映画『断崖』の概要:相手のことをよく知らないまま、調子のいいモテ男と結婚した新妻は、金に困った夫が自分を殺すのではないかという疑惑に取り憑かれていく。徐々に追いつめられていく妻をジョーン・フォンテインが好演しており、アカデミー賞主演女優賞を受賞した。アルフレッド・ヒッチコック作品。
映画『断崖』の作品情報
上映時間:99分
ジャンル:サスペンス、ラブストーリー
監督:アルフレッド・ヒッチコック
キャスト:ジョーン・フォンテイン、ケイリー・グラント、ナイジェル・ブルース、セドリック・ハードウィック etc
映画『断崖』の登場人物(キャスト)
- リナ・マクレイドロウ(ジョーン・フォンテイン)
- 父親が将軍の良家のお嬢様。まじめで聡明な女性で、男とは縁がなかった。一方で、ジョニーと恋に落ちたらすぐに駆け落ちしてしまうような大胆な一面もある。
- ジョニー・アイガース(ケーリー・グラント)
- イギリスの社交界では有名なモテ男で、ギャンブルや詐欺まがいのことをして気楽に生きていた。リナと結婚してからは、まともに働こうとするがうまくいかない。
- ビーキー(ナイジェル・ブルース)
- ジョニーの友人。パリに不動産を持つ金持ちで、ジョニーの会社に出資しようとする。のんきで気のいい男。心臓が悪く、酒を飲むと発作を起こすことがある。
映画『断崖』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『断崖』のあらすじ【起】
良家のお嬢様であるリナは、列車の一等席に座って読書をしていた。すると見知らぬ男が向かいの席に座り、馴れ馴れしく話しかけくる。男は三等席の切符しか持っておらず、車掌から追加料金を請求される。男は図々しくも、リナの所持していた切符で不足分を支払う。男の名前はジョニーで、イギリス社交界では有名なモテ男だった。
ジョニーは取り巻きの女性からリナが将軍の娘であると聞き興味を持つ。リナも何となくジョニーのことが気になり、彼が紹介された新聞の切り抜きを本に挟んでいた。
ジョニーは女友達といきなりリナの自宅へやってきて、リナを教会へ誘う。ジョニーはそのままリナを散歩へ連れ出し、リナに甘い言葉を囁く。キスされそうになったが、まじめなリナはそれを拒んで自宅へ帰る。
自宅へ帰ったリナは、両親が“リナは結婚に向かない”と話しているのを盗み聞きする。その言葉に反発を感じたリナは、自分を追ってきたジョニーに自らキスをする。
リナがジョニーのことを両親に話すと、父親は不快感を露わにする。ジョニーが札付きのプレイボーイで、詐欺まがいのことをしているということは、父親の耳にも入っていた。
それから1週間。ジョニーから音沙汰はなく、リナはすっかり落ち込む。しかしジョニーから“舞踏会で会おう”という電報が届いた途端、リナは元気を取り戻し、めかしこんで舞踏会へ出かける。
映画『断崖』のあらすじ【承】
ジョニーは招待されてもいないのに、強引に舞踏会の会場へ入り、リナと踊る。そして彼女を外へ連れ出し、2人でドライブへ行く。車内で熱いキスを交わし、リナは愛を告白する。ジョニーは、リナのことは遊びでは済まされないと考えて、わざと避けていた。しかしジョニーも彼女との結婚を決意し、リナにプロポーズする。
ジョニーとの結婚を許してもらえないと考えたリナは、郵便局へ行くふりをして、そのままジョニーと駆け落ちする。2人は結婚して、ヨーロッパ各地を回る豪華な新婚旅行へ出かける。イギリスへ帰ると立派な屋敷とお手伝いさんまで用意されてあり、リナは夢見心地になる。
ところが、旅行費用も屋敷の支払いも全て借金であることを知り、リナは驚く。ジョニーは今までまともに働いたことがなく、リナが相続する遺産を当てにしていた。リナはまじめに働くようジョニーを諭すが、ジョニーはあくまで能天気だった。
リナの実家から、結婚祝いとして先祖代々伝わる立派な2脚の椅子が届く。リナは両親に感謝していたが、当てが外れたジョニーはがっかりする。
