俳優・佐藤二郎が主催、脚本、監督、主演を務めた渾身の作品『はるヲうるひと』がとうとうスクリーンに。外界との連絡をほぼ絶たれた孤島を舞台に、愛憎渦巻く人間模様が描かれる。
映画『はるヲうるひと』の作品情報
- タイトル
- はるヲうるひと
- 原題
- なし
- 製作年
- 2021年
- 日本公開日
- 2021年6月4日(金)
- 上映時間
- 113分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 佐藤二郎
- 脚本
- 佐藤二郎
- 製作
- 永森裕二
松井智 - 製作総指揮
- 吉田尚剛
- キャスト
- 山田孝之
仲里依紗
今藤洋子
笹野鈴々音
駒林怜
太田善也
向井理
坂井真紀 - 製作国
- 日本
- 配給
- AMGエンタテインメント
映画『はるヲうるひと』の作品概要
1996年に俳優、佐藤二郎が旗揚げ、主宰した劇団『ちからわざ』。そんな『ちからわざ』の演目として、本作は産声を上げた。2009年に上演され、そのおどろおどろしくも美しいストーリーと役者陣の巧みな演技によって公演は大成功、2014年には再上演されるほどの人気ナンバーとなった。そして、2021年、舞台の枠を飛び越えとうとうスクリーンに進出。主宰である佐藤二郎もメインキャストを務め、その周りには山田孝之や仲里依紗、向井理など、兼ねてより佐藤二郎と交流のある実力派俳優が名を連ねる。第二回江陵国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した名作。
映画『はるヲうるひと』の予告動画
映画『はるヲうるひと』の登場人物(キャスト)
- 真柴哲夫(佐藤二郎)
- 三兄弟の長男。恐怖によって、店と兄弟を自分の支配下に置いている。置屋『かげろう』の店主。
- 真柴得太(山田孝之)
- 三兄弟の次男。兄からは小間使いのような酷い扱いを受けている。呼び込みや、遊女の世話が主な仕事。
- 真柴いぶき(仲里依紗)
- 三兄弟の長女。幼い頃から病気がちで、店に出ることはない。遊女らの嫉妬を買っている。
映画『はるヲうるひと』のあらすじ(ネタバレなし)
俗世から殆ど隔絶された閉鎖的な島、そこが彼女達の暮らす場所だった。本土から週に2回やってくる連絡船のみが、その島と本土を繋ぐ唯一の橋。そんな閉塞的な島での数少ない娯楽は、島に点在する置屋だった。置屋で働く女性達は、本土での生活に憧れ夢を語るが、男性達はそんな女性達の夢を馬鹿にしていた。そんな島で、置屋を営むとある兄弟が暮らしていた。長男の哲雄、次男の得太、そして、長女のいぶき。いぶきは幼い頃から病を患っているため、遊女として働くことはなく毎日を過ごしていた。そんないぶきは、遊女として働く女性達から嫉妬が混じった厳しい目で見られていた。決して平穏とは言えない3人の生活。果たして、3人の行く末は。
映画『はるヲうるひと』の感想・評価
迫り来る閉塞感
『狭い空間』を恐れる人は、実は多い。閉所恐怖症という言葉があることが、その証明。主人公達が密室空間の中、迫り来る恐怖と戦うソリッド・シチュエーション・ホラーというジャンルも存在するほど。なぜ、人はそういった密室空間を恐れるのだろうか。過去の出来事がトラウマになっている場合もあるし、逃げ場がないという思いが人々の足を竦ませる。本作には、様々な密室が登場する。外界との連絡が絶たれた孤島で物事は進み、さらに、どこにも行くことは許されない遊郭という場所、そして、絶対的権力を持っている兄の支配もまた、ある意味で密閉空間と言える。そんな設定が、本作の不気味さ、何とも言えない恐怖を増大させている。果たして主人公達は、この密室から抜け出し、自由を手に入れることができるのか。
佐藤二郎監督作品
佐藤二郎、現在ではバラエティ番組の司会もこなす、超人気コメディ俳優。Twitterでは、酔った勢いで妻への愛を叫び翌日後悔するという流れを繰り返し、最終的にはそれらのツイートをまとめた書籍まで発売された。近年では音楽番組にも出演するなど幅広い活躍を見せている彼だが、役者という仕事への姿勢は誰よりも真摯。1996年に自ら『ちからわざ』という劇団を旗揚げ、25年を迎える大人気劇団となっている。最新作は、元々はこの『ちからわざ』で、2009年に上演された作品。高い人気を誇り2014年に再上演、そして、今年とうとうスクリーンへと進出した。原作、監督、脚本の全てを佐藤二郎が行った渾身の作品。バラエティ色の強い佐藤二郎しか知らないという人には、ぜひ見ていただきたい一本となっている。
舞台とは異なる魅力
世界には、数多くの劇団が存在する。国内にも『TEAM NACS』や『劇団☆新感線』、『ちからわざ』など、長く続く劇団が多数ある。映像作品が好きで、よく映画館に足を運ぶという人は多い。しかし、そういった人が全員舞台作品にまで足を運んでいるかというと、残念ながらそういうわけではない。本作は元々舞台で上演されていて、この度スクリーンへと進出した作品。舞台と映画には、それぞれの魅力がある。舞台ではその時しか感じられないライブ感、その時のみの奇跡の一瞬が存在する一方で、映画作品には何百時間もかけて作られた、完成された美が存在する。本作の舞台を見ている人にとって、スクリーンで見る本作はまた違ったものに映るだろう。逆も然り、本作を見て興味を持った人は、是非舞台の方にも足を運んでみよう。同じ作品で二度楽しめる、なんとも贅沢なことである。
映画『はるヲうるひと』の公開前に見ておきたい映画
さくらん
遊女とは、かつて遊郭で男性達に性的サービスを行なっていた女性達を指す。今でいう売春婦のことである。最新作では、そんな春を売る女性達を主人公に描いている。しかし、遊女が全員ただただ性的サービスを行う、学のない女性ばかりというわけではない。中には、高い教養や洗練された所作、巧みな芸事を身につけた、高級遊女と呼ばれる女性達もいた。本作の主人公も、この高級遊女の一人。主人公のきよ葉は、幼い頃に吉原に売られ、高級花魁である粧ひに面倒を見られることになる。成長したきよ葉は、圧倒的な美貌、そして、その持ち前の性格から人気花魁へと成り上がる。しかし、彼女は惣次郎という男性と恋に落ちてしまい…?
