この記事では、映画『二十六夜待ち』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『二十六夜待ち』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『二十六夜待ち』の作品情報
上映時間:124分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
監督:越川道夫
キャスト:井浦新、黒川芽以、天衣織女、鈴木晋介 etc
映画『二十六夜待ち』の登場人物(キャスト)
- 杉谷(井浦新)
- 目覚めると見知らぬ山中におり、記憶喪失になってしまった男性。手が覚えていた料理を仕事にし、小さな小料理屋を営んでいる。
- 由実(黒川芽以)
- 震災の津波ですべてを流されてしまった女性。福島の叔母の元に身を寄せながら、杉谷の店で働き始める。
- 木村(諏訪太朗)
- 記憶を失った杉本をずっと支えている市役所の社員。事情を知っているが、深くは詮索せずに寄り添ってくれる存在。
映画『二十六夜待ち』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『二十六夜待ち』のあらすじ【起】
一人、食事の準備をする由美。震災の津波で何もかも流されてしまった由美は、福島の叔母の元に身を寄せていた。叔母夫婦は小さな会社を営んでいる。忙しい叔母夫婦に代わり、家事をしながら世話になっていたが、「いつまでも居るべきではない」と東京に住む兄は言う。しかし東北から出たことがない由美は、兄夫婦の元へ行くことを躊躇していた。そんなある日、パート募集の張り紙を見つけ、杉谷という小さな小料理屋を訪ねた。その店の店主・杉谷は寡黙な男であった。お膳出しと会計をお願いしたいと、履歴書もない状態ですぐに採用が決まった由美。翌日から杉谷で働くこととなった。
初日、昼時に賑わう店内。全国各地から集った職人たちが杉谷の料理を求めて来るという。明るい由美はすぐに常連客たちの馴染み、店内には笑い声が連日響いていた。変わらず寡黙な杉谷。毎日入口の一輪挿しに、野花を生けることは忘れないのである。ある日、杉谷はランチだけではなく夜も手伝ってほしいと頼む。「他にすることもないから」と快諾した由美。週に4日、フルタイムで働くことになった。
ある日の出勤前、由美は綺麗な野花を見つけ一輪挿しに生けた。買い出しから戻った杉谷は、先に花が生けてあることに気付き驚く。由美はにこやかに杉谷を迎え、手に持っている花を一緒に生けるのだった。

映画『二十六夜待ち』のあらすじ【承】
ある日の夜、杉谷が世話になっている市役所の木村が幼馴染の大沢を連れて店にやってきた。あいにく満席の状況であったが、杉谷は2階の部屋へ二人を通した。杉谷の部屋で飲むのは初めてではないという木村。二人は祝いの席で歌われる東北地方の歌を口ずさんでいた。兄が嫌いだったというこの歌が懐かしい由美は、客が帰った後に片付けをしながら口ずさんでいた。部屋の片づけをする由美の元にやってきた杉谷。懐かしい話を楽しそうにする由美は、杉谷に幼少期の思い出を訪ねた。すると杉谷は小刻みに身体を震わせながら由美の手を取った。見たことのない杉谷の表情に戸惑いながらも抱きしめた由美。自分からキスをし、杉谷を再び抱きしめたのである。そのまま二人は倒れ込むように身体を求め、一線を超える。しかし、突然杉谷は顔色を変え何も言わずに一人で1階へ降りていってしまった。何が起こったのかわからない由美。翌日の休み中もしきりに杉谷のことを考えてしまっていた。
ランチ営業のために店に出勤した由美。週末の出来事はなかったように明るく振る舞うが、杉谷はボソッと「すみませんでした」と謝罪をした。自分に悪い点があったのか、と由美が訪ねても、杉谷は何も答えてはくれなかった。不満を抱えたまま帰路についた由美。杉谷は考えこんだ後に、由美を追いかけ抱きしめた。二人はそのまま杉谷の部屋へと向かい、もう一度抱き合った。
映画『二十六夜待ち』のあらすじ【転】
2度目も杉谷は絶頂に至る前に突然由美から離れた。頭を抱えこみ「自分が消えてしまいそうで怖い」と泣き出す。実は杉谷は一度記憶を失っていた。気付くと見知らぬ山中にいた杉谷。右も左もわからない場所で、彷徨い歩いた杉谷は、木村に発見され助けてもらったのである。失踪届も出ておらず、名前もわからない杉谷にまず名前を付けようと提案した木村。山の中でまず目についたものを聞き出した。杉と谷が見えたという記憶を元に、新たな土地での名前は「杉谷」にしようと前を向かせてくれたのである。靴すらも忘れてしまった杉谷に優しく接してくれた木村。その話を聞いた由美は、杉谷の気持ちが落ち着くまで隣に寄り添ってあげるのだった。
