映画『花戦さ』の概要:華道本家、池坊の花僧が時の権力者豊臣秀吉に、生け花で対抗する様を描いた時代劇。花を生けることで、人の心を変えようとする懸命な姿が切なくも感動を呼ぶ。素晴らしい生け花の大作は必見。
映画『花戦さ』の作品情報
上映時間:127分
ジャンル:ヒューマンドラマ、時代劇、歴史
監督:篠原哲雄
キャスト:野村萬斎、市川猿之助、高橋克実、山内圭哉 etc
映画『花戦さ』の登場人物(キャスト)
- 池坊専好(野村萬斎)
- 信心深く慈愛に満ちた気質で、花を生けることしか頭にない。常に庶民の心に寄り添い、希望を与えようとしている。池坊の執行の座に仕方なく就く。
- 豊臣秀吉(市川猿之助)
- かつては織田信長の家臣で、現在は天下統一を成し遂げつつある武将。過去に専好を助けたことがある。成り上がりのためかプライドが高く、意に沿わないことがあると非道な命令を課す。
- 前田利家(佐々木蔵之介)
- 信長公に仕えた後、秀吉に仕える戦国武将。花と茶に造詣が深く、専好に一目置いている。専好を何かと優遇し、武将間のクッション役でもある。
- 千利休(佐藤浩市)
- 信長公に愛された茶人で現在は秀吉に仕え、相談役も兼ねている。専好に興味を持ち、親交を深める。茶道にて秀吉の心を変えようとするも、失敗。切腹にて果てる。
- 吉右衛門(高橋克実)
- 専好の幼馴染で親友。下京の町人だが、頂法寺で生け花の先生もやっており、人情味のある人物。心優しく何かと専好を気にかけ、元気づける。
- 池坊専武(和田正人)
- 専好の弟弟子で世の事情に詳しく、生け花のことしか頭にない兄弟子の世話をしているしっかり者。お目付け役のような存在。
- れん(森川葵)
- 類稀なる画才を持った少女。川原で専好に助けられ、尼僧に預けられる。父親は稀代の絵師で秀吉をそっくりに描いたため、打ち首に処されている。
映画『花戦さ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『花戦さ』のあらすじ【起】
時は戦国時代。京の都は荒れ果て、人々は明日をも知れぬ日々を送っていた。
そんな都の中央に位置する頂法寺には、花僧と慕われ仏に仕えながら花を生ける僧侶たちがいる。古くより彼らは六角堂の池坊と呼ばれ、花を生けることで人々に生きる希望を与えていた。
頂法寺の花僧、池坊専好は争い事を好まず、とにかく花を生けることしか頭にない根っからの花人だった。
彼はある日、執行から呼び出され、武将織田信長公に生け花を披露するようにと仰せつかる。
弟弟子の専武と共に張り切って岐阜へ。専好は生け花にしか興味がないため、実は信長公がどのような人物か知らなかった。旅の途中、信長公は気性が激しく、天下統一を目指す登り竜のような人物だと聞いた専好は、登り竜という言葉に着想を得るのであった。
お邸にて早速、生け花の制作を開始。専好は花と襖絵を合わせ、松を登り竜に見立てた立派な生け花を披露した。大勢の家臣が並ぶ中、現れた信長公はじっくりと鑑賞。見事だと言わしめるが、松の繋ぎ目が弱く枝が折れてしまう。これは大変な失態であったが、豊臣秀吉の一言で命を救われる。信長公は大変満足し、生け花の道具を褒美として与えるのであった。
それから12年後の天正13年。亡き信長公の夢は、豊臣秀吉に受け継がれ成し遂げられようとしていた。京の都にも活気が溢れ、人々は明るい未来に笑顔を見せる。池坊もまた、当人の意に反し執行に専好を迎え新たに歩み出していた。
そんなある日、彼は川原にて少女の遺体に胸を痛めながら経を唱えたが、少女が息を吹き返したため、救出して寺に戻った。しかし、目覚めた少女は食事もせず塞ぎ込んでばかり。
娘を元気づけたい専好は、池の蓮を彼女の部屋に飾った。すると、蓮は少女の目前で花開き、彼女の心を動かすのであった。
映画『花戦さ』のあらすじ【承】
これが花の力なのだと専好は喜び、蓮の花から名前を取って少女にれんと名付けた。そうして、専好はれんを知り合いの尼僧へ預ける。
