映画『ディーパンの闘い』の概要:内戦下のスリランカから、元兵士の男が他人の女と少女を家族と偽りフランスへ亡命。集合団地の管理人の職を得て、疑似家族としての生活を続け平穏を取り戻そうとするが、団地にはギャングが潜伏しており紛争が勃発してしまうのだった。
映画『ディーパンの闘い』の作品情報
上映時間:115分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:ジャック・オーディアール
キャスト:アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ、ヴァンサン・ロティエ etc
映画『ディーパンの闘い』の登場人物(キャスト)
- ディーパン(アントニーターサン・ジェスターサン)
- 元兵士。内戦にて妻と2人の子供を亡くし、フランスへ亡命を決意。平和を求めて新天地へ向かい、やがてヤリニへと恋情を抱く。兵士としての能力はかなり高い。普段は温厚で優しく無口だが、働き者。ヤリニには堅物でユーモアがないと言われている。
- ヤリニ(カレアスワリ・スリニバサン)
- 内戦で悲惨な経験をした女性。イギリスにいとこがいる。ディーパンの妻に成りすまし、亡命する。戦争のせいで常に怯え頑なに心を許そうとしない。
- イラヤル(カラウタヤニ・ヴィナシタンビ)
- 内戦で母親を亡くした少女。ヤリニに見出され、娘としてフランスへ亡命。フランス語を多少は理解し話すことができる。
- ブラヒム(ヴァンサン・ロティエ)
- フランス人の売人。ヤリニが世話をする老人の甥。売人としての商売に疲れているような節があり、ヤリニと接することで癒しを得ている。悪人になりきれず、優しさを持ち合わせてもいる。
映画『ディーパンの闘い』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ディーパンの闘い』のあらすじ【起】
内戦により荒廃した故郷スリランカからフランスへ亡命したディーパン。妻のヤリニと娘イラヤルは、パスポート上は家族となっているが、実際は妻子へと仕立て上げた赤の他人だ。
タミル難民となった3人は難民審査をどうにかパスすると、フランス郊外の集合団地へ。ディーパンはその団地の管理人の職を得ることに成功した。家の外では家族として装い、中では他人へ戻る生活。フランス語は片言でしか話せず、分からない言葉は辞典で調べた。
翌日からイラヤルは小学校の特別クラスでフランス語を学ぶことに。彼女はディーパンと離れることを酷く不安がったが、ここで上手くやり通し言葉を学ばなければ、強制送還されてしまう。どうにか説得しクラスへ戻した。
帰宅後は仕事の1つである手紙の仕分け。これはヤリニに頼むことにする。彼女はフランス語が全く話せず、聞き取りもできないため、仕分けならできるだろう。そう思って頼んだのだが、住民から仕分け方が間違っていると指摘され、やり方を教えてもらった。
ヤリニは言葉も分からない場所での生活に怯え、全てのことに否定的であったが、何事も慣れが肝心である。仕事をしなければ収入もないし、生活もできない。家に籠もってばかりいてもいいことはない。そこで、ヤリニも勇気を出して仕事を紹介してもらうことに。
映画『ディーパンの闘い』のあらすじ【承】
集合団地に住む老人の世話を紹介してもらい、次の日から仕事へ。老人はボケているので、言葉が話せなくても掃除と料理ができればそれで良かった。
ディーパンには他にも仕事がある。担当する棟のホールを掃除する仕事だ。ホールにはギャングの青年たちがよくたむろしていて、指定された時間以外は行っても意味がない。時に指定時間内に行っても青年達が帰らずにいたりして、仕事にならない時もあるのだった。何事も臨機応変である。
そんなある日、イラヤルが学校で他の生徒と喧嘩沙汰を起こした。学校へ呼び出されたヤリニは、娘を強く叱りつけ謝罪させる。だが、そもそもヤリニには子育ての経験がなく、イラヤルとどう接していいか分からなかった。正直にそう話すと、イラヤルは彼女のことを許してくれるのであった。
そうして生活を送ることで、ヤリニも少しずつフランス語を理解できるように。片言ではあるが、言葉も話せるようになった。
ディーパンはというと毎日、担当の棟の掃除や修理を行いスリランカの情勢をチェックしている。ヤリニ曰く、ディーパンは堅物らしくユーモアのセンスがないらしい。彼女にも笑顔が見え始め、共同生活もようやく様になってきた。
ヤリニが世話をする老人の部屋には、ブラヒムというフランス人青年が一緒に生活するように。彼はヤリニに対しても優しく、料理がおいしいと言って話しかけてくれる。彼のお陰で会話をする楽しみができた。
映画『ディーパンの闘い』のあらすじ【転】
やがて、ディーパンはヤリニを大切に思うようになり、彼女と関係を持つようになる。