ジョニーは、不動産管理をしているメルベックのところで働き始める。リナは安心していたが、ジョニーの友人のビーキーから、ジョニーと競馬場で会ったと聞いてまた不安になる。自宅からは、あの椅子がなくなっていた。
ビーキーは、しばらくジョニーの自宅に滞在する。リナはあの椅子が古道具屋で売られているのを見て、絶望的な気持ちになる。
競馬で大儲けしたジョニーは、たくさんのプレゼントを抱えて帰ってくる。ジョニーは競馬の掛け金を作るため、あの椅子を売っていた。しかし、儲けであの椅子を買い戻しており、ギャンブルもしないと誓ってくれる。それを聞いて、ようやくリナはホッとする。
映画『断崖』のあらすじ【転】
ところが、街で偶然会った友人が、最近競馬場でジョニーを見たと教えてくれる。再び不安を感じたリナは、メルベックのオフィスを訪ねる。そこで、ジョニーが会社の金を持ち逃げし、6週間前にクビになっていたことを知り、リナは彼と別れる決心をする。
リナは荷物をまとめて手紙を書くが、それをジョニーに渡すことができない。追い討ちをかけるように父の訃報が届き、リナは深く落ち込む。ジョニーが期待していたリナへの遺産は、わずかなお金と父親の肖像画のみだった。
リナはジョニーを信じようと自分に言い聞かせる。ジョニーは、海に面した崖の上の土地を開発して、リゾート地にしてはどうかと考えていた。その話にビーキーが乗り、彼が出資者となって会社を設立することが決まる。リナは2人の大雑把な計画を心配し、ビーキーに思慮が足りないと忠告する。それを聞いたジョニーは珍しく強い口調で、余計な口出しをしないようリナをたしなめる。
ところが、翌日になってジョニーは計画を中止すると言い出す。それを納得してもらうため、ジョニーは嫌がるビーキーを現場へ連れて行く。リナの脳裏に、ジョニーがビーキーを崖から突き落としている場面が浮かぶ。リナは不安で打ちのめされそうになっていたが、2人は無事だった。ジョニーが車ごと崖から落ちそうになったビーキーを救ったという話を聞き、リナは心からホッとする。
ビーキーは、担保にした不動産手続きを解除するためパリへ行くことになる。ジョニーは仕事を探すため、ロンドンまでビーキーに同行する。ジョニーが帰宅する日、2人の刑事が家へやってくる。
ビーキーは、パリで身元不明の男と酒を飲み、その後死亡していた。刑事は、ビーキーが会社設立を計画していたと知り、ジョニーに事情を聞きにきたのだった。
帰宅したジョニーは、ビーキーの死にひどくショックを受けていた。ジョニーは警察へ電話をかけ、一緒にロンドンへ行って夕食をとり、空港まで見送りに行ったと話す。リナの心にジョニーへの疑惑が広がる。
映画『断崖』の結末・ラスト(ネタバレ)
リナは友人の推理小説家イゾベルを訪ねる。イゾベルはジョニーとも友人だった。リナは殺人の手口についてイゾベルに質問する。イゾベルは、大量に酒を飲ませて6人を殺害したパーマー事件について話し、彼は最後に毒を使って逮捕されたのだと教えてくれる。それについて詳しいことが書かれた本は、ジョニーに貸したと話す。
ジョニーの机の引き出しには、確かにその本があり、本にはメルベックへの手紙が挟んであった。ジョニーはその手紙に“借金は別の方法で返済する”と書いていた。
自宅には“保険金の支給は妻の死亡時のみ”と書かれた保険会社からの書類が届き、リナはジョニーが自分を殺して保険金を搾取しようとしているのではないかと恐ろしくなる。イゾベルたちとの夕食会でも、ジョニーは痕跡を残さない毒について異様に聞きたがっており、リナの不安は募る。
その夜はお手伝いさんも不在で、リナとジョニーは2人きりになる。リナは震えが止まらず、別々に寝たいとジョニーに申し出る。ジョニーは渋々それを了承し、部屋を出ていく。
翌日、リナが目を覚ますと、ジョニーに呼ばれてイゾベルが来ていた。イゾベルは小説のネタをジョニーに話してしまったことを後悔していた。リナの頭の中は、毒のことでいっぱいだった。
ジョニーはリナにミルクを持ってきてくれるが、リナはどうしてもそれを飲めない。リナはこの状況に耐えられず、しばらく実家へ帰ると言い出す。リナが断っても、ジョニーはどうしても自分が車で送ると言い張る。リナは仕方なく車に乗る。
