映画『西部戦線異状なし(1930)』の概要:第一次世界大戦中のドイツ。祖国のために戦うのは名誉なことだと信じていたポールたちは、自ら志願して西部戦線へ赴く。しかし、そこで彼らが目にしたのは大勢の人々が命を落とす凄惨な光景だった。
映画『西部戦線異状なし』の作品情報
上映時間:100分
ジャンル:歴史、戦争
監督:ルイス・マイルストン
キャスト:リュー・エアーズ、ウィリアム・ベイクウェル、ラッセル・グリーソン、ルイス・ウォルハイム etc
映画『西部戦線異状なし』の登場人物(キャスト)
- ポール・バウマー(リュー・エアーズ)
- 学生の身だったが、担任教師に扇動され兵士に志願した。当初は戦争に参加することを名誉なことだと思っていたが、実際の戦場を目の当たりにして考えを改めた。一緒に志願した級友たちのことを気にかけている。
- カチンスキー(ルイス・ウォルハイム)
- ポールが所属する隊で食料係を務める古参兵。陽気な性格で、新兵であったポールたちに戦場で必要な知識を与えてくれた。兄貴分としてポールから慕われている。
- ベーム(ウォルター・ブラウン・ロジャース)
- ポールの級友。戦争に参加することには消極的であったが、担任教師や級友たちに説得されて兵士に志願することとなった。級友のうちで最初に戦死した。
- ケメリック(ベン・アレクサンダー)
- ポールの級友。ベームの死後、志願に乗り気でなかった彼を強引に誘ったことを後悔し、精神を病む。塹壕から飛び出して負った重傷が原因で死亡した。
- ヒンメルストース(ジョン・レイ)
- かつてはポールたちが住む街の郵便屋だった兵士。気さくな人物であったが、兵士となってからは横暴さを見せた。新兵となったポールたちを非常に厳しく指導し、恨まれることになる。
映画『西部戦線異状なし』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『西部戦線異状なし』のあらすじ【起】
第一次世界大戦中のドイツ。街では群衆の歓声を浴びながら、戦場へ向かう兵士たちがマーチに合わせて行進していく。ポールたちが通う学校では担任教師が帝国主義を振りかざし、自ら兵士に志願することを生徒たちに促していた。国のために戦うことは名誉であるという言葉に少年たちは目を輝かせ、入隊を決意した。
新兵となったポールたちの教官は、ヒンメルストースだった。彼は街の郵便配達員だった人物で、ポールたちはこれまでのように砕けた口調で彼に話しかけた。しかし、入隊後のヒンメルストースはすっかり厳格な人物になっており、浮かれた態度のポールたちを叱責した。厳しい訓練が始まり、横暴なヒンメルストースにポールたちは恨みを募らせていく。その後、ヒンメルストースは一足先に前線へ送られることが決まった。出征の前日には祝いの席が設けられ、ヒンメルストースは泥酔して宿舎へ帰ってきた。それを待ち構えていたポールたちはヒンメルストースを捕まえ、これまでの仕返しとばかりに袋叩きにした。
映画『西部戦線異状なし』のあらすじ【承】
やがてポールたちもフランス軍との前線になっている西部戦線へ赴くことになり、兵舎へ移動した。兵舎には、食料係のカチンスキーをはじめとする古参兵たちがいた。最初の仕事は鉄条網張りだった。カチンスキーらと向かった場所では、砲弾が飛び交っていた。爆発音がするたび怯えるポールたちに、カチンスキーは危険な砲弾の見分け方について教えてくれた。周囲に気を配りながら作業を続けるが、級友の1人、ベームが砲弾の犠牲となり死亡した。ポールたちは戦場の過酷さを思い知らされた。
他の隊への移動が決まり、ポールたちは塹壕で待機する日々を過ごすことになった。断続的な砲弾の音に恐怖し、次第に皆ストレスを募らせていく。精神に異常をきたしたケメリックは塹
壕から飛び出し、重傷を負った。戦闘準備の合図がかかり、フランス軍との実戦が始まる。機関銃や銃剣、手榴弾を駆使して、徹底的に殺し合う悲惨なものであった。ポールのいる隊は半分が犠牲になった。
兵舎に戻ったポールたちは、久しぶりの食事にありつく。明日にはまた前線に戻ることになっていた。食事のあと、ポールは級友たちとケメリックの見舞いに行った。ケメリックは右足を切断されており、回復の見込みは薄かった。ポールは懸命に励ますが、医者不足の影響もありケメリックは死亡した。
映画『西部戦線異状なし』のあらすじ【転】
塹壕に戻ったポールたちは、戦争が終わったら何をしたいか語り合っていた。そこへヒンメルストースがやってきて、ポールたちと再会を果たす。ポールはヒンメルストースをからかい、兵士たちはその様子を見て笑っていた。それからすぐ、出撃の指示が出た。
