映画『くちびるに歌を』の概要:アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をテーマに、離島の合唱部員と心を閉ざしたピアニストの成長を描く。五島列島の美しさと、高校生の瑞々しい歌声が心に響く、感動のストーリー。
映画『くちびるに歌を』の作品情報
上映時間:132分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春、音楽
監督:三木孝浩
キャスト:新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里 etc
映画『くちびるに歌を』の登場人物(キャスト)
- 柏木ユリ(新垣結衣)
- 元プロのピアニスト。産休に入る友人の代理として、故郷の中学校で臨時教師と合唱部顧問を務める。美人だが、過去のトラウマから無表情で無愛想、言葉はきつく、生徒にも厳しくあたる。
- 仲村ナズナ(恒松祐里)
- 合唱部部員。クリスチャン。真面目で正義感が強く、男子を目の敵にしている。両親がおらず、祖父母と共に暮らしている。
- 桑原サトル(下田翔大)
- 合唱部の新入部員。体は小さく大人しいが、透き通った歌声を持つ。兄が自閉症で、兄の世話の為に自分の生活を捧げる家族想いの少年。
- 向井ケイスケ(佐野勇斗)
- 合唱部の新入部員。ナズナの幼馴染。美人の柏木目的で入部するが、ナズナの合唱に対する想いを間近で感じ、サトルと共に他の男子部員をまとめる存在になっていく。
映画『くちびるに歌を』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『くちびるに歌を』のあらすじ【起】
五島列島の小さな島の教会に、登校前に立ち寄るのがナズナの日課だ。クリスチャンの彼女は、何かある度にこの教会で祈る。新学期を迎えたその日、教会には見かけない若い女性がいた。東京から島へ戻ってきた、柏木ユリだ。挨拶をするが、無視されるナズナ。この感じが悪い女性は、ナズナの学校の臨時教員だった。
昇降口では、臨時教師の話題で持ちきりだ。音楽の松山先生が産休に入っている間、音楽と合唱部を受け持つらしい。音大出でピアニストという肩書が、島の子供達には眩しかった。さらに、朝礼で見せた美しい容姿に、男子生徒だけでなく教師の塚本までもが虜になった。しかし、当の柏木は、にこりともせず不愛想なままだった。
新入生勧誘に燃える合唱部。産休前の挨拶に来た松山に促され、中庭でミニコンサートを開いた。「マイバラード」を歌う女生徒達。話題の美人教師見たさに男子生徒も集まり、大盛況だ。これまで女声合唱を貫いてきた合唱部に、男子生徒の入部希望も続々届く。部員達はコンクールを理由に男子の入部に猛反対するが、柏木は聞く耳を持たない。男子を入れようが入れまいが、全国大会に行ける実力などないのだから関係ないと突き放す。しかし、柏木の本心には、どんなきっかけであっても音楽との出会いを尊重してあげたいという想いがあった。
そんな柏木の心など知らず、インターネットで柏木のピアノリサイタル動画を見て、盛り上がる生徒達。綺麗なドレスを着てオーケストラを従える柏木に、男子も女子も感嘆の声を漏らす。すると、「コンサート ボイコット」というタイトルの動画を見つけた。柏木が、壇上で何も弾かず、指揮者を無視して退場してしまう動画だった。プライドが高く格好良いと盛り上がる男子生徒。幼馴染のケイスケが柏木に心酔している様子に、ナズナはいらだちを募らせる。
しかし、柏木は合唱部の顧問を進んで引き受けたわけでは無かった。友人である松山の頼みと、部員達の必死の説得でしぶしぶ取り組むが、条件付きだ。言う事に従う事。何でもすぐに質問しない事。口答えしない事。そして、ピアノは弾かない。プロの腕がもったいないからだ。これは、音楽教師としてこの学校に赴任する条件でもあった。
映画『くちびるに歌を』のあらすじ【承】
