この記事では、映画『過去のない男』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『過去のない男』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『過去のない男』の作品情報
上映時間:97分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ラブストーリー
監督:アキ・カウリスマキ
キャスト:マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン、アンニッキ・タハティ、ユハニ・ニユミラ etc
映画『過去のない男』の登場人物(キャスト)
- 過去のない男(マルック・ペルトラ)
- 夜行列車でヘルシンキにやってくるが、暴漢に襲われ頭を殴られたことで記憶喪失となる。見知らぬ町で手探りで生活するうち、少しずつ周囲の人々との関係を築いていく。
- イルマ(カティ・オウティネン)
- 慈善団体である救世軍に所属している。地味な生活を送る独身女性で、人々に食事を分け与える活動をしている時に過去のない男と出会う。
- ニーミネン(ユハニ・二ユミラ)
- ヘルシンキの貧民街に家族と共に暮らし、週2回の夜間警備員を仕事にしている。過去のない男が倒れているところを介抱する。
- カイザ(カイヤ・パリカネン)
- ニーミネンの妻。夫と2人の子供と共に暮らす。しっかり者の主婦で、夫が連れ帰ってきた過去のない男の面倒を見る優しい性格を持つ。
映画『過去のない男』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『過去のない男』のあらすじ【起】
ある夜、一人の男がフィンランド・ヘルシンキへ向かう夜行列車に乗っていた。男はどこか虚ろな表情を浮かべていた。列車を降り、行くあてのない男は公園のベンチで一夜を明かそうとするが、そこに現れた暴漢3人組により暴行を受けて大怪我を負う。暴漢により金や身分証を奪われていた男は、病院に運ばれたものの心肺停止に陥ってしまう。
彼の死亡を確認した医師が席を外した時、突然男は起き上がる。死の淵から蘇った男は、顔に包帯がぐるぐる巻きになった状態で服を着て病院を抜け出す。ある町の河原で倒れていた男を2人の少年が見つけ、急いで父親に知らせに行った。ニーミネンという名の男は息子たちからの知らせに驚くも、倒れていた男を自宅に連れ帰り妻と共に介抱する。
やっと話ができるまでに回復した男だったが、列車に乗ってヘルシンキに着き暴漢に襲われたことしか覚えておらず、自らの名前や出身も何もわからなくなっていた。戸惑う家族だったが、必要以上に彼を気遣うでもなく放っておくでもなく、程良い距離感で男と接していた。ニーミネンは週2回夜間警備員として働いているが、生活は楽ではない。周りの住民も同じような経済状態であり、失業率の高さも深刻な問題だった。
そんな中、毎週金曜日は救世軍の活動により町中で市民にスープなどの食べ物が配布される日であり、ニーミネンの給料が出る日でもあった。ある金曜日、ニーミネンは男を誘い食料配布に赴く。そこでは長い行列ができており、男もそこに並んだ。男の番が来た時、スープを配っていた救世軍の女性職員・イルマに一目惚れする。イルマの方も、見慣れない男に目を引かれたようだった。

映画『過去のない男』のあらすじ【承】
ある日、男がニーミネンと一緒にいるところに、警備員がやってくる。彼は威圧的な様子で男の素性を探ろうとするが、その過去のない男が住み処を探していると知り、自分の所有物件を貸し出しても良いと言う。とは言え、その物件はニーミネン家族が住んでいるコンテナハウスと同じような粗末な物だった。警備員はかなり強欲な男で、高額な家賃を毎週納めに来るようにと命じる。だが、困っている男にすぐに物件を用意したりと悪い面ばかりではないようだった。
男はさっそく室内の掃除をし、居心地の良い空間を作ろうとする。ニーミネンの知り合いの電気業者もサービスで工事をしてくれ、古いジュークボックスの修理までしてくれる。
周囲の人々の助けにより、過去のない男は徐々に人並みの暮らしを手に入れていくのだった。相変わらず自分の名前すら思い出せない状況だったが、職を得ようとして救世軍の施設に赴く。
