これほど美しく、手に取りやすいものを、私は他に知らない―。赤いポスターに、そう書かれたキャッチコピーは、目を引く。芥川賞作家である中村文則のデビュー作を、『2つ目の窓』で第29回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞した村上虹郎と、広瀬アリス主演で映画化。
映画『銃』の作品情報
- タイトル
- 銃
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年11月17日(土)
- 上映時間
- 97分
- ジャンル
- ヒューマンドラマ
- 監督
- 武正晴
- 脚本
- 武正晴
宍戸英紀 - 製作
- 奥山和由
- 製作総指揮
- 片岡秀介
- キャスト
- 村上虹郎
広瀬アリス
日南響子
新垣里沙
岡山天音
後藤淳平
中村有志
日向丈 - 製作国
- 日本
- 配給
- KATSU-do
太泰
映画『銃』の作品概要
日本は、世界でも珍しい銃規制国家である。その国で、一般人が銃を手にする機会など生涯ないといっても過言ではない。だが、大学生のトオルは、ある日偶然蹴銃を拾う。芥川賞作家・中村文則が“偏愛”しているデビュー作『銃』を、村上虹郎と広瀬アリス主演、『百円の恋』で知られる武正晴がメガホンを取る。脇をリリー・フランキーや虹郎の父親・村上淳が固める。本来決して手に入ることのない銃を手にしてしまった大学生が、心に抱える高揚感と背徳感を、村上虹郎が見事に演じ切る。
映画『銃』の予告動画
映画『銃』の登場人物(キャスト)
- 西川トオル(村上虹郎)
- 大学生。ある日、河原で倒れていた男の死体から、脇にあった銃を拾う。それからと言うもの、銃に異様なまでの愛着を見せるようになる。
- ヨシカワユウコ(広瀬アリス)
- トオルと同じ大学に通う女子大生。トオルと同じ講義を受け、トオルに好意を持っている。
- ケイスケ(岡山天音)
- トオルの友人だが、仲が良いというよりも悪いことを一緒にするツレという立場。
- 刑事(リリー・フランキー)
- 不思議な雰囲気の刑事。河原でトオルが銃を拾ったことを見透かしているかのような謎の男。
- トースト女(日南響子)
- 合コンでトオルと出会い、一夜を共にする。朝食にトーストを焼いてくれることから、トオルが勝手にそう心の中で呼んでいる。
映画『銃』のあらすじ(ネタバレなし)
ザーッという雨が鳴り止まない静かな夜だった。その日、大学生の西川トオルは、自宅への帰り道にある河原で、倒れている男を発見する。近づいてみると、それは明らかに死体であった。男の傍らには、テレビなどで見たことはあっても実際に見たことも触れたこともないもの、「銃」が捨ててあった。トオルはその銃を拾い、自宅へ持ち帰る。
じっくりと見て、触って、そうしていると銃に愛着が湧き、愛しさがこみ上げる。人を殺すこと、人を守ると、戦うこと、脅すこと、そして、自らの生死を委ねること。全てが叶う道具である銃に、大学生のトオルの心は見事に持っていかれてしまう。
そして、自宅に大切に保管していた銃を持ち歩くようになり、更に高揚感と背徳感がトオルの中で渦巻くようになる。これまでになく、刺激的であることに間違いない。
そんなある日、トオルの自宅に1人の刑事が訪ねてくる。刑事は、トオルが河原で死体を発見し、銃を持って立ち去ったことを見透かしているようだった。喫茶店で刑事と対峙していると、刑事はトオルに語り掛けるように穏やかな表情を浮かべる。刑事の言葉が、次第にトオルを引き返せない「どこか」へ誘っていく。
映画『銃』の感想・評価
禁断の「銃」を手にした大学生の末路
日本では、銃刀法違反と言う法律により、銃の所持・携帯・売買など全てが禁止されている。ほとんどの人が銃を触ったことはおろか、見たこともないだろう。特殊な職業につかない限り、銃は一般的に開放されてはいないのが、日本と言う国家である。
それは、日本古来の「戦わずして勝つ」という美徳から生まれた法律なのかもしれない。欧州では「撃たれる前に撃つ」という心情から、護身用に銃を持つことを許可されている国や州が多くある中、日本の考え方は、実に平和的で穏やかなものであると言える。
だからこそ、「禁断」の持ち物である銃が、ある日突然手に入ったら、自分の心境がどのように変化していくのか、想像に難くない。普通の人間であるならば、銃を手にしてまずすることは、最寄りの警察署や派出所へ持って行くことだ。
