映画『ガラスの城の約束』の概要:コラムニストとして働く女性が、若い頃関係を断った家族とあることをきっかけに再び向き合うことになる。奇想天外な両親に育てられた子供時代と独立してからの現在の時代を実話をもとに行き来しながら、家族のあり方を見つめ直す。
映画『ガラスの城の約束』の作品情報
上映時間:127分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ドキュメンタリー
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
キャスト:ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ、マックス・グリーンフィールド etc
映画『ガラスの城の約束』の登場人物(キャスト)
- ジャネット・ウォールズ(ブリー・ラーソン)
- ニューヨークでコラムニストとして働く女性。婚約が決まり順風満帆な生活を送っていたが、ある日ホームレスとなった父親と再会したことで子供時代の生活を思い出し、動揺する。
- レックス・ウォールズ(ウディ・ハレルソン)
- ジャネットの父。ほぼ定職に就かずアルコール依存症だが、博識で子供たちの幼少期から自然の中で色々なことを教えてきた。
- ローズマリー・ウォールズ(ナオミ・ワッツ)
- ジャネットの母。自称画家であり絵ばかり描いており、あまり家事をしない。夫とはよく喧嘩をするが仲が良い。
- ローリ・ウォールズ(サラ・スヌーク)
- ジャネットの姉。しっかり者で、両親との生活に嫌気が差し家出を計画する。
- ブライアン・ウォールズ(ジョシュ・カラス)
- ジャネットの弟。優しい性格で、気が弱い。成長してからは警察官となる。
- モーリーン・ウォールズ(ブリジット・ランディ=ペイン)
- ジャネットの妹。成長してから一度家を出たが、また両親のもとへ戻って同居している。しかし、内心複雑な思いを抱いている。
- デヴィッド(マックス・グリーンフィールド)
- ジャネットの婚約者で証券アナリスト。ジャネットの知性とユーモアのセンスを買っており、仕事の場にもたびたび彼女を同席させる。強烈なジャネットの両親に腰が引けている。
映画『ガラスの城の約束』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ガラスの城の約束』のあらすじ【起】
1989年のニューヨーク。ジャネットはコラムニストとして充実した生活を送っていた。婚約者であるデヴィッドとも順調に交際しており、彼の顧客と一緒に会って会話を弾ませるセンスも持っていた。ある日、いつものようにデヴィッドの顧客と食事をした後、一人で乗ったタクシーの窓から父親のレックスが路上のゴミを漁っているのを見つけてしまう。動揺したジャネットは咄嗟に目をそらし、普段は思い出さない幼少期の出来事に思いを馳せる。
時代はジャネットが7歳頃のこと。彼女と両親、姉と弟から成る一家は定住する家を持っていなかった。車を改装して様々な所を渡り歩いて空き家を一時の住処とし、時には野宿をすることもある生活だった。ある日、お腹を空かせたジャネットが食べ物を母親にせがむも、絵を描いている母は応えない。自分で作りなさいと言われたジャネットは一生懸命ソーセージを茹でるのだが、ガスコンロの火が彼女の服に燃え移り腹部を大やけどしてしまう。入院することになった彼女を、病院の医師たちは訝しく思う。その歳で学校にも通っていないようだし、やけども虐待ではないか?と疑っていた。
そこに父親を始め家族一同が訪ねてくる。両親を問い質す医師たちだったが、ものともしない態度のレックスに軽くあしらわれてしまう。長期の入院を勧める医師に対し、その費用でお前の車を買うんだろ?と突っかかり、娘の退院を主張する。そして、スタッフが少し目を離した隙に病室にレックスが忍び込み、治療が終わらないうちにジャネットを連れて逃げ帰ってしまうのだった。
一家は万事その調子で、学校や会社など「当たり前」とされている場所に所属せずその日暮らしをしていた。しかし、レックスは物理や天文学に詳しく、野宿をしながら子供たちに星のことを教えたりしていた。物知りな父親を幼い子供たちは尊敬し、貧しいながらも一家は笑いにあふれた生活を送っていた。特に賢いジャネットを父は「チビヤギ」と呼び、時に厳しくもかわいがって育てた。父はいつか家族で住む家を建てるんだ、と計画を話し、幼いジャネットは「ガラスでいっぱいの明るい家がいい」とお願いする。レックスはその要望を取り入れた平面図を手描きし、未来の夢に向けて希望を持っていた。
