映画『さびしんぼう』の概要:ヒロキは、カメラのファインダー越しに見る憧れの君にさびしんぼうと名前をつけ、遠くから眺めていた。そんなヒロキの前に、さびしんぼうと名乗る白塗りの少女が現れ、騒動を巻き起こしていく。大林信彦監督の尾道三部作完結編。
映画『さびしんぼう』の作品情報
上映時間:112分
ジャンル:ファンタジー、ラブストーリー、青春
監督:大林宣彦
キャスト:富田靖子、尾美としのり、藤田弓子、小林稔侍 etc
映画『さびしんぼう』の登場人物(キャスト)
- 井上ヒロキ(尾美としのり)
- 高校2年生。寺の住職の息子で、将来寺を継がなくてはならない。趣味はカメラだが、フィルムを買うお金がなく、いつもファインダーだけを覗いている。チョコレートアレルギーがある。
- さびしんぼう(富田靖子)
- ある日突然、ヒロキたちの目の前に現れるようになったショートカットで白塗りの、ちょっと変わった少女。現在16歳で、17歳の誕生日を迎えるとヒロキたちの目の前に現れることができなくなる。水に濡れると死んでしまう。
- 井上タツ子(藤田弓子)
- ヒロキの母。毎日のようにヒロキに勉強しろ、ピアノ練習をしろと言っている。ヒロキの部屋にはノックせずに、ズケズケと入り込んでくる。青春時代の思い出の曲「別れの曲」をヒロキに弾いてほしいと願っている。
- 井上道了(小林稔侍)
- ヒロキの父。寺の住職で、お見合いでタツ子と結婚する。お見合いの時、タツ子からショパンのことを聞かれるが、アンパンしか思い浮かばなかった。ほとんどシーンでお経をあげている。
- 田川マコト(砂川真吾)
- ヒロキの友人。どこでもバック転や宙返りをする身の軽さがある。チョコレート好きで、いつも板チョコを囓っている。
- 久保カズオ(大山大介)
- ヒロキのもう一人の友人。マコトと3人でいつも行動している。仲は良いが、時々おちゃらけてイタズラを仕掛けたりする。
- 橘百合子(富田靖子)
- ヒロキが憧れる、ロングヘアの少女。女子校に通う高校生。ピアニストを目指しているが、放課後1時間音楽室で練習することしかできず、その夢は叶いそうにない。父親の体調が悪いらしく、彼女が家を支えている。
映画『さびしんぼう』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『さびしんぼう』のあらすじ【起】
カメラのファインダーが尾道の景色を捕らえている。そのカメラはやがて一人の少女にフォーカスを合わせる。放課後の音楽室でピアノ弾く彼女が、ヒロキのさびしんぼうだ。ヒロキはフィルムの入ってないカメラを構えて、毎日憧れの君、さびしんぼうを眺めていた。
年末が近づき、ヒロキは肉を餌にマコトとカズオに寺の大掃除を手伝わせる。その大掃除の最中に、ヒロキはタツ子のアルバムにあった写真を派手にばら撒いてしまう。
数日後、ヒロキは大掃除のお礼に肉を買い、野菜を持ち寄り、理科実験室で実験器具を使って、すき焼きを二人に振る舞う。しかし、理科の先生に見つかってしまい、すき焼きは没収。加えて校長室の掃除を言いつけられる。渋々掃除をする3人だったが、憂さ晴らしに、校長室で飼育されているオウムに「たぬきのキンタマ」の歌を教え込んでしまう。
その日の帰り道、ヒロキは憧れのさびしんぼう、橘百合子とすれ違い、軽く会釈をされる。たったそれだけのことだが、ヒロキには心踊る出来事だった。ニヤニヤしながら部屋でファインダーを覗いていると、白塗りの少女が現れる。「誰だ?」とヒロキが問うと、少女は「さびしんぼう」と答えるのだった。
映画『さびしんぼう』のあらすじ【承】
3人は校長室のオウムに「たぬきのキンタマ」を教えた件で謹慎処分になる。しかし、ヒロキはマコトとカズオに会い、謹慎そっちのけで、いつものように3人で悪ふざけをしていた。そんな時、ヒロキは自転車で通り過ぎる橘百合子の姿を見つける。ヒロキは一人、その場を離れ、彼女を追いかけ、連絡船に乗り込む姿を見送るのだった。
翌朝、いつもより早く家を出たヒロキは、船着場で百合子の姿を探していた。下校時も同じように船着場で百合子の姿を見つめるヒロキ。四六時中、百合子のことを考えるヒロキは、部屋でファインダーを覗きながら「おーい、さびしんぼう」と呟く。すると、白塗りのさびしんぼうが現れる。神出鬼没なさびしんぼうは、ヒロキに「あんたのお母さん、もっと大らかだったんだけどなぁ」と告げ、消える。
