映画『アンナ・カレーニナ(2012)』の概要:1874年、帝政ロシア。政府高官の若く美しい妻と社交界で浮名を流す若い将校が出会い、許されざる恋に落ちる。一方、誠実な農場主は友人の妻の妹に恋をして求婚するが、断られてしまう。不実の愛と純粋な愛を比較し、人生の意義を描いた作品。
映画『アンナ・カレーニナ』の作品情報
上映時間:130分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:ジョー・ライト
キャスト:キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウ、アーロン・テイラー=ジョンソン、ケリー・マクドナルド etc
映画『アンナ・カレーニナ』の登場人物(キャスト)
- アンナ・カレーニナ(キーラ・ナイトレイ)
- カレーニンの若く美しい妻で18歳。大人びた容貌ではあるが、中身は世間知らず。社交界の掟を充分に理解しておらず、愛を求めるがゆえに自分の立場を見失ってしまう。
- アレクセイ・カレーニン伯爵(ジュード・ロウ)
- 有能な大臣。寛容で温厚な性格ではあるが、本当の愛を知らず、知ろうとも思っていない。不実を行った妻アンナとその愛人をも許すが、世間体を非常に気にしている。
- アレクセイ・ヴロンスキー伯爵(アーロン・テイラー=ジョンソン)
- 女性との浮名を流す将校。アンナへと本気になり彼女を追いまわして、とうとう振り向かせる。見目が良く誰もが憧れる社交界の花。
- コンスタンティン・リョーヴィン(ドーナル・グリーソン)
- アンナの兄の旧友で農場主。キティへと一途な愛を貫き誠実で温厚。実兄は不実を貫き出奔しているため、母親からは厳しく教育されている。
- エカテリーナ・シチェルバツカヤ(アリシア・ヴィキャンデル)
- アンナの兄嫁の妹でアンナと同い年の18歳。通称キティ。清楚で可愛らしい女性。ヴロンスキー伯爵との結婚を望んでいたが、相手にされずしばらくの間、床に臥せっていた。リョーヴィンの誠実さに気付き、結婚を了承する。
映画『アンナ・カレーニナ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『アンナ・カレーニナ』のあらすじ【起】
1874年、帝政ロシア。有能な政府高官アレクセイ・カレーニン伯爵の妻アンナ・カレーニナは、若く美しい18歳。彼女は兄夫婦の喧嘩を仲裁するため、夫に許しを得て実家のモスクワへと帰郷した。
コンスタンティン・リョーヴィンはアンナの兄の旧友で、農場主をしている。彼はエカテリーナ嬢に恋をし、勇気を出して彼女にプロポーズするも断られてしまう。エカテリーナはキティと呼ばれていて旧友の妻の妹だが、彼女は社交界で浮名を流す将校に恋焦がれているのだった。
蒸気機関車で同席となったヴロンスキー伯爵夫人と知り合いになったアンナ。彼女の息子で将校のアレクセイと挨拶後、実家へ。アンナが兄嫁を説得すると、どうにか離婚の危機は免れる。
その夜、兄夫婦が仲直りしたところで、舞踏会へ出席したアンナはアレクセイと再会。2人は互いに惹かれ合うも、アンナは夫を持つ身であり彼はキティの憧れであったため、深く関わらないようにし、ペテルブルクへの帰路に就くのだった。
映画『アンナ・カレーニナ』のあらすじ【承】
だが、アンナを追ってアレクセイもペテルブルクへやって来てしまう。社交界では女性の誰もが恋焦がれる若い将校が、アンナを追いかけ回していると噂が流れる。そのため、アンナも彼に会わないよう極力避けていたが、とうとう舞踏会で顔を合わせてしまい恋心に歯止めが効かなくなる。
当然、噂は夫の耳へも届いており、カレーニン伯爵は妻へ注意喚起を促すも、時すでに遅く。若い将校と若い妻は恋仲へと発展してしまうのだった。
一方、リョーヴィンはキティに求婚を断られた後、農場や農業改善へと熱心に取り組むも、キティが将校にフラれたことを旧友から知らされる。
アレクセイと逢瀬を続けていたアンナ。すでに噂は広まり2人の関係は暗黙の了解となっていた。そんな折、アンナが妊娠。アレクセイはこの知らせに大喜びし一緒になろうと言う。アンナは夫との離婚を決意するも、夫カレーニン伯爵は世間体を気にして離婚に応じてはくれなかった。
映画『アンナ・カレーニナ』のあらすじ【転】
数か月後、どうしてもキティを諦めきれないリョーヴィンは、再び勇気を出して彼女に求婚。
キティは彼の深い愛に気付き結婚を了承する。
