将棋のプロ養成機関「新進棋士奨励会」を26歳の年齢制限により退会した“しょったん”こと瀬川昌司は、「プロ棋士になりたい」という夢を捨て切れず、35歳にして夢への再挑戦を決意する。瀬川晶司五段が起こした奇跡の実話を豊田利晃監督がついに映画化!
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の作品情報
- タイトル
- 泣き虫しょったんの奇跡
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年9月7日(金)
- 上映時間
- 127分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
伝記 - 監督
- 豊田利晃
- 脚本
- 豊田利晃
- 製作
- 不明
- 製作総指揮
- 不明
- キャスト
- 松田龍平
野田洋次郎
永山絢斗
染谷翔太
渋川清彦
駒木根隆介
新井浩文
早乙女太一 - 製作国
- 日本
- 配給
- 東京テアトル
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の作品概要
サラリーマンからプロ棋士になった瀬川晶司五段の自伝的小説『泣き虫しょったんの奇跡』を、自身もプロ棋士を目指した経験のある豊田利晃監督が映画化した作品。主人公の瀬川晶司を演じるのは、豊田監督作品の常連となっている松田龍平。主要キャストの野田洋次郎、染谷翔太、新井浩文などに加えて、妻夫木聡、上白石萌音、石橋静河、板尾創路、藤原竜也、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼など、驚きの豪華キャストが顔を揃えている。
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の予告動画
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の登場人物(キャスト)
- 瀬川晶司(松田龍平)
- 中学生の時に将棋のプロ棋士を目指して奨励会に入会したが、26歳の年齢制限により退会。その後、大学を卒業してサラリーマンとなるが、将棋への情熱が再燃し、アマチュアとして活躍。周囲の後押しもあり、30歳を過ぎて再びプロ棋士への道を模索し始める。子供時代の愛称は“しょったん”。
- 鈴木悠野(野田洋次郎)
- 瀬川の親友。実家が隣同士で、瀬川とは小学生の頃から将棋を指していた。鈴木も将棋のアマ名人になるほどの強豪で、瀬川の夢を応援する。
映画『泣き虫しょったんの奇跡』のあらすじ(ネタバレなし)
おとなしい少年だった“しょったん”こと瀬川晶司は、小学5年生の時に将棋と出会う。父親の勧めで将棋道場に通い始めた瀬川は、中学生の時には全国大会で優勝するほどの腕前となり、中学3年生でプロ棋士を目指して奨励会に入会する。
22歳の時、プロまであと一歩となる奨励会三段までたどり着くが、三段リーグの壁は厚く、瀬川は四段に昇段できないまま26歳の誕生日を迎えてしまう。それは、子供の頃から夢見てきたプロ棋士への道が絶たれたことを意味していた。
失意の瀬川は将棋の世界から遠ざかり、大学を卒業して平凡なサラリーマンになる。そんなある日、父親の突然の死がきっかけとなり、瀬川は久しぶりに幼馴染みの鈴木悠野と盤を挟む機会を得る。その時、どうしようもないほど将棋が好きな自分に気づいた瀬川は、アマチュア大会での活躍を経て、再びプロ棋士への道を模索し始める。
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の感想・評価
奨励会の厳しさ
将棋のプロになるためには、プロ棋士養成機関の「新進棋士奨励会」を抜けることが絶対条件だ。プロ棋士を目指す子供たちは、小学生か遅くとも中学生の間に奨励会を受験して、合格した場合は奨励会6級からプロ棋士への道をスタートさせる。奨励会員たちは月に2回の例会で対局して、規定の勝ち星を上げれば昇級していく。プロ棋士になるための条件は、これ以上ないほどシンプルで、とにかく奨励会で勝ち続けて四段になればいい。しかし、奨励会試験を突破している時点で全員がアマチュア四、五段の実力者であり、その中で勝ち続けるということは、ほぼ不可能に近い。10代前半で6級入会した子供たちの約半分が、三段になる前に挫折していく。「21歳の誕生日までに初段」という年齢制限で去る者もいるが、その前に自ら退会する者も多い。勝負の世界は結果が全てなので、負けが続くと気持ちが折れてしまうのだ。
