映画『王の預言書』の概要:格差社会や国政への不満を描いた朝鮮時代の古典『興夫伝』を基に、動乱の時代を剣ではなく筆で抗おうとする物書きの熱い姿を描いたヒューマンドラマ。2017年に事故で急逝したキム・ジュヒョクの遺作となる作品。
映画『王の預言書』の作品情報
上映時間:105分
ジャンル:ヒューマンドラマ、時代劇、歴史
監督:チョ・グニョン
キャスト:チョン・ウ、キム・ジュヒョク、チョン・ジニョン、チョン・ヘイン etc
映画『王の預言書』の登場人物(キャスト)
- フンブ(チョン・ウ)
- 官能小説家として、名前が売れている作家。女の身でありながら男装した弟子と暮らしている。弟子を我が子か妹のように可愛がっているが、禁書外伝を書いた罪で殺される。ヒョクと出会い彼の思想に感銘を受け、遺志を受け継ぐ。ヒョクとハンニをモデルに『フンブ伝』を執筆する。
- ヒョク(キム・ジュヒョク)
- ハンニの弟で、反乱軍を率いる人物。貴族出身でありながら、自らも民と同じ暮らしを送り、親を亡くした子供達を引き取って育てている。貧しい民衆が平穏に暮らせる夢を見て、反乱軍を組織。フンブへと民とは何かを教え、遺志を引き継ぐ。
- ハンニ(チョン・ジニョン)
- 朝鮮の氏族の1つである光陽趙氏。刑曹判書の任に就いている。敵対する錦山金氏を貶めようと禁書外伝の執筆をフンブに依頼。野心が強く傲慢。刑曹と兵曹判書の兼任をすることになり、邪魔者を簡単に排除できる立場となる。果ては王の暗殺を企む。
- 憲宋(チョン・ヘイン)
- 第24代目の若き朝鮮王。若くして早逝した父に代わり、7歳で王に就任するも摂政である大妃の言うことに逆らえず、言いなりになっている。民を思っていた父王の遺志を受け継ぎ、自らも現状を打破するべく思い悩んでいる。
映画『王の預言書』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『王の預言書』のあらすじ【起】
王制の実権を巡る派閥争いにより、国政が荒れた時代。重い税で貧しい生活を送り続ける民衆は国へと不満を募らせていた。そんな中、官能小説家フンブの作品が咎められるのは、今に始まったことではなく、当の本人も不満を抱きつつ呑気な暮らしを送っている。そんなある日、幼い頃に生き別れた兄を知る人物が判明したという報せを聞き、フンブはヒョクという人物を訪ねる。話によると兄は反乱軍に入り、弓の名手ガクキと名乗っているらしい。
15年前、反乱に巻き込まれたフンブはその時に両親を亡くしそして、弟を救うべく自ら声を上げた兄が人買いに連れて行かれた。ところが、ヒョクは兄の居場所を教えるわけにいかないと言う。フンブが懸賞金目当てに兄を引き渡しそうだからというのが理由だった。
巷では禁書とされる本が再び出回っている。本の内容は外敵を廃する英雄が現れ、真の王が玉座に座るというものであったため、朝廷はこの本により謀反が起こることを恐れ、禁書に指定し片っ端から回収していた。だが、回収した分だけまた出回るため、焼け石に水状態である。
そんな時、ヒョクの兄で朝鮮氏族の1つである光陽趙氏、ハンニが山の麓の土地を取り上げると言い出す。地元の農民から話を聞いたヒョクは、兄の元へ向かい説得したが、権利書が見つかったからには、その土地はハンニのものである。野心が強い兄は弟が反乱軍を支援していることが明るみに出ることを恐れ、手切れ金を渡して弟を追い出すのだった。
その様子を裏からこっそり見ていたフンブは、ヒョクがどうして反乱軍を支援しているのか聞こうとしたが、相手は何も語らずただ、帰りなさいと促すのだった。