詳細 さくらん
ゆれる
幼い頃から、共に過ごす時間の多い兄弟という存在。家族でありながら友達のような立ち位置の理解者。しかし、当然ながらこの世の全ての兄弟の仲が良好というわけではない。同じ生育環境でも考え方や性格は異なるし、それ故に互いに理解ができない部分も出てくる。理解ができないで済めば良いが、不仲になってしまうことも十分にあり得る。最新作に登場する3兄弟もその例に当てはまる。そして、本作に登場する兄弟も、中々難しい関係性で成り立っている。疎遠になっていた兄弟が久々に再会。しかし、突如兄に殺人の容疑がかけられてしまう。兄の無実を信じていた弟。ゆれる心の末、証言台に立つ弟は最後に何を語るのか。真木よう子、オダギリジョー、香川照之といった豪華俳優陣を起用した名作。
詳細 ゆれる
大洗にも星はふるなり
数多くの出演作に恵まれている俳優、佐藤二郎。しかし、佐藤二郎といえば福田雄一作品を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。福田雄一は、『変態仮面』や『勇者ヨシヒコ』シリーズなど、これまでコメディを中心に数多くの作品を世に送り出してきた名監督。様々な豪華キャストを起用しているが、福田雄一はその中でも、ムロツヨシと佐藤二郎の両名を福田組の風神雷神と称するほど絶対的な信頼を寄せ、その殆どの作品で起用している。そんな、福田雄一の映画監督としてのデビュー作が本作。勿論、佐藤二郎も出演している。その他にも、山田孝之や安田顕、戸田恵梨香といった超豪華俳優陣が勢揃い。まだどこか若々しくも、既に完成されつつある福田雄一ワールドは必見。
詳細 大洗にも星はふるなり
映画『はるヲうるひと』の評判・口コミ・レビュー
映画『はるヲうるひと』鑑賞。
自分の心にも確かにある弱さと凶悪さを晒し続ける登場人物たちに痛みを感じながら、その中にぶっきらぼうな優しさを見つけて涙が溢れそうになった。
泣いて、叫んで、それでも孤独が居場所だと信じ続ける得太の生き様が深く胸に刺さる展開が凄まじい。
本当に良かった! pic.twitter.com/9lADLSrA6p— かいちょー (@kaicho_nandana) June 5, 2021
はるヲうるひと
虚を口にした嘘の交わりだらけの鼻糞でも愛を知れば真っ当になれる。
何者になれてもならなくても明日の風はどこ吹く風なのかもしれない。
山田孝之の影ある感じ、仲里依紗の心を空っぽにした感じが良い。
佐藤二郎が今まで観た事ない感じで新境地を切り開いた演技が圧巻。 pic.twitter.com/CkCIc13jZL— ディーン・フクヤマ (@masuyou1005) June 4, 2021
『はるヲうるひと』
【支配と服従】
虚しい生い立ち、虚しい生活
虚しい笑い、虚しい人間関係過激なシーンや言葉が飛び交う
空虚な泥沼の人間蟻地獄役者さんの《本気》が詰まっていて
本気で不快な気分になれた
本気は人間の細胞を震わせる佐藤二郎さん最優秀悪役賞の最有力🏅#はるヲうるひと pic.twitter.com/NZcrdWCHc9
— ken (@ken70121871) June 6, 2021
映画「はるヲうるひと」
正直、山田孝之目当てで観に行ったけど
それを覆す脚本の完成度の高さ。
息が詰まるシーンの連続。
久しぶりに映画を観て鳥肌が立ちました。後悔しているのはポップコーンを買ったこと。
とても観ながら食べれなかった。映画館で観た事を誇れる映画‼︎#はるヲうるひと pic.twitter.com/4HFeh6TvGo
— 倫太郎@国産緑茶 (@Bus_Step) June 4, 2021
映画『はるヲうるひと』のまとめ
佐藤二郎といえばコメディ作品を思い浮かべる人も多いだろう。事実彼は福田雄一作品など数多くのコメディ作品に引っ張りだこであるし、そのユニークな人柄からバラエティ番組の司会までこなしている。しかし、本作ばかりはコメディは一切封印。息が詰まるような、俳優達が剥き出しの演技でぶつかり合う、まさに狂演という言葉がふさわしい一作。勿論、コメディで人々を元気づける佐藤二郎も魅力的。しかし、やはり役者である以上、その演技力で人々の心を動かしてこそ本物。佐藤二郎という役者の真骨頂が見られる作品。これを見ずして、俳優佐藤二郎は語れない。
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