この記事では、映画『ディストラクション・ベイビーズ』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『ディストラクション・ベイビーズ』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『ディストラクション・ベイビーズ』 作品情報
- 製作年:2016年
- 上映時間:108分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:真利子哲也
- キャスト:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎 etc
映画『ディストラクション・ベイビーズ』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★☆☆☆
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★☆☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『ディストラクション・ベイビーズ』 あらすじネタバレ(起承転結)
映画『ディストラクション・ベイビーズ』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『ディストラクション・ベイビーズ』 あらすじ【起・承】
瀬戸内のとある港町。学生服姿の少年は、帰宅途中、兄・泰良の姿を目にとめます。
声をかけると、いつもの調子で返す泰良を、複数人で殴りかかる人影が見えました。
「なんぞお前ら!」
そう叫び泰良を追い、助けるも、泰良はまたふらふらと、自分を殴った男たちを探しに町へと消えていきます。
兄弟は、親を亡くし二人で生きてきました。しかし泰良はいつからか、喧嘩に明け暮れるようになります。口数も少なく凶暴な彼を、誰しもが遠ざけるようになっていました。
そんなある日、泰良はふらりと姿を消しました。弟は必死に兄の姿を探しますが、町の誰も、泰良の行方不明に気に留めません。
泰良は繁華街で、喧嘩の日々を続けていました。高校生やチンピラ、強そうなやつらに片端から喧嘩を売り、殴り飛ばす日々。買っても負けても、彼は、まるで子供がゲームに夢中になるように喧嘩を続けます。
そんな彼の獣のような姿を目にとめ、魅せられてしまった高校生・裕也。繁華街の大人を複数人相手にしてもたじろがず、むしろ恍惚ともいえる笑顔を浮かべて応戦する泰良の姿に見惚れ、声をかけます。
「オレとおもろいことしょうや」

映画『ディストラクション・ベイビーズ』 結末・ラスト(ネタバレ)
泰良の喧嘩の様子を写真に収め、ツイッターに投稿しだした裕也は、その反応に味をしめます。そして、自らも暴力に手を染め始めます。
「前から思いっきり女、殴ってみたかったんよね」
泰良のそれは喧嘩でしたが、裕也のそれは、ほとんど無差別な暴力でした。しかし、泰良はそれもニヤニヤと見つめるばかり。
四国巡業と息巻いて盗んだ車に、偶然同乗していたキャバ嬢・那奈を人質に、無軌道な少年たちの「ノックアウト・ゲーム」は、さらに規模を拡大していきます。
しかし道中、事件は急拡大を見せ、少年たちは指名手配を受けます。そのニュースから、町場に下りられなくなった彼らは、疲労していきます。疲労とネット上でのバッシングから苛立つ裕也は、余裕ある表情の泰良にさらに苛立ちが募ります。農道を走る途中、泰良が殴りとばした相手を、那奈が不注意でひき殺してしまい、さらに彼らの心中は混沌とし始めます。
ついには、人質として裕也に散々いたぶられ続け、ギリギリの心理状態だった那奈が車で事故を起こし、事故後の混乱の中で裕也を殴り殺します。
狂気的な彼女の犯行現場を見て、泰良は満面の笑みを浮かべるのでした。
その後、那奈は被害者として警察から病室で事情聴取を受けますが、泰良は姿を消していました。怖かった、死んでしまった彼はかわいそう、と涙ながらに訴える彼女の声を、世間は「悲劇のヒロイン」として大々的に報道します。
兄の消えた町で、弟は町中から好奇の目で見られる日々を過ごしていました。同級生からも倦厭され、事情聴取の日々に、彼の苛立ちは募ります。
喧嘩祭りの夜、見回りの警官は不審な男の影に声をかけますが、返答はありません。懐中電灯で照らした先に、うめき声を上げる男と、坊主頭の泰良が立っていました。満面の笑みを浮かべる泰良に、警官は怯えながらも拳銃を向けますが、彼は構わず殴り掛かります。
一度の発砲音が響きますが、祭りの喧騒にかき消されていきました。
映画『ディストラクション・ベイビーズ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『ディストラクション・ベイビーズ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
楽しければ、ええけん
極端に台詞の少ない主人公・泰良が繰り返すこのセリフが、この映画の全てと言って過言ではありません。満面の笑顔で喧嘩に明け暮れる泰良の、その理解不能な壮絶なキャラクターこそ、この映画の最大の魅力なのです。
