映画『世界から猫が消えたなら』の概要:2016年公開の日本映画。脳腫瘍で余命わずかと宣告された青年が、自分と同じ姿の悪魔に大切な物を世の中から消す代わりに1日の命を与えると言われる。しかし思い出の品が消えると記憶も書き換えられてしまうのを経験し、何が本当に大事なのか考え始めるヒューマンストーリー。
映画『世界から猫が消えたなら』の作品情報
上映時間:103分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:永井聡
キャスト:佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、奥野瑛太 etc
映画『世界から猫が消えたなら』の登場人物(キャスト)
- 僕(佐藤健)
- 郵便局員として配達をする毎日。気弱で会話が下手、優柔不断なところがある男性。
- 悪魔(佐藤健)
- 僕とそっくりな悪魔。強気で冷静、冷淡な性格。
- 彼女(宮崎あおい)
- 優しく穏やかな女性。映画が好きで映画館に勤めている。
- ツタヤ(濱田岳)
- 映画好きで僕の親友。無表情だが映画に関しては熱弁する。
映画『世界から猫が消えたなら』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『世界から猫が消えたなら』のあらすじ【起】
海沿いの小さな街で、郵便局員として毎日配達をして暮らしている僕。
配達の途中に通る「カモメ時計店」は僕の実家で、今は父1人で店を経営している。
しかし僕は久しく顔を出していない。
自分の未来のことなんてまだそう気にしていない、そんな日々を過ごしていた。
いつものように、友人のレンタルビデオ屋に顔を出し、お薦めの作品を借りた帰り。
自転車から突然転がった僕は、そのまま病院に運ばれたようだった。
診察室で、脳腫瘍だと告げられた僕。
しかも状態が酷く悪く、精密検査が必要ではあるがいつ破裂してもおかしくないとのことで手術も不可能であるだろうということだった。
まさか自分がそんな病気になるとは思っていなかった僕は、ショックを受けすぎて叫ぶ気にすらならない。
自宅に帰った僕は、自分にそっくりの何者かに遭遇する。
その男は悪魔だと言った。
そして「僕の命は明日までである、がしかし、世界から悪魔が選んだ1つを消すことで1日寿命が延びるのだ」と言った。
そこで悪魔は電話を消そうと言い出す。
明日電話が消えてしまうから、今夜はその電話を楽しむようにと悪魔は言った。
僕が最後にかけたい人物。
電話帳をスクロールしながら思いついたのは、別れた彼女だった。
その日の夜。
僕は夢の中で幼い頃の夢を見た。
雨の中棄てられている猫を拾って来た僕に「猫アレルギーだから」と優しく拒否した母だったが、それでも僕の悲しそうな様子を見て母は飼ってくれると言った。
猫が入っていた段ボール箱がレタスの箱だったから、2人は「レタス」と名付けて可愛がる。
翌日、ミナト座という映画館で元彼女と待ち合わせをする。
彼女は以前のままだったが、急に電話してきたことを疑問に思っているようだった。
僕はもし最後に電話するならと考えたら君だったと言い、1日を過ごすことにする。
映画『世界から猫が消えたなら』のあらすじ【承】
僕と彼女は電話で知り合った。
たまたま実家の居間で友人から借りた「メトロポリス」という古い作品を鑑賞中、電話が鳴って出たら彼女だった。
彼女は違う人に電話をしたのだが、間違えて僕の家にかけてしまったのだった。
間違え電話だったと気がついたのだが、僕の後ろの音楽からメトロポリスを見ていると気がついた彼女は作品について話し出す。
そして意気投合した僕たちは、偶然にも同じ大学に通う学生同士だと気がついた。
デートをしても言葉数の少ない僕だったが、電話だと口数が多くなる僕が彼女は好きだと言ってくれた。
電話は2人のコミュニケーションツールだったのである。
