映画『ニンゲン合格』の概要:交通事故に遭った14歳の少年が、奇跡的に昏睡状態から覚めるとすでに10年が経過していた。失った時間と家族を取り戻したい一心で、試行錯誤する青年の行く末を追う一作。
映画『ニンゲン合格』の作品情報
上映時間:109分
ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
監督:黒沢清
キャスト:西島秀俊、役所広司、菅田俊、りりィ etc
映画『ニンゲン合格』の登場人物(キャスト)
- 吉井豊(西島秀俊)
- 14歳の時自転車で交通事故に遭い、昏睡状態のまま10年間眠っていた少年。奇跡的に目を覚まし、空白の時間と家族を取り戻すことに奮起する。
- 藤森岩雄(役所広司)
- 豊の父親の大学の同級生。豊を退院時から世話していたが、違法な仕事が仇となり追われてしまう。不器用ながらに豊のことを大切に思っている存在。
- 吉井真一郎(菅田俊)
- 豊の父親。ツアーのインストラクターとして世界中を転々としている。息子の豊が奇跡的に目を覚ましても仕事に追われ、一緒には過ごせずにいる。
- 岩谷幸子(りりィ)
- 豊の母親。夫・真一郎とは離婚しバリバリと働くキャリアウーマン。10年ぶりに目覚めた息子ともすぐに打ち解け愛情を注ぐ。
- 吉井千鶴(麻生久美子)
- 豊の妹。強気なタイプで家を飛び出し、恋人の加崎と暮らしている。父親の財産を目当てに豊に近づいたが、居場所がなく一緒に過ごすようになる。
- 加崎(哀川翔)
- 千鶴の恋人。スポーツカーを乗り回しているのに、金銭的に余裕がなく家を手放してしまっている。家族に憧れがあり、豊が築いた関係を羨ましく見ている。
- 室田(大杉漣)
- 豊を轢いてしまった加害者。10年間反省し続け、苦悩してきた。豊の奇跡的な回復で一旦解放されたように思えたが、幸せそうに暮らす豊を見て復讐心に駆られてしまう。
映画『ニンゲン合格』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ニンゲン合格』のあらすじ【起】
昏睡状態から目を覚ました豊。「ぐっすり寝た」という豊は10年間眠っていたのだった。奇跡の回復ながら、14歳で豊の時間は止まってしまっていた。もう一人、10年間生きた心地がしていない人間がいる。それは豊を轢いてしまった加害者の室田である。室田は「これで終わりにしてくれ」と50万円を差し出すのだった。
豊を迎えに来た藤森。豊が困らないように10年間に起こったニュースや撮りためたビデオを見せてくれるが「取り戻しようがない」と他人事のように豊は返答するのだった。退院した豊は家に帰ることを拒んだ。藤森が電車で居眠りした隙を見て、逃げ出そうとするが連れ戻されてしまうのだった。
藤森は家に作った釣り堀と産業廃棄物の処理で生計を立てていた。変わった街並みに戸惑い、何をすることもできない葛藤し始める。まずは藤森の手伝いをしながら、かつてあったポニー牧場がなくなった詳細を尋ねた。3年前に豊の両親から家を譲ってもらったというが、その時にはポニー牧場はなかったことしかわからなかった。
中学の同級生・上田に会いに行った豊。10年ぶりの再会だというのに違和感のない二人の時間。子供の頃に来た遊園地に行った豊は、上田に同窓会をやろうと提案するのだった。早速、豊は招待状を作り始めるが、藤森は止めるのだった。その夜、藤森は豊を無理矢理ソープランドへ連れていく。「そこそこ」だったという豊。2度目はないと成人の世界を拒絶するのだった。
映画『ニンゲン合格』のあらすじ【承】
引き続き招待状を作る豊は、庭に一頭の馬がいることに気付く。その日、父・真一郎が家を訪ねて来た。オランダに居たという真一郎は豊と距離を縮めようとよく話しかけた。ジュースを買いに行くのにも付いていくが、豊はどう接していいのかわからないまま過ごすのだった。
大学の同級生である、藤森と真一郎。豊のことを一任しようとする真一郎に対して、藤森は怒り散らすのだった。翌日、真一郎は北海道に旅立つと言い、豊に別れの挨拶に来た。母親の住所を教え、また戻ってくることを約束するのだった。
藤森は豊に車の運転を教えた。真一郎にもらった住所を尋ねたが、誰も住んでおらずとぼとぼと帰路に就く。道中、馬の飼育の本を買い帰宅すると、馬が連れ去られそうになっていた。盗んだと勘違いされてしまった豊だったが、藤森に頭金を借りて馬主から馬を買い取るのだった。