執行となった専好は、自由に花を生けることができずに不満を抱いている。幼馴染の吉右衛門は彼を不憫に思い、自分の店に飾る花を生けてもらった。すると、専好は大喜び。吉右衛門も嬉しくなり、彼の生け花を店先に飾った。
その花を目にした千利休。12年前の花僧のことを思い出し、彼を自分の邸へ招待した。専好は利休のことを知らなかったが、茶道の巨匠から茶を一服、ご馳走になった。すると、彼は穏やかな佇まいと茶の力により、涙を流しながら不満を吐露。茶と花には相通じるものがあるのだと、身を持って知るのであった。
その頃、利休は秀吉から八つ当たりで、金の茶室を作れと命令される。
それから2年後、関白となった豊臣秀吉は、庶民に無料で茶を振る舞う大茶会を開催することにする。それに向けて、利休から専好へ花を生けて欲しいと依頼があるのだった。
一方、類稀なる画才を発揮するれんが姿を消し、山で発見したという知らせを聞く。専好は彼女から身上を聞き出して、身を隠す場所を提供するのだった。
そうして、大茶会が開催。人々は喜び勇んで茶碗を持参し参加。その中には専好の姿もあった。彼は人々が楽しそうにしているのが嬉しく、会場をうろうろ。
そこで、戦国武将の前田利家に話しかけられる。利家からその昔、信長公から助けてくれた武将が関白であることを教えてもらった。
その後、利休の席にて花を生けた専好。それは、とても華やかで楽しげなものだった。だが、金の茶室の披露目も兼ねて茶を振る舞っていた秀吉がその様子を目にし、更に庶民が自分を馬鹿にしたようなことを口にしたことで激高。大茶会は翌日から中止となってしまう。
自分より人気を得て、尚且つ庶民のためにと開いた茶会で馬鹿にされる。秀吉は利休へと全ての怒りをぶつけ、手酷く扱うのであった。
映画『花戦さ』のあらすじ【転】
それから3年後、秀吉はとうとう天下統一を成し遂げる。今や並ぶ者もなく、日の本一の権力者となった彼は益々傲慢さを増していった。
一方、専好は相変わらずで折に触れ、れんの様子を見に行く。彼女はいつも熱心に絵を描いていたが、その中に違う画風で猿を描いたものを発見。れんはその絵を父親の絵を真似て描いたと言うのであった。
そんなある日、専好は前田利家に呼び出される。用事は利休の説得をして欲しいというものだった。
それと言うのも、大徳寺の門の2階に徳を成した人物の木像が置かれているのだが、この度、そこへ利休の木像が加えられたと言う。それに秀吉が立腹し、詫びを入れ木像を撤去しろと利休に命じた。だが、木像は大徳寺が勝手に作って置いたものであるため、利休には何の罪もない。故に彼は頑として詫びを入れないと言っている。それには利家の他、多くの者が説得に向かったが、功を成さず。それで、専好にお鉢が回ってきたということだった。
彼は利休の邸へ向かい、茶室にまだ蕾の梅を生け、説得しようとした。しかし、利休は自分の死をもって、秀吉の心を変えたいと言う。結局、専好の説得も功を成さず。泣きながら今生の別れをするのだった。
土砂降りの雨の中、六条川原に利休の首が晒される。自ら切腹して罪を償ったはずなのに、首を晒すなど非道の行いだと人々は関白に不満を漏らした。
それ以来、専好は奉納の花を生けることができなくなってしまう。利休の死を深く嘆き、塞ぎ込む日々を送った。
そこで、吉右衛門は幼馴染を元気づけるべく、一計を案じた。利休の四十九日に町民たちと生け花をすることにしたのだ。その姿を目にした専好は、ようやく気力を得る。吉右衛門のお陰で、専好は悲しみから抜け出すきっかけを得るのであった。
映画『花戦さ』の結末・ラスト(ネタバレ)
天正19年の夏。秀吉の子が病のために亡くなる。巷では利休の呪いではないかと噂され、更に利休の名を騙り秀吉を揶揄する歌が町中に貼り付けられた。
そのせいで、秀吉は更に強固となり、事あるごとに民を虐げ罰しては打ち首を繰り返す。
