映画『この世界に残されて』の概要:1948年、終戦後のハンガリーでホロコーストにより家族を失い心に深い傷を負った少女と孤独な医師との交流を描いた一作。短編映画で名を広めたバルナバーシュ・トートがメガホンを取っている。
映画『この世界に残されて』の作品情報
上映時間:88分
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ、青春
監督:バルナバーシュ・トート
キャスト:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・スーケ、マリ・ナギ、バルバナーシュ・ホルカイ etc
映画『この世界に残されて』の登場人物(キャスト)
- アルダール・ケルネル / アルド(カーロイ・ハイデュク)
- ホロコーストにより妻と子供を失くした孤独な婦人科医。診療に来たクララと出会い、慕ってくれる存在を助けようと一緒に暮らすようになる。
- クララ(アビゲール・セーケ)
- アルド同様、ホロコーストにより両親と妹を失った少女。叔母と過ごしていたが、孤独に苛まれ精神を病んでいた。アルドを亡き父と重ね慕うようになる。
映画『この世界に残されて』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『この世界に残されて』のあらすじ【起】
産婦人科医のアルドは日々新たな命を取り上げている。ある日、16歳の少女・クララが叔母に連れられアルドの勤める病院を訪ねてきた。ホロコーストで両親を失ったクララは周りの同級生よりも成長が遅いため、叔母は精神的な傷が影響しているのではないかと心配していたのだ。ホルモン異常は見られず特に治療は施すことはなかったが、両親は生きていると信じ続けるクララの強い目はアルドにとって印象的であった。
ユダヤの孤児院へ寄付を続けているアルド。侘しさを抱える子供たちを多く目の当たりにしてきた。ある日、クララが再び病院を訪ねてきた。初潮が来たことを相談に来たのだ。心配性すぎる叔母を疎ましく思うクララは、アルドに話を聞いてほしいと自宅まであがりこんだ。
取り残されたことを不幸だと話すクララ。二人は夜遅くまで話し、少しだけ心を通わせた。無感情な様子のアルドだが、クララをそっと抱きしめ安堵させてくれた。アルドを信用し始めたクララは、帰宅後に亡き両親へ手紙を紡ぐのだった。
映画『この世界に残されて』のあらすじ【承】
クララはアルドのためにヴィーネルの目次を翻訳した。クララは文才を褒めてもらったことを喜び、読書好きであることや好きな本について話すようになるのだった。
ある日、雨の中クララがアルドの自宅を訪ねてきた。初めてアルドに抱きしめてもらった日以来、二人の関係性を勘違いしていた叔母と喧嘩してしまったのだ。アルドが電話したことで叔母の誤解は解け、その夜二人は同じベッドで背を合わせて眠るのだった。
叔母の望みもあり、クララは火曜日から木曜日までアルドと過ごすことになった。日曜日には叔母も一緒に出かけるという約束である。人生が明るくなったと両親に手紙を紡いだクララ。実はアルドと父親が同じ匂いがすることでより親近感を抱いていたのだ。
少し離れただけでも心配するクララの様子を見兼ね、「一度孤児院に一緒に行かないか?」とクララに提案した。しかしクララは「孤児」と括られることに不安を抱き泣き出してしまうのだった。
映画『この世界に残されて』のあらすじ【転】
クララは第二次世界大戦後により家族を失ったショックから、学業に専念できずにいるという問題も抱えていた。アルドが学校で教師たちから話を聞いた日、クララは体調を崩してしまった。
診断のために来た医師とアルドはしばらく疎遠だった。再会し、孤児を二人引き取ったことをアルドは知らされた。少しだけクララとの距離の取り方を考え始めたアルド。それまではクララの勉強中に読書をしていたが、あえて新聞を読むようになった。
アルドの些細な変化にも敏感なクララ。うたたねをしている隙にアルドは歯医者に行ってしまい、自宅で一人きりになった。ベッドの下にアルバムが隠されていることに気付いたクララ。アルドにはかつて妻と子供がいたことを初めて知るのだった。
孤児を受け入れた医師の自宅へ招かれたアルド。クララを連れ訪ねることにした。気難しい13歳の少女と言葉を失った7歳の少女の幸せそうな表情に、憧れを抱いたクララ。帰り道、クララは公園のベンチでアルドに腕枕をしてもらうのだった。
映画『この世界に残されて』の結末・ラスト(ネタバレ)
翌日クララは学校で校長からアルドとの関係を尋ねられた。その場では上手く話をはぐらかしたクララだが、アルドの周囲でも二人の関係性を疑う人は増え始めていた。
クララとの名前のない関係に葛藤し始めているアルド。思春期のクララが異性と一緒に居るところを見て嫉妬していることに、内心戸惑っていた。クララと出会ってから遠慮していた再婚についても、再度検討するようになったのだった。
クララもダンスパーティーで出会った青年・ペペから誘われ、初めてデートに出向いた。帰り道自宅までは送ってもらわず、アルドに見つからないようにキスをして別れた。その夜、二人が眠りにつこうとした時に大きな物音がした。アルドはクララをそっと抱き寄せ安心させる。二人はそのままキスをした。しかし翌朝、クララはアルドがある女性を家に招くと知り嫉妬を隠せなくなる。自分に好意を寄せるペペから告白され受け入れるのだった。
3年後、スターリンが亡くなった。自由を手にしたと喜ぶクララとペペ。一方でアルドはうつろ気な目で杯を交わし、クララの誕生日を祝うのだった。
映画『この世界に残されて』の感想・評価・レビュー
戦争の惨劇を背景に置きながらも、余計には語らず必要最小限の表現に徹している作品であった。年齢差のある男女が痛みを分かち合う瞬間は、ほとんど目線で展開する。権力や世間の目といった弊害もあるが、「同じ欠陥」という共有点だけで繋ぎとめられた二人の関係性はとても美しかった。時の流れには逆らうことはできないと言わんばかりのエンディングもまた印象深い。母国、ハンガリーでも称賛されている作品と言うだけあり、100分未満ながら濃厚な内容であった。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー