映画『悪童日記』の概要:アゴタ・クリストフの「ふたりの証拠」「第三の嘘」に続く3部作小説の1作目「悪童日記」の映画化作品。映像化は不可能だと言われ続けてきたが、ヤーノス・シューカス監督によって2013年に公開された。
映画『悪童日記』 作品情報
- 製作年:2013年
- 上映時間:111分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:ヤーノシュ・サース
- キャスト:アンドラーシュ・ギーマント、ラースロー・ギーマント、ピロシュカ・モルナール、ウルリク・トムセン etc
映画『悪童日記』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『悪童日記』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『悪童日記』のあらすじを紹介します。
1944年8月。
戦争が激しくなり、大きな町から小さな町にある母方の祖母の家に疎開する事になった双子の兄弟。
双子は目立つと危惧した父は軍に召集され、母は双子たちを必ず迎えに来ると言い残し去っていった。
両親と約束したのは毎日欠かさず日記をつける事、勉強を続ける事。
双子は日記に善悪に関係なく真実だけを書くことを決める。
祖母は村人から“魔女”と呼ばれ、双子に厳しく接した。
双子はお互いに傷つけあう事で、“暴力に慣れる訓練”を始める。
目と耳が不自由な母と暮らす隣人の少女は生きるために盗みをしていたが、双子と少女は親友になる。
冬の森の中で空腹の末に凍死した兵隊を見つけた双子は、“空腹に耐える訓練”を始める。
訓練中、母から荷物と手紙が届くが、それを隠そうとした祖母に激怒し“精神を鍛える訓練”も開始した。
そして死に慣れるために“残酷さに慣れる訓練”も行う。
シャワーもまともに浴びる事も出来ずにいた双子は薄汚れ、同情した靴屋の主人はブーツを譲ってくれる。
そして司祭館の女性がシャワーを貸してくれるが、彼女は双子の目の前で靴屋の主人はユダヤ人だと罵り、連行しろと告げる。
双子は女性の部屋に爆弾を仕掛けて、それがバレて厳しい尋問を受けるが、ドイツ軍将校に助けられる。
祖母の家の近くにある、ドイツ軍の別荘に滞在していた将校と双子は友達だった。
しかしその友達も去り、隣人の少女も命を落とす。
弱っていく祖母から頼みごとをされ、迎えに来た母を拒絶し、堕落した父の姿を見た双子は、最後の訓練を始める。
映画『悪童日記』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『悪童日記』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
感情が描かれない奇妙な映画
双子の子供目線で、起こったことをそのまま日記のように淡々と流していき、心理描写は一切描かれていない。
“魔女”と呼ばれる祖母と母は仲が悪いようで、祖母は双子を「メス犬の子供」と呼ぶが、それに関して双子が何を思い何を感じているのかは不明。
母が父とは別の男性との間に妹を作り、亡命するために双子を迎えに来るが、なぜか双子は祖母の元に残ることを選ぶ。
その直後、爆撃によって母と妹は亡くなるが、双子と祖母が和解するような描写も母親たちの死を悲しむ描写もない。
双子に毒を預けて自分を殺すように頼む祖母や、他の国から来た軍人を受け入れ亡くなった隣人の少女と、彼女の母親と家を燃やすというシーンでも同じだ。
亡命の手助けを双子に頼む父が地雷を踏んで命を落とし、双子は父を乗り越えて別の道を歩き始めるという衝撃のラストでも、感情は表現されない。
尻切れトンボのようなエンディングになっているのが残念。
双子の見るものを描いた事の利点
双子の名前やその他登場人物たちの名前が一切明らかにされないという、不思議な作品。
また、その背景や場所も明確に表現されてはいない。
善悪も双子というフィルターを通して表現されるため、風呂を貸してくれた親切な女性よりも、ブーツを譲ってくれた靴屋の主人を罵った嫌な大人として双子に殺されかけるのだ。
その女性もだが、ドイツ軍将校も双子に対して倒錯した性的感情を持っている雰囲気が見受けられる。
だが子供目線なので変な様子にしか見えず、ギリギリのところで作品の質を保っている。
直接的ではないものの、残酷な様子をほのめかす部分が多く、訓練と称して自らに過酷な行いを強いる双子の様子は理解に苦しむ。
美しい映像
祖母の家の前に広がる田園風景や、冬の雪が積もる森の中の映像はとても美しく、独特な作品の世界観にピッタリだ。
主演の美形の双子は監督自らスカウトした素人の少年で、本当に双子だというから驚き。
もしこの作品の主人公が1人の男の子だったら、孤独と戦い強くなっていく成長のストーリーだったのかも知れません。
しかし、今作の主人公は双子の男の子。彼らの目の前で起こった出来事を淡々と映像化したような作品なので、双子に同情したり哀れむと言うよりも、何を考えているの分からない「感情を出さない」双子に恐怖すら感じました。全ての出来事を「訓練」だとして強く孤独に生きていく様子は狂気と悲しみを感じさせる、なんとも言えない作品です。(女性 30代)
これほど耽美という言葉が似合う映画を他に知らない、というくらい、とにかく主演の双子少年の美しさが素晴らしい。もはや芸術的と言っても良いレベルだと思う。
物語は戦時中、暗くおぞましい描写の溢れる世界の中で、いつでも双子だけはハッとするほど美しく、そのアンバランスさに惹きつけられた。
二人ぼっちで生きようとする双子に切ない気持ちになったかと思えば、彼らの冷たい表情に背筋が凍る想いをさせられたり、とにかく双子の魅力に振り回された。
思わず“えっ”と声が出てしまうくらい衝撃的なラストシーンも心に残る。(女性 30代)
映画『悪童日記』 まとめ
美しい風景の映像や、目鼻立ちの整った双子とは正反対に、双子の目に映った“真実”だけを簡潔に描いた作品。
感情が表現されるシーンが一切無いため、見ている側が「こういう思いがあったのでは?」と考える事が出来て、何度も見たくなる映画だ。
戦場が描かれたわけでもなく、双子が戦争に巻き込まれるというあからさまなシーンはないが、“戦争によってこういう体験をした子供もいた”という内容の、れっきとした戦争映画になっている。
奇妙な行動が目立ち、感情を表現するシーンが描かれていないせいか、精神的な問題を抱えているようにもとれる双子だが、その反面とても魅力的でもある。
別の道を歩むことになった双子の後の行動が気になる場合は、小説の続編「ふたりの証拠」、3作目の「第三の嘘」を読むことをおすすめする。
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