ところが、帰宅するとハンニから手紙が来ている。彼の元へ赴くと、禁書の欠けている部分を書き足せと言う。それも、敵対する氏族の一つ、錦山金氏が謀反を起こし王になるという内容だった。ハンニの甘言に興味を抱いたフンブは外伝を書くことにした。
映画『王の預言書』のあらすじ【承】
書き上がった外伝が瞬く間に民衆へと広く出回った。すると、それを読んだ錦山金氏は非常に憤慨。禁書は今や予言書と言われているからだ。ハンニはこれを機に第24代朝鮮王の憲宋へと解決策を提出した。憲宋は若き王であるが、摂政を務めていた大妃には逆らえず言いなりであった。話によると父王も同じ境遇であったらしい。
翌日の朝議にて、王は兵曹判書である錦山金氏へと朝廷謀反の意がないことを確かめた。そして、ハンニが提出した解決策を提示する。それは、錦山金氏を降格し空席になった兵曹判書の任をハンニが兼任するという内容だった。しかし、その内容はハンニが提出したものとは異なる内容だったのである。王が独自に考案し、提示した人事により両家は身動きが取れない状態になった。
禁書外伝の執筆によりハンニから謝礼を貰ったフンブは、再びヒョクの元を訪れ貰った金を彼へと差し出した。すると、ヒョクは兄に合わせることを餌に、世を風刺する話を書けと言い出す。話の流れからヒョクとハンニ兄弟のことを書くことになった。
そんな中、農民がハンニの土地で作った芋が全て回収されてしまう。フンブは農民が虐げられる様子やヒョクの行動を目にし、執筆作業へと入る。連日、執筆を続けた結果、とうとうヒョクとハンニ兄弟を描いた『フンブ伝』という作品が出来上がる。この作品は大いに話題となり、民衆からも高評価を得た。これにはヒョクも満足し、芝居として町角でも披露され民衆を大いに沸かせる。
名前は変えて書かれていたものの、発生した出来事は笑い話となって事実がそのまま描かれている。フンブ伝を読んだハンニは床を踏み鳴らして悔しがった。
約束を果たしたことで、ヒョクが兄と会わせてくれることに。フンブは15年振りに兄と再会し、互いに涙を流した。
映画『王の預言書』のあらすじ【転】
その後、帰宅したものの家の中が荒らされ弟子の姿が消えている。嫌な予感がした。
フンブ伝により、反乱軍の一味としてヒョクの捜索が開始される。フンブは彼に逃げるよう促したが、ヒョクは農業戦争の指導者の遺志が書かれたハチマキを渡す。そこには、“民の命は王の命と同等である”と書かれている。ヒョクはフンブへと夢を諦めずに抱き続け、同志が集まれば世の中も変えられると言う。それは、地が天となる世界なのだと。フンブは彼の心と言葉に感銘を受けるのだった。
捕縛された弟子へと密かに会い、勇気づける。弟子は禁書である予言書の外伝を書いた咎で捕まっていた。全てはハンニへと恨みを抱く錦山金氏の差し金である。
朝議でもこのことが議題となり、フンブ伝の内容とハンニが外伝を書かせたのではないかと問題になった。そこで、憲宋はフンブ本人を呼び出し、事の真相を聞き出そうとする。
フンブは嘘偽りなくハンニの依頼だと言ったが、牢から連れ出された弟子は師を庇って自分が書いたと証言。しかも、弟子はそう言えと錦山金氏から脅されたことまで話した。そこで、錦山金氏はヒョクが反乱軍へと送った手紙を王へと提出する。その場へ連れ出されたヒョクは、手紙に関して言い訳もせず肯定したが、兄は民の幸せなどに無関心で同じ母から産まれた者とは思えない。よって、ハンニは兄ではないと言い切った。
このことで激怒したハンニは、王の目前で弟を断罪してしまう。ショックを受けたフンブはヒョクの亡骸に縋りついて泣き叫んだ。その上、ハンニは王の返事も待たずにフンブの弟子をも殺してしまう。憲宋は何も言わずにその場を去り、フンブは弟子の死を偲ぶこともできず宮廷の外へと追い出されてしまうのだった。