彼女はミナト座で働き、ミナト座の上の部屋に住んでいる。
そこまで送った僕は、実は脳腫瘍で命が長くないということを告白した。
僕が帰宅した後、彼女は机から手紙を取り出し夜中にポストに投函する。
帰りの電車で悪魔は再び現れた。
そしていよいよ電話が消される時が来る。
僕の持っている電話が溶け、みるみる消えていく。
街の携帯電話ショップは他の店と入れ替わり、誰も電話のことなど覚えていない。
急いでミナト座に向かった僕は、受付に座って仕事をしている彼女の腕をつかんだ。
しかし彼女は僕の記憶を失ってしまったようだった。
電話から知り合い付き合った2人。
きっかけの電話が無かったことになった彼らの記憶は、塗り替えられてしまったからだ。
1日の寿命をもらい、次は映画を消そうと悪魔が言った。
映画は自分と親友のタツヤを繋いでいる大事なもの。
学生時代に映画の話で盛り上がった2人は、映画好きなことがきっかけで話をし、仲良くなった。
そして映画に詳しいタツヤは、その時僕にぴったりの作品を薦めてくれるのだ。
僕はそんなタツヤをツタヤと呼び、薦めてくれるがまま映画を鑑賞していた。
そんな関係も永遠に続いていくのだと思っていたのに、不幸は突然訪れるのである。
彼女と知り合ったあの電話で見ていたメトロポリスも、ツタヤが薦めたものだった。
最後の映画を借りに僕はツタヤの元に行く。
しかし彼は「最後の1本なんて選べない」と、まるで僕が冗談を言っているかのように突き放す。
僕は自分が病気であることを告げ、店を後にした。
ツタヤは泣きながら店の在庫をひっくり返し作品を探すが、そんなもの探せなかった。
映画『世界から猫が消えたなら』のあらすじ【転】
映画が消された。
ミナト座は空き地となり、ツタヤの店も本屋になっていた。
向こうは僕の記憶も無くなっている。
彼女と僕は交際中、アルゼンチンに旅行した。
そこで出会った日本人でバックパッカーのトムさんとは、観光案内をしたり共に食事をしたりと楽しい時間を共有する。
トムさんの旅立ちの日、2人に見送られ雑踏へと姿を消したトムさんの異変に気がついたのは彼女だった。
トムさんは車に轢かれ、亡くなったのだ。
トムさんが死んでも何も代わらない世の中に絶望し、泣いた彼女は「生きてやる!」とイグアスの滝の前で声を振り絞り叫ぶ。
そんな思い出を回想する中、次に消されたのは時計だった。
僕の実家はカモメ時計店の看板も、道路から無くなった。
帰ると待ち構えていた悪魔が、「次に消すのは猫だ」と言う。
僕にとって猫の思いでは消せるようなものでは無かった。
幼少の頃拾ってきて育てたレタスが体調不良の時、実は母も病を宣告されていた。
その後レタスは母の腕の中で逝き、母もまた布団で過ごすことが多くなっていく。
しかしある日再び猫が拾われてきた。
キャベツの箱の中に入っていたことで、父が「今度はキャベツか」とぼそり。
名前が決まった。
僕と父、車いすの母は温泉地に旅行に行く。
しかし予約が取れていなかったことで宿泊先が無くなってしまい、僕は必死で宿を探したがどこも満室だった。
唯一空いていた古ぼけた宿で泊まることが出来、食事をとる事が出来た。
食後、母は僕に「自分に何かあったら」と封筒を渡してくる。
だが僕は母の死を受け入れることが出来ず、拒否した。
翌日家族で海辺を散歩する。
父が僕と母の記念撮影をしようとしたが、父は泣いていたようで写真はぶれていた。
それなのに母が亡くなった時は、母の時計を直し臨終に立ち会わず。
僕は父を許すことが出来ず、その日から父と会っていないのだ。
映画『世界から猫が消えたなら』の結末・ラスト(ネタバレ)
僕は雨の中キャベツを探しに行くと、ポストの中に手紙が入っていることに気がつく。
中には母からのあの手紙が入っていた。
手紙には「もうおまえには何もしてやれないから、あなたの素敵なところを書く」と書かれ、母が思う僕の素敵なところがたくさん羅列してあったのだ。