木村が夜に飲みに来た時、魚をさばく杉谷の手捌きに見惚れていた。記憶はなくとも手は覚えているという杉谷。杉谷の事情を知った由美は、「どこかに杉谷を待っている人がいるのではないか」と木村に心の内をぶつけた。すると木村は「この街には8年分の杉谷の記憶が詰まっている。」と由美を安心させるのだった。その日、杉谷は由美を送って帰った。月の満ち欠けをずっと数えているという杉谷に対して、由美は震災の後避難所で見た月が忘れられないとこぼすのだった。
映画『二十六夜待ち』の結末・ラスト(ネタバレ)
ある日、叔母が自宅で倒れてしまった。自分が家の手伝いをもっとしていれば、と後悔を隠せない由美。不安をぶつけるように、杉谷の記憶が戻っても一緒に居たいと約束をしようとする由美。その言葉に怯え始めた杉谷は由美に触れられることすらも拒否してしまう。翌日、杉谷は東京の兄に会いに行ったらどうかと、一緒に東京へ行こうと提案をしてきた。叔母のことが気にかかっている由美は、「勝手に決めないで」と辛く当たってしまう。
叔母の見舞いに行ったとき、一人の義足の女性が話しかけてきた。無い方の足にも血がしっかり通っているという話を聞いた由美。途切れた杉谷の記憶にも何か通じるものがあるはずだと、一緒に東京へ向かうことにする
記憶の欠片を探しながら二人だけの時間を過ごす。夜も更け、杉谷は一人窓から外を眺めていた。空には「二十六夜」の月がぽつんと浮かんでいた。以前も同じ月を眺めていた気がするという杉谷。由美はいつかお店でフグも出そうと提案した。杉谷の手に残った記憶を取り戻すためにも。福島に戻った二人の日常は以前よりも少しだけ明るくなっていた。
映画『二十六夜待ち』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
杉谷を演じた井浦新、由実を演じた黒川芽以。両名共に身体を張った一作であった。記憶を失い不安定な役柄の杉谷だが、今にも消えてしまいそうな空気感が絶妙である。小料理屋の大将という設定上、多く出てくる料理のシーンは吹き替えをせず、井浦新が包丁を握っているというから驚きだ。二人の濃密なベッドシーンや言葉のチョイスは、田舎町独特の閉そく感に追われるというよりも、濃密なラブストーリーをしっかり見た充実感を与えてくれる。記憶を辿る暖かな物語であった。(MIHOシネマ編集部)
本作は、津波で全てを失った由実と記憶喪失で過去を失った杉谷が交流していくうえで変化する関係性を描いたラブヒューマンドラマ作品。
不器用で、色々なものを抱える杉谷さんはとても人間らしくて魅力的だった。
由実との遠い距離感や息遣い、移り変わる感情が手の映像によってありありと感じられた。
そして、淡々と静かに登場人物の心情が描かれていて美しく素敵だった。
人間への、あるいは生きることへの執着みたいなものを感じずにはいられなかった。(女性 20代)
拉致監禁という重い題材ながら、暴力の描写を抑え、心の傷と再生を静かに見つめる作品だった。被害者・山田と加害者の過去を知る青年・民夫が出会い、徐々に心を通わせていく過程がリアルで胸を打つ。民夫の中にも闇があることが分かった時点で、単なる癒しの物語では終わらないと感じた。希望と絶望が交差する余韻のあるラストも印象深い。(30代男性)
佐々部清監督らしい、派手さのない誠実な語り口が心に沁みた作品。山田の心の奥にある恐怖と怒り、そして自分を保つための孤独が、常盤貴子の演技によって丁寧に描かれていた。民夫との関係が進展しそうでしないもどかしさがリアルで、だからこそ最後の別れが深く心に残った。過去を引きずりながらも、生きていく姿に涙した。(40代女性)
決して分かりやすい映画ではないけれど、その曖昧さが逆に心に残った。山田の沈黙や視線、ちょっとした仕草にこそ彼女の“声にならない叫び”が表れていた気がする。民夫もまた、自分を責めながらもどこかで救いを求めていた。ふたりの傷ついた人間同士が言葉ではなく時間を共有することで、少しずつ癒えていく過程が静かに感動を誘った。(20代男性)
過去に囚われたふたりの姿が、まるで現代社会の縮図のように感じられた。山田のトラウマはもちろん、民夫の内にある罪悪感や家庭の問題も深く描かれていて、ただの被害者と支える人という単純な構図では終わらないのが良かった。答えが出ないままでも「一緒にいる」ことの意味を考えさせられたラストには、重いけど静かな希望があった。(30代女性)