より強い相手を倒す快感を演じきったのは柳楽優弥さん。『誰も知らない』(04/是枝裕和監督)では史上最年少でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得しましたが、その後不遇の時代を過ごしてきました。早すぎた春とも揶揄された彼にとって、今作はまさに、「やっぱり柳楽優弥は本物だった」と言わしめる、まさにターニング・ポイントとなる作品でしょう。
織り込まれるユーモア
この手の映画で、笑えることってなかなかありません。暴力とは常に緊張感を強いるものであり、恐怖は楽しくも面白くもありません。それでも、この作品はそこかしこにユーモアが見られます。
とくに、台詞の少ない泰良のトリッキーな行動に逐一ツッコミを入れる裕也の台詞が楽しい。また、彼は映画の中でスマートフォンを肌身離さず持ち歩いてネットスラングを多用したツイートを重ねており、その妙な現実感がユーモラスなものとして映ります。
音の表現
冒頭、タイトルバックで流れる向井秀徳によるジャズ・セッションの爆音が、観客をぐわっと一気に映画の世界に引きずり込みます。基本的には環境音の身でBGMの少ない映画ですが、キーとなるシーンでの向井氏の、ノイジーな音楽がもう、めちゃくちゃに格好良い。語らない泰良の心象風景を映すものとして、向井氏の得意とするフリーセッションの、その喧嘩そのもののような音楽は、ほかに表現が思い当たらないほどピタリとはまります。
さらに、暴力の音にも強くこだわりが見え、観ているだけで全身殴られたように感じる、不快なまでにリアリティのある音は、終始映画の世界から観客を離しません。
暴力的でエネルギッシュでどこか儚さのある、生々しくてリアルな作品でした。菅田将暉と小松菜奈の共演作品を探していて発見した今作。主人公は柳楽優弥なので2人のシーンはそれほど多くないのですが、どのキャストもとにかく素晴らしい熱量で若者らしい稲妻のような速さ、トゲトゲしさをひしひしと感じました。
それぞれが心に何かを抱えていて、それを解放する方法が分からず間違った方向に向かってしまう。出来れば関わりたくない人たちのストーリーですが、そういう人たちに手を差し伸べてあげられる強さを持ちたいなと感じました。(女性 30代)
暴力が暴力を呼ぶ構造の中で、芦屋優作という主人公が“何も語らずに何かを暴く”存在であることに衝撃を受けた。喧嘩を求めて彷徨う姿は破滅的で理解しがたいが、逆に現代社会の虚無や無力感を象徴しているようにも思える。柳楽優弥の鬼気迫る演技がすごすぎて、見終わった後もしばらく動悸が止まらなかった。(30代 男性)
終始不穏な空気が漂っていた。突然の暴力がなんの前触れもなく始まり、終わる。理由もなく、意味も語られず、それでもスクリーンから目が離せない。特に小松菜奈演じる那奈の“巻き込まれ感”がリアルすぎて、自分がその場にいるかのような錯覚を覚えた。社会の歪みがそのまま表出しているような作品だった。(20代 女性)
「何がしたいんだ、この映画は?」と最初は思ったが、観終わったあとにじわじわ来る。暴力を振るうことだけが目的のような優作の存在が、逆に「普通とは何か」を問いかけてくる。キャラに共感はできない。でも、彼の存在が不安定な若者の象徴のようにも感じた。観る側の価値観を試される映画だと思う。(40代 男性)
あまりにも痛い、あまりにも重い。でも目が離せない。特に、那奈が暴力の中に取り込まれていく様子は、観ていて本当に辛かった。暴力を傍観しているうちに、それが日常になってしまうという恐怖。ラストシーンで何事もなかったように歩いていく優作を見て、鳥肌が立った。この映画、簡単に「良かった」とは言えないけど、観てよかった。(30代 女性)
自分には理解できない人物が、ここまで魅力的に映ったのは初めてかもしれない。優作は狂ってる。でも、まっすぐに自分の欲求に従って生きていて、だからこそ社会から完全に浮いている。柳楽優弥の演技は本当に素晴らしく、圧倒された。暴力映画というよりは、むしろ哲学的な作品だと感じた。(20代 男性)
「暴力に意味は必要か?」という問いがずっと頭を離れない作品だった。多くの映画が暴力に動機や背景を与えるのに対して、この映画はその逆。優作が何も語らず、ただ殴る。それが逆に怖い。物語としてのカタルシスがないぶん、現実の怖さが生々しく浮かび上がっていた。誰にでもすすめられる映画ではないが、忘れられない。(50代 男性)
女性として、那奈の境遇には強い怒りを覚えた。最初は巻き込まれただけだったのに、途中からは彼女も「見る側」から「加わる側」になっていた。暴力の連鎖がどうやって広がっていくか、目の前で見せつけられたような感覚。あの無表情な笑顔の裏にあるものを考えると、胸が痛くてたまらなかった。(40代 女性)
正直、観終わったあと気分が悪くなった。でも、それがこの映画の狙いなのだと思う。ストーリーらしいストーリーがなく、ただ淡々と暴力が続く。その中に、何か社会に対する無意識のメッセージが込められているように感じた。説明を放棄したぶん、観る人の感受性に突き刺さる映画だった。(30代 男性)
小松菜奈の表情の変化がとにかく怖かった。被害者だったはずの那奈が、途中から加害者側の感覚を持ち始めた瞬間、何かが崩れた気がした。柳楽優弥の存在感に目が行きがちだが、那奈の変化こそがこの映画の核では?と思うほど印象に残った。静かで残酷な、非常に感覚的な作品だった。(20代 女性)
映画『ディストラクション・ベイビーズ』を見た人におすすめの映画5選
ブルータル・ジャスティス
この映画を一言で表すと?