映画『ガラスの城の約束』のあらすじ【承】
数年後、一家に末の娘が生まれた。5人家族となったレックス一家だったが、警察の調査によってそれまで住んでいた家から出なければいけなくなってしまう。赤ん坊の妹を含めて皆でトラックの荷台に乗り込み、父親の運転で夜逃げ同然に家を去った。ようやく辿り着いた住処は狭いながらも居心地がよく、一家はしばらく平穏な生活を送ったのだった。
時は移って現代のニューヨーク。出勤前、婚約者と暮らす瀟洒なアパートメントにいたジャネットは母親からの電話を受ける。これまでも時々連絡は来ていた様子だが、この時は母親に呼び出されて一緒に食事をした。先日父親を目撃した現場には母親もおり、無視して走り去ったジャネットを冷たい娘だと非難する。今まで婚約を内緒にしていたジャネットだったが、ついに結婚することを打ち明けた。しかし、母親はあまり祝福せず、とにかく一度一緒に会いに来なさいと話す。若い頃は綺麗だった母が、髪も服も汚れた格好で食事をする姿を、ジャネットは落胆の表情で見つめるのだった。
そして、デヴィッドを実家へ連れて行く日が来た。ジャネットは大学入学を機に家を出ていたのだが、その後彼女がニューヨークで職を得たタイミングで両親もニューヨークに越してきていたのだ。ジャネットの住まいと比べると古く汚い家だが、まずは定住している様子だった。デヴィッドはレックスの粗野な態度に腰が引けた様子だったが、婚約者の親なので神妙に振る舞っていた。家には姉、弟、妹も揃っており、久々の再会を喜ぶ。弟のブライアンは警察官になり、姉のローリも独立して順調に生活していた。妹のモーリーンは一人で暮らしていたのだが、恋人との破局を機に両親と生活しているようだった。
ジャネットはあまり飲まないように、とデヴィッドに注意していたのだが、酒飲みの父に半ば強引に勧められて飲み過ぎてしまう。そして、些細なことがきっかけで口論になったレックスとデヴィッドだったが、腕相撲で勝負をつけようと言うレックスにデヴィッドは乗ってしまう。最初は反対していたジャネットだったが、勝負が白熱してくると家族たちと一緒に声を張り上げてデヴィッドを応援した。結果勝利したデヴィッドだったが、彼の言葉に腹を立てたレックスはデヴィッドを殴ってしまう。怒って自宅へ帰ったジャネットとデヴィッドだったが、その後口論になる。「君の家族は異常だ」、と思わず口を滑らせてしまったデヴィッドに、ジャネットは悲しそうな表情を見せる。
映画『ガラスの城の約束』のあらすじ【転】
再び子供時代。またしても住処をなくしたレックスは、自らの実家に一時身を寄せる苦渋の決断をする。詳しくは話さないが、嫌な思い出があり極力帰らないようにしていたようだ。一家が到着すると、レックスの両親と兄が一緒に暮らしていた。愛想よく振る舞おうとする子供たちだったが、祖母は偏屈な性格のようで早速衝突が起きてしまう。口を出さないレックスに対し、母は努めて明るい様子を見せて馴染もうとする。
折良く近くに古い空き家を見つけ、一家はそちらへ移り住む。そこは彼らが今後長く住むことになった家なのだが、少しでも居心地をよくするために自分たちで改装を行う。子供たちも協力し、一緒に廃材を持ってきてテーブルを作ったりペンキを塗ったり、家族に久しぶりに笑顔が戻った。レックスはあのガラスの家の平面図をこの家に合わせて描き進め、将来の家の基礎を作るため、家族総出で庭に穴を掘り始める。「チビヤギ」ジャネットも汗を流し、家族は幸せな時間を過ごしていた。
そして、その幸せを守るため、レックスには解決しなければいけない問題があった。自身のアルコール依存症である。彼は自らを2階のベッドに縛り付けさせ、酒を断つことにした。その前に、ジャネットに対して自分がどんなことを言っても絶対に酒を与えないでくれ、2 階にも来ないでくれと頼む。約束を守っていたジャネットだったが、上階から聞こえてくる父の苦しそうな声にハラハラしていた。そんな折、父に名前を呼ばれて行ってみると憔悴した父がおり、涙声で彼女に酒をくれるよう懇願した。あまりにも苦しそうな禁断症状の様子にジャネットは胸が詰まり、一瞬頼みを聞きそうになってしまうが、結局思い留まり下階へ走り去った。そんな彼女に向けレックスは口汚い言葉を浴びせ、ジャネットは姉と肩を寄せ合い泣くことしかできなかった。
