしまう。
一方、みゆきの同僚である新田勇人は、被災地の状況を教えたりする広聴課に所属していたがある日、行きつけの飲み屋に東京から来たという女子大学生と会う。彼女は被災地の今をテーマに卒論を書こうとしており新田に取材を申し込むも、震災があったあの日のことを思い出した新田は言葉に詰まってしまい、質問には何も答えられないのであった。
その日もパチンコへ行って勝っていた修だったが、娘から言われた言葉が引っ掛かり早々に帰宅。しかし、仮設住宅の隣人の奥さんが自殺しようとしていた場面に遭遇し、彼女を助けた。隣人は原発に勤めており震災後は風当たりがきつかったと言う。働く人々に罪はないはずだが、原発事故のせいで土壌汚染され仕事にならない農家や自宅へ帰れなくなった住民は多く、仕方ないと分かってはいても憤りをぶつけずにはいられなかったのだろう。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』のあらすじ【転】
みゆきが文句を言った翌日から修が酒を飲まなくなった。父親の変化を感じつつ、みゆきはいつも通りに東京へ行き、デリヘルの仕事を精力的にこなす。そこで三浦から子供が産まれるから、仕事を辞めるかもしれないと言われる。みゆきは彼に祝いの言葉を送ったが、三浦からはデリヘルはずっと続けられる仕事ではない。よく考えた方がいいと助言されるのだった。
夜になって帰宅したみゆきだったが、仮設住宅の駐車場で山本が待っている。彼は彼女とやり直したい一心のようだ。そこでみゆきは、今からホテルに行って自分を抱くことができたらやり直そうと言う。
ホテルへ入った2人は裸になって抱き合おうとするが、みゆきは思い切って彼にデリヘルのことを話した。それでも山本は彼女を抱こうとする。だが、必死な彼を目にしたみゆきは、自分の方が無理だと悟ってしまう。彼女は山本に別れを告げ、ホテルから帰った。
被災した福島の風景を撮影したいという女性カメラマン山崎沙緒里が取材に訪れた。彼女を案内した新田は、被災者に対し心遣いをしない女子大生に答えられなかったことを沙緒里に対して話して聞かせる。彼女には被災して失われた風景を悼む気持ちがあったからだ。新田の家族は避難できたため、全員無事だったが、父親が経営する工場が津波で流されてしまった。
以来、父親は毎日遊び歩くようになり、母親と祖母は救いを求め変な宗教に嵌って家に寄り付かなくなった。結局は被災したせいで、無事に生き残ったとしても家族はばらばらになってしまったのである。新田は沙緒里が撮った写真を皆にも見せたいと話した。
沙緒里は震災前から度々訪れ、撮影を行っている。彼女は新田の申し出を快く了承してくれた。
仮設住宅の一角を使い『きろく』と称して写真展を開催。新田とみゆきが沙緒里と協力して開いたものだ。そこには、以前あった美しい風景や人々の笑顔があり、震災後に失われた姿が如実に映し出されていた。その写真展へ訪れ、福島の記録を目にした修。彼は密かに前へ進もうと心に決めた。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』の結末・ラスト(ネタバレ)
金沢家は放射線にて立ち入りが制限された場所にあった。修は一時立ち入り許可証を手に震災後、初めて自宅を訪れる。町は閑散とし震災後の爪痕がそのまま残され荒れ果てていた。修は自宅にて津波に攫われ遺体も見つからない妻の衣類を集め、漁師の知り合いから協力を得て海へ。冷たい海に攫われた妻が寒くないよう衣類を海へ投下し、かあちゃん寒かったろうと叫んだ。そうすることで、修は喪に服す期間を終わらせたのだった。
再び週末が巡ってくる。事務所へ顔を出したみゆきは、三浦の姿がないことに気付く。代わりに入った若者によると、三浦は劇団に所属しており俳優としての仕事に集中するため、デリヘルの仕事を辞めたと言う。彼から三浦が出演する演劇を聞き出したみゆきは、劇場へ向かった。三浦の演劇を鑑賞した後、帰路につきながら彼と出会った時のことを思い出す。
震災後、みゆきもやはり周囲と等しく心を病んでいた。そこで、彼女はデリヘルの仕事をしようと思いつく。だが、面接を行った三浦はみゆきに対し、デリヘル嬢にはなれないと断言。彼は服を脱ぎ捨て全裸になった彼女に、自分の仕事はデリヘル嬢を守ることにあり、みゆきを特別に守ることではない。みゆきの事情は知らないが、自分には全く関係のないことだと言うのだった。
恐らく、みゆきは晴らせない憤りを晴らすために自分の身体を売ろうと考えたのだろう。だが、確かにその思いは自分にとっては大事なことであっても、他人にとっては全く関係のない話なのだった。三浦の演劇を観たことで、確固たる彼の意思を感じたみゆき。帰りはどこか清々しく、自然と笑顔を浮かべることができていた。
