映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』の概要:映画『エイリアン』において「エイリアン」の造形をデザインしたH・R・ギーガーの素顔を明かすドキュメンタリー。世界中に衝撃を与え、見る者にトラウマを植え付ける彼の作品はどのようにして生まれるのか。その捜索活動の根源に迫る。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』の作品情報
上映時間:99分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:ベリンダ・サリン
キャスト:H・R・ギーガー etc
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』の登場人物(キャスト)
- ハンス・リューディ・ギーガー
- スイス、クール出身の画家。『エイリアン』で「エイリアン」の造形をデザインし、1980年のアカデミー賞視覚効果賞を受賞。生や死をテーマとし、セクシャルで仄暗い絵画を多く発表し多大な評価を得ている。本作撮影から4ヶ月後の2014年5月14日に逝去。
- カルメン・マリア・ギーガー
- ギーガーの現在の妻。実母、カルメン・ベガと共にギーガーのアトリエで仕事をしている。スイスにあるギーガー美術館の館長も務める。
- ミア・ボンザニゴ
- ギーガーの元妻。ギーガーが『エイリアン』を手掛けた時期に結婚。
- ザンドラ・ベレッタ
- ギーガーの元交際相手。ギーガーがチューリッヒにアトリエを構えた時期を共に過ごした。家の荒れように呆れ、積極的に整理整頓を行う。現在は助手としてギーガーの仕事を手伝っている。
- パウル・トプラー
- ギーガーの元交際相手、リーの兄。妹亡き今もギーガーと親交がある。
- トーマス・ガブリエル・フィッシャー
- ギーガーのアトリエに勤める秘書。バンドマン。当時どこにも評価されなかった自身のバンドにギーガーが唯一目をかけてくれたため、恩を感じ秘書になる。
- スタニスラフ・グロフ
- ギーガーが懇意にしている精神科医。ギーガーの自宅にある庭やアトリエから、彼の深層心理を分析する。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』のあらすじ【起】
スイス、チューリッヒにあるギーガーのアトリエ兼自宅は、玄関を開けるまでの道のりも鬱蒼としている。雑草とガーデニングの境界線が曖昧なまま家の入口に辿り着くと、玄関を開けるやいなや、もの悲しげな彼の作品が出迎えてくれた。家の中は書類や本、ギーガーの手掛けたオブジェが乱雑に置かれている。所狭しと置かれた造形の中には、オスカー像もひっそりと紛れ込んでいた。足の踏み場もなくなるほど「物」に溢れた室内を進むと、ギーガーは飼い猫のムギと緩やかに戯れながらスケッチをしていた。
ギーガーは、彼にしか分からない秩序で整理された棚から、ボロボロの頭蓋骨を取り出し紹介してくれた。その頭蓋骨はギーガーが6歳の時父親から貰ったもので、当時は恐怖を覚えたと言う。「自分の手の中に“死”が存在したから」怖くなったギーガー少年は、死を恐れていないことの証明として、頭蓋骨に紐を括りつけて引きずり回していたという。
精神科医のスタニスラフは、ギーガーの庭をこう分析する。彼の庭は出産を連想させる作りをしていて、血や肉を模した木々のアーチを抜けた先に苦しむ胎児の石像が無数に置かれている。これらは、出生時の体験を立体的に表現したものだと言う。人間が誰しも持っている最初のトラウマ=出産による生死の境目を、ギーガーは無意識的に表現できるそうだ。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』のあらすじ【承】
ポスター制作を行っているハンス・H・カンツと、ギーガーの代理人レスリー・バラニーは、若き日のギーガーを知っている。当時彼らが営んでいたポスター店に黒服の男がやって来て「ポスターを何枚か作ったが、売る気はあるか?」と訊ねた。それがギーガーだった。ギーガーは下書きすることなく、自分の見た悪夢や淫夢をエアブラシで描いていたようで、潜在意識から生まれた絵を見てギーガー本人も驚くのだという。前衛芸術の最盛期だった当時、ギーガーの手掛けたポスターは受けが良かった。
妻のカルメンは、ギーガーが持つ幼い頃の記憶を語ってくれた。ギーガーが姉と博物館でミイラを見た時、彼は恐怖で怯えた。それを姉に笑われたことでプライドが傷つき「怖くなくなる」という目標を達成するため、ギーガーは毎週ミイラを見に通ったのだという。故に彼の持つ“死”のイメージにはミイラが多く用いられており、魂の永遠性を表現する方法としてよく使われる。また、エロティックな絵が多いのは“生”をイメージし、強烈なエネルギーを表現しているためだという。ギーガーの作品は、見る者を自らの心の闇と向き合わせ光を遠ざける効果がある。