そこには先日出会ったイルマがおり、ヘルシンキ到着以来ずっと同じ服を着ている男に寄付品である服を与える。服を着替えて、だいぶましな様子になった男は、自らの職を手配してくれるよう彼女に頼んだ。イルマは救世軍のマネージャーである女性に相談し、寄付品の仕分けや整理をする仕事を男に与えるのだった。そして、最初に家賃を納める日、まだ働き始めたばかりで用意ができなかった男に対し、警備員は代わりに自分の犬を預かれ、と命じる。獰猛な犬だと言うわりにはその犬はおとなしく、警備員が出張に出る間の犬との共同生活が始まった。
救世軍での仕事が始まって以来、男とイルマは徐々に距離を縮め、イルマは久しぶりに化粧をし、自分も男に惹かれていることに気づく。ある日男はイルマを自宅へ招き、手料理を振る舞い一緒に音楽を聴いて過ごした。ずっと無表情で暮らしていた男だったが、まわりの人々のさり気ない好意やイルマとの時間の中でだんだんと明るさを身につけていった。
映画『過去のない男』のあらすじ【転】
ある日、救世軍の音楽隊が曲を練習しているところに赴いた男は、「いつも同じものではなくたまには違うものも演奏しよう」と呼びかける。彼らを自宅に招き、ジュークボックスでロックやブルースを聴くうち、音楽隊もその誘いを受け入れていく。マネージャーの許可も取り付け、食料配布などの慈善活動中にいつになく斬新な音楽を奏でるバンドの面々。集まった人々も一組二組とダンスを踊り始め、男にも周囲の人々にも変化の兆しが見え始める。この頃にはイルマの表情にも頻繁に笑顔が見られ、地味で堅そうな雰囲気だった印象は変わりつつあった。
そんな折り、救世軍の仕事中に溶接工の仕事を目にした男は、理由がわからないままその作業に惹きつけられ自分にもやらせてくれと申し出る。素人とは思えない男の手つきに、ぜひここで働いでくれと職人が持ちかけ、男も了承する。だが、自らの名前もわからない男はそれを会社の採用担当女性に伝えるが、名前は適当に考えるからまずは銀行口座を作って、と彼に話す。
銀行を訪れた男が窓口の女性とやり取りしている時、銃を持った男が入ってくる。彼は自分の口座が凍結されていることを知りながら、そこから高額な金を引き出すよう女性に命じる。他に客もおらず、女性と強盗と3人で金庫に向かった男は、そこで金を受け取った強盗が逃走時間を稼ぐために2人を金庫内に閉じ込めてしまう。男は女性と話をするうち、この銀行が今日で閉店することを知る。どこか投げやりな様子の女性だったが、スプリンクラーを壊すことで警報が鳴り、2人は警察に保護される。
女性はすぐ解放されたのだが、男は記憶喪失と話しており、警察も簡単には釈放できずにいた。何も話さない男に業を煮やした警察官だったが、イルマたち救世軍の助力により派遣された弁護士が彼を守り、無事警察を出ることができた。その後立ち寄ったバーで、彼を尾けていた銀行強盗の男が姿を見せる。彼は機械工場の経営者だったが、フィンランドの深刻な不況により銀行から工場を差し押さえられ、給料未払いのまま従業員を解雇した過去があった。彼はそれを悔い、未払い分の金を自らの口座から引き出したのだ。そして、この金をかつての従業員たちに渡してきてほしいと頼む。
映画『過去のない男』の結末・ラスト(ネタバレ)
願いを聞き入れた男は、従業員たちの現在の居所を突き止め、順番に金を渡して回っていく。そんな中、男を警察署に勾留していた警察官が現れる。先日の強盗騒ぎにより男の顔が新聞に載り、それを見た男の妻が連絡をしてきたと言うのだ。しかし、捜索願いは出されていなかったと言う。男は自分に妻がいたということに驚くが、まずは自宅へ戻ることを決める。そのことを告げた時、イルマは驚き悲しむのだが、別れを決め男を地元へ送り出すのだった。
男がかつての自宅へ戻った時、妻が待っていた。彼女によると、彼ら夫婦は夫のギャンブル癖により喧嘩が絶えず、離婚を決めたところだった。そして夫が家を出、ヘルシンキで職を探そうとしてから連絡がつかなくなったと言う。夫が行方不明になっている間に離婚手続きも完了し、彼ら二人はすでに夫婦ではなかった。さらに、元妻には新しい恋人もいた。その恋人は男にまだ元妻への愛情があると思い込み敵対心を表すが、男には争うつもりはなかった。妻を幸せにしてくれ、と言い残し、男は再びヘルシンキへ戻った。
その頃ヘルシンキでは、救世軍のバンドメンバーは盛況の中演奏活動をしていた。それを一人で聴くイルマの元に、男が現れる。驚くイルマだったが、男は彼女との暮らしを選び彼女にそれを伝える。イルマは「私の初恋よ」と伝え、二人で生きていく決心をする。