合唱部には、新たに6人の男子生徒が加わった。その中の1人、桑原サトルは、ただお使いで合唱部に来たところを、流れで参加してしまったのだ。彼は放課後の部活が難しかった。自閉症の兄アキラが働きに出ていて、学校が終わると迎えに行かなければならないのだ。父親も、兄を理由にサトルの部活動を反対する。しかし、サトルの声は綺麗なボーイソプラノで、柏木も彼の歌声が気になる程だった。
一方、柏木の家には松山が遊びに来ていた。柏木の家は母子家庭で、その母親もずいぶん前に亡くなったと島の噂になっている。ずっと無人だった家の中は埃が溜まり、どうせ一年だけだからと、柏木もそのままにしていた。家のピアノは、もはや物置場だ。そこに、自分達の卒業文集を見つける松山。柏木の作文は、今の自分達に向けたメッセージだった。翌日、柏木は、部員達に宿題を出す。15年後の自分へ向けた手紙だ。コンクールの課題曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を理解するためだと言う。
宿題が出された日、サトルは兄の迎えがあり、部活には行かれなかった。後でクラスメイトの合唱部員に用紙を貰う。これまでは空気のように見向きもされなかったサトルが、部活を通して男子と対等に会話する。部活でも、ソロで歌えば拍手をされる。嬉しくなったサトルは、ついアキラの迎えを後回しにしてしまった。急いで職場に行くが、兄の姿はどこにもなかった。走り、必死に兄を探すサトル。アキラは、柏木と共にいた。
柏木は、学校からの帰り道、よく海を眺めながら留守番電話を聞いていた。恋人からのメッセージ。昨日電話が出来なかった言い訳。新しいメッセージは入っていない。こちらからかけても、繋がらない。この日も、路肩に愛車のおんぼろ軽トラックを止め、防波堤で携帯を眺めていたところだ。そこにアキラが通りかかり、軽トラックの下に大切なドロップが転がり込んでしまったのだ。変わった仕草のアキラを困って眺めているところに、サトルが追いついた。
仲の良い兄弟を、柏木は家まで送ってやった。母親は優しそうだが、サトルは父親に怒鳴られてしまう。サトルは部活を止めると言うが、宿題の作文用紙を見ていると楽しかった時間を思い出す。翌朝、サトルが母親を説得する前に、母親の方から兄の迎えは自分が代わると提案された。謝る息子に、こういう時はありがとうだと教える母親。アキラも、その口調をそっくり真似して繰り返す。こういう時は、「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」って言うのよ。
こうして部活に復帰できたサトルだが、他の男子部員は徐々に集中力を無くしていた。柏木が顔を出さない時は、なおさらだ。ふざける男子に、ナズナや女子部員が怒る。特にナズナは、男子に厳しかった。すると、怒られた男子部員の一人が、ふてくされてナズナの父親を侮辱した。ナズナの父は、家庭を捨てて女と逃げたのだ。母親は病気で死んだ。それを聞き、一番に動いたのはケイスケだった。彼は男子部員とケンカし、職員室に呼び出され、柏木もナズナの家庭の過去を知った。翌日、ケイスケ達3年の男子部員が、2年の男子部員を校舎裏に呼び出した。またケンカかと女子部員は気が気でないが、様子を見ていると、サトルを中心にした発声練習の自主練だった。
映画『くちびるに歌を』のあらすじ【転】
再び教会で出会う柏木とナズナ。なぜナズナが合唱を頑張るのか、柏木が問いかける。理由は、ただ好きだからだ。ナズナは、今回の課題曲が大好きだった。15歳と30歳の自分が語り合う構成だから、男子部員を入れて声に変化が出来たことを、今では感謝していた。素直に礼を言うナズナに、照れ隠しをする柏木。家に帰ってピアノに触れてみるが、柏木の指は動かなかった。