そんなある日、解放軍時代の大佐がディーパンに会いたいと言ってくる。彼は大佐へと会いに向かうが、武器を仕入れるための金策をしろと頼まれる。ディーパンは仕入れた武器が故郷へ送られると聞き、大佐の命令を拒否。そのせいで、酷く殴られてしまう。
ディーパンが解放軍に参加して得たものは何もなかった。むしろ、失ったものの方が多く、多くの死を見つめ続けて気付く。彼が成し遂げたかったことは殺戮などではなく、平和を導くことだったのだと。そうして、ディーパンは兵士を辞め、フランスへと亡命したのだった。
ブラヒムと交流を続けていたヤリニ。彼が実は売人で対立する組織から父親と親族を長い間、狙われているのだと知る。彼女には何のことか分からなかったが、代わりにヤリニも母国語で真実を語った。だが、ブラヒムには何を言っているか分からず、肩をすくめられてしまう。
その後、ブラヒムを狙う組織同士の抗争が勃発。日中であるにも関わらず、銃撃戦が繰り広げられた。ヤリニとイラヤルも危うく巻き込まれそうになったが、どうにか無事に避難。この事件のせいで、ヤリニは故郷での悲惨な記憶を思い出してしまい、イギリスのいとこのところへ勝手に向かおうとする。どこへ行くにしろ、身分証ができていないので越境はできないと言うディーパン。駅で彼女を捕まえ、仮の身分証を取り上げてしまう。
このことで口論となったディーパンとヤリニ。疑似家族のような生活を送ってきた3人だったが、彼らは赤の他人同士である。亡命のために家族と偽っているに過ぎない。そこで、ディーパンは翌日、集合団地の敷地内に白線を引き、発砲禁止区域だと若者達へ主張した。更に彼はホールにたむろしていた若者を追い出し、同郷の者を呼んでホールを占拠。
映画『ディーパンの闘い』の結末・ラスト(ネタバレ)
このことでブラヒムに呼び出されたヤリニ。彼女は発砲事件以来、仕事を放棄してブラヒムを避けていたが、仕方なく会いに行くとディーパンがやっていることをやめさせないと殺すと脅されてしまう。
このことでまたも口論となったディーパンとヤリニ。ヤリニは飽くまでもディーパンとイラヤルは他人だと言って拒絶。同郷であるにも関わらず、情は薄く助け合おうともしない。そんな彼女を責めるディーパンだったが、彼女のことを思いこれ以上、引き止めることはできないと決心するのだった。
そうして、ディーパンはヤリニのパスポートと金を置いて家を出て行ってしまう。このことに気付いたヤリニは、ディーパンへ連絡を入れいつ戻るかを聞いたが、彼に戻るつもりはない様子。彼女はディーパンへと礼を言い、休暇後にイラヤルを連れてイギリスへ向かうと告げるのだった。
だが、ヤリニはその後、仕事へ復帰。老人の世話をしてブラヒムと対峙する。彼に夫のことを話し、どうか傷つけないで欲しいと訴える。すると、彼は了承してもう帰ってもいいと言うのだった。ところが、ヤリニが帰り支度をしていると突如、部屋を狙撃されてしまう。そのせいで、老人は死亡。ブラヒムも被弾し逃げようとするヤリニに助けを求めてくる。
ヤリニはディーパンへ助けを求めた。すると、ディーパンは話を聞き抗争中の若者を次々と殺害。彼は元兵士であり戦争を生き抜いた男である。ただの抗争ごとき、戦争と比べたら容易いものだった。そうして、ヤリニの元へ辿り着いたディーパン。
彼は狂気に駆られヤリニにまで銃を向けてしまう。彼女はディーパンを叱責し、ようやく正気を取り戻させるのだった。
このことがきっかけとなり、絆を深めたディーパンとヤリニ。やがて、2人の間に新たな命が誕生。ようやく心穏やかな平穏を取り戻すのであった。
映画『ディーパンの闘い』の感想・評価・レビュー
祖国からフランスへ亡命した疑似家族が、新天地にて新たな生活を送るために奮闘する姿を描いている。主人公は元々穏やかな気質で、家族のために戦争へ参加したと思われる。終盤の働きから見るに相当の手練れだったのではないだろうか。だが、その戦争のせいで妻と子供を亡くし絶望する。
他人の女と少女を妻と娘と偽り、亡命先のフランスで新たな生活を開始するが、集合団地の雰囲気が最初から怪しい。若者がたむろし粋がっている段階からして、すでに何かが起こることを示唆している。案の定、抗争が勃発し平穏が破られるわけだが、これがきっかけとなり妻となった女性との絆を深めるのだから、結果的にはハッピーエンドかと思う。(MIHOシネマ編集部)
家族のために戦争に行ったのに、その戦争のせいで妻と子を亡くしてしまう男の物語。戦争は何も生まない、ハッピーエンドなんてありえないと思っていましたが、今作は直接的では無いものの戦争をきっかけに新しい人生を歩んでいく前向きなストーリーでした。
決して明るい物語ではありませんが、いつまでも悩み、蹲っていても時間は同じように流れていってしまうし、前を向いて一歩踏み出す勇気も人生には必要なんだと思い知らされました。(女性 30代)
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