映画『過去のない男』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
フィンランド映画の巨匠、アキ・カウリスマキの映画を観たのは初めてだが、他のどの監督作品とも違う独特の空気が漂っていた。物語は時に整合性のない展開を見せるのだが、不自然になるギリギリのような演技を見せる役者たちとも相まって不思議な世界に迷い込むような気分になる。一見ぶっきらぼうに見える周囲の人物たちの隠れた優しさが沁みてくる、人の善意に溢れた作品だった。(MIHOシネマ編集部)
本作は、暴漢に襲われ大けがを負い記憶を失くしてしまった男が、見知らぬ土地で多くの優しい人々に助けられながら再生していく姿を描いたフィンランドのヒューマンドラマ作品。
大きな展開はなく、独特な世界観が淡々と進行する。
自分も貧困なのに当たり前のようにサッと手を差し伸べてくれる人たちの善意や、「人生は前にしか進まない」という言葉にハッとさせられた。
過去を振り返るのも、あまり深く考えすぎるのも良くないとこを気付かせてくれる作品。(女性 20代)
過去の記憶を失ってしまった男の物語。記憶を失うとまず、周りの人間がしようとするのは「記憶を取り戻す」事だと思います。それは無くしてしまったものを「取り戻して」欲しいという気持ち以外に、忘れてしまった自分たちのことを「思い出して」欲しいという希望があるのでしょう。しかし、今作では記憶を無くした男の「過去」を知る人間が周りにいないので「思い出させよう」とする人もいません。それがとても良かったです。
過去を無理に思い出すのではなく、新しい自分が築き上げた「新しい生活」を大切に送っていく様子に物凄く感動しました。(女性 30代)
フィンランド映画らしい静けさと皮肉が漂う作品でした。記憶を失った主人公が、自分の「過去」にこだわらず、新たな場所で優しさとユーモアに囲まれて再生していく姿に心が温まりました。特に救世軍の女性イルマとの恋愛が淡くも美しく、エンディングでは自然と笑みがこぼれました。北欧映画の魅力を感じたい方におすすめです。(30代 男性)
映画全体に流れる「静けさ」が何よりの魅力。大きな音や派手な展開はないのに、見終わった後には深い感動が残ります。過去を失った男が、貧しい人々と関わりながら、新たな人生を築いていくプロセスが胸に沁みました。イルマとの不器用なやり取りも可愛らしく、最後はさりげない幸せに包まれた作品でした。(50代 女性)
最初は少し地味だなと感じたのですが、観ているうちにこの独特の空気感にどっぷりと浸かっていました。記憶を失った男が、過去に執着せず、今を生きる姿勢がとても素敵でした。救世軍やスラムの住民たちの温かさにも感動。ユーモアと哀しみが絶妙に交じり合った佳作で、心がじんわり温かくなりました。(20代 女性)
アキ・カウリスマキ監督らしいシュールなユーモアと、静かなヒューマニズムが染み込んだ一本。記憶をなくした男が、社会の底辺で生きる人々に支えられながら、人生を再構築していく過程が丁寧に描かれています。イルマとの関係性も愛おしく、ラストの「それでも生きていく」感覚が心に深く残りました。(40代 男性)
人生に行き詰まった時に観てほしい映画。記憶喪失という設定は悲劇的なはずなのに、この作品ではどこかユーモラスで、希望すら感じさせます。特に、貧しさの中で生きる人々の優しさが、何よりの救いとなっている点が印象的でした。イルマとの恋愛の描き方も繊細で、とてもフィンランドらしい余韻を持つ作品です。(60代 女性)
アクションも派手な演出もないけれど、観ていて心にじんわり染みてくるような作品でした。記憶を失った男が社会の片隅で人と出会い、少しずつ信頼と絆を築いていく。その過程がとてもリアルで、どんなに人生が変わっても人との繋がりで救われるんだと思わせてくれました。静かで深い作品です。(30代 女性)
北欧映画特有の空気感と色彩設計が印象的でした。無口な主人公、淡々とした展開なのに、そこにある人間の温かさがしっかり伝わってきます。イルマとのラストシーン、「過去がなくても生きていける」というメッセージが感じられて、観終わった後、心がすっきりしました。スローだけど余韻が残る映画です。(20代 男性)
映画『過去のない男』を見た人におすすめの映画5選
ル・アーヴルの靴みがき
この映画を一言で表すと?