専好と吉右衛門はそれぞれに自分のせいだと責めたが、更にれんが捕縛され獄中死したという知らせが届くのである。
この件について調べてみると言った吉右衛門。しかし、彼もまた捕縛された上に専好の前で殺されてしまう。
強大な権力の前に為す術もない専好は、亡くなる寸前に利休が言っていたことを思い出し、秀吉に対抗しうる方法を考えた。
彼は利家を通し、太閤秀吉に生け花を披露したいと申し出る。専好はこれを花の戦だと言い、池坊花僧の全員に準備を言いつけた。
花の中にも仏がいて、人の心を変える力がある。池坊の僧ならば、花の力を最大限に引き出し人の心に訴えるのが、流儀なのだ。
準備は着々と進み、大まかな作業を終えた後、自分が不興を買った時のことを考え、専武に破門状を渡し後のことを頼んだ。
その夜、専好は秀吉によって亡くなった人々のことを胸に仕上げを行った。
そうして翌日、太閤秀吉に大作を披露するのである。これは命を懸けて仕掛けた戦だった。専好は頭を下げ秀吉にどの花が好きかを問う。すると、太閤殿下はそれぞれに美しく、どの花も好きだと答える。そこで、専好は四方に仕掛けた掛け軸を開いた。それは、れんの父親が描いた猿の絵だった。
これには秀吉の顔色が一変。専好は命を懸けて秀吉の前にいる。利家の言葉に秀吉は考え直して絵と花を客観的に見た。専好は花も人もそれぞれに良さがあり利休もまた、命を懸けて秀吉にそれを伝えたかったのではないかと説く。
かつて信長公も花と茶を通じて、人の心を大事にせよと言っていた。それを思い出した秀吉。彼は利休の死を嘆き、自らも深い悲しみに涙した。だがその時、松の継ぎ目がまたも折れてしまう。必死に元へ戻そうとする専好の姿に誰もが笑いを堪えられず、場は和やかな雰囲気へ。秀吉もこれには大いに笑うのであった。
その後、川原にて死者に経を唱えていた専好の前に、れんが現れる。彼女は仮死状態となる毒を持った花を口にし、死を偽造して牢から無事に逃亡していたのだ。専好はその花をれんに渡し、美しく描いて欲しいと頼む。毒があっても、花は花だろうというのが、彼の言い分であった。
映画『花戦さ』の感想・評価・レビュー
華道で権力者と戦うという物語は大変に興味深いもので、実際に劇中で使われる作品の数々の美しさが、その可能性を信じさせるに十分であったことは眼福だった。しかし、当時の芸術家は信長・秀吉らの血みどろの闘争の果ての安寧のもと繁栄した存在にすぎず虐げられた庶民とはまた別の特権階級だったとみれば、随分とお気楽なものだ。と嫌味のひとつも言いたくなる。映画自体はテンポが良く悪い作品ではないのが救いではある。(男性 30代)
華道で時の権力者と戦うというこれまでにない戦いを描いた作品。
なかなかに興味深く見させてもらい、作中に登場する様々な生け花に非常に感銘を受けた。そして、外さない人と人との心の機微。信長も苛烈な人物であったと知られているが、芸術は別物として見る目があった。だが、秀吉は信長の真似をしようとしていただけではないかと思わせる部分があり、そこに性格や人柄がどうしても出てしまう。ただ、芸術で人の心が動かせるのは確かにあることであるため、こういうこともあったかもしれないとも思う。視点を変えた面白い作品だった。(女性 40代)
野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市などなど、実力派俳優達が共演している。それだけで、本作がおもしろい作品であると保証できる。やっぱり出演しているキャストの演技が上手いと、余計なことに思考がいかないため、自然と物語に入り込むことができる。
花の美しさと共に、権力者に翻弄される人々の苦労というか悲痛な思いを感じる作品だった。暴君と化した秀吉に対して、花で戦いを挑んだ池坊専好がカッコ良い。(女性 30代)
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