だがトオルは、それを自宅に持ち帰り誰に言うこともなく大切に保管している。そしてついには、それを携帯するようになる。「普通」の感性から外れたトオルの行動は、一般的には量り難く、それゆえにトオルの行動の一挙手一投足が面白く感じる。
謎の多い刑事との攻防
トオルの自宅へやって来た1人の刑事。“怪優”と呼ばれるリリー・フランキーが熱演する刑事は、トオルを追い詰めていく。自分のことを承知で、あえて本当のことを言わず、誘うように証言を待っている刑事とのやり取りは、トオルを応援したい観客からするととてもドキドキして、胸が高まる。
現実世界で、リリー・フランキーのような刑事がどれだけいるのか分からないが、明らかに“変”であることに間違いない。銃を保管している以上、捕まれば罰せられる立場にあるため、トオルからしたら“敵”である刑事。正攻法で攻めてこない刑事に、トオルがどうやって対抗していくのか、懐の探り合いを見せる2人の演技は、トオルの心情をテーマにしている映画だが、とても見応えがある。
こうした読みにくい表情を向け、穏やかに語り掛ける役に、リリー・フランキーは打ってつけの役者である。ポーカーフェイスを決め込み、プレーヤーのミスを誘う、カジノのディーラーのようである。リリー・フランキーの登場のおかげで、この映画が青年の心に一味のスパイスを投じてくれ、物語が面白くなるのである。
自分の心のバランスを、妄想彼女とセックスフレンドで保つ
悪友に誘われ参加した合コンで、一夜を共にした女、通称“トースト女”は、トオルに優しく接してくれる。気分が悪くなっても、理由を尋ねることなく介抱してくれ、懐の広さを見せてくれる。
対して、同じ大学に通うヨシカワユウコは、同じ講義を受けている際に話しかけてきた女子大生で、恐らくトオルに好意を寄せている。フレンドリーで、トオルに興味を持っているかのような素振りを見せるヨシカワユウコに、トオルも興味を抱く。そして、付き合っていると頭の中で妄想し、「想像彼女」として接するようになる。
トースト女のような性のはけ口ではなく、あくまでも紳士的に優しく、健全な交友関係を築く。一種のゲームのようなその計画は、トオルの心を満たしていく。
トオルは、とても銃を愛している。銃に魅了され、銃を愛し、片時も離れない存在となった。だが、トオルがどれだけ銃を愛しても、銃はトオルを愛してくれない。あくまでも一方通行で満たされない思いを、「いつでも捨てられる女」と「愛を育み、自分を愛するように仕向ける女」に置き換え、自分なりのバランスを取っていく。
傍から見れば、それがいかに危ういことか、知っている人は知っている。しかし、そのアンバランスささえも、銃を持ったことによる心的様相の変化だとしたら、物語は更に面白くなる。
映画『銃』の公開前に見ておきたい映画
2つ目の窓
鹿児島県は奄美大島の大自然を舞台に、高校生の男女関係や肉親の死別を描いた劇映画。この映画は第67回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門に出品された作品である。そして、この映画に当時現役高校生であった村上虹郎が、映画初出演にして初主演を務める。
更に、虹郎の父親である村上淳も出演し、親子共演を果たす。今作の『銃』でも、村上淳が出演し、『2つ目の窓』以来の共演となるので、そう言った意味でもこの映画はぜひ、劇場公開前に鑑賞することをお勧めしたい。
そして、この映画が『銃』とも共通している点が他にもあり、それは高校生の主人公・界人が海で溺死体を発見するところだ。この映画では、死体の登場や奄美大島特有のイタコ・ユタの存在なども登場し、神秘的な面も見せる。
更に、ヒロインの母親の死や両親の離婚と、重い内容もところどころに散りばめられているので、見応えは充分にある。高校生時分の村上虹郎が死体を発見し、ヒロインの母親の死と向き合い、離婚し離れて生活している父親を訪ねる随所の演技を、存分に堪能してほしい。
詳細 2つ目の窓
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
イラストレーターやデザイナーとして活躍していたリリー・フランキーの、自身の半生を綴った自叙小説。テレビドラマ化や映画化もされ、映画ではオダギリジョーが主演を務め、第31回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した傑作である。ちなみに、このアカデミー賞の結果は、出来レースだったと言われたこともある。
