函館で暮らす主人公の「僕」は、ルームシェアしている静雄と恋人の佐和子と3人で、永遠に終わらなければいいと思えるようなひと夏を過ごす。第86回芥川賞候補作となった佐藤泰志の同名小説を、三宅唱監督が新しい感性で映画化した意欲作。
映画『きみの鳥はうたえる』の作品情報
- タイトル
- きみの鳥はうたえる
- 原題
- なし
- 製作年
- 2018年
- 日本公開日
- 2018年9月1日(土)
- 上映時間
- 106分
- ジャンル
- 青春
ヒューマンドラマ - 監督
- 三宅唱
- 脚本
- 三宅唱
- 製作
- 菅原和博(企画・製作・プロデュース)
松井宏(プロデューサー)
城内政芳(ラインプロデューサー)
寺尾修一(アソシエイトプロデューサー) - 製作総指揮
- なし
- キャスト
- 柄本祐
石橋静河
染谷翔太
足立智充
山本亜衣
柴田貴哉
渡辺真起子
萩原聖人 - 製作国
- 日本
- 配給
- コピアポア・フィルム
映画『きみの鳥はうたえる』の作品概要
41歳で夭折した作家・佐藤泰志の初期の代表作『きみの鳥はうたえる』を、新進気鋭の三宅唱監督が映画化した。主人公の「僕」を演じるのは、性格俳優として常にひっぱりだこの柄本佑。主人公の恋人には、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)で数多くの新人賞を受賞した石橋静河がキャスティングされている。この2人と不思議な三角関係を築くのは、主演作『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(18)が2月に公開されたばかりの染谷翔太。
映画『きみの鳥はうたえる』の予告動画
映画『きみの鳥はうたえる』の登場人物(キャスト)
- 僕(柄本佑)
- 函館の郊外にある書店で働いている。
- 佐和子(石橋静河)
- 僕と同じ書店で働いている同僚の女性。「僕」と恋人同士になる。
- 静雄(染谷翔太)
- 「僕」の同居人。失業中。
映画『きみの鳥はうたえる』のあらすじ(ネタバレなし)
函館の郊外にある書店で働いている「僕」は、失業中の静雄と暮らしている。「僕」と静雄はとても気が合い、同居生活はうまくいっていた。夏の頃、「僕」は書店の同僚である佐和子と親しくなり、恋に落ちる。
「僕」と付き合うようになった佐和子は、「僕」が静雄と同居している部屋に入り浸るようになる。静雄も佐和子のことを気に入り、3人は毎晩のように酒を飲んで騒ぐ。そんな時間を過ごすうち、静雄と佐和子も男女の関係となる。「僕」はそれに気づいていたが、この三角関係を受け入れる。そして、いつまでもこの夏が続けばいいと願っていた。
映画『きみの鳥はうたえる』の感想・評価
佐藤泰志の小説が映画化される理由
北海道函館市出身の作家・佐藤泰志は、20歳頃から本格的な執筆活動を開始し、41歳でその短い生涯を終えている。佐藤の小説は5回も芥川賞候補になっているが、結局、1度も芥川賞を受賞することはできなかった。しかし、彼の小説は近年になって続々と映画化され、原作となった佐藤の小説も再び脚光を浴びている。2010年公開の『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)、2014年公開の『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)、2016年公開の『オーバー・フェンス』(山下敦弘監督)の3作品は「佐藤泰志 函館3部作」呼ばれており、佐藤のドキュメンタリー映画『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』(13)を特典映像に加えて、Blue-ray Boxにもなっている。
そして、また今回、佐藤の小説『きみの鳥はうたえる』が映画化された。現在進行形で活躍している作家のベストセラー小説が映画化されるのは普通だが、故人の小説がここまで立て続けに映画化されることは珍しい。その理由は、佐藤が生々しい人間から目を背けず、清も濁も偽らずに書こうとする誠実な作家であったからだ。真実に敏感なクリエイターたちは、佐藤が紡ぎ出した普遍的な人間の生にどうしようもなく惹かれてしまうのだろう。
青春のクライマックス
本作は、主人公の「僕」が同居人の静雄と恋人の佐和子と過ごした短い夏の日々を描いた物語だ。「僕」は、この夏が永遠に続くような気がしている。毎晩のように3人で集まって酒を飲み、喧騒の中に溺れていると、自分たちはずっとこのままでいられるのではないかと錯覚する。その甘い錯覚を味わえるのが若さの特権であり、青春なのだろう。
『きみの鳥はうたえる』は、間違いなく青春映画だ。それも、線香花火が消える直前にパチパチと美しく弾ける瞬間のような最後のクライマックスを切り取った青春映画だ。あと少しで終わってしまうことを自覚しているからこそ、3人はありったけのエネルギーを燃やして輝こうとする。「まだいける、まだいける」と思いたくて、無理をしてでも騒ぎ続ける。しかし、終わりは唐突にやってくる。線香花火がスッと小さくなってポトリと落ちるように。その瞬間の彼らを想像しただけで、すでに胸が痛くなる。
柄本佑の分岐点
主人公の「僕」を演じる柄本佑は、まだ31歳という若さでありながら、すでに俳優として熟成しつつある。彼は2003年に『美しい夏キリシマ』でデビューして以来、数えきれないほどの映画やテレビドラマに出演しており、日本人なら最低でも1回は、どこかで柄本の演技を見ているはずだ。柄本のような性格俳優タイプは、年齢を重ねることがさらに強力な武器になるので、これからもっと忙しくなっていくだろう。演じる役の幅も大きく広がり、主演作も増えていくものと予想される。
『きみの鳥はうたえる』で主演を務めることは、そんな柄本のキャリアの大きな分岐点になるような気がしている。三宅唱監督が、この青春映画の主人公に31歳の柄本を起用したのも、「彼が退廃的な空気の若者を演じられるのは、これが最後になるかもしれない」という思惑があったからではないだろうか。柄本ぐらいの実力があれば、演技力で若者に化けることは可能だろうが、映像の世界で実年齢とのギャップが大きすぎると観客は戸惑う。30歳を過ぎたような役者が、まだ学生服を着せられていたりすると、痛々しくて見ていられない。本作の公開を前にして、柄本は「公開するのは本当に嬉しいことですが、僕の中の「僕」が終わってしまうようで少し寂しくもありますな」とコメントしている。「僕」を演じることは、柄本自身の青春のクライマックスになっているのかもしれない。
映画『きみの鳥はうたえる』の公開前に見ておきたい映画
そこのみにて光輝く
ある事情があって無職になった佐藤達夫(綾野剛)は、パチンコ店で大城拓児(菅田将暉)と知り合い、自宅に誘われる。拓児の自宅は、海岸沿いの粗末なバラック小屋だった。拓児の姉の千夏(池脇千鶴)は、寝たきりの父親とやつれた母親、そして刑務所帰りの拓児を養うため、自分を殺して生きていた。達夫はそんな千夏に惹かれ、2人は愛し合うようになるのだが…。
同名原作小説は、佐藤泰志にとって唯一の長編小説であり、代表作と言われている。呉美保監督は、原作小説の世界を驚くべき完成度で映像化しており、国内外で大絶賛された。この作品はキャストの演技も絶品で、中でも池脇千鶴の存在感は群を抜いている。池脇千鶴は、汚くて美しい人間の全てをさらけ出し、スクリーンの中で千夏として生きている。演じているというよりも、ただ千夏としてそこに存在している。これには完全にやられてしまった。まぎれもない傑作なので、生涯に1度は見ておきたい。
詳細 そこのみにて光輝く
海炭市叙景
日本の北にある海炭市で生きる人々を描いた群像劇。寄り添うようにして生きてきた兄と妹。自宅の立ち退きを迫られている老婆。冷めきった夫婦と口をきかなくなった中学生の息子。妻が息子を虐待していることに気づいた不倫中の男。親子関係に溝のある父親と息子。雪の降り積もる大晦日、それぞれが過酷な現実の中で懸命に生きようともがきながら、新年を迎える。
1988年、佐藤泰志は、生まれ故郷の函館をモデルにした架空の都市「海炭市」を舞台にして、36人の名もなき人々の人生を短編小説にし始める。しかし、18篇を書き終えたところで雑誌の連載が打ち切られ、残る18篇は未完成のまま、佐藤が命を絶った。映画『海炭市叙景』は、世に出た18篇の同名短編小説集を原作として、その中の主に5篇を繋いだストーリーに脚色されている。「佐藤泰志 函館3部作」の始まりとなった作品であり、内容も演出もどんよりと重い。つまり、苦しくなるほどリアルに人生を描いた作品なのだ。
詳細 海炭市叙景
書くことの重さ 作家 佐藤泰志
41歳で自ら命を絶った佐藤の半生を、4期に区切って追ったドキュメンタリー映画。第1章では、『きみの鳥はうたえる』が昭和56年下期の芥川賞候補作品となった時期の佐藤と、その時の芥川賞選考会の様子が詳しく紹介される。第2章は「多感な青春」というタイトルで、函館西高校に通っていた佐藤の青春期が綴られる。第3章は「作家への道」というタイトルで、大学進学を機に上京して、本格的に作家への道を歩み始めた佐藤について語られる。最後の第4章は「海炭市叙景」と題され、佐藤が『海炭市叙景』を執筆しながら、唐突に最後の時を迎えるまでが語られている。
佐藤本人の映像があるわけではないが、再現ドラマに加えて、生前に佐藤と交流のあった人々が彼について詳しく語っており、佐藤泰志という稀有な作家の人生の輪郭は確認できる。印象的だったのは、自殺する前の佐藤が「もう書くことがないんだ」と明るく語ったという話。彼の中では、その時点で全てが終わっていたのかもしれない。
映画『きみの鳥はうたえる』の評判・口コミ・レビュー
『きみの鳥はうたえる』
柄本佑、石橋静河、染谷将太が素晴らしい。中でも石橋静河が最高に良くてスクリーンに彼女が映ることが喜びに変わるくらいでした。クラブで踊る佐知子、カラオケでの歌も絶品。「オリビアを聴きながら」佐知子の歌に寄り添う静雄も。
函館だと気づいたのはずいぶん経ってから。 pic.twitter.com/FpN4ub8j3V— arida (@Magnoliarida) 2018年9月2日
「きみの鳥はうたえる」を観た。
久々に痺れた映画で、傑作で、今年ベスト5に入る作品。どこにでもあるどこにでもいる若者の日常を垣間見て夏の終わりに胸が締め付けられた。妙にリアルで、なんだろう、この気持ち。
ラストのあの「うわあ感」を越えるものは、ないかもしれない。観てほしい。— HIKARU.I (@updownslowfast) 2018年9月2日
「きみの鳥はうたえる」佐藤泰志映画化4作目となる本作。3部作がどちらかといえば陰の部分、苦味強めだったのに比べると、陽の部分が強く、意図的に原作の陰をカットしてる。また新しい佐藤泰志作品の映像化を観られた。 pic.twitter.com/vxfshxzcAN
— とと (@t0t08) 2018年9月2日
『きみの鳥はうたえる』観た。素晴らしかった。
話すことで見えてくる人との付き合いで大事なものは、主に描かれる恋愛だけでなくどんな人間関係でも大切なんだなと。
日の入りから夜明け前までの夜の街の美しさ、お酒を飲んだり遊んだりして会話する時間の愛しさ、それらが胸に残る映画でした。— pen (@nackdeen) 2018年9月2日
『きみの鳥はうたえる』危なっかしい僕と、不思議と構いたくなっちゃう静夫。信頼はできないかも知れないけど、信用はできる。奔放でいて母性を感じる佐知子を演じた石橋静河の魅力に尽きる。他人の目線で表現したようなカメラワークも醍醐味。 https://t.co/741dZ45zD0
— もも (@GD_momoco) 2018年9月2日
映画『きみの鳥はうたえる』のまとめ
函館の短い夏、不思議な絆で結ばれた3人の男女が出会い、危うい青春の時を燃やす。原作・佐藤泰志、監督・脚本・三宅唱、キャストには柄本佑、石橋静河、染谷翔太と聞いただけで、息苦しくなるようなあの時期の切なさやもどかしさが蘇ってくる。たった40 秒の特報映像にしか触れていないのに、すでに心がヒリヒリと痛むのを感じる。できれば1人で劇場を訪れ、小説を読むように映画の世界に没頭したい。『きみの鳥はうたえる』は、きっとそんな作品だ。
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