スポーツカーの助手席に乗った妹・千鶴が訪ねて来た。てっきり真一郎が居ると思っていた千鶴は豊の存在に驚くのだった。千鶴を乗せてきてくれた恋人・加崎は藤森の手伝いをしに出掛ける。豊は千鶴から家族の状況について教えてもらう。千鶴は母親の住所を知ってはいるが、会いたくないと言うのだった。親が残した家と土地を売り、生活費に充てようとしていた千鶴。ポニー牧場を再建したいと考えていた豊は激怒し、大喧嘩になってしまう。
映画『ニンゲン合格』のあらすじ【転】
千鶴に聞いた電話番号に連絡し、豊は母親・幸子の職場で再会した。真一郎との再会とは異なり、10年前と変わらず過ごせることに安堵するのだった。幸子の生活に気を遣って職場で会った豊だったが、次は自宅に招待してもらう約束を取り付け浮かれて帰るのだった。
豊はポニー牧場の再建に本格的に始める。藤森と仲間の力を借りて昔の姿を取り戻した時、タイミング良く真一郎が戻ってきた。ポニー牧場と同時に家族の再建も願っていた豊は、父親と一緒に過ごせる時間を楽しんでいた。しかし、父親は再び豊の元から離れてしまう。土地の権利所や子供達のための預金を豊に託し、千鶴と分けるよう言い残すのだった。
豊が計画した同窓会は想像よりも盛り上がった。帰り道、よく万引きをした思い出の古書店の前を通ると、豊は古書店の暗証番号を覚えていると言い出した。中学生の時のようにマンガを盗み、夜な夜な読み明かす大人になった3人。少しだけ時間を共有できたことで、豊の気持ちは晴れるのだった。
藤森が帰宅しない日が続く。ある日、不法投棄の手伝いをしているという疑いで、環境保全課の人間が藤森を訪ねに来た。何も知らない豊は、特に口出しもせず見送った。釣り堀は休業し、ポニー牧場で生計を立てようとする豊。その矢先、幸子が豊の様子を見に来た。無理に拘束することを諦めた豊は「母さんも自由にして」と判断を委ねるのだった。
幸子と暮らし始めた家に、千鶴と加崎が戻ってきた。行く当てのない二人も一緒に暮らし始め、家に少しだけ温かさを取り戻ってきた。豊は「ほんの一瞬でいいから、みんなが揃う日が欲しい」と幸子に本音をこぼすのだった。
映画『ニンゲン合格』の結末・ラスト(ネタバレ)
リビングに揃ってテレビを見ていると、アフリカ行の船が沈没したというニュースが取り上げられていた。なんと読み上げられた行方不明者の名前には真一郎の名前がある。心配する豊達だったが、次の速報でインタビューを受ける真一郎の姿が映った。加崎は安堵する家族の姿を遠めに見守るのだった。
豊は加崎に釣り堀を託そうとするが、「家族」ではないことに固執する加崎は出ていく決断をした。そして千鶴も一緒に家を出るのだった。さらに幸子も元の生活に戻っていくのだった。再び、豊は牧場とミルクバーを一人で経営することとなった。
偶然、近くの工事現場で働いていた室田は豊の姿を見かけ声をかけた。「俺の店です」という豊に苛立ちを覚えた室田は、夜チェーンソーを持って復讐にやってくるのだった。トーンを変えず、室田の言葉に対応する豊だったが、馬を狙うことだけは許せず室田を止めた。「一人だけ幸せになるのは不公平だ」という室田の言葉で自分の置かれた状況は夢なのではないかと思い始めた豊。自らの手で大事な牧場を破壊するのだった。
たくさんの冷蔵庫を積んで何事もなかったように戻ってきた藤森。いけないことであるとはわかっているが、知らないフリをして庭でスクラップにするのを承諾するのだった。作業後、再び家を離れようとする藤森について行く豊。馬を残すわけにいかずトラックに乗せるため、軍手を取りに行った豊。運悪く、高く積んだ冷蔵庫が崩れ落ち豊は下敷きになってしまったのだった。助けようとする藤森に、「俺って存在した?」と問う豊。命を落とす間際まで、夢と現実の境界線を彷徨い続けていた。
「家族全員が家に揃う」という願いは、皮肉に豊の葬儀で叶うのであった。
映画『ニンゲン合格』の感想・評価・レビュー
「生きている」とこの真意を考えてしまう一作であった。家族という絶対的な存在は普遍的ではないということ。そして身近な信用できる存在にも秘密があること。幸せの在り方は人それぞれだからこそ、浮き沈みないワントーンな豊の言葉は見るものに余白を与え、考えさせてくれるキーになっているように思えた。一家の話に収まらず、加害者と部外者も含まれることで視野の広いファンタジーを堪能できた時間であった。(MIHOシネマ編集部)
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