暴力と絶望がリアルに描かれる、社会の闇をえぐる衝撃の刑事ドラマ。
どんな話?
警察内で問題視される荒っぽい刑事コンビが、職務停止を機に犯罪組織に関わる“強奪計画”に手を出してしまう。正義と欲望の境界が崩れていく中で、男たちはどこへ向かうのか。硬派で骨太なストーリーが展開する犯罪サスペンス。
ここがおすすめ!
暴力が過剰演出ではなく現実的に描かれており、その“生々しさ”が『ディストラクション・ベイビーズ』と共鳴。登場人物たちの倫理の崩壊と選択の重さがズシリと響く。心の奥底にまで刺さる緊張感が魅力の一本。
レクイエム・フォー・ドリーム
この映画を一言で表すと?
人間の欲望と依存の果てを容赦なく描く、衝撃と絶望のドラッグ映画。
どんな話?
ドラッグに溺れる若者たちと、減量薬に依存する老母の4人が、それぞれの“夢”に向かう過程で転落していく。幻覚と現実が入り混じる映像と音楽で、彼らの堕落と崩壊を鮮烈に描き出したカルト的傑作。
ここがおすすめ!
破滅へ向かう人間の姿を、感情を削るような演出で見せつけてくる。『ディストラクション・ベイビーズ』同様、「なぜこんなことに?」という疑問が残り続ける構成も秀逸。深い余韻とともに、決して忘れられない映画体験になる。
愛のむきだし
この映画を一言で表すと?
過激な愛と信仰、暴力が混じり合う4時間の狂騒的青春劇。
どんな話?
父親への愛を証明しようとする少年が盗撮に目覚め、やがて謎の宗教団体や運命の少女と出会いながら、常識を超えた世界に巻き込まれていく。笑えて泣けて痛い、園子温監督の代表作にして問題作。
ここがおすすめ!
暴力も信仰も愛も、極端なかたちで表現されるからこそ真実味がある。『ディストラクション・ベイビーズ』のような説明を排した暴力性に通じる衝動と、社会からこぼれ落ちた人間たちの叫びが胸に突き刺さる。
ヘヴンズ ストーリー
この映画を一言で表すと?
人の死と向き合うとは何かを問う、壮大な復讐と再生のクロニクル。
どんな話?
家族を理不尽に殺された少女が、加害者と被害者を巡る複数の人物と出会い、それぞれの喪失と復讐の物語が交錯していく。4時間半をかけて描かれる、重く静かで壮大な人間ドラマ。
ここがおすすめ!
「暴力とはなにか」「許すとはどういうことか」を、深く丁寧に掘り下げた作品。『ディストラクション・ベイビーズ』が突きつけた暴力の衝動を、より長いスパンで熟考できる。時間に見合う価値のある傑作。
野火(2015年版)
この映画を一言で表すと?
極限状態の人間がたどる狂気の果て――戦争を通して“生”と“暴”を問う。
どんな話?
終戦間際のフィリピン戦線で、部隊から脱走した兵士が、飢えと孤独、戦争の狂気の中で彷徨い続ける。塚本晋也監督自ら主演し、血と土と骨の戦争を容赦なく描き出すサバイバル戦争映画。
ここがおすすめ!
『ディストラクション・ベイビーズ』と同様に、理性を削ぎ落とされた暴力と、人間の本質を直視するような映画体験ができる。戦争映画でありながら哲学的な問いかけを孕み、強烈な印象を残す1作。
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