崖上の道で、ジョニーはどんどんスピードを上げ、リナの恐怖は頂点に達する。走行中の車から飛び降りようするリナを、ジョニーは必死で止める。実はジョニーは借金が返せず、自殺を考えていた。もちろんジョニーはビーキーの死にも無関係だ。リナは誤解していたことを謝罪し、やり直したいと懇願する。しかしジョニーはそれを拒む。その後、実家方面へ走り出した車は、2人の自宅がある方向へUターンする。ジョニーもやり直す気になったのだった。
映画『断崖』の感想・評価・レビュー
1つのことを気にし始めると、それが嘘か本当か分からなくてもその事しか考えられないほど頭がいっぱいになってしまうことってありませんか?この作品は、夫に殺されるという強迫的な妄想に取り憑かれた妻の物語なのですが、序盤の恋する様子から妄想に取り憑かれてしまうまでの展開がとてもテンポが良くてドキドキしながら鑑賞してしまいました。
ここまで大袈裟では無いものの、勝手に考えすぎてしまうことってあるなとなんとなく共感できる作品でした。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
名香智子の漫画しか読んだことがなかったのですが、いつか原作も読みたいと思っていました。でも映画もあったんですね。それもヒッチコック!かなりストーリーが違うようですが、これはぜひ観なくてはと思います。
ヒッチコックの「断崖」。あまり人気がない作品ですが、ジョーン・フォンテーンの繊細な演技に注目してみたいと思います。
原作は、夫が殺人者で妻が殺されてしまうという筋書きですが、映画を観ると妻の妄想がメインに描かれています。
前半部分の、ジョニーに恋こがれるリナの表情が純粋でいいのですが、後半にかけて執拗なまでの夫への疑惑がすさまじい!ヒッチコックのサスペンス効果がよく効いています。
ジョーン・フォンテーンがこの作品でアカデミー賞主演女優賞を受賞したのもうなずけます。しかし、作品全体としては、妄想だけでは盛り上がりに欠けるし、ヒロインにも共感できない。
見どころとしては、ミルク入りのカップをケーリー・グラントが運んでくるシーン。ミルクの中に毒を入れているのではないか?とジョーン・フォンテーンは疑ってしまう。
白黒映画なのに白さが際立っているのも特徴。どうやって撮影したかはミルクの中に豆電球を仕込んで撮影しているそうですが、とても不思議な映像です!
ヒッチコック作品は、細かいところにまで注目して観るのがおすすめです。
ヒッチコック作品との相性抜群の俳優といえば、ケーリー・グラントではないでしょうか。本作では、妻に疑いをかけられる優柔不断で頼りない男。
ヒッチコック作品に限っていえば、「断崖」、「汚名」、「北北西に進路を取れ」、「泥棒成金」の4作に出演しています。4作とも違うキャラクターを演じ、特に「泥棒成金」(55)でのグレース・ケリーとの濃密なキス・シーンは外せない!
1953年に1度映画界を引退し、ヒッチコックの誘いによって、「泥棒成金」でカムバックしたのは有名な話です。それほど、グレース・ケリーとの共演が魅力的だったのでしょう。
彼の魅力は、ヒロインを輝かせるヒーロー役が誰よりも似合うこと!たとえ、情けない男を演じたとしても、女優との親和力がいいのだ。
サスペンスの帝王として知られるヒッチコックは、犯罪心理だけでなく女性心理に長けた映画人であることが分かります。
特に妄想する女性の不安感や恐怖といったら!「サイコ」ほどの恐怖や説明はないものの、夫への疑惑から自分が殺されるかもしれないという強迫的思考に憑りつかれる様が見事です。
ヒッチコックのサスペンス効果、恐るべし!また、ジョーン・フォンテーンの繊細な演技はいいのですが、まだ若いのに(当時22歳)ずいぶん年を取った女性に見えるのが意図的なのかどうか分かりません。
謎がたくさん隠された作品でもあると思います。有名な、ケーリー・グラントがミルクを運ぶシーンにしてもなぜ白を際立たせているのか?もしかすると、恐怖感を増すためかもしれない。