そんな厳しい生存競争を勝ち抜いた者だけが「三段リーグ」に挑戦できる。三段の奨励会員は半年かけて18局のリーグ戦を戦い、上位の2名だけがプロの四段になれる。例えば、現在進行形の三段リーグには37名が在籍しているので、単純に合格倍率は18.5倍。こうなると、人並み外れた実力と精神力に加えて、運の要素も必要になってくる。しかも、三段リーグには「満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる」という残酷な年齢制限がある。ここで約5割の三段が奈落の底に突き落とされる。奨励会は、どこまでも行っても厳しい。
瀬川晶司五段が人生最大の挑戦に至るまで
本作の主人公の瀬川晶司五段は、14歳で奨励会に入会し、22歳で三段リーグに入った。昇段ペースが早いとは言えないが、最低8期は三段リーグを戦えるので、四段になれるチャンスはあった。しかし、瀬川は年齢制限のプレッシャーに負け、自分らしい将棋が指せなくなる。その結果、四段になれないまま26歳の誕生日を迎え、奨励会を退会する。
その後、瀬川は紆余曲折を経て、アマチュア棋戦に参加し始める。最近は藤井聡太七段の活躍もあり、プロの将棋については詳しく報道されるようになったが、実はアマチュア将棋の世界もかなり熱い。全国各地のアマ強豪は、プロと同じように最新の将棋を勉強し、研究会などで腕を磨く。アマチュア大会と言っても、瀬川のような元奨励会員まで参加するのだから、そのレベルは驚くほど高い。そのため、全国大会で上位入賞したアマチュアには、プロ棋戦への参加資格が与えられる。
瀬川はこのルートでプロ棋戦に参加し、破竹の勢いでプロをなぎ倒していく。この瀬川の活躍は、「奨励会を卒業した者だけにプロの資格(圧倒的な強さ)がある」という将棋界の常識を覆す。「プロに7割以上の勝率を上げている瀬川が、年齢という理由だけでプロになれないはおかしい、瀬川にもう一度チャンスを与えてやれ!」という世論が高まったとしても、なんら不思議ではない。ここから、瀬川にとって人生最大の挑戦が始まるわけだが、この先は劇場でのお楽しみということで。
異色の経歴を持つ豊田利晃監督と本物のプロ棋士
本作で監督・脚本を務めている豊田利晃監督は、9歳から17歳までの8年間、奨励会に所属していたという異色の経歴を持つ。奨励会の例会というのは、奨励会員にとって真剣勝負の場なので、基本的に部外者は入れない。しかし、豊田監督は8年間も奨励会にいたので、奨励会員の雰囲気や例会の空気を熟知している。奨励会が重要なキーワードになる『泣き虫しょったんの奇跡』を映画化するのに、これ以上最適な監督はいない。現場を知らない監督は、将棋の対局シーンになると、やたらと重厚な演出をしがちだが、豊田監督は違う。予告編を見ただけで、豊田監督がいかにリアルな演出にこだわっているかがわかる。特に、切羽詰まった奨励会員たちの対局風景は、豊田監督でないと撮れない絵になっている。ここはぜひ注目して欲しい。
さらに、本作では、豪華キャストに加えて、本物のプロ棋士まで出演を果たしている。予告編の冒頭部分で、松田龍平と盤を挟んでいるのは、「お化け屋敷」の異名を持つ屋敷伸之九段だ。久保利明王将や神吉宏充七段、女流棋士の谷口由紀女流二段なども出演しているそうなので、将棋ファンは必見だ。
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の公開前に見ておきたい映画
王手
大阪の新世界周辺を舞台に、真剣師(賭け将棋を生業としているアマチュアの将棋指し)の飛田歩(赤井英和)と、飛田の幼馴染みで奨励会三段の香山龍三(加藤雅也)の生き様を通して、将棋の世界に生きる男たちの姿を描いたエネルギッシュな娯楽活劇。
『どついたるねん』(89)、『鉄拳』(90)に続き、阪本順治監督と赤井英和がタッグを組んだ人情喜劇で、かなり破天荒な設定の将棋映画になっている。真剣師とプロ棋士が繰り広げるアマプロ戦(なぜかプロアマ戦ではない)の成り行きや、飛田や香山の恋愛模様も面白いのだが、この作品を最初に見た時、とにかくリアルな奨励会員の描き方に感心した。作品について少し調べてみて、脚本・原作が元奨励会員の豊田利晃だと知り、妙に納得したものだ。監督ではないが、映画界で豊田利晃の名前が初めてクレジットされた作品なので、興味のある方はぜひ見て欲しい。ベテラン真剣師の役で、若山富三郎も出演している。
詳細 王手
聖の青春
幼い頃に難病のネフローゼを患い、病気と戦いながら将棋を指し続けた夭折の天才棋士・村山聖(松山ケンイチ)の生涯を描いた作品。原作は同名ノンフィクション小説で、作者の大崎善生は、日本将棋連盟出版部発行の専門誌『将棋世界』の編集長をしていた経験がある。
ノンフィクション小説の『聖の青春』を読んでいる人ならばわかると思うが、村山聖の生涯は短いけれど濃厚だ。大崎は丹念に取材を重ね、数多くのエピソードを小説に書き記している。特に、村山聖と師匠の森信雄七段とのエピソードは胸を打つものが多く、とても印象に残る。森義隆監督もその点はわかっていたと思うが、映画では主に村山聖と羽生善治(東出昌大)の関係を掘り下げて描いている。村山聖を演じた松山ケンイチと羽生善治を演じた東出昌大の演技は鬼気迫るものがあり、2人の勝負もドラマチックに演出されている。そこは確かに見応えがあるのだが、村山聖という人間をもっと知りたいと思う人は、原作小説の方も合わせて読んでいただきたい。原作小説と映画の両方で村山聖という棋士を知れば、彼が「伝説の棋士」と呼ばれる理由がわかる。
