映画『ビール・ストリートの恋人たち』の概要:『ムーンライト』の監督バリー・ジェンキンスの最新作。1970年代のニューヨークを舞台に、幼い頃より共に育ち恋人以上の絆を育んできた男女の強い愛を描いている。同時に人種や社会階層に対する差別への抵抗メッセージを含んだ普遍的愛の物語。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』の作品情報
上映時間:119分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:バリー・ジェンキンズ
キャスト:キキ・レイン、ステファン・ジェームズ、コールマン・ドミンゴ、テヨナ・パリス etc
映画『ビール・ストリートの恋人たち』の登場人物(キャスト)
- クレメンタイン・リヴァーズ(キキ・レイン)
- 愛称ティッシュ。19歳でファニーの子を妊娠。ファニーとは幼馴染で、幼い頃から共に過ごし恋人以上に特別な絆を育んでいる。香水の販売員として勤めており、収監中の恋人を支え続ける。
- アロンゾ・ハント(ステファン・ジェームズ)
- 愛称ファニー。信仰狂いの母親と妹姉妹を嫌い、実家を出て一人暮らししている。レストランで働きながら、職業訓練校で木工細工を勉強。自宅地下にて作品を製作している。ティッシュと特別な絆を育む誠実な好青年。
- シャロン・リヴァーズ(レジーナ・キング)
- ティッシュの母。人柄の良い肝っ玉母さん。妊娠中の娘を支え、ファニーの無実を証明しようと奮闘するが、失敗してしまう。
- ジョセフ・リヴァーズ(コールマン・ドミンゴ)
- ティッシュの父で一家の長。誠実で温かい心根を持った父親。愛情深い人物でファニーを救うため、職場の波止場にてファニーの父親と協力して衣料品を盗んでは売りさばき、費用を捻出する。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ビール・ストリートの恋人たち』のあらすじ【起】
恋人クレメンタイン・リヴァーズ、愛称ティッシュが妊娠したという告白をアロンゾ・ハント、愛称ファニーは留置所面会室のガラス越しに聞いた。ティッシュは出産前にファニーを必ず出所させてみせるから大丈夫と言う。2人はガラス越しに手を合わせ、愛を確かめ合うのだった。
1970年代、ニューヨーク。全ての黒人の故郷と言われ、彼らのレガシーが息づくとされるビール・ストリートは黒人の町だった。奴隷時代の名残を色濃く残し、黒人がまるでごみのような扱いをされていた当時、ファニーは職業訓練校にて木工細工のいろはを学びながら、レストランで働く生活を送っていた。彼は訓練校から自宅へと道具を持ち込み、仕事をしながら自宅の地下で木工作品を作っていたのだ。
ティッシュは両親と姉の4人家族。家族仲はとても良く結束は固かった。妊娠3か月にして、彼女が家族へと事実を明かすと父ジョセフは驚きながらも受け入れてくれる。母シャロンは娘の妊娠を喜び、姉は驚愕で固まっていた。ティッシュとファニーは幼馴染で、ファニーが逮捕されなければ2人は結婚していたはずだった。だが、ティッシュはこの時、19歳と若く出産は早すぎるのではないかと家族は心配している。それでも、新しい家族が増えることは喜ばしいことで、一家はファニーの家族も呼んでこの喜びを共に祝おうと言うのだった。
ファニーは両親と妹姉妹の5人家族だったが、仕事で忙しく家庭を顧みない父親と敬虔なクリスチャンで上流思考の母親は夫婦仲が良くなく、口を開けば喧嘩ばかりしていた。父親はティッシュの存在を歓迎しているものの、母親は息子の恋人にティッシュはふさわしくないと思っている。そして、妹姉妹もまた、母親同様にティッシュを敵視していた。しかも、ティッシュが妊娠を明かすと、ファニーの母親はティッシュに対し息子を堕落させる女だと辛辣な言葉を吐く。すると、ファニーの父親は激怒し、妻を殴って出て行ってしまう。ファニーの母親は信仰狂いで姉妹もまた、その考えに染まっておりティッシュ家族と実の息子ファニーまでも辛辣に詰って帰ってしまうのだった。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』のあらすじ【承】
プエルトリコ人女性が、10月5日の午後11時から12時に自宅の玄関でファニーから性的暴行を受けたと訴えた。女性はファニーから受けた性的暴行は、想像を絶する異常行為だと証言。ところが、女性が住んでいた場所からファニーの自宅までにはかなりの距離があり、警官に追われながら走って自宅へと逃げられる距離ではなかった。だが、当時の巡査は現場から逃げるファニーを見たと証言。巡査の担当区は全く別の場所であったため、誰が考えてもその証言が真実とは思えなかった。だが、その証言が嘘だと立証するには、被告が費用の全額を負担する義務がある。何も知らないファニーは帰宅直後、警察に逮捕され収容所へと入れられてしまったのだ。
ティッシュとシャロンはファニーの担当弁護士と事件について相談。証言は明らかに嘘ばかりであるが、真相究明には高額な費用がかかる。しかも、警察は再捜査することを厭い逮捕したファニーの友人の証言を違法と知りながら、変えさせようとしているようだ。現在、被害者女性が姿を消しているのも、恐らく警察の仕業だと言う。家族は協力して費用を捻出しようと決めた。