冬休みに入り、ヒロキは張り合いのない日々を過ごしていた。3人でつるむこともなく、船着場にも百合子の姿はない。さびしんぼうも姿もしばらく見ていなかった。クリスマス、タツ子の依頼でヒロキに勉強を教えに、幼馴染みのマスコがやって来る。しかし、さびしんぼうが現れ、タツ子に「あんたの若い頃の理想ってもっと大らかじゃなかったの?」とつめ寄る。突然現れたさびしんぼうに驚くタツ子。追い払おうとさびしんぼうのお尻を叩くと、自分の尻が痛い。さびしんぼうの頭を叩くと、自分の頭が痛くなる。そんな姿を見たマスコは、タツ子がノイローゼになっていると思うのだった。
映画『さびしんぼう』のあらすじ【転】
新学期、タツ子に関して変な噂が広がっていた。放課後家庭訪問が行われるが、さびしんぼうの登場で、また大騒ぎとなる。ヒロキはさびしんぼうに「お前、余り出てくるなよ」と言う。そして、さびしんぼうに顔を洗って白塗りのメイクを落としたらと、桶の水をかけようとする。さびしんぼうは怯え「あたし水がかかると死んじゃうんだよ」と言って消える。
節分の日、ヒロキは、寺の前で自転車のチェーンが外れ困っている百合子と出会い、一緒に船に乗って彼女の家の近くまで送ることになる。その道すがら、ヒロキは彼女の名前が橘百合子ということ、彼女の夢がピアニストだということを聞く。翌朝、ヒロキは船着場で百合子を待ち、声をかけるが無視をされる。下校時も彼女の姿はなかった。訳の解らぬまま家に帰ると、部屋でさびしんぼうがプレゼントを持って待っていた。包みを開けると中からはチョコレートが、チョコレートアレルギーのヒロキは思わずそれを放り投げる。しかし、プレゼントは百合子からのものだった。手紙には「ありがとう。一晩中ニコニコして過ごしました。でも、これっきりにしてくださいね。ごめんさい、さようなら」と書かれていた。「一人にしてくれないか」と言うヒロキに、さびしんぼうは言う「もうすぐ、いなくなる。明日、誕生日で17歳になるから。16歳のあたしは、17歳のあたしにはなれない」と。そして自分で書いた創作劇「さびしんぼう」について話す。「人を恋することはとても寂しいから、あたしはさびしんぼう。でも、寂しくない人よりずっと幸せよ」そう言って、さびしんぼうは消えるのだった。
映画『さびしんぼう』の結末・ラスト(ネタバレ)
百合子から、もう会えないと言われたヒロキだったが、クリスマスに渡したいと思って買ったプレゼントを持って、彼女に会いに行く。プレゼントは別れの曲のピアノ型オルゴール。百合子はそれを受け取り、「あなたが好きになっていただいたのは、こっち側の顔でしょ。反対側の顔は見ないでください」と言い、別れる。
帰り道、雨が降ってくる。ずぶ濡れになるヒロキ。その雨の中、ヒロキの帰りを待っていたのはさびしんぼうだった。「もう一度、さよならを言いたかった」そう伝えるさびしんぼうを抱きしめるヒロキ。雨の中、ヒロキに抱かれながら「あたしヒロキさん、大好き」そう言って、さびしんぼうは本当に消えてしまうのだった。
翌朝、掃除する母は「田中タツ子16歳」と書かれたさびしんぼうが写った写真を拾っていた。それを見たヒロキは、今度は母が17歳の時の写真を風に舞い上がらせたら、どうなるだろうか?と考える。しかし、いつしかそんなことも忘れて時が経ち、ヒロキは大人になっていた。お経をあげるヒロキの横には百合子そっくりの女性が座っており、奥では娘が別れの曲を流暢に弾いているのだった。そして、ピアノ上にはあの時のオルゴールがあるのだった。
映画『さびしんぼう』の感想・評価・レビュー
母性本能が強い女性にはたまらなく可愛い作品だと思います。青春時代の恋する気持ち、好きなのに言えないもどかしさや、恋の儚さを知る瞬間。そんな誰もが経験したことのある優しくて温かい恋を「さびしんぼう」と表現し、尾道の美しい風景と合わせてとても魅力的に描いた作品でした。
単純に面白いというよりも、クセのある面白さなので理解できない部分や、不思議なシーンもありました。しかし、それが今作の魅力であり楽しむべきポイントでしょう。(女性 30代)
不思議な作品、童話といえば童話だが、大人になってから振り返る童話といったところだろうか。作中冒頭で述べられるように、映画に映された尾道の風景というのはその場所に行ったことがない自分にとっても「どこか懐かしい」。
そして尾道と同時に、この映画は複数の役で色々な表情を見せる富田靖子ありきだ。自分のある一時期をこんな風に映像に残してもらえるというのは素敵なことだろう。
実際には体験していなくても、あたかも体験していたかのようなノスタルジーを感じられる良作。(男性 40代)
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