映画『怪物はささやく』の概要:12歳の少年が大人と子供の狭間で悩みながら足掻く様を描いた作品。難病を患う母親と暮らす少年はある夜、丘の上のイチイの木が怪物になるのを目撃する。怪物は少年に3つの物語を聞かせ、4つ目は真実の物語を少年に語れと言うのだった。
映画『怪物はささやく』の作品情報
上映時間:109分
ジャンル:ファンタジー、ヒューマンドラマ、ホラー
監督:J・A・バヨナ
キャスト:ルイス・マクドゥーガル、シガーニー・ウィーヴァー、フェリシティ・ジョーンズ、リーアム・ニーソン etc
映画『怪物はささやく』の登場人物(キャスト)
- コナー(ルイス・マクドゥーガル)
- いつも空想してばかりいる12歳の少年。絵を描くことが得意で、自分のことは自分でやる賢く良い子。母親思い。
- 母親(フェリシティ・ジョーンズ)
- 病気がちで入退院を繰り返しており、コナーの世話や家事ができずにいる。息子を深く愛しており、いつもコナーの意見を聞いてから物事を決めている。コナーの一番の理解者。
- 祖母(シガニー・ウィーバー)
- 病気がちの娘と孫を心配しているキャリアウーマン。きびきびとした性格だが、時にそれが強引で傲慢にも見える。
- 父親(ドビー・ケベル)
- コナーの母親と離婚後、LAに移住。別の女性と家庭を築き、娘と暮らしている。コナーを引き取りたいと思っている。優しい人物ではあるものの、コナーの話を信じない。
- 怪物(リーアム・ニーソン)
- 丘の上にある教会の墓地に立つ、癒しの樹イチイの巨木。3つの物語を語った後、コナーに4つめの真実の物語を語らせようとする。身長はおよそ4階建てのビルに相当。
映画『怪物はささやく』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『怪物はささやく』のあらすじ【起】
小高い丘の上に教会とイチイの巨木が見える一軒家。その家に12歳のコナーは難病を患う母親と暮らしている。彼は空想に耽っては絵を描いているような大人しい子だった。自分のこと以外に家事までこなすコナーだったが、学校では一部のクラスメイトにいじめられていた。
そんなある夜、自室にて絵を描いていたコナーは異変を察して窓を開ける。すると、イチイの巨木が立ち上がり人形になるのを目撃。木の怪物はまっすぐにコナーの元へやって来て、赤い目を光らせながら次に来た時は3つの物語を聞かせるから、4つ目はコナーから真実の話を聞かせろと言うのだった。
翌日、家に祖母がやって来て、別れた父親の元へコナーを行かせてはどうかと提案される。祖母と気が合わないコナーは、絶対に行かないと反発。その夜は祖母がコナーの部屋に泊まったため、リビングのソファーで横になった。時刻は深夜12時7分。コナーの前に再び怪物が現れる。
1つ目の話は、黒の王妃と若き王子の話だった。祖父王亡きあと魔女だと噂される王妃は、王子へと結婚を迫ったが、王子は恋人である農家の娘と駆け落ちし、イチイの木の下で夜を明かした。翌朝、花嫁が殺されているのを発見した王子は、全て王妃の仕業だと声高に叫び、村人たちと復讐に立ち上がる。イチイの木はその時に怪物として立ち上がり、王子の軍と城へと攻め入る。怪物は王妃を捕まえ、海辺の村へ運んで別の人生を歩ませた。
コナーは怪物になぜ王妃を生かしたのかと聞く。すると、王妃は王も農家の娘も殺していないからだと答えた。実際は、王座を取り戻すために花嫁を殺したのは王子だった。王妃が魔女だったのは事実だが、彼女は誰も殺していないのである。故に、怪物は王妃を助けた。真実とはえてしてそういうものだと怪物は言った。
映画『怪物はささやく』のあらすじ【承】
翌日、学校から帰ると母親から呼び出される。今の治療に効果が見られないため、入院して新たな治療を試みると言う。コナーは母親が入院する間、祖母の家へ行くことになった。
学校でのいじめが続く中、祖母の家へやって来たコナー。父親がLAから来る予定になっており、それまでは1人で留守番をする。祖母の家のリビングには、曾祖母の置時計があった。それは今までに狂ったことがなく100年以上、正確に時を刻んでいるらしい。祖母は高圧的にコナーへと接し、家の物には触るなと言って仕事へ出かけた。