収容所での生活は想像を絶する酷さで、ファニーは疲弊している。彼の逮捕された友人は、昔から気のいい人物でティッシュとも仲が良かった。彼は車の盗難と薬物所持にて逮捕され収監されていたが、3か月前に出所してファニーへと会いに来る。そして、刑務所での生活はまるで地獄のようだったと語り、警察に嵌められたのだと明かした。
状況は変わらなくても子供は育つ。ティッシュは百貨店の香水売り場にて販売員として働く。そんなある日、被害者女性が故郷のプエルトリコにいるという情報を姉が掴んでくる。女性から真実を聞くには、プエルトリコまで行かなければならない。レイプされたのは事実らしいが、ファニーが犯人とは思えないため、真犯人が別にいるはずなのだ。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』のあらすじ【転】
事件前、ファニーとティッシュは2人で住む場所を懸命に探していた。黒人に部屋を貸すところなどほとんどなく、特に相手が若い女性だと知ると性的な意味で捉えられることもある。何か所も探して断られたが、白人の中にもいい人がいる。部屋とはおよそ言えない場所ではあったが、2人で借りられる場所がようやく見つかった。若い恋人たちは大いに喜び、これから幸せな生活が送れるのだと希望に目を輝かせていたのだった。
ファニーの父親とジョセフはファニーを救うためにどうすればよいかを相談し、以前より考えていた計画を実行することにする。子供達を守るためにはそうするしかないと話し合っていた。
一方、ファニーの担当弁護士は、事件に本気で取り組んでいた。彼は弁護士になり立ての新人で仕事に不慣れであったため、最初の頃は本気になれなかった。だが、調べれば調べるほど、事件はあまりにも卑劣で後に引けなくなる。ファニーと接するうちに彼の人柄を知り、深い共感を得た弁護士は、法の番人たちと対立する羽目に。そんな彼をティッシュもその家族も信頼せず、それぞれに弁護士を冷遇していた。
やがて、ティッシュの腹部も大きくなり、服装もゆったりしたものを着用するようになる。シャロンはファニーを救うためにプエルトリコへ向かう準備を始め、ファニーの父親とジョセフは費用を捻出するために波止場で衣料品を盗んで、別の地域で売りさばいた。当然、2人の父親はそのことを家族の誰にも明かしていない。だが、ティッシュは密かにそのことを知っていた。
ティッシュが子供を身籠った日、2人は行きつけのストアへ買い物に来ていた。しかし、白人客の1人がしつこくティッシュへと言い寄って来たため、ファニーが店の外へ追い出した。騒ぎを聞きつけてやって来たのが、事件に関してファニーを目撃したと証言した巡査だった。奴は非常に強権的で傲慢な態度を示し、素行も悪い。幸い、店の経営者がティッシュとファニーを庇ってくれたため、大事にはならなかったが、巡査はファニーの態度に腹を立てている様子だった。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』の結末・ラスト(ネタバレ)
腹の子は非常に胎動が強く、事あるごとにティッシュの腹を蹴って彼女を苦しめる。赤ん坊も父親の事件に関して憤っているかのようだ。胎動が酷い夜は長時間苦しむ時もあり、ジョセフは苦しむ娘に胸を痛めた。
そんな中、シャロンが単身プエルトリコへ。カツラを被って別人に成りすまし、被害者女性へと会いに行った。ところが、出て来たのは女性本人ではなく、彼女の愛人男性だった。男性はシャロンの説得にて責任を感じ、翌日には被害者女性へと会わせてくれる。だが、被害者女性はレイプ時の酷い記憶で錯乱状態となり、シャロンは説得をしくじってしまう。そのせいで、被害者女性は再び行方をくらましてしまい、裁判は延期されることが決定した。
次の面会日にそのことを知らせるため、ティッシュが向かうとファニーは傷だらけだった。彼は傷だらけになった理由を明かすことはなく、どこか諦念した様子を見せじきに帰ると言って面会を終わらせた。それからすぐ、ティッシュはシャロンの手を借り、自宅にて男の子を出産する。ファニーは自分の身代わりとして、赤ん坊を大切に育てろと言ったのだった。
数年後、ファニーは減刑嘆願書を申請。面会には息子も訪れ、父親が出所する日を待ち望んでいる。
映画『ビール・ストリートの恋人たち』の感想・評価・レビュー
今作の原作は黒人作家ジェイムズ・ボールドウィンが、70年代に書いた同名小説。彼はキング牧師と共に公民運動の旗手としても活躍している。黒人に対しての差別は近年まで当たり前のようにされており、その方法は卑劣や凄惨を極めていた。差別されることで憤った黒人が憤懣を晴らすことで、更なる悪循環となり収拾は不可能と思われていたが、様々な活動や訴えにて、現在は大分緩和されてきたのではないかと思う。
70年代と言えば特に酷かった時代と記憶している。今作は特別に強い絆を育んできたカップルが主役で、互いに信頼し合う姿が理想的。過去と現在を交互に行き来する演出がされており、いかに2人が強い愛を抱いているか、幸せな未来を夢見ていたかが描かれている。(MIHOシネマ編集部)
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