「あなたの素敵なところを忘れずに生きて欲しい。いつまでもそのままで」と締めくくられている。
その手紙を読んだ僕は、決心した。
寿命と引き替えに猫を消してしまったら、全ての思い出が無くなってしまうのである。
僕は悪魔にお礼を言い、猫を消さないことにすると話した。
悪魔は僕がお礼を言ったことが疑問だったようだが、僕はこの世界がかけがえのない物で出来ていることに気がつかせてくれたからだと言う。
そして悪魔だと思っていた男は、もう1人の自分。
僕はずっと死を受け入れることが出来ないもう1人の僕と対話していたのだ。
電話も時計も映画もそのまま。
何も消えていなかった。
僕は父に手紙を書き、猫を乗せて自転車をこぐ。
彼女に会った僕は本当のことを聞く。
母からの手紙は彼女に預けられ、僕に何か起こったら渡すようお願いされていたのだと言う。
そして「あなたと会えて良かった」と言った。
むせび泣くツタヤに僕は声をかけようと、海の上のピアニストの台詞「何かいい物語が暖かたる相手が居る限り、人生捨てたもんじゃない」と言う。
それに対しツタヤは「映画は僕に親友をくれた」と返事をした。
僕は後悔もたくさんある。
でもいい。
少しだけ世界が変わっているはずだと信じたいのだ。
実はキャベツは拾われていない。
父がレタスそっくりの猫の里親募集のチラシを見つけ、僕に渡してきたのだ。
そしてキャベツの箱を用意し家の中に置かれている。
野菜のキャベツは時計店にこっそり置かれていた。
僕が生まれた時
出産して自宅に帰って来た母に、父がいつものように母に時計を渡す。
そして赤ん坊の僕に「生まれてきてくれてありがとう」と優しい声で微笑んだ。
映画『世界から猫が消えたなら』の感想・評価・レビュー
原作を読む前に映画を観ました。タイトルを見て猫がいなくなってしまった世界が描かれているのかと思っていましたが、そんなことはなく、想像以上に深いストーリーでした。
佐藤健と宮崎あおいの演技も非常に上手く、とても感動しました。時系列の入れ替わりが多く、少し混乱しましたが全体を通して良い作品だったように思います。
何か一つ願いを叶えるために、何か一つを失う。失っても困らなそうに見えるものでも、なくなって初めて必要なものだったと気づくこともあります。生死や、大切な物事について考えさせられる映画だったと思います。(女性 20代)
消そうとしている物のオムニバスと考えてもよいのではと思う程、ひとつひとつのエピソードが繊細に描かれていて心に残った。物を描いているようで、その裏にある人の心を描いている映画。また『アンダーグラウンド』などミニシアター系をはじめ映画ネタが沢山散りばめられているので、映画ファンは思わずニヤついてしまうこと間違いなし。
佐藤健の僕と悪魔の一人二役は、性格やしぐさの演じ分けができていてよかった。朴訥なイメージの衣装も好感が持てた。佐藤健はアクション作品のイメージが強いが、本作や『8年越しの花嫁 奇跡の実話』のような物静かな役も似合う。その他の役者も演技が心に染みた。(女性 40代)
消えて行く物のひとつひとつのストーリーは良かったのですが、個々のストーリーの切替が今一な感じがして、原作を読んでいなければ意味が解らない作品になったかもしれません。この世から消えてしまう物が、ひとつかふたつだけなら気が付かなかったかもしれない「大切な物」世の中に不要なものなどないということ。
観終わった後でただ生命活動をしているだけの「生きていること」と「生きがい」を考えさせられた作品となりました。(女性 40代)
寿命を知った主人公がこの世から大切なものを1つ消すことで、1日ずつ生き延びる物語。大切なものが消えるということは、それにまつわる人の思い出や記憶も消えるということ。そんな当たり前のことに改めて気づかされ、周りにいる大切な人やものに「ありがとう」と伝えたくなります。テーマは切なく少し悲しいものですが、親しい人たちの愛に触れ、観終わった後は心がほんのり温まる、そんな映画でした。(男性 20代)