しかし、父はその長い苦しみを乗り越えた。子供たちが外で遊んでいるところに母に連れられて現れ、以前のような穏やかな笑顔を見せる。ジャネットたちはまた父とたくさんの時間を過ごせることを喜び、母も嬉しそうな表情だった。それまでほとんど定職に就いていなかったレックスは、依存症克服を機に電気工事会社で働き始める。生活が少し安定し、やっと安心することができたジャネットだった。
ある日、両親が遠出する機会があり、子供たちは祖母の家に一晩泊まることになった。夜、弟がいないことに気づいたジャネットは家の中を探し回る。祖母の部屋から弟の声がしたのでドアから中を覗くと、こちらに背を向けた弟と彼に向き合った祖母が見えた。しかし、明らかに様子がおかしく、祖母は嫌がる弟にこっそりと何かを強制しているようだ。子供ながらに異常事態に気づいたジャネットは勢いよく部屋へ飛び込み弟を守ろうとする。騒ぎを聞きつけた姉のローリも駆けつけ、2人を守るため祖母へ立ち向かうと、祖母はローリに手を上げた。呆然とする子供たちだったが、ローリだけは強い眼差しで同じように祖母に平手打ちをしたのだった。
戻ってきたレックスとローズマリーは、事の顛末を聞き子供たちを叱る。納得がいかない子供たちだったが、父は明らかに動揺しているようだった。車で自分たちの家に帰り、母や子供たちが車から降りても父だけは険しい表情で残っている。ジャネットは彼が酒を飲むつもりだと気づき、頑として車から降りない。「ずっとやめていたのに、どうして?」と涙ながらに訴えるのだが父は聞き入れず、ジャネットを強引に車から降ろした。残された家族は落胆し、母は走り去る車に向かって「ろくでなし!」と叫んだ。
現代のニューヨーク。ジャネットは長じるに連れて、父親が祖母から性的虐待を受けていたということに確信を持つ。かつて断酒に成功したのにそれを破ってしまうほどの衝撃を受けたのは、息子が受けた仕打ちによって自らのトラウマが甦ってしまったのだろう、と考えていた。しかし、それでも父親の数々の行動は同情には値しないし、今は両親から離れて暮らすことで平穏を得ていた。すっかりレックスに懲りた様子のデヴィッドからも、あまり関わるなと言われている。ジャネットは家を出た経緯を思い出していた。
ジャネットが10代中盤になった頃、レックスはまた元のように無職で酒飲みに戻っていた。子供たちにこそ暴力は振るわなかったが、母親としょっちゅう激しい喧嘩をしては仲直りの繰り返しだった。成長した子供たちはすっかり呆れ果てていた。そんな中、長女のローリがまず行動を起こす。彼女は友人たちの助けを借りてニューヨークへ行くための計画を練り、こつこつとお金を貯めていた。いよいよ決行の日、ジャネットに「あなたは文章の才能がある。ニューヨークの大学で教授に話しておくから、いずれ家を出なさい」と話す。父親が家の裏の方にいる間に友人たちが迎えに来た車で去ろうとした時、それに気づいた父が凄い剣幕で追ってきた。しかし、間一髪のところでローリは家出に成功する。
ジャネットはかつて皆で一緒に掘った庭の穴を見つめていた。ガラスの家の基礎が埋まるはずだったその穴には、今では無数のゴミが積まれていた。
映画『ガラスの城の約束』の結末・ラスト(ネタバレ)
ある日、祖母が亡くなったと連絡が入った。ローリを除いた家族で葬儀に出たが、父親がいつものバーにいることに気づいたジャネットは父のもとへ出向く。レックスは憔悴した様子で飲んでいたが、ビリヤードをしている青年と賭けをすると言い出す。さらに、賭けの材料は娘だと言ったのだ。言葉をなくすジャネットだったが、結局父は青年に挑み、負けてしまう。青年の方が遠慮しようとしたのだが、父への反抗からジャネットは自ら進んで青年の部屋へ行く。そこにはレコードがたくさんあり、青年は近いうちに都会へ出るのだと話す。自分もニューヨークへ行きたいのだと話すジャネット。色々と話をするうちにジャネットの服を脱がせようとする青年だったが、彼女は自ら服を脱ぎ、小さい頃に負ったやけどの跡がはっきりと残る肌を見せ、呆然とする青年を残してそのまま部屋を去った。
父親と家に帰ったジャネットは、姉と同じように貯めてきた貯金箱を隠していた床下を確認した。すると、箱は壊され、中のお金はすべてなくなっていた。ジャネットは激怒し、父親を問い詰める。しかし、父は自分ではないの一点張りでらちがあかず、絶望感を覚える。
そんな家から一刻も早く出たく、ジャネットは手を尽くして大学受験に合格する。奨学金をもらって進学したジャネットだったが、自力で卒業するにはお金が足りず、やむを得ず中退を決断した。泣きながら自室を片付けていた時、父が現れる。ギャンブルで勝ったお金を持ってきたのだ。これで大学での勉強が続けられる、とジャネットは泣き笑いの表情になり、親子の間に久しぶりに笑顔が戻った。