官吏の1人を買収して弟子の亡骸を引き取ったフンブだったが、反逆罪のヒョクの亡骸は渡せないと断られる。深い傷心を抱えたフンブはその後、しばらく引き籠って弟子の遺品整理を行った。そして、ヒョクの遺志を受け継ぐ覚悟を決める。
その頃、ハンニは取り締まりを強化し、反乱軍の主要人物を1人討ち取る。錦山金氏は王を謀ったとして毒死罪にかけられた。王の人事がここにきて、影響を及ぼしている。ハンニは刑曹と兵曹を兼任しているため、邪魔者を簡単に排除できる状態となってしまった。
映画『王の預言書』の結末・ラスト(ネタバレ)
そこで、フンブはハンニを訪ね、宮廷にてフンブ伝上演に紛れての憲宋暗殺を持ち掛ける。その代わり、反乱軍の兄と自分を見逃して欲しいと頼んだ。調子に乗っているハンニは、これが罠だとも知らず話に乗ってしまう。
早速、宮廷では芝居上演の準備が行われる。その間、フンブはフンブ伝を書き直し、兄と反乱軍に接触を図った。
フンブ伝の見せ場で、大きなひょうたんが割れるシーンがある。ハンニはその時を狙って憲宋暗殺の準備を整えていた。そうして、いざ芝居の上演が開始。始まりは笑いが溢れていたが、徐々に本の内容とは違うと気付き始める。更に一座は先代王を装い、誘われた憲宋へと密書を手渡した。密かにそれへと目を通した憲宋は、玉座へと戻り成り行きを見守ることにする。
話が違うと騒ぎ始めた頃、仮面を被ったフンブが登場。彼は堂々とハンニが王の暗殺を企てていると宣言。すると、これに憤怒したハンニがひょうたんを割れと怒鳴る。ところが、現れたのはひょうたんではなく、反乱軍と宮廷へ入り込んだ民衆であった。民衆は上演が行われる建物の入り口に並び、反乱軍を守ろうとする。建物の中では反乱軍との戦いが勃発。ハンニは剣を手に玉座の王へと襲い掛かった。
だが、そこへフンブが割り込みハンニの剣を止める。弓の名手である兄が弟を助け、フンブはヒョクの仇を取った。そして、戦いが終わった頃、彼は王の前に跪き、どうか民を思う真の人になって欲しいと告げ、その場を去る。外へ出た彼は兵と民衆の間に姿を現し、国の主役は民であり、希望なのだと告げ騒動を締め括ったのだった。
フンブと反乱軍は王を守った功績にて、罪に問われることなく平穏な生活へと戻る。フンブは弟子の小説を出版し山の生活へと戻った兄の元へ度々、出かけて行くのであった。
映画『王の預言書』の感想・評価・レビュー
朝鮮時代、民意を小説などの本で1つにしたという話はよくあり、今作もそういったストーリー展開となる。史実では第24代王憲宋は父王と同様に若くして亡くなっているが、今作では辛うじて助かる。実際に『フンブ伝』という本が残されており、今作はそれを基に制作されている。
剣を取って戦うことは簡単だが、剣ではく筆で戦おうとする勇気は物凄いものだと思う。物書きは襲われたら抵抗できないからだ。ただ、胸を張って主張することしかできず、それで何人もの文筆家が処刑されている。民意をも動かす文筆家とはいかに多大な影響を及ぼすのか、その志と偉大さを描いている。(MIHOシネマ編集部)
この作品に出てくる『フンブ伝』は善良な弟と強欲な兄を主人公にした勧善懲悪もの。朝鮮古典文学作品を現代風に分かりやすく描いた今作は、歴史を知らなくてもとても分かりやすく、しっかりと理解できました。
官能小説で人気になった作家フンブが、子供の頃に生き別れてしまった兄を探すうち出会う「兄弟」をモデルに『フンブ伝』を書きました。
この『フンブ伝』が民衆に広まり、時代を変えていく「ペンは剣よりも強し」とも言えるストーリーがとても気持ち良かったです。(女性 30代)
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