映画『銀の匙 Silver Spoon』の概要:作者はかつて「鋼の錬金術師」を世に送り出した大人気漫画家、荒川弘。錬金術という不思議な世界観をテーマとした前作と違い、今作は作者自身の体験を元にした現実的なストーリー構成となっている。
映画『銀の匙 Silver Spoon』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
監督:吉田恵輔
キャスト:中島健人、広瀬アリス、市川知宏、黒木華 etc
映画『銀の匙 Silver Spoon』の登場人物(キャスト)
- 八軒勇吾(中島健人)
- 進学校で挫折し、父親の呪縛から逃れる為に農業高校に入学した。夢のない自分に劣等感を感じている。
- 御影アキ(広瀬アリス)
- 八軒の同級生。馬をこよなく愛し、常に笑顔な可愛らしく活発な性格。
- 駒場一郎(市川知宏)
- 八軒の同級生。男気のある、御影の幼馴染。
- アキの父(竹内力)
- アキの事を溺愛している父親。外見が厳つい。
映画『銀の匙 Silver Spoon』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『銀の匙 Silver Spoon』のあらすじ【起】
八軒勇吾はいわゆる「エリート路線」を進み続けていた男子学生です。その背景には、息子に対しても容赦なくとにかく厳しい父親の存在がありました。自分よりも優秀で、東京大学にも入学した兄が父に反抗し学校を退学した事もあり、現在父の目は全て八軒に注がれていました。
八軒はそんな父親の期待に応えようと、毎日血の滲む努力を重ね進学校に進学しました。しかし、その学校のあまりのレベルについていけず、どんどん落ちぶれてしまいます。そんな八軒に対して、父親は冷たくあたりました。全てに絶望した八軒は、兄と同様、父親に反抗する様に父の思い描く未来予想図から外れる決心をしたのです。
そんな八軒が高校の進学先として選んだのは、北海道にある農業高校でした。農業高校など父親が許すわけはなく、家庭内の空気は最悪なものになります。しかしそこに通えば寮に入る事が出来、この監獄のような家から出る事の出来る八軒は、父親の反対を押し切って高校に進学をしました。
映画『銀の匙 Silver Spoon』のあらすじ【承】
また、八軒は農業高校を心の中でどこかバカにしていました。自分は進学校では落ちぶれたとはいえ、秀才級の頭脳がある事は間違いありません。この農業高校では、自分は間違いなく一番の優秀性とであるに違いないと八軒は確信します。そして八軒のその予想は、あながち間違ってはいませんでした。確かに八軒の一般科目に関しての知識はずば抜けており、クラスメートは八軒を褒め称えます。
しかしここは農業高校、授業の多くは農業に関するものばかり。八軒を除くクラスメートの殆どは、実家が農家という学生ばかりです。そんな専門的知識に、八軒はついていけず呆然とします。また、学生の殆どは将来自分の農家を継ぐ為に勉強をしている人ばかり。将来の夢をしっかり持っている同級生に対して、八軒だけが何も持っていなかったのです。
八軒はそんな自分に次第に劣等感を抱くようになっていきます。しかし、そんな八軒を支えたのもまたクラスメート達でした。進学校で一緒だったクラスメート達とは異なり、常に人を思い遣った温かい同級生に対して八軒は少しずつ心を開いていきます。
映画『銀の匙 Silver Spoon』のあらすじ【転】
朝の早い生活、右も左もわからない農業に八軒の学園生活は想像以上に大変なものとなります。しかし、同級生の御影に感化され馬術部に入るなど、八軒は八軒なりに学校生活を楽しもうとしていました。そしてあっという間に季節は過ぎ去り、楽しい夏休みがやってきます。
しかし、八軒にとって夏休みはさほど楽しみなものではありませんでした。というのも、例え長期の休みがあったとしても実家には戻りたくないからです。夏休みをどう過ごそうかと悩む八軒に、御影が声を掛けます。八軒に、実家で農家を営んでいる御影の家で夏の間アルバイトをしないかと誘ったのです。御影に惹かれている八軒としては、夏休みの間御影と一緒にいられるという事はまるで夢のような提案です。
二つ返事で受けた八軒は、御影の家へと向かいました。仕事は想像以上に大変でしたが、八軒は真面目に必死に一つ一つに取り組みます。そんな八軒の姿は、御影の家族にも好評を得ました。しかし夏も終わりを迎える頃、八軒がとても大きいミスをしてしまったのです。給料は受け取れないという八軒に対して、素直に謝罪した八軒を御影の家族は責める事なく許すのでした。
映画『銀の匙 Silver Spoon』の結末・ラスト(ネタバレ)
夏休みも終わり、再び八軒達の学校生活が始まりました。しかし始業早々、彼らの元に悲しいニュースが届きます。クラスメートであり御影の幼馴染である駒場の家が営む農場が潰れてしまったのでした。駒場の母親は駒場にこのまま学校に進学してほしいと願いますが、幼い妹達がいる事もあり、駒場は自分が働きに出て家族を支える決意を固めます。