一方、カレーニン伯爵は自分が仕事で不在の間に、自宅へ愛人を呼んだアンナに我慢ができなくなり、とうとう離婚を決意。だが、それを義兄嫁に説得され、思い悩んだ末に妻を許すことにするのだった。
しかし、アンナは出産後、肥立ちが悪く重篤になってしまう。このことにより、夫は愛人をも許すが、対してアレクセイは打ちひしがれアンナとの別れを決意。
しかし、別れたくないアンナはアレクセイと赤子を連れて、国外へと出奔してしまうのである。
映画『アンナ・カレーニナ』の結末・ラスト(ネタバレ)
同じ頃、キティと結婚したリョーヴィンは、実の兄が病に伏していると知らせを聞き、身重の妻を連れて見舞いへ向かう。兄を引き取って看病したいリョーヴィンは、キティに気を遣い看病は自分がすると話すも、キティはそれを断り率先して義兄の看病をするのだった。
しばらく後、ペテルブルクへ戻ったアンナとアレクセイは社交界から締め出され、白い目で見られるようになる。アンナが夫と離婚しないうちに、愛人と一緒になったからである。
恋は盲目とはよく言ったもので、若いアンナには周囲の状況がよく見えておらず、自分勝手な振る舞いから心を病み、アレクセイの愛をも疑うようになってしまう。
2人はその後、ヴロンスキー家の領地へと居を構えるようになるが、アンナは病み続けアレクセイを責める一方。うんざりした彼からも遠ざけられてしまう。アンナは自分の居場所を見失い絶望。列車へと身を投げて自殺してしまうのだった。
兄の死を看取ったリョーヴィンはその後、人生の意義について考え込むようになるが、子供が生まれ幸せな家庭を築くことで、その意義を見出すのだった。
映画『アンナ・カレーニナ』の感想・評価・レビュー
舞台劇と現実世界が入り混じった演出が特徴的な作品。衣装も音楽も美しかった。キーラ・ナイトレイとアーロン・テイラー=ジョンソンが絵に描いたような美男美女でため息が出た。
カレーニンを演じたジュード・ロウは一昔前ならのヴロンスキーを演じても遜色のない美形だが、渋さが増した今、感情を抑えた演技がはまっていた。現在は演技派として貫禄のあるアリシア・ヴィキャンデルの可憐さも目を引いた。また『ダウントン・アビー』でお馴染みのミシェル・ドッカリーはやはりコスチューム・プレイが似合うなと納得するなど、俳優陣も豪華で楽しめた。(女性 40代)
主人公が18歳という若さのため、恋に溺れて突っ走ってしまう彼女を責めることはできないなと思ってしまった。しかし、愛人に傾倒し、全てを失ってしまったのは愚かだと思ってしまった。ジュード・ロウはカッコいい人なのだが、この作品ではどこかやぼったく見えた。その一方で、アンナを演じたキーラ・ナイトレイとアレクセイを演じたアーロン・テイラー=ジョンソンが、美男美女でお似合いだった。見た目がそれぞれのキャラクターにきちんと合っているように作られていて素晴らしかった。(女性 30代)
私はキーラ・ナイトレイが嫌いです。どの作品を見てもいつも高飛車で傲慢な女性のイメージがあり、好きになれません。しかし彼女は、貴族や社交界といった文化のある時代の女性を演じさせたらピカイチだと思っています。この作品では私のキーラ・ナイトレイに対する嫌いな部分と好きな部分が見事に合わさっていて、最高の作品でした。
彼女が演じる女性はいつも『強い女性』ではなくて『傲慢な女』というイメージ。この作品にはぴったりでした。元夫を演じるジュード・ロウの悲しい展開が本当に辛く、そうさせたキーラ・ナイトレイの演技力に脱帽です。(女性 30代)
序盤は豪華絢爛な舞踏会、煌びやかな衣装、壮大な雪原といった美しい映像が盛りだくさんです。そしてキーラ・ナイトレイがその中でより一層輝いていて、演出に全く負けていないのが凄いです。美しさを堪能した後には、物語の本筋であるドロドロとした不倫が始まります。恋は盲目と言いますが、感情的に突き進む主人公の堕ち方は本当に観るのが辛くなります。対照的に、幸せそうに夫と農業を営むキティを見せられ、更に心にきます。(男性 20代)
レフ・トルストイの名作とだけあり、物語が壮大。キーラ・ナイトレイの舞踏会での踊りも美しく、彼女の衣装はとりわけこだわられていて、カメラワークも音響も作品の全てが、まさにロシア芸術を鑑賞しているよう。
ジュード・ロウは色男の役が多いせいか、どんなに妻が不倫関係を結ぼうが、感情的にならず、寛容な態度で接する夫という役柄が新鮮だった。あまりの献身さに胸が苦しくなるほど。また皮肉にも、夫の名前と不倫相手の名前が同じで、主人公アンナが名前を呼ぶたびに複雑になる。お互いにもっと違う相手だったら、本当の幸せを手にできたのに。さすが名作という一言に尽きるが、キーラの演技が上乗せされて、この作品の余韻から当分抜け出せない。(女性 20代)