戦闘中、砲弾を避けるため窪みに潜んでいたポールは、そこへ飛び込んできたフランス兵を刺し殺してしまう。銃撃は絶え間なく続いており、出るに出られない状況だった。フランス兵は虫の息ながら、まだ生きていた。罪悪感に苛まれたポールは必死に看病する。銃撃は夜通し続き、朝になってフランス兵は息を引き取った。ポールが彼の胸元から支給簿を取り出すと、そこには妻と娘と思しき写真が挟まれていた。ポールは遺体に向かって、必ず家族に手紙を書くと誓い、泣きながら謝った。いつのまにか眠っており、目を覚ますと砲弾の音は止んでいた。
ポールたちの隊はフランスのとある街へ移動した。飲酒や食事、入浴、女性との交流など束の間の楽しいひとときを過ごす。街を離れると、再び敵の攻撃が始まった。ポールは腹部を負傷し、病院へ運ばれた。夜中に出血したポールは、死に際の患者が入れられるという「死の部屋」へ連れて行かれる。今まで誰も戻ってきたことがないというその部屋からポールは生還し、無事に退院した。
映画『西部戦線異状なし』の結末・ラスト(ネタバレ)
休暇をもらったポールは実家へ帰省し、家族との再会を喜び合った。ポールが入隊してから3年の月日が流れていた。母親が病気を患っていることを知らされ、ポールはショックを受ける。父親とその友人たちと食事へ行くと、実際の戦場の厳しさを知らない彼らは無責任な展望ばかりを述べた。耐えかねたポールは先に店を出て、母校へと向かった。
かつてポールたちを入隊へ駆り立てた担任教師は、今も生徒たちを扇動していた。訪れたポールを教師は理想的な若者だと褒め称え、生徒たちの前で話をしてほしいと頼んだ。ポールは戦場の悲惨さを伝え、祖国のために命を犠牲にする必要はないと言った。美談を求めていた教師は反論し、生徒たちはポールを臆病者だと罵った。
母との別れを惜しみ、ポールは前線へ戻った。ポールの隊にいた兵士は激減していて、16歳ほどの若い兵士たちが補充されていた。ポールと親しい古参兵たちは、負傷して入院したり家に戻ろうとして逮捕されたりしていた。カチンスキーは無事だと聞き、喜んだポールは急いで彼のもとへ向かった。休暇中の話を聞かれ、世間との戦争に対する認識の乖離を伝える。2人で話をしながら兵舎へ戻っていると、空撃が始まった。
ポールは足を負傷したカチンスキーを背負い、病院へ向かう。砲撃はまだ止まず、そのうちの1発でカチンスキーは亡くなるが、ポールは気がつかず話しかけ続けた。病院に着き、カチンスキーがすでに息を引き取っていることを知らされる。その後、戦闘へと戻ったポールは塹壕の中にいた。ふと視線の先に蝶を見つけ、手を伸ばそうと身を乗り出した瞬間、敵兵に狙撃され命を落とした。
映画『西部戦線異状なし』の感想・評価・レビュー
機関銃掃射で大勢の人が次々と倒れていったり、塹壕に飛び込んできた敵兵を銃剣で刺し殺したりなどのシーンから、戦争の悲惨さが生々しく伝わってきた。とはいえ、実際の光景は想像も及ばないほど凄惨なのだと思う。作中で、銃後の人々は戦争に参加するのは名誉なことだと言っていたが、戦争は人の人生を壊すものだという認識を皆が持たなければならないと感じた。これだけのことを各国が経験していながら、このあとさらに第二次世界大戦が起こるのだと思うと絶望的な気持ちになった。(MIHOシネマ編集部)
こうやって若者の青春は奪われていったんだと、ストレートな反戦映画として伝えてくるシーンの数々に言葉を失う面もあった。戦前の戦争映画の中ではかなりの名作だと言えるし、製作された時代も考えてもとても貴重な一本だろう。
ポール自身から志願兵に現実を語るシーンとブーツのシーンともちろんラストも印象的で、当時スクリーン越しの多くの若者にメッセージは届いたのだろうかと、ふと思った。人が死んでもその横で平然とポーカーが始まるのが現実という非情さが残酷だ。(女性 20代)
国のために自ら志願して戦争に行ったのに、その瞬間彼らの青春は全て奪われ、自分が自分で無くなってしまうような悲しさ、虚しさ、怒りを感じる作品でした。
戦争映画を見る度に思うのは、戦争は何も生まないという事。なんの罪もない若い命を奪い、その命一つ一つをものすごく軽く見ているんですよね。それはタイトルからも読み取れますが、主人公の死は他人にとっては「異常なし」なのだとものすごく悲しくなりました。戦争を知らない私たち若い世代こそ見るべき作品だと思います。(女性 30代)
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