深夜バスにて地元へ戻ったみゆきは、通りかかったペットショップで子犬を発見。彼女は思いつきで子犬を購入し箱に入れて連れて帰った。修には駅の近くの公園に捨てられていたので拾って来たと話す。すると、父親はみゆきの行動を咎めるでもなく、子犬を大事に抱える。飼ってもいいかを聞くと、修はいつものように「おう」と返事をするだけだった。
その後、自室へ着替えに向かったみゆきのスマホに、三浦から双子が誕生したと写メが届く。父親は子犬を可愛がり、畑を耕す気力を取り戻した。
映画『彼女の人生は間違いじゃない』の感想・評価・レビュー
思わず共感してしまう映画だ。現代を生きる日本人なら忘れることが出来ない東日本大震災についてだ。生き残った人たちには明日が来る、望まなくとも来てしまうし、生きていかなければいけない。
主人公みゆきの生き残った罪悪感や生きにくさ、悲しみを抱えながらも前に進もうと悩む姿がとても印象的だった。みゆきだけでなく周りに人たちも同じように迷いながらも生きていく姿は、正しくもないかもしれないが、確実に間違いではないと背中を押してくれる。(女性 20代)
東日本大震災の後の被災者のリアルな生活や心情が伝わってきて、見終わった後は言葉にならなかった。ニュースだけでは分からない大変な部分や辛さ、頑張って生きなければならないともがく人々の姿が丁寧に描かれている作品だと思う。亡くなった方達も無念だったろうと思うが、仕事や家がなくなり、生き残った人達も日々を生きようと苦しんでいるのだなと思った。悪徳なセールスを始め、そんな彼らを騙そうとする人がいることが本当に理解できない。(女性 30代)
著者である廣木隆一が自らメガホンを取り、同名小説を映画化。東日本大震災にて被災した福島県いわき市に住む人々の生活や心情を繊細に描いている。
かつての風景が震災で失われ、これまでの生活が一変し誰もが希望を失う。凄惨な記憶はいつまでも居座り、前向きになるにはいくら時間があっても足りないと思う。実際に被災した当事者ではないが、懐かしい風景が失われ変貌してしまった景色に愕然とした経験は忘れられず、今作を鑑賞しあの頃のことを思い出しては泣きそうになった。闇雲に励ますこともできず、ただ寄り添って力になることしかできないもどかしい気持ちになったものである。今作は当事者の5年後の生活を如実に描き、彼らが前向きになる様子が描かれている。(女性 40代)
本作は、東北大震災から5年経過した福島県いわき市の仮設住宅で父親と暮らすヒロインが、平日は市役所、週末は東京でデリヘル嬢として働き、そういった被災者のリアルな生活体験や生きる気力を取り戻していく様子を描いたヒューマンドラマ作品。
「どこにいても、満たされて生きている人なんて、実はそんなに多くない」「死ぬ気で働かないと生きていけない」という台詞が心に突き刺さって、そうかもなと共感した。
これからどんな道を歩んでも、間違っていなかったと言える人生でありたい。(女性 20代)
東日本大震災を経験した人の中でも、被害に遭った人にしか分からない苦しみや後遺症のようなものがあり、それはいくら時が流れても消えることは無く、忘れることは無いのだと感じました。
今作で描かれるのは東日本大震災で被災した人達の物語。お見舞いの言葉や支援金、支援物資などでいくら「部外者」が手助けしても本人たちが受けた「苦しみ」は計り知れないもので、部外者ができるのは少しでも苦しみを和らげてあげることしかないのだと思います。メッセージ性の強い作品なので、沢山の人に見てもらい何かを感じて欲しいです。(女性 30代)
東日本大震災によって母を亡くし、父と暮らす主人公。家族は助かったがバラバラになってしまった人、放射能の影響で仕事を失った農家、様々な立場から震災の5年後を描いた作品。
主人公や父親が少しずつ前に進む過程を描くストーリー性もありながら、被災地に暮らす人々の悲しみや憤りを感じました。震災直後より報道も減り、東北に暮らしていない者からするとどうしても関心が薄れてしまいがちだが、被災者にとってはまだ終わっていない、ということに改めて気づかされました。
いくら復興が進んでも、失った家族や友人は帰ってこない。被災者にとって終わりなどないと、今まで気にも留めていなかった自分を反省しました。(女性 20代)
東日本大震災から5年、抱えきれない苦しみや虚しさを胸になんとか生きている、そんな女性を描いた作品。東日本大震災で家族を失ってしまった辛さは、当事者ではない私が簡単に共感できると言っていいものではないだろう。残された家族は微かな希望を胸に強く生きなくてはならない。この作品を観ると胸が苦しくなってしまう。全てを奪った災害に対する憤りや苦しみ、残されたものの絶望、どうにか生きていこうという想い、その全てが詰まった作品。大きな災害を経験していない人にこそ、観てほしい作品である。(女性 20代)
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