秘書のトーマス・ガブリエル・フィッシャーは、ギーガーの『ネクロノミコン』に影響を受けたバンドマンだった。当時誰からも理解されなかった自分の音楽を、ギーガーは唯一評価してくれたのだ。恩を感じ今でも秘書として勤める彼がギーガーに感謝に意を伝えると、それはお互い様だよと返された。冷たい雰囲気の作品からは感じ取ることが難しい、ギーガーの人間らしさが垣間見える瞬間である。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』のあらすじ【転】
パウル・トプラーは、妹の死を振り返る。彼の妹、リーは、ギーガーと9年間交際した末に自ら命を絶った。カトリックの禁欲的な教育を受け育ったリーは、突然何もかも許されギーガーとの自由な生活に身を置くことで、精神的に負担を感じてしまった。ギーガーは、そんな彼女を救おうと自分にできることを模索したが、検討虚しく彼女は自殺してしまった。ギーガーは今でも彼女の死に責任を感じており、絵を描くことで“死”から距離を置こうとしたが、何かできたのではないかという後悔は拭えずにいる。
元妻のミア・ボンザニゴは、ギーガーがハリウッドから『エイリアン』の仕事を受けた際生活を共にしていた女性だ。当時C型肝炎に罹っていたミアは、ギーガーから「君が病気だと僕は働けない。頭がおかしくなる」と言われた。愛する人を二度と失いたくないという気持ちが強く表れているエピソードだ。
また、スタニスラフは、ギーガーが先駆け的に作り出した「バイオメカノイド」について「人間と機械を融合させ奇怪な造形は、現代人の心の闇を明らかにするため用いたのかもしれない」と考察する。ギーガーは恐怖を絵に描き出すことで、恐れる心をコントロールするのだという。“死”という無機質を恐れるギーガーはこの画法を多用しており、現在でも世の中の様々なデザインに影響を与えている。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』の結末・ラスト(ネタバレ)
トーマスは、散らかったギーガーの家を小宇宙に例える。置かれている物のほとんどが埃をかぶり、書類やポスターが日に焼け変色している中で、ギーガーは時折物陰に隠れ家と一体化するという。しかし、ある部屋の窓には「物は元に戻せ。ギーガーを反面教師とせよ」と書かれていた。
ギーガーのマネージャーであるマルコ・ヴィッツィヒは、ギーガーが物を溜め込むのは、戦争を経験した世代だからだと考える。
元交際相手のザンドラ・ベレッタは、ギーガーが現在のアトリエ兼自宅を構えた当時を振り返る。当時、シルという怪物のデザインを手掛けていたギーガーは、デッサンのため野生のヤギの頭部を浴槽に浸していた。それを見て家から出て行こうとしたザンドラは、同じくデッサンのためドアに立てかけられていたライオンの背骨に行く手を阻まれたという。この一件からザンドラは、家の中に散らばった大量の物を整理整頓しようと決意。2014年現在の自宅は非常に鬱蒼としているが、それでも最も片付けられた状態らしい。
ギーガーは近年、スイスのグリュイエールにあるサン・ジェルマン城を買い取り自分の美術館を作った。カルメンは、夫は幸せ者だと言う。好きなことを満足するまでやって来られたからだ。ギーガー本人も、幸せな人生だったと笑顔で振り返る。「死んだらそれで終わりだ、死後の世界や生まれ変わりなど信じない。また一からやり直しなんて、私は絶対に嫌だ」と語ったギーガーは、彼に近い関係者と共に夕食を摂った後、カルメンに手を引かれて自室へと戻っていった。
映画『DARK STAR H・R・ギーガーの世界』の感想・評価・レビュー
ギーガーの口から「エイリアン」の誕生秘話は語られなかったが、あの気味の悪いビジュアルは、彼の内側から滲み出る不安や恐怖が具現化された物であると感じた。出生時に生死を彷徨うリスクは誰しもが持つトラウマであること、その記憶を無意識に表現する彼の感受性に衝撃を受けた。カリスマとは、こういう人物のことを指すのだろう。(MIHOシネマ編集部)
本作は、『エイリアン』で衝撃的な造形をデザインしたH・R・ギーガーの制作の根源に迫ったドキュメンタリー作品。
妹の死などの過去のトラウマや不安や恐怖から、あの一度観たら忘れられない程インパクトのある作品が生み出されているというのが興味深かった。
そして、彼の日常生活や制作風景、アトリエから滲み出る独特の世界観に圧倒され、彼の頭の中を垣間見たような気がした。
また、サイン会で熱狂的なファンたちと気さくに交流する姿が印象的で、中には作品のタトゥーを彫ったファンや本人を前に熱弁するファンもいて、彼は多くの人に愛されているのだと分かった。(女性 20代)
エイリアンとプレデターどっちが好きかという論争は一生決着がつかないと思います。個人的にはプレデター派なので今作はそれほど興味がありませんでしたが、いざ鑑賞してみるとエイリアンのあの不気味な造形にはH・R・ギーガーが経験した様々なことがメッセージとして込められているのかなと感じました。
エイリアンについて直接は語られませんが、エイリアンには欠かすことの出来ない存在の「H・R・ギーガー」がどんな人物なのかを知れる作品でした。(女性 30代)
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