主人公が飼っている猫を誰かに違う人に面倒を見てもらおうと旅に出るのですが、よく犬は主人に忠実とか言うけれど、この映画を観ていると猫も飼い主に忠実で離れていても必ず戻ってくるんだなと思いました。
私は断然に犬派なんですが。この映画を観ていると猫もいいなと思ってしまいました。ほっこり温かくなる映画です。(女性 30代)
死に直面し、今の自分を作ってくれた思い出を振り返る、美しい走馬灯のような物語です。観終えた後、身の回りのものに目をやると、些細な物からも思い出が蘇ってきます。当たり前だと思っていた物・事の、大切さに気付かさせてくれた作品です。寿命と引き換えに何かを失う。命より重いものは無いというが、思い出や人との繋がりが無くなってしまえば、それもまた死ぬことに等しいのだなと思いました。
趣味を通じて知り合ったツタヤの、取り乱しながら映画を探すシーンが非常に泣けました。(男性 20代)
タイトルだけで映画館に行き、思わぬ展開で号泣した作品です。決して「猫が死んでしまう」といった作品ではありませんでした。世界から、自分が消えてしまう(死んでしまう)前に他のものを消したら、というようなあらすじです。こんな言葉では片付かないほどには深い物語でした。
主演を務めた、佐藤健と宮崎あおいのコンビは作品と合っていて良かったと思います。切ない表情が綺麗なので、とても個人的には良いキャスティングだったかと思います。(女性 20代)
大切なもの1つ消す代わりに、寿命が1日延びると言うのはなんとも酷な話ですよね。大切なものって何だろうと身近に物が溢れている今は分からないかもしれませんが、いざ消えてしまうとその物の大切さがよく分かるんです。
大切なものが消えた世界を物ごとに描いているので分かりやすいのですが、最後の猫に持っていくために取り入れたような描き方をされてしまっているのが少し残念でした。
原作を読むと、より考えや感じ方が分かるのかなと思いました。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
想像以上に胸を打つ物語で涙が止まらなかった。自分の寿命が延びるなら、何かを消すことは厭わないと思う。ただ、大切な人との交流や思い出がなくなってしまうのなら、消すことを躊躇してしまうだろうなと思う。本当に大切なものは何かを気づかせてくれる作品だった。
「僕」が両親との思い出や友達、恋人との思い出を振り返る度に、自分自身も過去についても思いを馳せていた。死ぬのは怖いが、大切な思い出を覚えたまま死にたいと思う。たくさんの愛が詰まった物語なので、ぜひ多くの人に見て欲しいと思う。
名プロデューサー川村元気によるライン小説の映画化。
余命宣告を受けた主人公の「僕」が、自分そっくりの悪魔と出会い、世界から何かを失くせば寿命を1日延ばせるという契約を結ぶ。この作品は主人公が余命わずかということと、この設定が肝であり、素晴らしいアイデアだ。
結果、悪魔は自分自身で、「僕」が自分の大切なもの、大切な人を走馬灯を見るように振り返り、その時の想いを噛みしめ、自分の中へ落とし込むチャンスをくれたということだった。
この主人公の名前を出さない設定も、視聴者が「自分だったら」と思わず考えてしまう良い仕掛けである。
永井聡監督の『世界から猫が消えたなら』は2016年に公開され、原作は川村元気の小説『世界から猫が消えたなら』です。
主演は佐藤健と宮崎あおいで、作中で良い味を出せていたかと思います。
作中では、主人公、猫、母親、旅行者などの登場人物たちの「死」が描かれていきます。
現在と過去を行ったり来たりしてだんだん真相がわかっていく形です。
タイトルから猫が死んじゃうのかな、と安易に考えていましたが、実際に観賞するともっと深く様々な関係性を描いていることがわかります。