やがて、父親が訪問。父親は母親と離婚後、LAに移住し新しい家族と暮らしていた。コナーは祖母と暮らしたくないあまりにLAへ行きたいと望むも、父親はコナーを引き取りたいと思っていないらしい。
拒絶されたコナーは、祖母への反発心も加わり鬱屈した心を持て余してしまう。そうして、彼は曾祖母の時計を無理矢理に動かし、12時7分で壊してしまうのだった。
すると、リビングに怪物が現れる。2つ目の物語は薬師の秘薬という話だった。今から150年前、工業ラッシュにて自然が激減。僅かに残った森には、薬草を用いて薬を作る調合師が住んでいた。村の若い牧師は見識ある親切な人物だったが、調合師の治療法に反対しており、村人は彼に影響され調合師を拒むようになる。調合師は牧師の庭にある癒しの木イチイを用いて、万能薬を作ろうと考えるが当然、許してもらえるはずもなく。
牧師には最愛の娘が2人いたが、近代医学にも治せない病を患ってしまう。子煩悩な牧師は娘を失いたくないあまりに調合師へと泣きつくも、調合師は信念を持たない牧師を拒絶。結果、娘達は病によって亡くなってしまうのだった。その夜、怪物は歩き出して牧師の家を破壊したと言う。調合師は最後まで治療者を貫いたのに対し、牧師は信念を持たない聖職者であったからだ。
信念こそ治癒力。治療を信じ未来を信じることである。怪物はコナーに信念を持って誰を信じ、何を信じるかよく見極めろと言う。そうして、彼に破壊行為を促した。
映画『怪物はささやく』のあらすじ【転】
コナーがふと気が付いた時、彼は祖母のリビングを滅茶苦茶に破壊していた。そこへ祖母が帰宅。彼女はリビングの惨状に愕然とし、破壊された曾祖母の置時計を見てショックを受ける。だが、彼女は孫を怒ることができず、そんな祖母の姿にコナーは謝ることもできない。
翌朝、ダイニングへ向かうと父親が朝食を作っていた。深夜になって母親の容態が悪化したため、病院へ向かった祖母の代わりに自分が来たと言う。父親もまた、コナーがリビングを破壊したことを叱らなかった。大人達は決まって叱ってどうなる?と言う。コナーはもう善悪が分からない子供ではないのだ。
午前中は父親と共にリビングの片づけを行い、午後は母親の見舞いへ。新薬が身体に合わないらしく、別の薬を試すことになったらしい。今度の薬は癒しの木からできているので、絶対に効くはずだ。
その夜、12時7分を待っていたコナー。現れた怪物に母親のことを聞こうとする。だが、怪物は何も答えずコナーの元を去ってしまう。
翌日、父親がLAへ帰って行った。その後、コナーは1人でリビングの片づけを続ける。深夜になってリビングへ向かうと、帰宅した祖母が思い出のDVDを観ていた。それはコナーがまだ5歳の頃、母親と絵を描いているのを撮影した動画。絵は母親から習ったものだったのだ。
怪物の訪れがないまま、数日が経過。母親は次第に痩せこけていき、薬が効いている様子は見られずコナーの不安は募るばかり。
ある日の昼休み、いじめの主犯であるクラスメイトから、今後コナーとは関わらないと宣言される。去って行くクラスメイトの後ろ姿を憎々しげに見つめるコナー。時刻は昼の12時7分だった。
怪物が現れ3つ目の物語の時間だと言う。3つ目は透明人間扱いをされた男の話。男は周囲から無視された存在であった。故に、認識されない者が果たして存在していると言えるのかと考え怪物を呼び、周囲へと襲い掛かったのである。コナーもまた、男と同じように去って行くクラスメイトへと襲い掛かる。相手は病院送りとなり、コナーは教師に呼び出されたが、そこでも罰せられることはなかった。
映画『怪物はささやく』の結末・ラスト(ネタバレ)
コナーの異様な行動にクラスメイトは奇異な視線を向けてくる。そんな中、母親の病院へ呼び出され今後のことを聞かされた。癒しの木で作られた薬が効力を発揮していないらしい。もう打てる策がないため、あとは死を待つばかり。母親は心を持て余して上手に外へ吐き出せない息子へ、八つ当たりは徹底的にしろと助言。言葉もなく怒って何をしたとしても、それを後悔して気に病まないようにしなさいと話して聞かせるのだった。