地味な展開が続くけれど、一瞬一瞬に込められた感情の揺れがものすごくリアルだった。山田が口を開かなくても、表情や仕草に全てが表れていて、観ているこちらも感情を読み取ろうと無意識に集中していた。民夫の存在が救いであると同時に不安でもあるという微妙なバランスが、見事に描かれていたと思う。観る人を選ぶけど刺さる人には深く刺さる作品。(20代女性)
事件を前面に出すのではなく、その後の「生きづらさ」や「社会との接点」を描いた姿勢に共感した。山田が心を閉ざしたままでも、無理に感情を出させない描き方が優しかった。民夫もまた不器用で、ふたりの関係はもどかしいけれど真実味があった。暴力ではなく“静けさ”で人の心を描く、稀有な作品だったと思う。(50代男性)
女性として、山田の置かれた状況は胸が張り裂けそうだった。けれど、この映画は彼女を「可哀そうな被害者」としては描かない。ひとりの人間として、怒りや恐怖だけでなく、自分を取り戻そうとする強さがきちんと描かれている。常盤貴子さんの演技が本当に素晴らしく、涙をこらえながら見た。観終わったあともしばらく余韻が消えない。(40代女性)
民夫がただの「良い人」ではないという点が、すごくリアルだった。彼にも過去があり、彼なりの痛みを抱えている。そのふたりが出会って、最初はまったく噛み合わなかったけど、ゆっくり距離を縮めていく過程が温かかった。最後に一緒にはならなかったけれど、それで良かったと思えるラストに感動した。派手さはないけど心に残る作品。(50代男性)
映画『二十六夜待ち』を見た人におすすめの映画5選
あん
この映画を一言で表すと?
「過去を抱えて静かに生きる人々が、ふと交差する優しい奇跡」
どんな話?
どら焼き屋で働く男と、ある日現れた年配女性との出会いが描かれる。彼女の作る絶品の”あん”が物語の中心となり、やがて彼女の抱える過去や社会の偏見が浮き彫りになっていく。日常の中にある深い人間ドラマが胸を打つ。
ここがおすすめ!
『二十六夜待ち』と同様に、過去の痛みを抱えた人物たちが、静かに他者とつながっていく姿が丁寧に描かれています。映像も音も穏やかで、観た後に心がじんわりと温まるような優しさが残る名作です。
永い言い訳
この映画を一言で表すと?
「喪失からの再生を、皮肉と温かさで描く異色のヒューマンドラマ」
どんな話?
妻を事故で亡くした小説家が、悲しみを共有する他人の子どもたちと向き合う中で、自分の感情と向き合っていく。表面上は冷静でも、内面には大きな空洞を抱えた主人公の変化が繊細に描かれる。
ここがおすすめ!
哀しみを直接語らずとも伝える演出と、余白を残した映像美が『二十六夜待ち』と共鳴します。自分の心の奥を見つめたくなるような余韻が深く、感情に寄り添う映画を求める方にぜひ観てほしい一作です。
湯を沸かすほどの熱い愛
この映画を一言で表すと?
「母の愛がすべてを包み込む、静かに涙があふれる家族ドラマ」
どんな話?
余命宣告を受けた母親が、失踪した夫を探し、家業の銭湯を再建しながら、家族の絆を取り戻していく物語。笑いと涙が絶妙に織り交ぜられた、命の尊さと家族のつながりを描いた感動作。
ここがおすすめ!
『二十六夜待ち』同様、命の終わりと再生を見つめるテーマが共通しています。広瀬すずや宮沢りえらの演技が素晴らしく、感情が自然に揺さぶられる。静かな中にも強いメッセージが込められた作品です。
ミツバチのささやき
この映画を一言で表すと?
「少女の目を通して見る、沈黙と幻想に満ちた世界」
どんな話?
スペイン内戦直後の村で暮らす少女が、映画『フランケンシュタイン』に心を動かされ、現実と幻想の間で世界を見つめる物語。セリフを極限まで抑えた静かな演出が特徴。
ここがおすすめ!
言葉ではなく、視線や空気で物語を紡ぐ表現が、『二十六夜待ち』の沈黙の美しさと非常に近い。観る人の感受性を試すような映画であり、余白に感情を重ねる映画体験をしたい方におすすめです。
そこのみにて光輝く
この映画を一言で表すと?
「痛みのなかで光を求める、生と性のリアルな物語」
どんな話?
生きる希望を見失った男が、家庭に問題を抱える女性と出会い、互いの傷に触れながら惹かれていく。暴力や性の描写もあるが、根底には人間の優しさと孤独が描かれている作品。
ここがおすすめ!
『二十六夜待ち』と同様に、トラウマを抱えた登場人物が少しずつ変化していく姿が感動的。綾野剛と池脇千鶴の熱演が心を揺さぶり、観る者の胸に重く、そして確かに残る珠玉の日本映画です。
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