翌日の朝礼では、伴奏の生徒が欠席していた。急きょ、柏木に伴奏を頼む校長。ピアノは弾かないという条件だが、他の教師からの風当たりも強く、壇上に上がる柏木。生徒達は期待にざわめくが、とうとう柏木は、一音も弾かずじまいだった。その理由を知る為、柏木に詰め寄る合唱部。生徒達は、田舎者だからと柏木にバカにされているのではないかと心配していた。ようやく心を開きかけていたナズナは、必死にピアノを弾いてくれと頼む。それでも、柏木は、ピアノを弾かずに音楽室を出て行ってしまった。
松山の自宅で、愚痴を吐くナズナ。松山は、柏木がピアノを弾かない理由に心当たりがあった。弾かないのではなく、弾けないのだ。ボイコットの動画が撮られた日、柏木の恋人が死んだ。雨の中、バイクでコンサート会場に向かっていて事故に遭ったのだ。前日に、前の晩に電話が出来なかった言い訳と、コンサートには絶対行くからという留守番電話が入っていた。開宴直前に、救急センターから知らせを聞いた柏木。一度は登壇するが、ピアノを弾くことはできなかった。それが一年前の出来事だ。柏木は、恋人の死は自分のせいで、自分のピアノは誰も幸せにできないと思い込んでいた。
一方、部活に出にくくなった柏木は、サトルを兄の職場まで送り届けていた。サトルは、部活と迎えを一日おきに行い、部員の中で唯一、手紙の宿題を書いていた。15年後の自分が、変わらず兄の側にいることを確信しているサトル。彼は、兄が自閉症じゃなかったら、自分はこの世に生まれなかったと思っていた。両親の死後にアキラの面倒を見させるため、作られた命。たまに兄がいなければと思う事もあるが、サトルは自分の存在理由を認め、兄を愛し、将来を真っ直ぐに見つめていた。彼は、兄と共に歩くのが好きだった。機嫌が良いアキラが、船の汽笛を真似る声が好きだった。
しかし、ナズナは自分が生まれた価値を見失っていた。蒸発した父が家に帰ってきたのだが、さんざん期待せるようなことを言っただけで、翌朝には祖母の財布から金を盗んで消えていた。何とか平静を装って登校し、音楽室に行き、ピアノを前に思い悩む柏木に出くわすナズナ。自分が恋人の命を奪ったと思う柏木と同じように、ナズナは自分の存在が両親の人生を狂わせたと感じていた。生前の母が優しかっただけに、自分さえ生まれなければと思ってしまう。それでも、母の教えが心の支えになっていた。船の汽笛は、ドの音。船はただ前に進むだけ。教会のオルガンでドの音を優しく鳴らしながら、母は言っていた。ナズナ泣かんとよ、前進、前進。
声が詰まって、慌てて音楽室を去るナズナ。柏木は、震える指でドの鍵盤を押してみた。前進。前進。15年前の自分が書いた卒業文集を思い出す。「あなたのピアノで、誰を幸せにしていますか?」自然と、指が動き始めた。柏木が弾くベートーベンのピアノソナタを、ナズナは屋上で聴いていた。
映画『くちびるに歌を』の結末・ラスト(ネタバレ)
コンクールに向け、合唱部の練習もラストスパートだ。今では、柏木の弾くピアノの周りに部員達が集まって練習していた。島から船で長崎に渡り、ホテルから夜景を楽しむ生徒達。引率は、柏木と塚本だ。大きなお腹の松山も、翌日の本番には応援に駆け付けると言う。
しかし、松山は来なかった。容体が急変し、緊急出産になってしまったのだ。直前練習中にその知らせを受け、部員達はショックを受ける。松山は元々心臓が弱く、出産自体危ないのではと思われていたのだ。パニックになり、会場を飛び出そうとするナズナ。それを止めたのは、柏木だった。松山は戦っている。自分も戦っている。逃げていたら誰も救えないし、誰も救ってくれないと教えてくれたのは、ナズナじゃないか。皆で戦おう。
すると、ケイスケが良い案を思いついた。客席の塚本と松山の夫の携帯電話で、歌を松山に届けるのだ。笑顔で歌い切る合唱部。サトルの家族も、応援に来ていた。
優勝はできなかった。それでも、松山の子は無事に生まれたし、部員達も精いっぱい歌ったという達成感に満たされていた。ナズナはつい、会場に溢れる親たちの中に、自分の父親を探してしまう。来ているわけがないと思い直し、ロビーに置かれたピアノでドの音を鳴らす。ふと気が付くと、アキラが隣に立っていた。ナズナ、と呼びかけてくる。誰かと思って驚いていると、アキラは言った。「ナズナ泣かんとよ、前進、前進。あんたがおってくれて、良かった。」そういえば、母が汽笛の話をしてくれた時に、教会にもう一人男の子がいた気がする。アキラはそこでナズナの母の言葉を覚え、今でもずっと忘れずにいた。