詳細 聖の青春
3月のライオン 前編/後編
羽海野チカの大人気コミック『3月のライオン』を実写映画化した作品。主人公の天才棋士・桐山零(神木隆之介)の成長と彼を取り巻く人々の人生模様を描く。
現在進行中である羽海野チカの原作コミックは、桐山零を中心とした群像劇のような形式になっており、今のところ結末が見えていない。実写映画化が決まった時、原作コミックのファンは、どうやってあの話をまとめるのだろうと余計な心配をしたはずだ。実際に、映画用のストーリーを組み立てるのは難しかったようで、脚色された部分も多い。ただ、神木隆之介の演技は素晴らしく、彼以外に桐山零を演じられる俳優はいないと観客に思わせるだけの説得力がある。将棋の世界を描いた映画というのは、内容的にどうしても泥臭くなりがちで、キャッチーな演出が難しい。しかし、本作はリアルな演出の中にも適度なポップさがある。プロ棋士が監修した対局シーンはとても美しく仕上がっており、丁寧に作り込まれた映画だなという印象を受ける。
詳細 3月のライオン 前編
詳細 3月のライオン 後編
映画『泣き虫しょったんの奇跡』の評判・口コミ・レビュー
豊田利晃監督「泣き虫しょったんの奇跡」観た。松田龍平氏が主演でタイトルが泣き虫とはこれ如何に…と見る前に個人的には思った。飄々としていて、ナチュラルでバイオレンス醸し出す氏の、実際泣く演技見た事ない(と思う…)故に“ドラ泣き”させられた。台詞殆ど無い様な脇役まで謎の豪華さでビビる。
— 源 (@wu_st) 2018年9月8日
映画「泣き虫しょったんの奇跡」、物語が描かれて行く中で鳴り響く照井さんの音楽が素晴らしかった。
さりげない日常とそのワクワク感を彩って魅せたり、音楽でも物語や登場人物の心像風景を描くかのように奏でられていたり、豊田監督の演出や俳優さん達の演技との共鳴ぶりが観ていて最高過ぎた。— Mi_ver2 (@Mi_ver2) 2018年9月8日
『泣き虫しょったんの奇跡』
正直あまく観てた。
めちゃめちゃいい映画だった。
挫折、後悔、解放、再起。しょったんは人生においても感想戦ができる人。友人との関係性の描き方が凄くいい。女がSUNNYなら男はしょったん。
2018年は邦画バブル期なんか!?— 青いむーみん (@blue_muumin) 2018年9月8日
泣き虫しょったんの奇跡。普段目にするニュースの一言、その過程には何年もの何人もの言葉や想いが見え隠れしている。ある時はバディ物のように、ある時はトキワ荘のように、それは描かれる。小学生でも、現役バリバリでも、大人になっても、後輩に託しても、夢を描くことってやっぱりかっこいいんだ。
— yumiyumi (@msyumiyumi) 2018年9月8日
「泣き虫しょったんの奇跡」を観た。豊田利晃監督に松田龍平、音楽にex.BJCの照井利幸という布陣に惹かれてあまり内容を知らないで行ったけど、30代の「ちはやふる」ともいえる将棋への静かな熱さと、好きなことを好きでい続ける様がとてもよかった。
— ヤングコーン (@boro25) 2018年9月8日
きょう、「泣き虫しょったんの奇跡」を見てきました。奨励会の方の大変さがよく分かりました。
また、将棋界の方がたくさん出演されていて、親しみを感じました。😊 素晴らしい映画でした。— さ みどり (@sa__midori) 2018年9月8日
映画「泣き虫しょったんの奇跡」、僕は8月27日の試写会にお邪魔しました。豊田監督や俳優の皆さまからもお話を伺いましたが、本当に熱い想いで撮られていたんだということを感じましたし、それが映像からも伝わってきます。特に奨励会の描写は素晴らしく、必見だと思います。ぜひ劇場でご覧ください!
— 佐藤 天彦 (@AMAHIKOSATOh) 2018年9月8日
映画『泣き虫しょったんの奇跡』のまとめ
昨今の将棋ブームのおかげなのか、2016年に『聖の青春』、2017年に『3月のライオン 前編/後編』、そして2018年9月には『泣き虫しょったんの奇跡』が公開されるということで、将棋界は大いに盛り上がっている。棋士が全力で戦う姿はそれだけで絵になるし、その真剣勝負には毎回ドラマがある。最近になって“観る将”(自分は将棋を指さずに棋士の対局だけを楽しむ)と呼ばれる将棋ファンが増えたのも、そういうところに理由があるのだろう。瀬川晶司五段の実話は、作ろうと思ってもなかなか作れないほどドラマチックなので、どうか劇場で彼の起こした奇跡を見届けて欲しい。
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