その言葉にショックを受けたコナーは、丘の上にあるイチイの木の元へ真っ先に向かい、怪物を起こした。癒しの木が母親の病に効かないことを怒鳴り散らしたが、怪物は少年を癒すために姿を現したのだと言う。コナーはついに泣き出してしまい、助けて欲しいと呟いた。すると、怪物は4つ目の物語の時間だと宣言する。
それはコナーが毎晩、見ていた悪夢。場所は丘の上の墓地。地面が崩落し大穴が開いた。その穴へ母親が落ちそうになり、必死で助けようとする。だが、母親を助けることはできず、彼女は大穴へと落下してしまう。怪物はしきりに真実を言えと迫る。言わなければ死ぬ。言っても死ぬ。追い詰められたコナーはとうとう、本心を明かしてしまう。
彼は待つことに耐え切れず、全てを終わらせたいと願った。故に、母親の手を自ら手放したのだ。そうして、罪の意識に囚われ毎晩、悪夢を見る。つまり、コナーは母親の死に怯え、それを受け入れることから逃げていたのである。怪物はそんな彼を穏やかな口調で諭し、人間は複雑で矛盾した生物であることを彼に教えるのだった。
その後、疲れ果てたコナーはイチイの木の根元で寝入ってしまう。深夜になって祖母が迎えに来て、大嫌いだった彼女と涙ながらに和解した。そうして、車を走らせ病院へ。母親の命の灯は今にも消えようとしていた。
コナーには怪物がついている。背中を押してもらった少年は、最愛の母親へと本心を明かすのだった。
翌朝、帰宅したコナーは祖母から部屋の鍵を受け取る。そこは、かつての母親の部屋だ。立派な机の上には母親が描いた絵本がある。ページをめくった彼は、母親もまた過去に怪物と会って癒されていたのを知るのだった。
映画『怪物はささやく』の感想・評価・レビュー
少年と木の怪物の物語。木の怪物が話す3つの物語が少年の思っていることの真実を導くためのものであるが、物語一つ一つがとても考えさせられるものであった。最後の最後まで主人公の真実はわからないが、それまでの物語がかなり重要になってくる。主人公が見る悪夢にはちゃんと理由がありその理由が本当にリアルで切なく感じた。例えば、親の介護をしている人たちも日々そのような思いと葛藤しているのではないかとさえ思った。
解放されたい、けれども一緒にいたいという葛藤がよく描かれた作品であった。(女性 20代)
原作はパトリック・ネスの同名作品であり、映画の脚本も自ら書いている。怪物が語る3つの物語はアニメーションで描かれるが、華美なものではなく淡々とした中にも伝えたいことがしっかりと盛り込まれており、非常に簡潔で分かりやすい。怪物役のリーアム・ニーソンが、初のモーションキャプチャーにて動作をも演じることで恐怖だけの存在ではなく、温かみのある怪物になっている。
母親の死に怯えつつ、自分のことと家のことを全て担う苦労は子供には酷だろうと思う。重荷に感じるのは当たり前のことで、疎ましく思うと同時に大切な母親がいなくなってしまうことにも怯えている。そんな複雑な葛藤をコナー役のルイス・マクドゥーガルが見事に演じ、物語をより深くただのファンタジーではないものへと昇華している。表面的なものだけではなく、心の奥底と成長を描いた良作。(女性 40代)
自分の心がうまくコントロール出来ない少年とその少年の心を癒し、導いてくれる怪物との不思議なストーリー。
物語はとてもファンタジーで現実味は無いのですが、少年の思春期ならではの気持ちの葛藤だったり、周りの人間との付き合い方だったり、自分にも重ね合わせて見てしまう部分が沢山ありました。
そんな少年に「物語」を聞かせて複雑に絡んでしまった心を解き放たせてくれる怪物の優しさに胸が熱くなりました。(女性 30代)
カラフルな切り絵のようなアニメーションシーンに、目を奪われました。それはイチイの木の怪物が語る3つの物語なんですが、一見すると理不尽で納得のいかないものばかりです。しかしながら、生きていく上で役立つ考えが沢山含まれています。「善人も悪人も実際には存在せず、殆どが普通の人間だ」「人は裏表があったり矛盾を孕んでいたりと複雑なものだ」等、現実世界を淡々と語っています。物語の構成や伝え方が技術的に優れており、脱帽しました。(女性 30代)
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