会場内で歌を聴けなかったアキラの為、「マイバラード」を歌ってやるナズナ達。5人が10人になり、他校の生徒も加わって、ロビー中での大合唱となった。その大きな輪の中で、アキラは幸せそうに体を揺らす。
時は経ち、任期を終えた柏木が船に乗っている。汽笛の音に励まされ、留守電のメッセージを消去した。岸には合唱部が勢ぞろいで見送りに来ている。塚本と、赤ん坊を抱いた松山も一緒だ。笑って、と叫ぶ生徒達に応え、笑顔を見せる柏木。ドの音を響かせながら小さくなっていく連絡船を、ナズナ達はいつまでも手を振り見送っていた。
映画『くちびるに歌を』の感想・評価・レビュー
長崎県にある五島列島が舞台で、産休に入る音楽の教員に代わり、学校を訪れた柏木が合唱部の生徒と関わることで生徒と柏木の心情が変化していく作品です。
この作品は、映像がとても綺麗だという印象がとても強く、この映像と合唱部の生徒達の歌声と合わさることでより感動が生まれました。最初は冷たい態度をとっていた柏木とまとまりがなかった合唱部でしたが、生徒達が真面目に取り組む姿を見た柏木は、少しずつ心を開いていき最後は少し笑顔を見せるようになる展開には驚きました。生徒達も15歳だからこそ起こる心の変化があり、柏木もモヤモヤとした気持ちがあり、お互い感情をぶつけ合うシーンは思わず見入ってしまいました。(女性 20代)
優しく爽やかな作品。
人生には嫌なことがたくさんある。だが、それに逃げ続けていても何も生まれない。この映画は嫌なことに対して立ち向かう勇気と元気を与えてくれる。
前半は暗い印象が続き、後半にかけて救われていく。自分の人生のモヤッとした不安が、少し軽くなった気がする。映像も美しく、俳優陣の演技にも満足である。新垣結衣は普段のイメージとは違ったが、ハマっていたと感じる。
登場人物たちの繋がりが特に魅力的だ。一人一人を丁寧に描いていてくどさがない。(男性 20代)
学生の青春映画かと思っていたが、大人にも観てもらいたい作品だった。過去のトラウマで無表情で無愛想な柏木が、生徒と関わりながら成長していく。合唱コンクールが近くに連れて柏木と部員たちが団結する姿は、観ていてどこか懐かしい気持ちになった。
柏木がピアノを弾かない理由、生徒たちとの関係。どこをとっても最高だが、合唱コンクール直前のシーンは特に秀逸だった。
ストーリーもよくできていて、最後の盛り上がりもよかった。学生時代の合唱コンクールを思い出すような選曲と、生徒たちの笑顔に非常に感動した。(女性 20代)
笑顔のイメージがあるため、不愛想な新垣結衣さんの演技が新鮮だった。主人公を始め、それぞれが抱えている悩みがあまりにも大きくて、自分では心情を考えても苦しくて大変なのだろうなと思うことしかできなかった。ただ、辛い思いを抱えながらも頑張って前に進もうと頑張る姿は、胸に響くものがあった。
一生懸命にコンクールで歌う姿は、学生ならではの力強さが感じられて感動した。アンジェラ・アキさんの楽曲の素晴らしさを改めて感じた。(女性 30代)
学生時代の思い出として、強く記憶に残っている「合唱コンクール」。歌うことの楽しさや、歌で感情を表現することの奥深さを教えてくれたとても素敵な行事でした。
今作ではアンジェラ・アキの楽曲をテーマに物語が作られていましたが、この作品の中で起こる小さな問題や、人間関係のすれ違いなどは誰もが経験したことのある「思い出」なのでは無いでしょうか。
新垣結衣が演じる臨時講師もとても爽やかで温かみがあり、優しい気持ちになれる作品でした。(女性 30代)
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