ロシア文学と聞くと、それだけで敷居の高さを感じずにはいられない。ロシアという土地にも、文学そのものにも馴染みがない。しかし蓋を開けてみれば、書かれていることは今の日本人にとっても十分リアルな人々の営みだ。もっともそうでなければ時を超えて残る作品にはなりえないのだが。
映画は優雅で華麗なロシアの社交界の雰囲気を伝える。舞踏会のシーンで主人公達以外の人の動きが止まる部分など、随所にちょっと不思議な画が挟まるのも面白い。(男性 40代)
みんなの感想・レビュー
トルストイの名作を読むのは難しい。しかし、映画ならその物語の全体像や雰囲気を優しく味わうことができます。原作に親しんだ人なら、”不倫”を題材にした破滅的な愛をわざわざ映像化することに反対する人もいるでしょう。
ただ、いつの時代でも通用する道徳観念だったり、人々の考え方には学ぶべき点が多いのです。この映画を製作したジョー・ライト監督は、キーラ・ナイトレイを主役にして撮りたかった。
彼女の魅力を生かしたいと思ったようですが、綺麗なだけで内面性を深く演じることはできていない。ロシアが舞台であるが、ロシアの雰囲気は画面上からは匂わないという残念な点があります。
しかし、舞台美術や衣装は細部まで凝られており、美しい。イギリスの監督ならではのテクニックと美意識が楽しめます。キーラ・ナイトレイも美しいですが、私はアリシア・ビカンダーの可憐さに癒されました。
①ジョー・ライト監督版の魅力~舞台演出と衣装をめぐる考察
これまでにトルストイの名作「アンナ・カレーニナ」は何度も映画化されてきました。有名な作品は、1948年にヴィヴィアン・リーが主演した「アンナ・カレーニナ」です。
ヴィヴィアン・リーの美しさと存在感が神々しく、永遠の名作だと言われています。
それでは、ジョー・ライト監督版ではどうでしょうか?
舞台上のテクニックをふんだんに使い、舞台上をスライドさせたり、扉を開ければ外の世界とつながっているといった仕掛けがいっぱい。違和感がなく、場面転換が進みますが、主人公の心情の変化はやや単調に見えます。
またくどいほど、駅と電車の映像が差し込まれます。それはなぜか。主人公アンナが、青年将校ヴロンスキーとの不倫に悩み、最後は列車に飛び込んで死んでしまうからです。
不倫の物語にさほど魅力はないのですが、社交界の華やかなダンス・シーンや公爵夫人たちの衣装には憧れます。特にキティ、アンナとヴロンスキーのダンス・シーンを通して、3人の繊細な心情を紡ぐ演出に注目して下さい。
アンナとヴロンスキーが強く惹かれ合っている事を知り、キティが激しく嫉妬するのです!2人の衣装には意味があります。純真な象徴であるキティは白いドレスを、許されない愛に走るアンナは赤のドレスを好んで着ています。
ここにはアンナの燃え盛るような情念が感じられるのではないでしょうか。
②妖精のように微笑む、アリシア・ビカンダー
「アンナ・カレーニナ」では、対照的な2組の愛が描かれています。トルストイは教訓めいた話を書くのが得意で、農民の生活を尊きものと考えていたようです。
アリシア・ビカンダーが演じたキティに注目して見てみましょう。アリシアが演じたキティは、つつましく生きる女性。共感とまではいかなくても、その妖精のような存在感に癒されて人も多いのではないでしょうか。
台詞は少なくても、アリシアは瞳で語ります。キティやアンナがスケートをするシーンにも注目して下さい。原作にもスケートを楽しむ描写があり、帝政ロシアの時代でも人気だったそうです。
アリシア・ビカンダーの魅力は、ただその場所にいるだけで、存在感・演技力が発揮されるところです。それは、社交界でのダンス・シーンによく表現されています。アリシアは女優になる前、バレエを習っていたそうです。
そのバレエで培った優雅さも彼女の強みです。またキティとリョーヴィンの微笑ましい、文字パズルで気持ちを伝えあうシーンも素敵です。
”THEN IDO NOT KNOW”(あの時は分からなかった・・)とキティが答えるのは、結婚が自分の意思だけでなく、相手との相性や将来性などが関わり、決断する事に勇気がいるものだからなんです。
どちらが幸せなのか。それは観ている人それぞれですが、帝政ロシアの時代と現代に生きる私達もそれほど違いはないのかもしれません。