市井の人々が紡ぐ、小さな優しさと静かな奇跡の物語。
どんな話?
港町ル・アーヴルに住む貧しい靴みがき職人が、密入国した少年をかくまい、地域の人々と力を合わせて助けようとする姿を描く。社会の片隅で、ささやかな連帯と人間愛が光るハートフルな物語。
ここがおすすめ!
同じくアキ・カウリスマキ監督による本作は、『過去のない男』と通じる“静かな再生”がテーマ。ミニマルな演出、温かいユーモア、そして人間の優しさが心に沁みます。鑑賞後にはほっとする幸福感が残る一本です。
ストレンジャー・ザン・パラダイス
この映画を一言で表すと?
無気力な日常の中に、ポツンと光るユーモアと詩情。
どんな話?
ニューヨークに住む男のもとにハンガリーからいとこがやって来て、そこからロードムービーのようにふたりの生活がゆるやかに流れていく。何も劇的なことは起きないのに、クセになるリズムと空気感。
ここがおすすめ!
ジム・ジャームッシュ監督の代表作で、カウリスマキと同じく“静けさの中の豊かさ”を感じられる映画。セリフや表情の間に詩的な余韻が漂い、人生の空白にやさしく寄り添ってくれるような作品です。
パターソン
この映画を一言で表すと?
詩と日常が織りなす、静かで美しい一週間の物語。
どんな話?
アメリカの街パターソンでバス運転手として働く男の日常を1週間にわたって描いた物語。変化のない毎日の中で、彼は詩を書き、静かな充実を得ていく。淡々と進む中にも、深い癒しと観察眼が光る作品。
ここがおすすめ!
『過去のない男』のように、派手さがなくても人生は美しいと感じさせてくれる作品。日常を丁寧にすくい取り、詩的な視点で描く演出は、見る人の心を静かに癒してくれます。何気ない日々がいとおしくなる一作。
アメリカン・ハート
この映画を一言で表すと?
孤独な父と息子が再生を求めてもがく、哀しみと希望の物語。
どんな話?
刑務所を出所したばかりの父と、居場所を求める息子。ふたりは共に暮らしながら、互いに心を通わせようとするが、現実の厳しさが壁となって立ちはだかる。社会の底辺で生きる親子の絆と再出発の物語。
ここがおすすめ!
『過去のない男』と同じく、社会の隅で生きる人々の小さな希望が描かれています。ジェフ・ブリッジスの渋い演技が光る、人間ドラマの隠れた傑作。哀しみを抱えた者同士が支え合う姿に心を打たれます。
幸福(しあわせ)
この映画を一言で表すと?
失ったものではなく、今ここにある“しあわせ”に気づかせてくれる。
どんな話?
田舎町の孤独な男が、偶然助けた老婆との出会いをきっかけに、周囲の人々と少しずつ心を通わせていく物語。人の優しさや小さな交流が、閉ざされた心をゆっくりと溶かしていく温かなヒューマンドラマ。
ここがおすすめ!
『過去のない男』と同様、社会から取り残されたような人物が、ふとした出会いから生きる意味を取り戻していく過程が丁寧に描かれます。派手さはないけれど、観たあとに静かで穏やかな感動が残ります。
みんなの感想・レビュー