そして今、ジャネットは文章を書く才能を活かしてコラムニストとして成功し、余裕のある生活を送っている。しかし、この生活は本当に自分が望んでいたものなのだろうか?と、疑問が芽生える。そんな中、婚約のお披露目パーティーを自宅で催したデヴィッドとジャネット。姉や弟と談笑していたジャネットは、招待していない両親がいることに気づき愕然とする。弟が口を滑らせたらしい。ジャネットは両親を寝室へ呼び、どういうつもりなのか問い質す。すると、母が昔相続していた土地を弟に取られそうなので、自分のものにするためにお金が必要なのだと言う。法外な金額をデヴィッドから借りるために来たのだと話す両親に、ジャネットは怒りを抑えられない。さらに、頼りにしているデヴィッドに対しても、父は「お前が幸せになるために選ぶ相手は本当にあの男なのか?」と問い詰め、ジャネットはそれに自信を持って答えられない。お金のことで食い下がる両親に対して、招待客の前でジャネットは大声で罵倒の言葉を並べ、彼らを追い出した。
それからしばらく後、母親からジャネットに連絡があった。父親が先日の出来事以降体調を崩し、ずっと寝たきりだと言う。職場まで会いに来てお父さんに会ってほしい、と懇願する母だったが、ジャネットは突き放す。そして、その日の夜はデヴィッドと彼の顧客と共に食事をする予定があった。いつも通りユーモアを交えながら歓談し、場を盛り上げるジャネットだったが、顧客が不意に尋ねた「あなたのお父さんは何をやっているの?」という質問に対し、固まってしまう。「工学技師なんです」と取り繕うデヴィッドを尻目に、トイレに駆け込むジャネット。そして、決断の表情を浮かべ、席へ戻る。「工学技師じゃない」ときっぱり告げ、幼少の頃から定職に就かず酒飲みで、今はホームレス同然の暮らしをしています、と本当のことを告白する。あっけにとられる面々に失礼を詫び、ジャネットはレストランを飛び出した。
両親の家に着くと、母が言った通り父は寝込み、空を見つめていた。ジャネットは父に呼びかけ、父は娘を認め昔話を始める。まだジャネットが幼かった頃に2人で星空を見上げたこと、そのうちの1つの星をジャネットにプレゼントする、と話したこと。語り合ううちに2人の顔には昔のような穏やかな微笑みが戻ってくる。どんな境遇だったとしても私は父の娘だ、と改めて認めるジャネット。
そして、父は亡くなり、ジャネットは婚約者と別れる。新たな生活に踏み出したジャネットの元に家族が集まり、共に食事をする。その話題はもちろん父のことだ。無茶苦茶な人だったよね、と話しながらも笑いは絶えず、ジャネットの目にはふと涙が浮かぶ。私は人に恵まれている、本当にラッキーな人間だと言うジャネットの言葉で映画は幕を下ろした。
映画『ガラスの城の約束』の感想・評価・レビュー
幸福な幼少期とそれ以降の苦しい時代とのギャップが激しく、見ていて苦しくなることが多かった。自分だったらあの父親を許せるだろうか?と終始考えていた。あんな境遇で育ちながらも都会で自立して生活しているジャネットだが、相当な困難があったと思う。その部分にもう少しフォーカスしてもらえたらより深みが出たのではないかと感じた。(MIHOシネマ編集部)
幼少期から父親のことが嫌いな私は主人公のジャネットと自分を重ね合わせて鑑賞してしまい、なんとも言えない気持ちになりました。
子は親を選べないと言う言葉がありますが、まさにその通りでどんなに嫌いな父親でもそれが私の父親です。昔、母によく言われた「あの人が相手じゃなかったらあなたは生まれてなかった」という言葉の意味を今まで以上に理解出来た気がします。
一度離れて距離を置き、お互いを見つめ直してから「再構築」するのも一つのやり方なのかもしれません。(女性 30代)
事実であることが信じられない。それほどの歪んだ父親と彼の愛情。住む場所は無く、子供の学びの機会は考えず、仕事もせず酒に溺れる日々を送る男。非常に許しがたく、怒りを感じながら終始鑑賞。成長した子供たちが、父と距離を置くことを考え出すのは当然。父親程ではないが母親もおかしく、見事に家庭は崩壊している。それでも血が繋がっていることが、この崩壊した家族を鎖でつないでいる。親子とは何なのか、何が正しいのかが分からなくなる。(男性 20代)
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