駒場が学校を去る事になり、クラスメートの中で重い空気が流れました。一方、御影もまたある悩みを抱えていました。御影は馬術部に入部しておりこよなく馬を愛している事もあり、将来は馬に関わる仕事に就きたいという密かな夢がありました。しかし、一人っ子である自分が実家の農家を継がなければ、農場はいずれ潰れてしまいます。御影は家族の為に自分の夢を押し殺そうとしていました。
そんな駒場や御影の為に何かできないか、と八軒は真剣に悩みます。そして、きたる学園祭でばんえい競馬を行うことを企画したのです。八軒が主体となったばんえい競馬は、見事成功を収めます。ばんえい競馬を見る駒場と御影の表情には、笑顔が浮かんでいました。
映画『銀の匙 Silver Spoon』の感想・評価・レビュー
八軒勇吾が慣れない作業に四苦八苦しながらも、一歩ずつ前に進んでいる様子に胸を打たれた。それに八軒だけでなく、同級生達も皆それぞれ悩みを抱えている姿がとてもリアルで良かったと思う。自分が何かに悩んだり行き詰まったりしたときに、勇気をもらえるような作品だった。原作の漫画やアニメももちろん素敵なのだが、実写映画ならではのリアルな動物達を見て欲しいと思う。色んな動物が見られて、可愛かったし癒された。(女性 30代)
「頑張れ!」と言うエールをくれるような素敵な作品でした。主人公の八軒を演じるのはジャニーズの人気グループ「SexyZone」の中島健人です。彼といえばジャニーズきっての王子様キャラであり、ファンに夢を与えてくれる存在。
そんな彼が今作で見せてくれたのは、慣れない農業に四苦八苦しながら奮闘する様子、そして自分の夢を見つけられないことに悩む若者の姿でした。
普段のアイドルの姿からは想像できない中島健人の「普通」の学生が成長していく姿を沢山の人に見て欲しいです。(女性 30代)
農業高校を舞台に生徒たちの成長を描く、ちょっと変わった学園ものです。
八軒が御影に惹かれる姿は、まさに男子高校生という感じなのですが、クラスメイトのために行動する一生懸命な姿とのギャップが魅力的でした。
高校時代は誰にとっても、将来について初めて真剣に考えるタイミングだと思います。農業高校に通う生徒たちは、進学を目指す同世代の子たちよりも、考え方が大人になるのが早いのかもしれないと感じました。
どのキャラクターも自然と応援したくなる、温かい作品でした。(女性 20代)
みんなの感想・レビュー
吉田恵輔監督作の前々作、「ばしゃ馬さんとビッグマウス」では「夢」が持つ中毒性を鋭く描いていた。「夢」を抱き始めてすぐは希望にあふれるが、その「夢」がどうやら叶いそうにないことを悟ったが最後、「夢」は自分を苦しめる呪縛に豹変する。いつ諦めればよいのか。そもそも諦めてよいものか。続けても「夢」は叶うのか。前作「麦子さんと」においても、主人公の麦子は自分の心の時間が止まった人物だった。彼女は母の死を通じて、自分の夢や人生と向き合うようになっていくという物語であった。
本作では対極的に「夢」を持たない人を主人公に描いているというように、「夢」がもつさまざまな側面をメッセージとして押し出す、銀の匙の実写映画版の監督を吉田監督が務めるというのはこれ以上ない正解であると言わざるをえない。
本作のクライマックスとして、ばんえい競馬のシーンがある。御影が手放そうとしている馬を最後の思い出に競走馬として、学園祭のばんえい競馬の舞台に立たせようと八軒が奮闘するのだが、このシーンにおける演出は本作の中でも一段と光っているといえる。
ゴール直前、馬のお尻に御影がムチを入れるのだが、ここで映像がスローモーションになり、八軒の顔がカットバックされる。これはかつての八軒を馬になぞらえた演出である。エゾノーに入学した八軒は御影の発言や行動をきっかけにさまざまなことにチャレンジしてきた。つまり、常に御影は八軒のお尻を叩き続けてきたわけだ。すなわち、あの馬が一着でゴールするその瞬間、八軒はそこに未来の自分を観ているのだ。
ささやかながらも確かな演出は、観客の心を動かしうるスパイスになるのだ。
原作が人気漫画ということもあり、実写化ともなればある程度それに反発するファンも出てくるであろう。原作という比較対象があるわけだから、それと映画を比較して、あのシーンが抜けている、とかあの役者はキャラクターに合っていないなどという批判意見も出てくるだろう。
しかし、本作では全体をうまくまとめ上げ、原作で伝えようとしているエッセンスをうまく抽出しているように感じた。役者陣の配役も、できるだけ原作の雰囲気をまとった人選にしている。加えて、主役に中島健人を迎えることで、彼のファンを観客として取り込むことに成功している。そういったある種の商業的なしたたかさも、嫌味にならない程度である。
映画史に残る大傑作とは言わないものの、観た人の心に残る良作に仕上げているという印象だ。