映画には、小泉今日子・宮崎あおい・仲村トオル・松たか子などそうそうたる顔ぶれがゲスト出演したことでも話題を呼んでいる。
酔っ払いでどうしようもない父親に手を焼いたボクのオカンは、福岡県の筑豊の実家に身を寄せ、女手一つでボクを育てる。怪優・リリー・フランキーと言われるゆえんは、この映画の中で存分に描かれており、だからこそのリリー・フランキーであるのだと言える。
巫女っちゃけん。
4歳年下の広瀬すずの姉としての知名度が高い、モデルで女優の広瀬アリス。セブンティーンに姉妹揃って表紙を飾るなどの快挙を成し遂げ、妹のすずとは違ってコミカライズな役も演じられる女優である。
役に対しての熱意が強く、2014年の人気漫画『銀の匙 Silver Spoon』のヒロイン御影アキを演じた際は、乗馬や乳しぼりの練習をしたり、『巫女っちゃけん。』撮影1週間前には現地入りし、巫女の作法を教わったりしている。
2017年『巫女っちゃけん。』では主演を務め、福岡県福津市の神社を舞台に、粗暴で粗雑なアルバイトの巫女役しわすを熱演する。ちなみに、この映画にもリリー・フランキーがしわすの父親兼宮司として登場しており、広瀬アリスとさりげなく共演している。
巫女のアルバイトをしながら、就職活動をしているしわすだが、就職先はなかなか見つからず、将来に夢も希望も持てずにいる。ところがある日、突然現れた小学生の健太によって、神社には悪質な悪戯が後を絶たなくなる。しわすは健太と触れ合ううちに、健太の持つ悩みや環境を知るところとなり、次第に、健太との出会いがしわすを成長させていくことになる。
詳細 巫女っちゃけん。
映画『銃』の評判・口コミ・レビュー
【銃】
これほど美しく、狂気的なフィルム・ノワール若しくはヒーロー映画を、俺は他に知らない。これほどシンパシーを感じる映画に出逢えることは滅多に無い。観た後に残るのは興奮でも感動でも無く、苛立ち。世の中に対して滅茶苦茶に腹が立ってきた。
悪許すべからず、全員撃ち殺す。 pic.twitter.com/Ui9Q5FoBS3— 地獄の助次郎 (@zigoku_sukejiro) 2018年11月17日
【銃】を観てきました。モノクロなところがとても良かったです。リリー・フランキーさん曰く「カリカリ梅くらいの大きさ」な日南響子さんの顔の小ささに驚いた舞台挨拶でした✨
映画を観た人は原作も読んでね💕 pic.twitter.com/L32Npl0VDu— 真珠 (@shinjyucafe) 2018年11月17日
映画 銃 観てきました
モノクロの映像と、銃に魅入られ支配されていく村上虹郎さんの演技に引き込まれました
明るい話ではないけど後半の疾走感と緊張感や、ラストの映像が良かったです pic.twitter.com/2Vw5HfZhps— にしの (@nishinoarai) 2018年11月17日
映画「銃」は「ヌヌ子〜」と打って変わって終始重い雰囲気。モノクロですしね。アクションとかそこまで派手さはありませんが、「日常にある怒り」みたいなのが共感を覚えた。世の中にはマナーの悪い人間やクズのDQNはどこにでもいます。そういう内包的な怒りのぶつけどころを描いてくれたように思えた
— アジェス モロクロワ (@morokurowa) 2018年11月18日
映画『銃』。ある事件現場に落ちていた銃を拾い、所持したきっかけで、主人公の内面が変化していく。ほぼ全編モノクロで、ザラザラした全編危うい空気はATG映画の匂いもしたりした。主人公とリリー・フランキー氏演じる刑事との静かな会話はどこか不穏で気持ち悪くて、本編で一番好きなシーン。
— 沙藤昌(埴輪) (@haniwasato) 2018年11月18日
映画『銃』のまとめ
この映画の面白いところは、この映画が「日本だからこそ」作られた作品だということである。諸外国では銃の規制が日本よりも緩く、手に入れやすい環境にある。だが日本では、一般人が法の目をかいくぐって銃を手にすることはとても難しい。だからこそ、これまで手にしたことのなかった「禁忌」を冒す高揚感と背徳感が、ゾクゾクと背筋を襲い、続きが見たくなってしまうのだろう。また、2度目の親子共演を果たす父親・村上淳の役は、トオルと対峙する“ある男”とだけ知らされており、役名すら公開されていない。この謎も、ぜひ劇場で確かめたい。
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